書いては納得できず消し書いては納得できず消しを繰り返してたらこんな事に……
それでも感想に書いてくれる方がいらっしゃったり、お気に入り数が増えていたり、多くの方に支えられていると実感した次第です。
皆様申し訳ありませんでした。あとありがとうございます。これからも執筆は続けていきますので宜しくお願い致します。
「精神憑依?」
「えぇ、そうです」
時は若干遡り、和人は真っ白い謎の空間で幼女神と会話していた。内容は、四葉を襲っている転生者『仁』についてだ。あの後、神はサービスと言って、仁の情報を知る限り教えてくれた。
その情報を纏めると
①仁は精神だけの幽霊のような存在
②故に半永久的に神の加護を受けられる(精神に戸籍などなく、精神のみの存在に安住の地などないということらしい)
③精神憑依は視界に入れた生物なら何にでも憑依出来る
つまり、魔法、物理は加護によりほぼ無力化され、視界に入っただけで精神を乗っ取られると言う事だ。
「チートじゃねぇか……」
和人は思わず頭を抱えた。でたらめにも程がある。こんな奴とどうやって戦えというのか?そもそも戦いになるのかすら怪しい。
「本当に勝てるのかよ」
「大丈夫ですよ」
ぽつりと出た言葉に神は微笑みながらこう言った。
「むしろあなたじゃないと勝てません。あの世界で、仁に勝てるのは四方坂和人、あなただけです」
(なんて事言ってたが、本当だろうな?あの幼女神め)
上手く載せられちゃったきがするなぁとぼんやりと思いながら、和人はうずくまっている深夜を正確に言うと彼女の中にいるであろう仁を見た。
まぁ、どう転ぼうとこうする予定だったのだ。ならば勝算は少しでも多い方がいい。
和人はゆっくりと深夜の元へと歩き始めた。
「君は一体何を……」
「大丈夫です、葉山さん任せといて下さい」
彼の行動の真意が見いだせず訝しげに葉山が言うが、和人はただこう言うだけだった。
「深夜さん」
「っ!あなた……離れなさい」
深夜は眼をつぶったまま和人の声がした方に顔を向けるが直ぐに万が一視界に入らないようにする為か下に顔をそむける。
「深夜さん」
そんな深夜に和人は静かに同じ言葉を繰り返す。
「大丈夫ですから、俺を見て下さい」
「……」
深夜は彼の言葉に何も答えない。正確に言うと和人の声が聞こえてから仁の抵抗が激しくなり答える余裕がないのだ。
(この声は!)
一方、深夜の精神に巣食う仁は荒れ狂っていた。彼女を通じて聞こえてきた声は、この世界に来る前、転生する前に毎日聞いていた自らの声だ。
仁は精神だけの存在、自分だけの声は愚か、指紋も、体臭もおおよそ自分と呼ばれるものが全く存在しない。その孤独と絶望、果たしてだれが理解出来るだろうか?
狂おしい程求めた『自分』が直ぐそこにいる。
もうジードヘイグからの指令も報酬も関係ない。コイツの精神を乗っ取り、身体を貰う。そして、誰でも無い自分になるのだ。
(よこせ、ヨコセェェェェェェェ!)
「ぐ……っ!?」
「深夜さん!?」
「だ……め」
脂汗を流し苦しみ出した深夜に思わず和人が駆け寄ると、不自然なほど速い速度で深夜の顔が動き和人と向かい合う。
其の眼は怪しい光を帯びながらもしっかりと開いていた。
そして、仁の精神憑依が発動する。
(ハハハハハハハハ!やった!やったぞ!)
和人の精神奥深くに侵入しながら仁は勝利を確信し高笑いする。彼の精神の中は白一色で染まっていた。
(フン、何物にも染まらない白か、くだらん)
これは仁にしかわからない事だが、精神世界(仁はこう呼んでいる)の中は人によって全く違い、大体は様々な色が混ざり合う混沌とした風景が広がっている(移ろいやすい精神を表しているのだろうと彼は思っている)
単色に染まっているのは相当に珍しいと言える。
(あった!)
奥へ奥へ侵略していく仁は精神の要と言えるものを見つけ更に笑みを深めた。精神には要があり仁はそれを手にすることで相手の精神を乗っ取っている。その要の姿も人によって違い、深夜は家族が写っていた写真であり、穂波は右半分が大きなシリンダーのある研究室、左半分が何処にでもある一般家庭のリビングという対照的な一室だった。
さて、四方坂和人の精神の要は一体何か、光り輝き良く見えないそれに仁が手を伸ばした所で
「そ・こ・ま・で・だぜ?」
「なっ!?」
急に声をかけられたと思ったとたん横顔に強い衝撃を受け仁は数メートルほど吹き飛ぶ。
殴られたと気付いたのは空中?で一回転して体勢を立て直してからだった。
仁が直ぐに声のした方を見ると
「よう。お前が仁か、つっても輪郭しかわかんねぇけど」
「馬鹿な!何故お前がここにいる!?」
そこにいたのは四方坂和人だった。この世界に意思を持ったまま入ることなどそれこそ仁以外には出来ない筈だ。
「俺の能力、らしいぜ?」
「能力、だと?」
仁が精神憑依という力を持つ以上彼にも似たような力があっても確かに不思議ではない。
「あの幼女が言うには、確か『精神安定』とか言ってたかな?」
「……」
身構える仁を余所に和人は神との一幕を思い出していた。
「精神安定?」
「えぇ、それがあなたに与えられた力です」
神はどこから出したのか果物を口に放り込みながら告げる。
「要ります?」
「いらん、得体が知れんわ」
神は自分が左手に持っていたオレンジらしきものを和人に勧めるが直ぐに断られてしまい肩をすくめる。
「それで?名前だけじゃどういう力か分からないんだが?」
「そうですね」
神はオレンジ?を後ろに放り投げる(オレンジは空中で溶けるように消えた)と和人の胸を指さす。
「精神安定とは、荒ぶる精神、傷ついた精神を収め、治癒する力。そして周りの精神干渉の全てを無効化する力です」
「つまり、自分や周りの精神を平常にする力って考えでいいんだな」
和人の言葉に神は頬笑みで返した。
「あなたの力なら仁の精神憑依を無効化出来ます。彼の力も精神干渉になる筈ですから」
「なるほど」
和人はぼりぼりと頭を掻く、確かにこれなら勝算はある。だが少し気になる事があった。
「だけどよ」
「はい?」
いや能力に直接関係ある事じゃないんだがと前置きし和人は今だ薄く微笑んでいる神に目を向ける。
「あんたの顔、転生する時以外でもなんか見覚えがある気がするんだよな」
「どうしてそう思うんです?」
少し、ほんの少しだが微笑みが固くなったような気がする。もしかしたら気のせいかもしれないが
「いや、あんときはわかんなかったんだが今改めてみると誰かに似ているような~そうじゃないような?」
「曖昧ですね」
「うむ」
自分でもよくわからないのだから仕方がない
「まぁ話はこれで終わりでいいでしょう?後は行動あるのみですよ」
神は和人に近づくと
「おぉ?」
胸倉を掴まれた。正確に言うと右手は胸倉を、左手は和人の左手を掴みそのまま背中を和人に向ける。いわゆる背負い投げの体制だ。
「え?」
「あれを見て下さい」
急な事で理解が追いつかない和人に神は顎で彼の前を示す。そこには四葉の屋敷が写っていた。
「今からあなたをあそこに飛ばします」
「飛ばすってそんな物理的に!?」
もっとこう神秘の力でくぱぁとかさぁ!しないんかい!
「さぁ、いってらっしゃぁぁぁぁぁぁい!」
「んぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
その小さな体の何処にそんな力があるのか、神は和人を軽々と投げ飛ばし目の前の四葉の屋敷に放り込んだ。
和人が叫びながら四葉の屋敷に乱入したのを見て神は満足げに頷きながら指を鳴らす。すると写っていた四葉の屋敷は音もなく消えていき後には光と静寂のみが残った。
(やべ、余計なことまで思い出しちまった)
幼女に思いっきり投げ飛ばされた時の事まで思い出してしまい、和人は自分のテンションが少し下がっているのを感じていたが、今はそんな事をしている場合ではないと思い直し仁に向き直る。
仁の姿はかろうじて人としての輪郭がわかるくらいで表情もわからない。自分がないと悩む仁の心を表しているようだ。
対峙する仁は非常に切羽詰まっていた。何分この精神世界で他人と対峙することなど一度もないのだから
(この状況、どうする?)
選択肢は二つ
目の前の彼を倒し身体を乗っ取る
この場はいったん引き、当初の予定通り四葉真夜の身体を乗っ取る
仁としては求めてやまなかった自分の身体が目の前にある為前者を選択したいが、大事をとりたいのもまた事実
「あ~悪いけど」
思考の海に沈みかけた仁の意識を戻したのは
「お前はこっから逃げられねぇぞ?」
「!?」
和人のこの言葉だった。
仁は身の危険を感じ、彼の精神から脱出を図る。
「ぐ!」
が何処からか伸びてきた鎖に捕えられてしまう。
「この世界を完全に掌握しているだと!?」
「自分の世界だしね」
こともなげに言うが、そんな簡単なら精神憑依など直ぐに破られていた筈だ。仁の危機感が最大の警鐘を鳴らしている。
「貴様ぁぁぁ!」
「悪いが、終わりだよ」
仁の周りに黒い点がいくつも現れる。白い空間に真っ黒い点が数多も現れるそのさまは色は対照的だが四葉真夜の流星群に似ていた。
「俺は、俺は一体どこに逝く?地獄に逝けるのか?俺は一体、何になってしまうんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「知るか」
そして、黒い流星が仁を貫いた。仁は断末魔の声すら残せず、この世界から欠片も残さず消えていった。
「おい、おい!」
「ん……ん?」
自分自身の精神世界から意識を戻した和人が最初に見たのは
真っ黒い銃口だった。
「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」
「貴様、仁か!?」
葉山さんの声が聞こえる。どうやら勘違いされているようだ。
「違う違う!アイアム和人!カズトヨモサ~カ!」
「本当か?」
「本当だってば!」
「では」
拍手、ピース、マル。敬礼!
「ぱん、つー、まる、みえ」
「YEAHHHHH!」
ビシガシグッグッ
「どうやら本物のようだな」
「その見分け方はどうなんですか?」
「大丈夫だ世界広しと言えど、直ぐにあんな返しが出来るのは君しかいない」
誉められてるんだが貶められてるんだか非常に微妙な言葉を葉山さんから頂きつつ俺は身体を起こす。
見ると、真夜さんも深夜さんも無事なようだ。いや正確には真夜さんだけか
「深夜さん。大丈夫ですか?」
和人はすぐに深夜に駆け寄る。短時間とはいえ仁に憑依されていたのだ。元々身体の弱い深夜さんには多大な負担になったであろう。
「頭が痛いわ」
和人の手を借りながら深夜は何とか立ち上がる。それを見て真夜も近づこうとするが
「だけど大丈夫よ。久しぶりにお姉ちゃんと呼ばれたことだしね」
「なぬ?」
深夜のこの言葉で歩みがピタリと止まる。
「それについてkwsk」
「う~んそうね~」
「ちょっと……」
思わずと言った感じで声を出してしまった真夜だが、こちらをちらりと見た深夜の顔を見て自分のミスを悟った。
「あぁ」
「深夜さん?」
わざとらしさ極まりなく深夜がふらりと倒れる。
「ちょっと仁に憑依された影響で」
「なに~それは大変だ~」
和人もすぐにピンときたのだろう深夜の演技に乗っかる。
「これは真夜にまたお姉ちゃんと呼んでもらうしかないわね」
「な」
「く、これはすぐにでも処方しなくては~」
「ちょ」
「お姉ちゃ~ん」
「お姉ちゃ~ん」
「……」
プルプルと震える真夜を面白げにちら見している二人だが、脇で見ていたものなら分かっただろう。
明らかにやり過ぎだろうと
「え~と」
「青木」
自分の立場を持て余しまくっていた青木だったが葉山から声をかけられそちらを向くと何故か葉山が部屋の外に避難していた。
「早くお前も来い」
「葉山殿?」
「いいから避難するんだ」
何から?と聞かない程度の分別と知識は青木にもある。彼はわき目も振らず部屋から避難したのであった。
青木が避難した数秒後、部屋に調子に乗りすぎた男女の悲鳴が響く事になるわけだが全くの余談である。
つ、疲れた……
主人公の能力等詳しい事は後日またあとがきに書くかもしれないです。
結構はしょってしまった部分もありますがお楽しみいただければ幸いです。