四葉の影騎士と呼ばれたい男   作:DEAK

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自宅にて

 

「つ、疲れた……」

 

あの後、タダクニ達三人に追いかけまわされる羽目になり、途中で凹んでいる森崎を回収しながらどうにか逃げ回り達也君達と合流した所であえなく捕まりフルボッコにされた等、紆余曲折あったがまぁ騒々しくも平和なひとときを過ごした。

 

友人たちと別れ和人が向かう先は、数ヶ月前から自分の住む居住となっている閑静な住宅街にある一軒家だ。

 

四葉家が用意した家で一人で住むには明らかに大きすぎるが、幸いと言っていいかわからないがこの家に住んでいるのは和人一人ではない。

 

「ただいま~」

 

ガチャリとドアを開けると

 

「あぁ、お帰りなさい。なんで汗だく?」

 

丁度掃除でもしていたのだろう。はたきを持った穂波さんが出迎えてくれた。

 

穂波さんは前は深夜さんのガーディアンをしていたが、何の因果か一人暮らしをする俺の世話係と言うか家政婦みたいなのを深夜さん本人から頼まれたらしい。

 

俺としては前世でも一人暮らししていたとはいえ、食事なんか外食オンリーだったし無精しがちだったので、穂波さんが来てくれるのは願ってもない話だった。

 

「いや、ちょっと青春してて」

 

「深雪さんをからかって氷漬けにでもされた?」

 

なんでわかんのこの人?

 

穂波さんの軽くエスパーじみたセリフに驚愕していると、トントンと包丁がまな板を叩く音がした。

 

「あれ?今日彼女来てるんだ。久しぶりだね」

 

「えぇ、と言っても4日前にも来てたじゃない」

 

姿は見えないが、ちょくちょくこの家に来る『彼女』だろうとあたりをつけると、穂波さんの言葉からどうやら正解だったようだ。

 

「もうすぐご飯が出来る筈だから着替えてきなさい」

 

「は~い」

 

穂波さんのこう言うセリフを聞くと本当に母親みたいだ。まぁ悪い気はしないので素直に荷物を置きに二階に上がる。

 

 

着替えを数分で済ませ、リビングに行くと、本当にもう直ぐ食事の時間だったようで、食卓には何品かの料理が湯気を立てて鎮座していた。

 

「あ」

 

するとちょうど煮物の入った大鉢を持って台所から出てきた少女と目が合う。

 

「いらっしゃ~い、水波ちゃん」

 

「お邪魔しています」

 

俺が軽く手を振りながら言うと、少女、桜井水波ちゃんは律義にお辞儀する。

 

この子、桜井水波ちゃんは穂波さんの姪?に当たる少女で、穂波さんに警護のノウハウやらメイドとしての作法やら教わりに結構頻繁に家に来るのだ。

 

こっちとしては、食事も作ってくれるし、掃除も完璧と至れり尽くせりなのだが少し困った事がある。

 

「いつも悪いね、助かるよ」

 

「恐縮です。コンドル様」

 

「だからコンドルはやめぃ!」

 

そうこの水波ちゃん、俺がこの世界に来た経緯を聞いてひとしきり笑った後、好きに呼んでいいと言った俺に対して何故かこう呼んできたのだ。

 

「しかし、好きに呼んでいいと言ったので」

 

「でもコンドルはなくね!?」

 

俺のトラウマがガンガン刺激されるんだよ!てか水波ちゃんも頭下げてるからばれないと思ってるだろうけど顔がにやけてんのわかるからね!

 

「はいはい、ご飯にしますよ~」

 

俺が尚も言い募ろうとするのを穂波さんが止める。その手にはお盆とそれに乗った吸い物があった。

 

「はい、叔母様」

 

「な、納得いかん」

 

水波ちゃんはあっさりとそれに従い、俺も抗いたくはあったが腹の音に従い食卓についた。

 

「じゃ、頂きましょ」

 

穂波さんの言葉に、俺と水波ちゃんが揃って手を合わせ、箸をつけ始めた。

 

食卓に並ぶのは、白米、吸い物に煮魚、あとは里芋の煮っ転がしにから揚げというまぁ特筆すべきものもない普通の食事だ。

 

「ん!美味い!」

 

「腕を上げましたね」

 

「ありがとうございます」

 

俺がから揚げにかじりつきながら言うと、穂波さんは煮魚を一口食べ満足そうに頷いた。

二人の手放しの賛辞に言葉こそ冷静だが、頬がほんのり赤く染まっている辺り相当嬉しいのだろう。

 

「そういえば水波ちゃんの料理は最初から美味かったな」

 

「向こうでも基本は仕込まれていますから」

 

「なるほどね~」

 

「?」

 

いきなり遠い目をしてしまった俺に水波ちゃんが首をかしげる。

 

「深雪ちゃんの時は大変だったからね」

 

「あぁ」

 

俺の言葉に穂波さんも同じように遠い目をする。

深雪ちゃんも達也君と暮らすに当たって、穂波さんに家事等を師事していたのだが

 

「魔法が暴走したのか、てんぷらが外はアツアツ中はひんやりという新食感が」

 

想像したのか水波ちゃんが顔を顰める。だけどそのおかげでアイスクリームのてんぷらっていう新しい料理が出来たんだよね。結構美味かったです。

 

「まぁその深雪さんも今は一人前ですね」

 

「懐かしいな~」

 

「ハッ!」

 

俺とは穂波さんが過去に思いをはせていると水波ちゃんが不覚とでも言いたげに頭を抱えてしまった。

 

「しまった。から揚げを出したのは失敗でした」

 

「え?なんでよ」

 

「だって、共食いに……」

 

「だからコンドルじゃねぇよ!?」

 

なんなのこの子!?俺のトラウマをえぐるのに命でもかけてんの!?




今回新キャラ登場です

水波を出すのつい忘れてしまったのでここで登場させました。

これからもちょくちょく出す予定ですので宜しくお願いします。

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