時刻は夕方、ある河原で一人の少女が本を読んでいた。
風が強く本が非常に読みづらそうだが本人は気にしていないようだ。
「……っ!」
するとひときわ強い風が彼女の長い黒髪と本のページを揺らし、思わず目を閉じてしまう。
その時、草を踏みしめる音がした。
少女が顔を上げ、背後に立つ人物の顔を見ようとし
「俺は、この風が好きじゃねぇ」
(へぇい!?)
先制攻撃とばかりに背後の人物(声からして男性のようだ)に言われ、少女は心の中で悲鳴を上げてしまう。
余談だがこの少女、ヒデノリが言っていた河原で絡んできた少女であるのだが、この少女、ロマンティックなボーイミーツガールを求める夢見がちな少女である事以外はまぁごく普通の少女なのだ。
「風は、いつも俺の大切なものをかっさらっていきやがる」
声からして、先日の少年ではないようだがいったい誰なのだろう?
振り向きたい衝動を抑えつつ少女は川の流れを見ていた。
「俺がこの風を止めてやる」
詳しい事情はわからないが少年の声は決意に満ちていた。
「いつか、必ず……っ」
ついに耐えきれず、少女は振り向き少年の姿をその眼に映した。
その少年は黒髪を短めに切りそろえた少年だった。
あえて言おう、初対面であると
「ふっ」
少年は口の端を釣り上げながら軽く笑うと、そのまま少女に背を向けて去って行った。
(一体誰だったのかしら?)
とりあえず今日あった事を自作小説に書こう。胸に誓った少女であった。
一方、少年の方は、整備された道まで引き返す。
「……」
そして
(ひ、人違いだったァァァァァァァァ!)
思いっきり赤面した。
(なんだよ!深雪ちゃんじゃないのかよ!)
少年、和人はあの少女を深雪と思い、ちょっと悪戯してやるかと考えたのだがふたを開けてみれば初対面の少女に痛い事を言う完全にアレな人間になってしまったではないか
「あれ?何してるんです?」
「げぇ!?み、水波ちゃん」
すると、買い物帰りの水波に遭遇してしまう。
「い、いや何でもないよ?」
「……そうですか」
挙動不審な和人を不思議に思いつつもどうやら納得してくれたようだとホッと胸をなでおろす。
「買い物帰り?荷物持つよ」
「あぁ、ありがとうございます」
「水波ちゃんっていつも通販じゃなくて直接買い出しに行くよね」
「癖みたいなものですね」
和人は水波から買い物袋を受け取り軽い雑談を交えながら歩き始めた。
「……」
「……」
「ところで」
「?」
「コンドルなのに風が嫌いなんですか?」
「ぶふぅ!?」
こけなかった自分を褒めてやりたいと和人は思ったが水波の人の悪い笑顔を見て自分の運命を悟った。
「い、いつから?」
「最初からです」
「」
「俺はこの風が好きじゃねぇ(笑)」
「やぁぁぁめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
しばらくいじられました。
~魔法科高校生と生徒会~
魔法科大学付属第一高校
の近くにある。とある普通科高校の校門で普段だったらまずお目にかける事はないであろう人々が立っていた。
「ここね」
一人は七草真由美、第一高校の生徒会長
「はい、間違いありません」
二人目は市原鈴音、クールビューティーな生徒会会計
「あの、私がここにいていいのでしょうか?」
最期は最近生徒会に入ったばかりの見習い、司波深雪
「大丈夫よ。あーちゃんは怖がってこれないし、はんぞー君は向こうの準備を任せてるから」
おずおずと言った感じに切り出した深雪の言葉に真由美は手をぷらぷらと振りながら言う。
「怖がって?」
「まぁ、会えばわかるわ」
深雪が真由美の言葉に疑問を抱くが彼女の曖昧な物言いに答え辛い事なのだろうと結論付けそれ以上追及しなかった。
「今回は此方の部活動勧誘とあちらの文化祭を合同でやる事になったのでそれの二回目の打ち合わせです」
深雪が口を閉じたのを見計らって鈴音が今日の要件を簡潔に述べる。
事の発端は一高の上層部が何を思ったのか
最近活発化する反魔法師運動に対抗する為、普通科高校と合同で行事を行い、魔法師が危険な存在でなく、共存できる友人であることを分かってもらおう。
とかいうコンセプトから始まった企画であり、ちょうど文化祭と部活動勧誘の時期がかぶっていたという事でこの高校と合同で祭りを行う事になったのだ。
「向こうは高校生では限界がある事も魔法があれば出来る事もあるし、こちらも過剰な勧誘の抑止になるって事でまぁ、ギブアンドテイクってやつよ」
鈴音の簡潔な説明に人差し指を立てふらふらと振りながら言葉を付け足した真由美に深雪は、はぁととりあえず頷く事にした。
確かに、勧誘期間中は生徒の魔法による過剰な勧誘に留まらず乱闘に発展することもままある。
だがそれを非魔法師の人間が見ている前で行えばどうなるかわからないほど愚かな人間はいないと真由美は見ている(深雪の見解は少し違っていたが)
だが、裏を返せば魔法を魔法で防げない人間が多いという事になる為、通常の倍、いや三倍の人員と態勢で事に臨むことにしたのだ。
「とりあえず一回目の打ち合わせで、日程と場所は決めたから、今回は細かい打ち合わせね」
「場所は一高ですか?」
「いいえ、あちらの高校を使わせてもらいます」
深雪の疑問に鈴音が否を返す。魔法科高校には大学ほどではないが、機密の魔法資料が数多くある。一般開放して産業スパイを潜り込ませる危険を考え向こうの高校を使わせてもらう事にしたのだ。
「さ、お話しはこれくらいにして行くわよ」
真由美は手を叩いて会話を打ち切ると先頭に立って歩き始めた。
「一応、第一高校生はここらへんではエリートで通っているらしいから、名に恥じないよう品位というのを見せて行きましょう」
「品位、ですか」
「リンちゃん、何を思い出しているのかはあえて聞かないわ」
向こうの副会長を見て可哀想なくらいおびえていた書記の中条あずさを思い出しながら鈴音は言ったのだが、真由美の口ぶりから彼女も同じことを思っていたらしい。
深雪はその時いなかったので何の事かわからなかったが聞かない方がいいだろうと思いあえて疑問にしたりはしなかった。
とか言っているうちに生徒会室と書かれているドアの前まで来ていた一同
「失礼します。第一高校の」
生徒会長と言いかけた真由美の言葉は扉の向こうの光景を見て儚く消え去った。
「あぁん?」
そこには金髪ガングロの長身屈強な男と
「ん?」
ひげを蓄えた目つきの悪い男と
「……」
帽子を目深にかぶり表情が窺えないが目の鋭さが剣呑な印象を与える男がいた。
「失礼しました」
バタンとマッハの速度で開けた扉を閉め直した真由美は何事もなかったかのように微笑みながら
「どうやら不良のたまり場と間違えたよう」
「会長、生徒会室と書かれてます」
言おうとしたのだが、鈴音の冷静な一言にその試みは失敗に終わった。
「……こほん」
真由美がわざとらしく咳払いし今度はそ~っと扉を開けると
「ふん!」
ひげの男が人数分の椅子を一気に運び
「……」
帽子の男が茶菓子であろう、チーズケーキを切り分け
「とうっ」
ガングロの男が同じく人数分のカップを用意しながら
「お待ちしておりました。第一高校生徒会のみなさん」
見た目どおりの野太い声で紅茶を淹れながら出迎えてくれた。
(すごっ!)
一瞬と言っていい早業に良家のお嬢様の筈の真由美も関心してしまう。
「どうぞこちらへ」
「あ、ありがとうございます」
しかも椅子も引いて待っててくれるし
「御紹介遅くなってすいません。先日はありがとうございました」
出鼻をくじかれてしまったが真由美がなんとか平静を取り戻しガングロ男(よく見たら向こうの高校の副会長だった)に頭を下げる。
「いえ、こちらもかの第一高校と貴重な時間を過ごせてありがたく思っております」
(か、完璧な対応!)
見た目とは180度違う紳士的対応に真由美の中の一高の品位(笑)にひびが入る。
一方、椅子に座っていた深雪と鈴音は紅茶とチーズケーキに舌鼓を打っていた。
「おいしい……!一体どんな茶葉を使っているんです?」
深雪が紅茶を一口飲んで感嘆の息を漏らすと、淹れてくれた副会長に尋ねる。
「いえ、我々の生徒会には予算がないので、近くのスーパーのバーゲン品なんですよ」
「え!?それでこの味が!?素晴らしいです」
「あはは、ありがとうございます」
深雪が御満悦といった風ににっこりとほほ笑みながら言うと副会長は軽く笑ってくれた。怖いと言えば怖いが人となりを知れば愛嬌があると言えるだろう。
(紅茶の入れ方も完璧!)
真由美の品位(笑)のひびが大きくなる。
「このチーズケーキも非常においしいです」
「それは良かった。実はこれは彼の手作りなんですよ。その方が安く済みますからね」
副会長が鈴音の言葉にひげを蓄えた男を指さす。
「御満足いただけたようで光栄です」
ひげの男、モトハルというらしいは失礼にならない範囲でへりくだり頭を下げた。
「ふむ、これは店でもやっていけるレベルでは?」
「そうですよね、紅茶とも非常によく合いますし」
二人の手放しの称賛に照れくさそうに笑いながらも
「ありがとうございます!」
モトハルは爽やかに言った。
(料理も達人級!)
真由美の品位(笑)のライフはもうゼロだ。
(対応も、おもてなしも完璧なんて……これは品位うんぬんではなく
女として負けてる?)
それに気づかされた真由美に電流が走った。
「そ、そんな……」
「だ、大丈夫ですか!?」
ふらりとよろめいてしまった真由美にモトハルが慌てて駆け寄る。
「大丈夫です。
ちょっと、自分に自信がなくなっただけだから」
「はい?」
「いえ!なんでもないです」
後半はどうやら聞こえなかったようで真由美はとりあえず一安心といったところか
「ふむ、唐沢!」
「おう」
だが、立ちくらみのように見えた副会長は帽子の男、唐沢を呼ぶと彼は万事心得たという風に棚を開ける。
そこから、いくつか箱を取り出すと
「こちら、うちで常備している風邪薬です。よければどうぞ」
「あ、ありがとうございます」
市販の常備薬を真由美に手渡した。
(おまけに気遣いまでパーフェクト!)
が真由美にはそれはトドメにしかならなかった。
(普通科高校では魔法が使えなくても己を律する事で、日々精進しているというのに
一高は魔法に胡坐をかいて大事な事は何もできていないというの?)
真由美は非常に汚い風紀委員室を思い浮かべうなだれる。どっかの風紀委員長が風評被害だ!叫んでる気がするが気のせいだろう。
(こ、このままでは終われないわ。一高の代表として
それ以前に一人の女として!)
真由美が被害妄想他ならない決意を固めていると
「ようこそ、わが高校へ!」
ドアを乱暴に開き、一人の男が入ってきた。
「会長、みなさんもうお待ちですよ」
「あぁ、すまんすまん」
副会長の咎めるような言葉も気にせずケラケラと笑いながら乱暴に開けたドアを今度はそっと閉じる。
「遅れて申し訳ない。では始めましょうか会長さん?」
金髪の男は右手を差し出しながら真由美に向かって歩いてくる。
真由美もそれにこたえようと右手を差し出し
「宜しくお願いします」
「え?えぇ」
スルーされ会長は隣の鈴音と握手をする。
「か・い・ちょ・う・は私よぉっ!」
「すいません!」
真由美のラリアットが会長を襲う。お嬢様らしからぬバイオレンスさだが、気にしてる余裕はないようだ。
「前回も間違えたわよね!?」
「えぇ?そうでしたっけ?」
「そうよ!」
ぷりぷり怒る真由美に困ったように会長は頬を掻くが真由美の勢いは止まらない。
「見てなさい。一高の本当の力を見せてあげるわ!」
ビシッと会長を指さす。状況が状況なら非常にカッコよかったのだがもったいない。
「え~と?」
「気にしないで下さい。うちの会長はたまにこうなるんです」
「リンちゃん酷い!」
(私、蚊帳の外だな)
深雪はそんな事を思いながら紅茶をすすっていた。
~普通科高校生とカードゲーマー~
「ふ、いざ鎌倉!」
と和人は、鎌倉ではなくあるカードショップに一人で足を踏み入れた。
何を隠そう、彼はTCGをこよなく愛するカードゲーマーであり、ここでもカードショップ開拓していたのだ。
因みにタダクニ達は肌に合わないらしく、しばらくはソロプレイになりそうだ。
(文弥君が来たときに一緒に行くか)
そんな事を思いながら足を踏み入れると、幾つかのテーブルがあり、そこを中心に幾つかのグループがカードに興じていた。
(一人だと大会までちょっち暇なんだよね)
空いてる所はないかときょろきょろあたりを見回すと
(お?)
自分と同じだろうか?一人で椅子に座っている男性がいた。学生、ではなさそうだ。
「すいませ~ん」
「はい?」
声をかけるとこちらを振り向く青年は眼鏡をかけた少し神経質そうな男性だった。
「やらないか?」
「む、いいだろう」
普通なら言葉が足りないどころの騒ぎじゃないのだが、ここでやる事と言ったら一つしかない。
デュエル!
~ルールを守って楽しくなTCGの場合~
「集いし願いが新たな道を紡ぎ出す!」
「いやそのカードペンデュラム召喚だろう?」
「このフレーズが好きなんです」
「なるほど」
~イメージが大切なTCGの場合~
「とりあえずレギオンアタックで」
「む、まずいな。ならブラスタージョーカーでメイト退却だな」
「げ」
~CXマンが頑張るTCGの場合~
「え~記憶にペンダントが二枚以上あるのでこれはアタック時一点バーンを得ると」
「ちょっとそれは鬼畜すぎないかい?」
「規制されないのが不思議なレベル」
「確かに」
「すいません、ありがとうございます!」
「いや、こちらも楽しかったよ」
結局、大会後も遊んでしまい、閉店時間までずーっとバトっていました。
「よければこれからも会いたいから連絡先を教えてくれないかい?」
するとお兄さんがそんな事を言い出した。
「いいっすよ~」
と俺は気軽に返事し端末をとりだした。
え~と名前は……
「ん?なんかどっかで聞いたことあるような気が……」
その時、お兄さん、司一さんの眼鏡がきらりと光ったような気がした。
「あぁ、僕はある組織のリーダーをやってるからね。たぶんそれじゃないかな?」
「おぉ!」
なるほど、それなら納得だ。
「そうそう、実は近日あるイベントをやる予定でね」
「イベント?」
「そう、君にもぜひ出て欲しいんだ」
ほう、なんか楽しそうじゃない?
「どんなことやるんですか?」
「詳しくはそっちの端末に送ってあげるよ。それを見たうえで返事が欲しいんだ」
「わかりました。次はいつ空いてます?」
俺の言葉に一さんはそうだねと懐のポケットから手帳を取り出し
「三日後の夕方なら空いてるね」
「じゃあそんときにここで会いません?その時にお返事しますよ」
「そうか、じゃあよろしく頼むよ」
俺は一さんとかるく握手をしにこやかに別れた。
司一さんか、いい人に会えたな~
~2年前 某所~
その存在は目的もなくただただ彷徨っていた。
何故自らがこんな所にいるのか、そもそも自分とはなんなのか、それすらもわからず、理解しようともせず、たゆたうだけの在るだけの存在。
だがソレはただ一文字だけ分かっていた。それだけがソレをソレと認識出来る証明であった。
すると、その存在の消えかけていた知覚にある存在が引っ掛かる。
ソレは知覚した存在にゆっくりと引っ張られて行き
やがて……