四葉の影騎士と呼ばれたい男   作:DEAK

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高校生活二日目

どうしてこんなことになった?と司波達也は既に何回目になるであろう問いを自らに向かって投げかけるが返答は当然ながらない。分かっているならだれも苦労はしないからだ。

 

「お兄様……」

 

妹である深雪の不安と混乱が入り混じった視線を受け、達也はまた自問自答を繰り返す。

 

「お前は悪くない。だから謝る必要はないぞ」

 

かろうじて妹を慰めるのが限界だった。

 

そんな兄妹の視線の先には

 

 

 

 

 

 

「僕達は彼女に相談することがあるんだ!」

 

「ハン!そんなもんは自治活動中にやれよ!」

 

「そうです!何の権利があって二人の仲を引き裂こうとするんですか!」

 

口論する生徒たちの姿

 

正確に言うと、深雪のクラスメイトである1-A(ブルーム)の生徒数名と、達也のクラスメイトである1-E(ウィード)の生徒数名が向かい合って火花を散らしていた。

 

事の発端は深雪は兄と一緒に帰ろうとしたのだが、なんとしても深雪と一緒に帰りたい彼女のクラスメイトがいちゃもんをつけてきたという顛末だ。

 

深雪のクラスメイト達の名前はわからないが、達也のクラスメイトの名前はついさっきまで一緒にいたのだから当然わかる。

 

一団の中でひときわ背の高い活発そうな男子が西城・レオンハルト、通称レオという。得意魔法は硬化魔法で、山岳部希望という見た目どおりな性格をしている。

 

女子の切れ長の瞳を持った陽性の美少女は千葉エリカ、燃えるような赤髪をショートに整え、猫のような印象をもたらす彼女だが、今は剣呑な雰囲気からかどちらかと言うと豹を思わせる。

 

そして、三人目の女子が柴田美月、こちらは今時珍しい眼鏡をかけたおっとりとした印象を与える少女だが意外な事に最初に啖呵を切ったのは彼女であり今も最前列でいがみあっている。

 

彼女らの喧騒は止まる気配を見せない。それにちらほらと聞き逃せない単語も入ってきている。

 

「引き裂くって言われてもな」

 

「そ、そうですね。美月ったら何を勘違いしてるのかしら?」

 

「何故お前が焦る?」

 

何故か美月の言葉に盛大に焦り始める深雪に達也も疑問符を頭に浮かべざるを得ない。

 

そんな兄妹のほほえましいのか紙一重なやりとりの最中でも喧騒はますますヒートアップしていた。

 

「ええい!ウィード風情が僕達ブルームに口出しするな!」

 

いいかげんに焦れたのか深雪のクラスメイトの男子が禁句とされた単語を言い放つ。

ブルームとウィード、それは魔法の優劣によって定められた序列、そしてこの学校に深く根付く差別意識の表れでもあった。

 

「同じ新入生じゃないですか!今の時点であなた達がどれだけ優れていると言うんですか!」

 

美月の言葉は勇敢ともとれるが同時に無謀でもあった。

 

「どれだけ優れているかだと?」

 

その証拠に今まで熱くなっていた思考が戦闘のそれに従いクールダウンしつつあった。

 

「知りたいなら教えてやるぞ?」

 

一科生(ブルーム)の男子生徒の言葉は最後通牒ともとれるセリフだったが

 

「ほぉ?なら教えて貰おうじゃないか」

 

レオが挑戦的な大声で応じる事によって完全に売り言葉に買い言葉になってしまった。

 

「まずいな」

 

達也が誰に問うでもなく呟く。そのまま止めようと右手を前へと出すが

 

 

 

 

 

 

 

「なら見せてやるぜ、ぶるーむの力をな!ねぇ森崎君?」

 

「あれ?お前誰?ていうかなんで俺の名前……」

 

滅茶苦茶聞き覚えのある声に達也はずっこけそうになるのをなんとか押しとどめた。隣では深雪が震える指を前にさし、言葉にならないのか口をパクパクと開けながら驚愕に目を見開いていた。

 

そこにいたのは魔法科高校の近くにある普通科高校の制服に身を包んだ少年達であった。

 

その中の一人に司波兄妹は見覚えがあるどころか一週間ぐらい前に会ったばかりの顔を発見し脱力感に襲われそうになる。

 

 

「だがいいのか?そこな少年?」

 

「な、何がだよ?」

 

本当にいつの間に乱入したのか分からない和人の言葉にレオは狼狽しながらもなんとかこう答えた。

 

「この男はな……ある禁じられた魔法が使えるんだ」

 

と和人の言葉を引き継いだのは彼と同じ制服に身を包んだ眼鏡の少年だった。

 

「禁じられた魔法?」

 

「ウソじゃないぜ」

 

エリカが胡散臭そうに目を細めるが、黒髪の少年が真剣な目でエリカを真正面から見返す。

 

「俺は見た。この森崎がその魔法を使った瞬間、半径数百メートルが一瞬にして草木も残らない焦土と化したのを」

 

「「「「「え!?」」」」」

 

その黒髪の少年の言葉にエリカ達と深雪のクラスメイト(森崎含む)が揃って驚愕する。

 

「森崎君……」

 

「いやいやいや!待て待て!?ちょっと待て!?」

 

まるで怪物でも見るかのようなクラスメイトの目に、ブルームの少年、森崎は声を大にして抗議する。

 

「コイツらが適当な事を」

 

「俺は今でも忘れられない。あの地獄の中で一人高笑いする森崎の姿が」

 

「お前らいい加減にしろよォォォォォ!?」

 

またなんか別の奴が出てきたし!?と金髪の少年に向かって森崎が今までで一番の大声を上げるが当然のように無視される。

 

「それでも使わせるのか?森崎に、あの魔法を!」

 

(あの魔法ってどの魔法!?)

 

森崎は声を大に突っ込みたかったが、いがみあっていたウィードだけでなく味方の筈のクラスメイトまで、自分を魔王か何かのように見られ森崎の抗議は空気に圧殺される。

 

「そうか、その意気やよし!ならば最後に魔法の名前だけ覚えて逝くといい。

 

その魔法の名は」

 

誰も答えられないのをいいことに和人は沈黙を肯定と都合よく解釈し、あたりをきょろきょろと見渡す。そして、ポケットのゲーム端末をみると

 

「その魔法の名は、インディグネイションだ!」

 

(お前さっきまでテイルズやってたな!?)

 

大方、魔法名が思いつかず、暇つぶしにやってたゲームから引用したと言うところだろう。達也は相変わらずな和人に大きくため息を吐いた。

 

「さぁ、森崎、見せてやれ!」

 

「そうだ!神の雷を叩きつけろ!」

 

「詠唱を忘れるな!」

 

ドン引きしまくっている一同を尻目に乱入者達が好き勝手に煽りまくる。

当然いちばん困るのは

 

(え、えええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?)

 

森崎本人である。

 

森崎の得意魔法は発動を極端にまで短縮したクイックドロウ。相手がどんなに強力な魔法を持っていようと発動前にこちらの魔法で仕留めるというコンセプトを元に練られた実戦用魔法技術だ。

 

つまり、大規模干渉魔法など彼には使えないし、そもそもそんな魔法を使えれば一発で戦略級魔法師の仲間入りだ。

 

「インディグネイション……」

 

「一体、どんな恐ろしい魔法なんだっ」

 

(なんでコイツらもちょっと期待した目でこっち見てんだ!?)

 

今まで喧嘩してた事も忘れウィードとブルームは身を寄せ合ってひそひそ話に興じている。

 

(何これ?やんなきゃ駄目なの?やんなきゃ駄目な流れなの!?)

 

何故か全員から恐れと期待の入り混じった視線を浴び、森崎はぶっちゃけ泣きたかった。これならまだウィードの少女にCADを弾き飛ばされた方が数倍マシだった。って一体何を言ってるんだ?

 

自分の思考が混乱の極みに陥っている事に気づき森崎は首を振るが周りの目線は残念ながら消えてくれない。

 

「「「「いっかずち!いっかずち!」」」」

 

(コイツらは後で殴る)

 

そう心に誓い、森崎はCADを上に向けた。

 

え?やっちゃうんだ?と達也が思ったかどうかは知らない。

 

魔法とは世界を騙し事象を改変する技能、ならばまずは自分を騙す。

 

(大丈夫だ、俺なら出来る。根拠はないがきっと出来る!……筈だ)

 

森崎もだんだん良くわからないテンションになってきている。起動式を読み込みエイドスを変換する。

 

いつもやっている事を気合いを百倍込めてやってみる。因みに気合いを入れようが入れまいがエイドスによる事象改変には何の影響もない事を一応記しておく。

 

「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!目覚めろ!俺の中の眠れるなにかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」

 

叫びながらCADを操作しサイオンを流し込む。果たして結果は……

 

 

 

 

「やめなさい!自衛目的以外の対人魔法の使用は犯罪よ!」

 

横合いから打ち込まれたサイオンの塊によって起動式が霧散した事により森崎の眠れる何かは再び深い眠りについた。

 

サイオン弾を撃ち込んだのは一人の女子生徒と和人と同じ制服を着た男子生徒二人を引き攣れた第一高校の生徒会長、七草真由美であった。

 

にこやかなで優しげな美貌を真剣なそれに変え真由美は一同を見る。

 

「1-Aと1-Eの生徒ね、事情を聞かせて貰うわ」

 

「ちょ、ちょっと待って下さい!これはそもそもコイツらが、っていねえし!?」

 

森崎がたまったもんじゃないと(この点は達也も全くの同感であった)真由美に抗議するが下手人である和人達は忽然と姿を消していた。

 

「あ!?あそこ!?」

 

1-Aの女子生徒が指さす先には全力で校門に向かって走る四人の少年の姿があった。

 

「まかせろ」

 

「あたしも!」

 

その姿を認めると達也がいち早く駆けだし、ほぼ同じタイミングでエリカも達也に追走する。

 

 

そして、

 

 

「げふ!?」

 

「ごは!?」

 

「らいじんぐっ!?」

 

「ほーぷ!?」

 

和人と眼鏡の少年は達也のラリアットにより、金髪の少年と黒髪の少年はエリカの警棒によりそれぞれ床に倒れ伏した。

 

「ひ、久しぶりだね達也くん」

 

和人は床に寝ころんだまま今更な挨拶をするが、そんなんで許されるわけもなく

 

「あぁ、ところでなんでこんなことを?」

 

「急にボールが来たので」

 

よし、もう一発殴っとこう。達也は無表情で鉄拳を振りおろした。

 

 




本当は一回穂波さんの話を挟もうと思ったんですが、なんかこのシーン早いとこやりたかったのでwww

穂波さんはすいませんが後回しです。

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