D.C.Ⅱ〜初音島に転生した転生者〜   作:もりっち

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ことの発端〜回想〜

 

 

〜陵side〜

 

 

話は一週間前にさかのぼる。

 

俺たちは、卒業式のリハーサルに駆り出されていた。

 

付属の3年生は、卒業とは名ばかりで、ほとんどの生徒が本校へ進学する。

 

しかし、本校の3年生は本来の意味での『卒業』だから、残りの5学年が総力をあげて送り出さなければならない。

 

とは言っても……。

 

「うむ、暇だな……」

 

杉並からは、退屈のオーラを隠そうとしていない。

 

「杉並もか……」

 

「ふあああぁ……」

 

無理もないっか。総力を結集した卒業式とはいえ、やることは毎年変わらない。

 

しかも、リハーサルなんてダルくて力入らないしな。式はほんと退屈だよな。

 

そら、由夢たち1年生は初体験だけど、俺らにとっちゃ、二回目だ。

 

今年が無事に終わっても、まだ3回も同じことしなくちゃいけないんだよな。

 

「まぁ、リハーサルはよいとしてだな、佐々井、桜内」

 

「「ん?」」

 

「当日の我々の活動だが……」

 

「なにすんだ?」

 

「また、なにかやらかす気か?」

 

俺は喜びながら、義之は少し呆れながら。

 

けど、退屈なものは退屈だしな。義之も心の中では同じこと思ってるだろう。

 

実際、俺ら三人はどうしようもなく退屈が苦手だからな。

 

たぶん渉も退屈してそうだな。

 

「当然だろう?我々は我々なりの誠意で卒業生を送り出さねばならん。」

 

…待ってましたー。そうこなくちゃな。

 

「一部の卒業生は、我々の破壊工作を猛烈に期待していると聞き及んでいるぞ」

 

「そんなもん、一部だろ……」

 

ありゃ?義之が反論してるや。けど、真剣に止めるつもりはないみたいだな。

 

…てか、杉並がいったん本気になったら俺たち止めれるのか?……無理だよな。

 

「マイノリティを馬鹿にしてはいかんな。それに他の連中だって、口ではなにも言っていないが、期待しているに決まっているだろう?」

 

「堅っ苦しい式になるより俺は良いと思うけどな。」

 

「うーむ……」

 

「せーしゅくに!みんな、せーしゅくに!」

 

そんな声が聞こえたと思ったら、壇上に生徒会長が立っていた。

 

「どーも、会長の磯鷲です」

 

この人たしか噂によるとかなりのキレ者だと言われてる本校2年の生徒会長だよな?

 

その脇には、音姉やまゆき先輩など、本校1年生の生徒会役員たちが並んでいる。

 

ざわついていた全校生徒が、会長のいる壇上を注目した。

 

「えー、皆さんも知っての通り、卒業生であり前生徒会長である宮代雪乃さんは、歴代の生徒会長の中でも類稀なほど偉大な方でした」

 

そんな人だったけ?印象薄いな。

 

「我々在校生は、その前会長の卒業を祝うとともに、彼女から受けた多大なるご恩に対し恩返しをしなければなりません!いや、しなければならないのです!」

 

今の生徒会長が熱く語っている。

回りの生徒たちや卒業生は唖然としているし、生徒会役員達は、苦笑いだ。

 

「そんなに偉大だったけ?」

 

義之にも印象が薄かったみたいだな。

 

「まぁ、よい好敵手ではあったな。このまま亡くすには惜しい人材だ」

 

「いやいや、死んでないだろ」

 

一応ツッコミを入れておいた。ピンピンしてんぞ。

 

「今の会長は、正直ヌルいからな……高坂と朝倉姉がいなければ、現体制では、敵として不足。我々と互角にやりあうことは不可能だ」

 

「そこで!来る3月15日、皆さんが楽しみにしている卒業パーティー――――通称『卒パ』を、例年より盛大に行いたいと思っております!」

 

ざわざわと生徒たちがざわめきだした。はぁ?どういうことだよ?

 

「つきましては、卒パにおいて一番売り上げを上げたクラスには、超豪華賞品を贈呈したいと思います!!」

 

辺りからおぉ!という歓声が一斉に上がりだした。

 

それとは反対に生徒会の役員たちの苦笑いは消え去り、表情が何やら重たく見える。

 

ありゃー初耳だったんじゃね?明らかさっきとは、態度が違うしな。

 

すぐ隣で、杉並は何やらさっきとは違う企みを、練っているのが分かる。

 

「前会長のために!皆さん!卒パを!思いっきり!盛り上げてください!」

 

「か、会長、聞いてないですよ!」

 

「そんな予算、どこから出るんですか!?」

 

まゆき先輩と音姉が、顔色を変えながら食いついている。がちかよ?

 

「あんたたちは知らないでしょうけど……こんな時のために、少しずつ経費を節約していたのよ!」

 

「え〜!?」

 

「だからって、無茶です!」

 

音姉が悲鳴を上げ、まゆき先輩はさらに食いついている。生徒会の役員も大変なんだな。

 

「ええい、うるさい!!足りない分はポケットマネーよ!あんたたちからも出してもらうからね?

 

前会長BANZAI!

 

宮代会長FOREVER!

 

あ、こら……なにするの、やめなさいっ!」

 

現生徒会長は、役員の人らに両脇から捕まえられて追放……。

 

「こら、放しなさい、朝倉!高坂!放さないと更迭よぉ!決定は覆らないからねぇぇーー!!」

 

生徒会長の声が体育館に響く。

 

「……ま、まゆき、黙らせて」

 

「会長、御免!」

 

うわっ?会長の脇腹に思いっきり入ったし!?えっと……大丈夫なのか?

 

まゆき先輩の拳がみごとに、脇腹に刺さった生徒会長は白目を剥いて気絶している。そのままズルズルと連行されている。

 

「……聞いたか?」

 

「しっかりとな」

 

「前言撤回。現会長もなかなかのタマだな」

 

「違う意味でだな……」

 

正直、呆れた。

 

「ふふふふ、佐々井、桜内、破壊工作はなしだ」

 

……まぁ、この状況だしな。狙うは、やっぱり……

 

「まさか?豪華賞品を?」

 

義之が、杉並に尋ねる。

 

「いただきだな」

 

「…けど、あんな決定、通るのか普通?どう思う、陵?」

 

「そうだよなー、あのままじゃ生徒会役員が揉み消すんじゃないか?」

 

まゆき先輩と音姉ならやりかねない。

 

「お祭り好きの学園長の事だ。決定を覆すようなことはせんだろう」

 

「言われてみれば…」

 

「念のため、他の役員たちに裏工作はしておくが……お前たちも協力しろよ?とくに朝倉姉は、お前にとことん甘いからな」

 

と言いながら俺を指差した。

 

「えっ、俺?義之じゃねえの?」

「……陵、頼んだよ」

 

なんだよそりゃー。

 

そうこれがことの発端なのだ。

 

 

 

 

 

俺たちは卒業式のリハーサルが終わり、教室へ戻る途中だった。

 

「ええぇぇぇ!?」

 

そんな奇声を放ったのは小恋だった。何人かが何事かとふり返っている。

 

さっきまで話していたことを歩きながら小恋に説明した。そしたら、もっともらしいリアクションが返ってきた。

 

「……でも、一番になんてなれるの?」

 

「『なれるの?』ではなく、なるのだ」

 

「本校のクラスとかも出展するんだよ?」

 

「月島、今から弱気になってどうする?」

 

「はうぅ……」

 

「そうだな……あいつらか」

 

義之はなんだか別の事を考えてるみたいだな。

 

「おう。敵は、恐らく、本校の先輩たちじゃない…身近なやつらだと思う」

 

「あぁ、同感だな」

 

杉並も心当たりがあるみたいだ。

 

「えっ?誰のこと陵?ふぇ……?」

 

………さっきから、邪悪な視線を背中に感じていたがいたのか。

 

「悪いな。この勝負、俺たちの勝ちだ」

 

「正直、負ける気がしないわ」

 

そこには、渉と杏が不敵な笑みを浮かべながら立っていた。

 

「なんだ、お前らもノリノリじゃん?」

 

「当たり前だ」

 

「こんな面白そうな企画、乗らない方がどうかしてる」

 

……さいですか。二人とも厄介なやつだし…敵に回りたくなかったわ。

 

「そういえば、うちのクラスなんだっけ?」

 

「……俺に聞くな」

 

……二人とも話聞いてなかったのかよ。

 

「俺らのクラスはフランクフルト売るんだぞ!」

 

「二人ともちゃんと話聞いてなかったの?」

 

杉並はともかく、義之は話に参加してただろ?どうせ上の空だったんだろう。

 

「ふ、フランクフルト屋か……」

 

「限りなく無難だな」

 

話に参加してなかった二人にはその思われ方は気にくわないが……豪華賞品を狙うにはなんだかインパクトに欠けているように思えた。

 

「ふふふ、今から企画を変えて間に合うかしら?」

 

「じゃあ、おまえら、何かすごいことを企画してるのかよ?」

 

「さて、どうでしょう?」

 

義之が杏にはぐらかされている。

 

「ま、せいぜい奇策を練ってくれよ。もともと、うちのクラスはこんな事態にならなくても売り上げ上位は確実だったわけだしな」

 

「そういや2組って何やるんだ?」

 

「……さ〜てね」

 

杏に引き続き、またもはぐらかされている。

 

「私、知ってる……」

 

「俺も知ってるぞ…」

 

ちっ、と渉が舌打ちをする

 

「「白河(ななか)のディナーショーだよな(ね)?」」

 

俺と小恋は、声を揃えて言う。そら、面白そうな出し物は調査済みだからな。

 

それを聞いてか、義之は衝撃を受けていた。

 

「まじかよ…ななかって……あの白河ななかなのか?」

 

「「おう(うん)」」

 

「バレちまっちゃあしょうがねーな」

 

そうだよな。あの白河だと勝ち目ないかもな……。

 

なんたって風見学園のアイドル的存在で、先輩後輩問わず、人気があってファンもたくさんいるって聞いてるし。

 

「そりゃ、強敵だな……」

 

「悪いな義之。白河を擁している時点で、うちのクラスは2歩も3歩もリードしてるんだ」

 

義之ほんと何も知らなかったんだな?学園中噂になってるのに。

 

「で、3組は何をやるんだ?」

 

話をそらしたのか義之は杏に話をふった。

 

「知りたい?」

 

渉と違って言ってくれなさそうだな?別に俺は、知っているけどな。

 

「いや、別に……」

 

「無理しちゃって。知りたいくせに……」

 

義之の無防備な首筋に息を吹き掛けながら杏に弄られている。

 

「う、うわっ……よせって」

 

「杏!」

 

小恋がさすがに止めに入った。

 

「やーね、冗談よ。冗談」

 

「相変わらずシャレが通じないのね、小恋は」

 

「う〜っ」

 

「で、3組は何をやるんだ?」

 

ありゃ?杉並も知らないのか?やっぱり普通のお祭りじゃ興味わかないのか。

 

「セクシー・パジャマ・パーティー」

 

「はい?」

 

「だからセクシー・パジャマ・パーティーよ」

 

杏はニマリと笑ながら繰り返した。名前だけじゃピンとこないよな。俺だって初めはイメージすらつかなった。

 

「んー」

 

あれ?小恋も知らなかったのか?てっきり杏か茜に聞いてて、知ってるつもりだと思ってた。

 

「ぐはぁ!」

 

渉はピンときたようでよからぬ妄想をして、口を押さえている。

 

やめてくれよ、他の生徒がビックリしてんじゃん。

 

「け、けっこうやるじゃねーか」

 

「お前、わかるのか?」

 

「ああ……さすが雪村杏……やることがエゲつないぜ」

 

義之はまだ理解できてないのかよ。

 

「義之ーそのまんまだよ、話によると女子たちがパジャマ姿で接客してくれるらしい」

 

「な、なんだってー!?てか陵、知ってたのか?」

 

「あぁ、面白そうな店だったから一応調査済みだ」

 

「…義之、ようやく恐ろしさが分かったか……」

 

「あぁ……てか確か3組は……」

 

「そうだ。学年きっての巨乳と噂される花咲茜がいる。それに、こいつ……」

 

「そ。私がロリ担当。幅広くニーズに応えるわ」

 

義之と渉は3組の店についての話をしながら二人の目に輝きを感じる。てか杏、自分で言うなよな。

 

「ちなみに、参考までに聞かせてもらうが、杏………」

 

渉は情報収集?いや自分の貪欲を満たすために聞いてるな。

 

「なぁに?質問はひとつまで許可するわ」

 

対する杏は、小悪魔のような笑顔だ。

 

「貴様の当日のパジャマはどんな感じだ?」

 

「男物の大きめのセーター一枚よ」

 

「「「なんだって!?」」」

 

俺と義之と渉は同時に叫んだ。はぁ?そこまでは聞いてなかった。てかそれってパジャマなのか?

 

「ち、ちなみに……ズボンは……」

 

渉は、まだ訊く気のようだった。渉…男の中の漢だな。

 

「もちろん……そんなものはないわ」

 

 

「げふっ」

 

次の瞬間、渉は膝をつきながら倒れた。妄想がピークに達したのか?

 

「わ、渉っ」

 

義之が心配をしている。けどあいつもなんだかフラフラしてる。

 

「や、やるじゃねぇか……。一度ならず、二度までも……」

 

「で、くるの?こないの?」

 

「もちろん、空き時間を見つけていかせていただきます!」

 

渉……折れたな。てか敵に貢献するのかよ?

 

「ありがと。席はリザーブしておくわ。義之と陵は、どうするの?」

 

「え?えーと……」

 

「そら、面白そうだから……」

 

「ダメ、行っちゃダメだからね!」

 

小恋が止めに入ってきた。いや?義之はともかく……俺も?

 

「いやいや、どうして俺も?」

 

「だって!陵が行くって言ったら義之ついて行くから二人ともダメっ!!」

 

……さいですか。小恋は、義之の肩をつかみ激しく揺すっている。

 

「わ、わかった、いかない。いかないから、揺するな。揺するなって……脳が揺れる!」

 

「絶対ダメだからね!」

 

「なんなら、小恋用の席もリザーブしておいてあげるわ」

 

「そ、そんなのいかないもん」

 

「運動部で鍛えられた生え抜きの男子をビキニ姿で4、5人はべらせてあげるよ」

 

…それじゃあ、パジャマパーティーじゃなくなるし。

 

「いいよ、いいよ!」

 

小恋は顔を真っ赤にしながら首を横にふった。

 

「我慢することないのよ?」

 

「してないもん!」

 

「小恋の大好きな割れた腹筋よ?」

 

「そんなの好きじゃないもん!」

 

「ふふふ。無理しちゃって……」

 

「う〜…」

 

小恋は、杏に完全に遊ばれている。弄られキャラだから仕方ないか。

 

「ともかく、俺らは手を抜かないつもりだ。あんまり手応えないのも面白くないから、張り合うつもりなら、もうちょっと出し物考えろよ?」

 

「空き時間にフランクフルト、食べに行くから。空き時間があったら……の話だけど」

 

渉と杏がそう言いながら悠然と去っていった。

 

「あいつら……」

 

「なんか、勝てそうもないね……」

 

「…そうだな。」

 

気にくわないが、出し物も出し物だし。今の俺たちじゃ到底、歯が立たないだろう。

 

「いや、勝つぞ」

 

「「はぁ?(え?)」」

 

義之に火がついたのか?

 

「豪華賞品なんてどうでもいいが、あいつらだけはヘコましてやらにゃ気がすまん……だから、やるぞ、杉並!」

 

しかし返事がなかった。

 

「そういえば…あれ、杉並は?」

 

俺は辺りを見渡しながらさっきまでいたはずの杉並を捜した。けど、どこにもいない。

 

「二人とも、杉並くんなら、とっくの昔にいなくなったよ?」

 

…いつの間に。…まったく気づかなかった。

 

「いつ?」

 

「えーと、杏がセクシー・パジャマなんとかって言ってたくらいかな?『対策案を練る』っていっちゃったよ」

 

さすが杉並、行動が早いな。

 

「…そうとなったら、俺たちも作戦を考えに教室に戻るか!」

 

「そうだな!」

 

「う、うん!」

 

義之を筆頭に俺と小恋は急いで教室に戻った。

 

 

 

 


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