四葉の影騎士と呼ばれたい男   作:DEAK

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まだまだ続く芝刈りタイム(シリアス)


追憶編⑯

いきなりだが、銃で撃たれた事がある人はいるかい?

まぁ多分いないと思うんだけど、俺もきっとものすごい痛いんだろうなとか思ってたんだけど、痛いとかいうのは意外にないらしい。

 

そのかわり、凄く怖い

 

傷口が熱くなっているのとは対称に体が寒くなって逝くのが

 

命が血とともに流れて逝くのが

 

時間を刻むごとに死に向かって逝くのが

 

 

怖い、恐ろしい、死にたくない。

 

脳内がその3つで埋め尽くされる。死にたくない、それでも否応なく自分の体は死へと向かっていく。

 

そんな暗黒に飲み込まれていく自分の身が唐突に引き上げられる。

 

 

苦労して目を開けると

 

 

 

 

「た……つや」

 

「どうした?そんな弱気は似合わないぞ」

 

左手を俺にかざしながら、其の眼に確かな優しさを浮かべる達也君の姿だった。

 

「つ……すまん」

 

「気にするな、こっちこそ奥様を守ってくれて感謝する」

 

痛みはないが撃たれたところを無意識に抑えながら言う俺に達也君は手を軽く振る。気にするなという事だろう。

 

守る?はてと辺りを見回すと尻もちをついている深夜さんと、それに手を貸している桜井さんの姿、そういえば銃口がこちらに向いているのに気づいて思わず近くにいた深夜さんを突き飛ばしたんだっけ、どうやら深夜さんは無傷のようで、良かった良かった。

 

「少年!無事か!?」

 

「うおっ!?」

 

と思ったら視界いっぱいにクマがデデン!と効果音がつきそうな程勢いよく映ってきた。多分ディックさんだろう、いきなりクマがでてくると結構ビビるね。

 

「御蔭さまで無傷ですよ」

 

「そうか、良かった」

 

ホントに達也様様だね、俺は撃たれた所を見ながら思う。傷痕はきれいさっぱり消えていた。まぁ撃たれた時傷痕を見ている余裕なんてないからどの部分を撃たれたとか全然わかんないんだけど

 

「すまない、叛逆者を出してしまったことは、完全にこちらの落ち度だ」

 

達也君と一緒に来たのだろうが、今まで沈黙を保ってきた風間大尉が一歩前に出て頭を下げる。

 

「罪滅ぼしにはなりえないが、こちらに出来る事ならなんでもしよう」

 

そのうえでこう言ってきた。ん?今何でもするって言ったよね?

 

という冗談はさておき、風間さん自分の隣にいる霧くまにはつっこまないのかな?あえてのスルー?

 

 

「では、三つ程」

 

達也君は頭を上げて下さいと前置きしつつ言う

 

「一つは家族をシェルターより安全な場所に案内して下さい」

 

「防空指令室に案内しよう。あそこの装甲はシェルターの2倍の強度を持つ」

 

風間大尉は達也君の言葉に直ぐに答えてくれる。

 

「二つ目は戦況の正確な状況を教えてください」

 

「……わかった」

 

二つ目の要望にも少し間があったが了承してくれた。

 

「三つ目は、アーマースーツと歩兵装備一式を貸して下さい。といっても消耗品はお返し出来ませんが」

 

「……何故だ?」

 

だが三つ目の要望は流石に意図を計りかねたのだろう。風間は聞き返そうと達也の目を見て目を見開いた。

 

「彼等は深雪と自分の『友』を手にかけました」

 

彼の眼には激情と言うのも生ぬるい、蒼く、猛り狂う蒼白の業火が灯っていた。

 

「その報いを受けさせなければなりません」

 

「一人で行くつもりか?」

 

達也の蒼炎宿る眼を風間は正面から受け止める。

 

「自分の成そうとしている事は軍事行動などではありません、唯の報復です」

 

「非戦闘員や投降者の虐殺は認められないが」

 

「降伏の暇など与えさせるつもりはありません」

 

達也と風間はしばし睨みあい

 

「わかった。司波達也、君を我が戦線に加えよう」

 

やがて風間が戦列への参加を許可する事で、達也はこの混沌に足を踏み入れる事になった。

 

「真田、スーツと装備をお貸ししろ!空挺隊は十分後に出撃する!」

 

「了解!」

 

風間の号令に真田、桧垣、そしてクマが応えテロリストを、そして叛逆者を討伐する為立ち上がった。

 

「いや、ちょっと待て」

 

「何か?」

 

「何か?じゃないよね?」

 

と風間の目の前には、クマ……正確には霧くまのキグルミを着た金城一等兵。

 

(ついに無視しきれなくなったのか)

 

と達也がそんな事を思っている傍ら、風間と金城の押し問答は続く。

 

「そのキグルミ……貴官は金城一等兵だな?」

 

「いえ、違います。霧くま~です」

 

「……なんだって?」

 

「霧くま~です」

 

「いや、明らかに金城」

 

「金城一等兵は叛逆の徒としてここで死にました。ここにいるのは正義のヒーロー霧くま~なんです」

 

どうやら金城一等兵は宜しくない方向にトランスしているようだ。

 

「金城一等兵」

 

「霧くま~です」

 

「いや」

 

「霧くま~」

 

「だから」

 

「き・り・く・ま~」

 

「……霧くま~一等兵」

 

あ、根負けした。とこの場にいた人間が思ったかどうかは定かではない。

 

「ほ、ホントにその格好で行くつもりか?」

 

「当然です。戦場を本官が支配して見せましょう」

 

嫌だな~という心情を顔に隠しもしない真田が恐る恐る聞くが当然とまで返されてしまいもう何も言えなくなる。

 

「行くぞ」

 

「良いのですか?」

 

「もう仕方ない」

 

風間ももう諦めたようで、本当にこのまま出撃する事になった。

確かに、あのキグルミは並大抵の武装では貫けないように出来てはいる。ちょっと変わったアーマーと思えば問題ないか?

 

 

 

いや、問題だよね?

 

 

そんな真田のもっともな疑問は結局口に出る事はなく、結局空挺隊は少年一人とクマ一匹という珍妙すぎる援軍を迎え参戦する事となった。

 

 

 

「よろしいんですか?」

 

「何がです?」

 

達也君達が部屋を出てから、桜井さんが深雪ちゃんにこっそりと耳打ちする。

 

「いくら達也君でも戦争に行くなんて、それも最前線なんて危険すぎると思うんですが」

 

「!」

 

桜井さんの言葉に深雪ちゃんは目を見開くと、あろうことかそのまま達也君の後を追って走って行ってしまった。

 

「ちょ。深雪ちゃん!?」

 

俺の言葉も聞かずに深雪ちゃんは外に行ってしまった。まだ危険がないわけではないのだが

 

「まぁ、いいわ」

 

「奥様」

 

桜井さんに助け起こされてからずっと黙っていた深夜さんがようやく口を開く

 

「あの子の性分ならこんな事になるだろうと思っていたし」

 

「だから何も仰らなかったのですね」

 

「きっと深雪さんは達也を連れ戻しに行ったんでしょうけど、あの子は止まらないわ。そういう風に出来ているから」

 

深夜さんはここではないどこか遠くを見ているようで、その目には深い虚空が写っていた。

 

「そういえば」

 

と深夜さんが俺を見た。

 

「さっきは助けてもらったわね」

 

「さっき?あぁあれですね」

 

俺は銃で撃たれる瞬間の事を思い出した。あんま思い出したくないんだけどな

 

「ありがとう」

 

「…………」

 

「何よ、その珍しい物を見たって顔は」

 

「鬼の目にも涙?」

 

 

 

このあと滅茶苦茶グリグリされた。目の正月って言っとくべきだったかな?

 

 

 

 

 

 




すいません。短いですが今回はここまでにさせて下さい。

次回か次々回で追憶編完結できればと思います。

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