D.C.Ⅱ〜初音島に転生した転生者〜   作:もりっち

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幼少期編
始まりを告げる夢のはじまり


 

 

〜陵side〜

 

 

はらはらと無数の花びらを散らせる、ひときわ大きな桜の木の根元に…目覚めたばかりの小さな男の子がしゃがみこんでいる中。

 

運よく?

神様の計らいで俺は初音島にきた。

 

「いてて、なんだよあのじいさん」

 

ジェットコースターを遥かに越える奇妙な体験だったため気持ち悪くて吐きそうだ。

 

「吐きそう…しかも寒い…凍え死にそう…だ?」

 

ふと、身体に違和感を感じた。普段より目線は低く感じ、身体にも力が入らない。

 

「俺小さくなってるし…」

 

転生というものが初体験なためやっぱり実感がわかない。

 

転生ものの主人公って案外すごいだなと独り納得していた。

 

しかし転生したからには、受け入れるしかないか…。

 

頑張れ俺――――

 

「あの……」

 

ふとかすれるような声で小さな男の子が俺を声をかけてきた。

 

「こんばんは」

 

今度は後ろから誰かが声をかけてきた

 

 

 

 

 

〜さくらside〜

 

 

雪の積もった白一色の世界に、はらはらと桜の花びらが舞っていた。

 

音もなく。

 

驚くほどゆったりと。

 

まるで周囲を覆い尽くそうとするかのように。

 

白で塗りつぶされた世界を彩るように。

 

そんなことを思いながらボクはひときわ大きな桜の樹に近づいていた。

 

樹齢を重ね、周囲を圧倒するかのように、満開の花を咲かせているその樹の根元に二人の子どもを見つけた。

 

「こんばんは」

 

呆然としている二人にボクは話しかけてみた。

 

「はじめまして。う〜ん、と」

 

二人もいたから驚いていると

 

「あ…こんばんは」

 

もう一人の男の子が声をかけてくれた。

 

ボクがやったことは間違ってるのはわかってるつもり。それでも、ボクは夢を見続けることを選んだ。

 

「えっと…君は?」

 

ボクは少し大人びた男の子にそんなことを言っていた。

 

 

 

 

 

〜陵side〜

 

 

「えっと…君は?」

 

まずい。非常にまずい。この人、さくらさんだよな?何て説明すればいいんだ?

 

『迷子になった』

 

いや

 

『正義の魔法使いさ!』

 

俺はバカか。

…こんな見ず知らずの子どもの言うことなんて信じてくれるわけないよな。

 

まず俺なら信じないわ。

 

どうすれば良いかと悩んでいてもらちがあかない。

 

「俺は陵…転生者…なんだ」

 

さくらさんに嘘をついても仕方ないし本当のことを言った

 

「転生者…?」

 

やっぱり信じていないか。無理もない。ここでバットエンドか…。けど、諦めるな俺…

 

「信じてもらえないと思うけど、俺は一度こことは違う世界で死んでここにやってきた。この桜のバグを取り除こうと思って」

 

さくらさんに俺は何を言ってるんだ?すごく頭が大丈夫か心配されるレベルじゃないか。

 

…いや。下手をすれば通報されるぞ俺。

 

自分の言動を今さら後悔する

 

「どうして君が桜の樹のバグを知っているの?!」

 

思いもよらない言葉が返ってきた。あれ?突っ込むのそこ?

 

「…この桜の樹はね『魔法の桜』なんだよ。けど君の言う『バグがある桜の樹』でもあるんだ。願いを叶えるルーチンが不完全で、純粋で、ささやかな願いだけじゃなくて……誰の、どんな願いでも無差別に叶えちゃうの。たとえそれが、どんなに汚れた願いでも…」

 

さくらさんは俺に真実を語ってくれた。俺のこと信じてくれてるんだよな?

 

「…俺信じますよ。あなたの言ってること『魔法の桜』のことを」

 

「…君は本当にこの桜の樹のバグを取り除けれるの?ここにいる義之くんが消えなくて済むようにできるの?」

 

「はい。転生特典で神様に願ったら取り除けれるみたいです」

 

俺も実際願いが本当に叶うのか心配だが、あのじいさんにかけてみよう。

 

…頼むぜじいさん!

 

俺は大きな桜の樹に近づき両手をあて願った。

 

『お主は、本当に欲がないの−』

 

悪かったなじいさん。

けどこれが俺の願いだ。ちゃんと義之を消さないでくれよ。

 

『わしを誰じゃと思っとる!お主のひとつ目の願い…叶えてやったぞ!』

 

…見た感じさっきと変わってないようにしか思えないけど?じいさん本当に大丈夫なのかよ?

 

「…一応これで大丈夫かな?」

 

「…嘘みたい。本当にバグがなくなってる!義之くんもちゃんといる!」

 

本当に大丈夫みたいだ。俺には分からないがじいさんやるじゃんか。

 

「君のおかけだよ!ほんと感謝しきれないよ」

 

そう言いながらさくらさんは泣いていた。

 

「あの…えっと泣かないで下さいよ…。」

 

「ご、ごめんね、げど、うぇぇ−−−ん!!・」

 

どうしよ。まじで困った。

…さくらさんを慰めるのには何時間もかかった。

 

 

 

 

 

 

 

この後、すっかり忘れていた義之と合流して俺たちは大きな桜の樹を後にした。

 

「ありがとう。君のおかげで色々助けてもらって、なにかお礼しなくちゃね」

 

「いや、別にいいですよ。俺が望んだことなんで」

 

「そんなわけにはいかないよー。そうだ!君、転生者?だったよね?住む家とかあるの?」

 

やっぱり信じてなかったんだ。どこら辺を信じたんだろう?さくらさんは…。

 

「あっ!!」

 

完全に忘れてた。俺がなかなかこの世界に転生しなかったから話が進んで俺家族いないんだった。

 

バグ取り除くことだけ考えてきたから何も宛がないや。

 

「その様子だと住む家ないみたいだね。」

 

「…はい。」

 

俺はどうしようか悩んでいると

ぐぅ〜。隣で義之のお腹がなっていた。

 

 

 

 

 

〜さくらside〜

 

 

「寒くない?」

 

「…寒い」

 

「お腹は…空いてるよね?」

 

さっきお腹がなっていたからきっと腹ペコのはず。

 

なんだか、義之くんが消えずにこのまま生きてるって思ったら思わず笑みがこぼれていた。

 

「じゃあ、二人とも暖かくてご飯の食べられるところに行こっか」

 

「…うん」

 

「そうだ!自己紹介がまだだったね。えっとね、ボクはさくら。芳乃さくら。二人ともよろしくね」

「ぼくは…」

 

「さくらいよしゆき。君の名前だよ」

 

「え、えっと……」

 

「よろしくお願いしますね、さくらさん、よしゆき。改めて、ぼくはささいりょうっていいます!」

 

さっき出会った、義之くんと同じ歳の彼――陵君はさっきまでの言葉遣いとは違っていた。

 

「どうして敬語なの?」

 

「いや…今思えば転生してきて小さくなったのにさっきみたいな言葉遣いじゃ、他の人に変に思われそうじゃないですか?」

 

ボクはさっきのままで良かったのに彼は気にしてるみたい。

 

「ボクの前では普通にしてほしいな〜なんだか他人行儀すぎて嫌だな〜」

 

「そんなこと言っても…」

 

陵君が困ってるみたい。なんだか面白い子だな〜。

 

「あの―よ…ょし…」

 

どうしたんだろ?義之くんがなんだか言い淀んでる。

 

「どうしたんだよ?よしゆき、それと、芳乃さんじゃなくて、さくらさんだろ?」

 

できれば名前を呼んでほしかったけれど、いきなりは無理だよね。

 

「恥ずかしがるなよ。ほら、さくらさん、って」

 

「さ、さくらさん…よろしく…りょうくんも…」

 

最後の方はかすれるくらいだったけど義之くんはボクの名前を呼んでくれた。

 

「よろしくね♪じゃあ、そろそろ行こっか♪義之くん、陵くん」

 

ボクはとても嬉しかった。

義之くんが存在し、桜のバグも取り除けて、これ以上にないくらいボクは幸せだ。

 

ボクはその温もりを何度も確認するかのように二人の小さな手を握り歩を進めた。

 

 


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