「えと・・・・・・・」
「あぁ、ごめんなさいね。笑ってしまって」
「いえ、得体のしれない人間を助けていただいてこちらこそ感謝しています」
ようやく笑いが収まったらしい真夜さんが今度はにこやかな笑みで喋りかける。
「それにしても、なかなか稀有な経験をしたようですな」
葉山さんも顎をなでながらしみじみと言う。
どうでもいいけど葉山さんの格好見てると、なんかトランプとか武器持って戦ってそうだよな(笑)
「なにか?」
「いえ、何でもないでごぜーます」
不慮の事故(エンカウンター)で死にたくないので何も言わないでおく。
裸エプロン先輩とは違うのだよ。
「ていうか僕の話信じてくれるんですか?」
逆の立場だったら絶対に信じない。頭おかしい奴扱いされてもおかしくはない筈
あれ?頭おかしいのは嘘でもホントでも変わらなくね?
「にわかには信じがたいが」
「研究所にいきなり現れたらね~」
真夜さんと葉山さんが顔を見合わせる。
そう、俺はここ四葉邸にある秘匿となっているらしい研究所のど真ん中に突如出現した。
断腸の思いでトリップを選んだ俺は目が覚めるや否や、怪物を見るような眼をした白衣のおっさんやら、警備兵っぽい怖いお兄さんに囲まれるというまさに死体に鞭を打つような虐待を受けたのである。
このまま死体置き場行きかと思いきや、見た目(どうやら10歳くらいの子供になっていた)と研究所に気づかれずに侵入した手練手管にギャップがありすぎたので、おじさんたちも扱いに困っていた。
細かく言うと、こんな子供が?といった具合で。
後で、葉山さんに聞いたら、四葉の研究所は国が稼働の有無すら把握出来ていない、トンデモセキュリティの施設だそうだ。
そんな施設に子供が一人碌な装備もなく中枢に忍び込んだのだ(真実は忍び込んだのではないが)見た目は子供でもこの場にいる全員を斃せる程の『魔法師』かもしれない。
実際に彼らが、そんな規格外の魔法師を2人程知っていたのも目の前の子どもの対処にたたらを踏んだ要因でもある。
とそこに騒ぎを聞きつけた葉山さんがやってきて、俺が根絶丁寧に経緯を説明したら、ここ数十年見たことがないという葉山さんの大爆笑をありがたく頂戴し、真夜さんの部屋に通されたというわけである。
つまり、コンドルの説明これで2回目です。
恥ずかしいのであまり言わせないでほしい。
「色々あって混乱してるでしょう。まずはこれでも飲んで落ち着くといい」
葉山さんはそういいながら紅茶を出してくれた。
見た目が子供だからか、砂糖が大目だった。俺あんまり甘くないほうがいいんだけどなぁ
「ありがとうございます。頂きます」
だけどせっかくの好意受け取らないわけにはいかないので頂くことにする。
ていうか、二人ともいい人だなぁ。こんな身寄りもない子供の荒唐無稽な話をしっかり聞いてくれるんだもの。笑われたけど
そんなことを思いつつ紅茶を一口飲んだ途端強烈な眠気に襲われ、あっという間に意識を手放した俺であった。
「葉山さん」
「はい」
目の前の少年が仕込んだ薬により眠りに落ちたのを確認してから真夜は自らの腹心に声をかけた。
老執事は全て心得ている風に人を呼び、少年を運ばせ部屋を後にした。
行先はもちろん研究施設、彼を人造魔法師の実験体とするためだ。
(四葉の秘所に気づかれずに侵入した手口、明かしはしなかったけどそれだけの力があるならいい実験体になるはず)
人のいなくなった部屋で真夜が自分の紅茶(もちろん薬は入っていない)に口をつけた。
「ごめんなさいね」
誰に言うでもなく彼女の言葉は静寂に溶ける。
身寄りのない少年、拾われた先がもっと別の、そうもっと『優しい』所であったなら、この世界で生きていく事を許されたかもしれない
だがここは四葉、世界の闇にもっとも近い場所にいる魔法師集団
今更人体実験ごときで痛む良心等持ち合わせていない、否持っていたかもしれないが、忌まわしきあの事件より彼女は心と生殖機能を失った。
代わりに得たのは絶大な力、極東の魔王と言われ恐れられている四葉真夜は間違いなく世界最強に名を連ねるにふさわしい力と残酷さを持っていた。
上手くいったら貢さんの所で駒として使ってもらおうかしら
真夜が浮かべる笑みは先ほどの笑みとはかけ離れた氷の笑みであった。
こうして・・・・・・少年は人体実験の実験体として、非道の限りを尽くされた。
彼にとって幸か不幸か実験は成功し、彼は黒羽家の一員として闇に生きることとなる。
そして彼は裏稼業の人間から
『影騎士』
と畏怖を込めて称されるのであった
らよかったんですよね(by葉山)
実際は、投薬しようとしたら、注射器やらチューブやらが『ワロス』の文字で曲がり、機器によるアプローチもエラー音が童謡ふるさとを奏で始め、焦れた研究員が直接メスを入れようとしたら人形(ネス)に変わるという意味不明な現象が起こり、結局少年がたっぷり2時間半眠り目覚めるまで、四葉の研究員は何もできなかったのである。
謎の補正でとりあえず生存しました。