ハイスクールD×D ~正義の味方を目指す者~   作:satokun

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第32話 若手悪魔、集合

オカルト研究部の部長で、翔達の主であるリアスの故郷である冥界へ昨日到着した翔達はその日の晩餐にて、彼女の父親であるグレモリー卿ことジオティクス・グレモリーと母親であるヴェネラナ・グレモリーの二人と対面した。

 

その際にヴェネラナの一言により、翔だけが冥界にいる間に上流悪魔、貴族としての振る舞いや

グレモリー家の歴史について、学ぶように言い渡されたため、翌日から幼いミリキャスト共に勉学に勤しんでいた。

 

今頃リアス達は観光を楽しんでいる頃か・・・

 

翔は横に座るミリキャスと共に目の前に立つ教育係である悪魔の話に耳を傾けながらもそんなことを考えていた。

 

ここにいる翔を除いたリアスとその眷属達は今現在、冥界の観光を楽しんでいるところだ。

翔と一緒じゃなきゃ嫌よ!と直前まで駄々をこねていたリアスであったが、ヴェネラナの鶴の一声により反論の余地なく外に追い出されていた。

 

これまでの経緯を軽く回想を終えて、翔は再び集中して教育係の話を聞き始める。

 

「それでは次に軽く今の悪魔社会についてお話をしましょう」

 

それから教育係が悪魔社会について語りだす。

以前にリアスから軽く説明を受けたことがあるが、流石は教育係と言うことで二人よりも

分かりやすくより細かいところまでを簡潔にまとめて語っている。

 

「話はこれくらいにして・・・。若様? 悪魔の文字はどれほど理解できていますか?」

 

「ああ、それならある程度は把握している」

 

以前から冥界の本に興味があった翔は、暇を見つけてはリアス達から悪魔の文字について

学んでおり、基本的な部分は修得していた。

確認のためテキストを読みあげたり、文字を書いて見せたところ教育係が思っていたよりも

出来ていたため軽く驚かれたことに対して翔は苦笑を浮かべた。

 

それから勉強も予定より進んでおり、すぐに休憩時間となった。

休憩時間中に翔とミリキャス、そして教育係も交えて会話をしていると部屋の扉が開かれ

ある者が入ってきた。

 

「おばあ様!」

 

―――ヴェネラナだ。

彼女が部屋に入って来たのを見るとミリキャスは勢いよく椅子から立ち上がるとヴェネラナに

抱き付く。

見た目はリアスと大して変わらない美少女であるヴェネラナが、おばあ様と呼ばれることに

果てしない違和感を感じてしまうのだが、そのことについて指摘したらどうなるかは何となく

予想できているため、翔は決して口にはしない。

 

「翔さん、ミリキャス。勉強の方はどうかしら?」

 

「ある程度は人間界に居る時に主や同じ眷属の者達に少し教わっていたので、あまり苦には

感じませんね」

 

ヴェネラナは主であるリアスの母親のため、普段はあまり使わない敬語で話す。

 

「凄いんですよ、翔兄様! 色々なことを教えてくれます!」

 

「まぁ、色々な経験をしてきたからな。他の者よりは少し物知りかもしれないな」

 

ヴェネラナに抱き付いていたミリキャスは、今度は翔の片腕に抱き付きながらヴェネラナにまるで自分の事のように自慢する彼女に翔は空いている手で頬を掻きながら困ったように笑みを浮かべながら言葉を漏らす。

 

「あら、随分と仲良しみたいね」

 

優しく微笑みながらそう告げたヴェネラナにミリキャスは満面の笑みで応える。

 

「はい。翔兄様ことが大好きです!」

 

そう言うミリキャスに翔は驚いた表情を浮かべるが、すぐにそれを優しい微笑みに変えて

ミリキャスの頭を撫でた。

まるで壊れ物を扱うかのように、優しく丁寧に撫で続ける・・・。

それを見た、ヴェネラナは何か考える仕草をして―――

 

「・・・ミリキャス。翔さんと大事なお話があるので少し席を外してください」

 

ミリキャスを含め、他の者達を部屋から出るように促す。

元気よく返事をしたミリキャスと教育悪魔はヴェネラナに一礼してから部屋を出ていく。

その際にミリキャスは翔に手を振い、翔もそれに応え優しい表情で手を振りかえす。

 

「「・・・・・・・・・・・・」」

 

今部屋にいるのは翔とヴェネラナに二人だけだ。

沈黙が支配する空間。

翔とヴェネラナはただ視線を交わらせるだけで何も口にしない。

それが数分ほど続いてから―――

 

「・・・・・・失ったことがあるのですね?」

 

「ああ・・・」

 

唐突にヴェネラナが放った問いに対して、翔は動揺することなく静かに穏やかに答えた。

 

「・・・貴方の事は息子、サーゼクスやグレイフィアから聞いています」

 

「そうか・・・」

 

そこで会話が途切れる二人。

少しの沈黙の後、翔は静かに語り出した。

 

「・・・正義の味方になりたくて、大切な者達の手を振り払って―――俺はこの手に剣を執った」

 

そう告げてからヴェネラナに向けていた視線を下へと向けて、己の手を見つめる。

 

「誰かを救いたいと、護りたいと思えば思うほど、この両手から零れ落ちていく・・・」

 

一体どれほど多くの者達を護れなかったのだろう、救えなかったのだろう・・・

 

ゆっくりと広げられた両手を見つめると零れ落ちた者達が思い浮かぶ。

 

後悔、怒り、自嘲、嫌悪、無念、絶望、悲しみ、憎悪、空虚

 

様々な感情が浮かんでは消えてを繰り返す。

 

「誓いのために、理想のために、救えるように、護れるように強さを欲した・・・。

―――だが、現実はそれほど簡単ではない。

ヒト一人がいくら強くなったところで護れるものだとたかが知られている・・・」

 

「翔、さん・・・」

 

痛ましげな表情を浮かべながらヴェネラナはただ翔の名を呼ぶ。

彼女にはそうすることしかできなかった。

 

いくらサーゼクスやグレイフィアから翔の事情について話を聞いたと言っても、彼らが語った事が翔の全てではない。彼らもそして仲間のリアス達も翔の過去については断片的な部分しか知らない。

故に、今の彼女には翔にかける言葉を持ち合わせてはいない。

 

そんなヴェネラナの心情を知ってか知らずか、翔は目を伏せたまま語り続けた。

 

「誰かを助けたいという願いが綺麗だったから憧れた・・・。それしか俺には残っていなかったから、それを目指した。・・・自身から零れ落ちた気持などなかったのかもしれない。

生き残ってしまったのが俺一人だったが故に、この身は誰かのためにならなければならないという強迫概念に突き動かされていただけかもしれない・・・」

 

その声色はとても静かで穏やかで優しく、そして懺悔するかのように、自嘲と憎悪が籠っているように感じられた。

 

「ただ歩き続けた。見果てぬ道を・・・」

 

その姿は尊しく、何にも侵されないほど眩しく見え、まるで英雄のようであった。

―――だが、ヴェネラナには弱々しく、ちょっとした衝撃で脆く崩れ去ってしまうようにも見えた。

彼女は翔に何か言おうと口を開こうとしたところで―――

 

「それでも俺はやっぱり何度でも思うんだ。いくら苦しくても・・・気が遠くなるほどの孤独な戦いが待っていようとも、誰かの笑顔を護れるのならば・・・そんな喜びがあるのならば、何度でも立ち向かおうと思うんだ・・・」

 

伏せていた目を上げて、とても穏やかに翔はそう語った。

真っ直ぐと視線をヴェネラナに向ける。

 

「―――ッ!?」

 

どこまでも真っ直ぐな漆黒の(まなこ)に魅入られそうになった。

 

アァ、彼ヲ自分ダケノモノニシタイ・・・

 

そんな想いがヴェネラナの頭の中を埋め尽くされそうになったところで、はっと正気に戻る彼女・・・。

目の前の翔から視線をずらして、高鳴った鼓動を平静に治めようとすると同時に脳裏に浮かんだ

考えを彼方へと追いやろうとする。

年甲斐もなくきっと頬は紅く染まっているのだろう、と考えてることで軽く現実を逃避する。

 

「・・・どうかしたのか?」

 

そんなヴェネラナの様子をみて、怪訝な表情を浮かべる翔に対して、当の本人は、何でもないと告げる。

すると、翔は居ずまいを正してヴェネラナに頭を下げる。

 

「無意識とはいえ、無礼な態度を申し訳ありません。必要とあらば、どのような罰を受けるつもりです」

 

これまでの翔の話す態度は、主人であるリアスの親に向けていいものではない。貴族社会においてそれは許されるものではない。

 

「そうですね・・・。貴方がそのように言うのならば、然るべき罰を与えます」

 

いきなりの謝罪に驚きを示したヴェネラナであったが、その目を細めて目の前で頭を下げ続けている翔を見つめながら、告げる。

 

「これからずっと私と話すときは自然体で構いません」

 

「は・・・?」

 

その言葉に翔にはしては珍しく間抜けな声を漏らすとともに下げていた頭を上げると、そこには悪戯が成功したと言わんばかりの笑みを浮かべるヴェネラナの顔があった。

 

「勿論、場合にもよりますがね」

 

笑みを浮かべながらそう告げた彼女に、翔は少しの間呆然とした様子を見せたが、やれやれ・・・と肩を竦める。

 

「やはり、貴方はリアスの母親だな。そういうところが彼女とそっくりだ。いや、リアスが貴方に似ているのか・・・」

 

翔は苦笑を浮かべたままそう言葉を漏らす。

 

「それで返答は?」

 

「ああ、了解したさ。ヴェネラナ」

 

ドクンッ!

 

ただ名を呼ばれただけだというのにヴェネラナは胸が高鳴るのを感じた。

 

「おっと、流石に呼び捨ては失礼か。すまないな、ヴェネラナさん」

 

「いえ、呼び捨てで構いませんよ。貴方もその方が話しやすいでしょ?」

 

「いいや、そこはちゃんとするさ。それで俺に何か用事があったんじゃないのか?」

 

呼び捨てで呼ばれないことに若干の寂しさを覚えたヴェネラナであったが、それは追々どうにかしようと考えて、思考を切り替えた。

 

「ええ、そうでした。もうすぐリアスと皆さんが帰ってきます。今日は若手悪魔達が魔王領に集まる恒例のしきたり行事がありますから・・・」

 

「ああ、話は聞いている」

 

ヴェネラナの言葉に翔は冥界に訪れる際にリアスから予め聞いていたスケジュールを思い出す。

 

今晩に冥界のある場所において、リアスと同年代の若手悪魔が一同に会するらしいのだ。

全員が正式なレーティングゲームデビュー前の悪魔達であり、その出身は名門、旧家の由緒ある上級悪魔の跡取りなどが集まり、現魔王を含め、偉い悪魔・・・所謂上層部と呼ばれる者達の元に集まり、挨拶がてら互いを意識しあうというものだ

 

「そうか、もうそんな時間か・・・。少し喋りすぎたかな」

 

そう小さく呟いてから翔は立ち上がると、ヴェネラナに向けて一礼して部屋から出て行った。

 

翔が部屋から出て行き、木製の扉特有の閉まる音が部屋に響いてから数分後、ヴェネラナはその場で小さく息を吐く。

そして、思い浮かべるのは先ほどの会話と翔の表情・・・。

 

「サーゼクスとグレイフィアから話には聞いていたけど、想像以上だったわ。

貴方は私が思っていた以上に壮絶な人生を歩んできたのですね・・・」

 

小さく漏らしたその言葉。

話には聞いていた。そして、分かっていたつもりでいた。

 

―――だけど、それは間違いであった。

他人から聞いた話と実際に本人から語られたとでは印象もそして受ける感情も違った。

 

「貴方は後悔などしていない・・・。―――ですが、貴方は()()()()を許せないのですね」

 

全ての業をその身に背負って歩き続ける彼・・・。

だが、彼の懺悔は決して終わることはない。

 

翔さん、貴方はきっとこれまでずっと歩き続けてきたのですね

一人であの平原を歩き続けてから・・・その時からずっとその歩みを止めなかったのでしょう

その身に受けた傷を、その心の傷を見ない振りをして、大丈夫だと思い続けて・・・

・・・・・・きっと貴方がもっと冷徹であったならば、人間らしさなど捨ててしまえたら、

辛くはなかったでしょう、苦悩することもなかったでしょう・・・

―――ですが、貴方はあまりにも優しすぎた

それ故に、貴方は何度も絶望し、何度もその悲しみで心が砕けそうになったのでしょうか・・・

 

自身の胸に添えられた手を無意識のうちに握り締め、込み上がる想いを抑え込む。

ヴェネラナは彼を、翔の傷をどうにかしたいと思った。

それはきっと彼女が母親だというのも強いのだろう。

だが―――

 

「あんな綺麗な輝きを持つ眼があるなんて・・・」

 

思い出すのは彼の眼。瞳の奥に輝くその願いと誓い・・・。

例え、どのような理由があろうとも、それはすでに彼のものとなっており、何にも代えがたい輝きを放っていた。

 

翔の事を思い出すだけで胸の鼓動は速くなり、顔に熱が帯びる。

 

「・・・・・・本気になりそうだわ」

 

少しの沈黙後、小さく呟かれた言葉は誰にも聞かれることなく消えていった。

部屋から上機嫌で出ていくヴェネラナ。

その顔は恋する乙女にも見えたのはきっと気のせいではないだろう。

 

リアス達が城に帰ってからすぐに翔達は例の列車で魔王領へと移動していた。

途中、宙に展開されている長距離転移のための魔方陣を潜り、列車に揺られ続けること三時間、一行は魔王領都市ルシファードに到着した。

此処は魔王領の都市ルシファード。旧魔王ルシファーが居られたと言われている冥界の旧首都。

騒ぎを避けるために地下鉄へと乗り換える翔達だが―――

 

『リアス姫様ぁぁぁぁぁ!!!!!!!』

 

一歩遅かったようで、周囲から湧き上がる黄色い歓声に翔は苦笑する他ない。

声が飛んできた駅のホームに視線を向ければ、ホームにいる大勢の悪魔がリアスに憧れの視線を向けていた。

 

「部長は魔王の妹でその上美人ですから、下級、中級の悪魔達にとって憧れの的なんですよ?」

 

「そんな主を持って、俺は幸せ者なのか」

 

朱乃の言葉を聞いて、翔がそう呟く。

すると、それは歓声を起こす者達に向けて、手を振っていたリアスにも聞こえていたようで彼女は振り向いて、翔に視線を向ける。

 

「あら、そう言ってくれるのは嬉しいけど、私としては貴方が私の眷属になってくれたのだから、私の方が幸せ者よ?」

 

誰もが見惚れるであろう微笑みを浮かべてそう告げたリアス。

それに―――

 

『うぉぉおおおおおおおおおおおおおっ!!!』

 

『きゃぁあああああああああああ!! リアス姫ぇええええええっ!!』

 

どわっ!と、より一層騒がしくなる歓声。

すると、先程までリアスに集中されていた視線が翔達、眷属にも向けられる。

 

『リアス様の眷属が増えているわ!』

 

『確か、回復の神器(セイクリッド・ギア)の使い手と聖剣使いを眷属に迎えたそうよ!』

 

「ほう、アーシアとゼノヴィアの二人の情報が出回っているようだな。まぁ、確かにシスターに聖剣使いを眷属にするのは今まで無かったことだろうから注目されるのも仕方がないか・・・」

 

そんな言葉を漏らす翔に対して、周りにいたリアス達は呆れた視線を向ける。

それに気づいた翔は、怪訝な表情を浮かべて問いかける。

 

「どうしたんだ? その視線は?」

 

「・・・確かに翔くんの言っていることは正しいけど、一番注目されるのは翔くんだと思うよ?」

 

祐斗の言葉を聞いて、翔は不思議そうな表情を浮かべる。

 

「何故、俺なんだ? 確かに駒を使って転生しなかった人間であり、神器(セイクリッド・ギア)を宿しているがそれだけだろ?」

 

「はぁ・・・。貴方って、意外と天然な一面があるわよね。いい、翔?

貴方が宿してるものはただの神器(セイクリッド・ギア)じゃないの。

神や魔王すら超える可能性を秘めるてる『神滅具(ロンギヌス)』なのよ。それに―――」

 

リアスは途中で口を止めて周囲に耳を傾ける。

 

『ねぇ、今リアス様とお話になってる彼がもしかして・・・』

 

『ええ、そうよ! 彼が今代の赤龍帝・・・『赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)』を宿し者・・・

なんて素敵な方なの!』

 

『《騎士》の祐斗様とは違った魅力が!!』

 

リアスや朱乃達の耳には周囲の話声が届く。

その多くが女悪魔であり、祐斗とは違う方向性の魅力を持つ翔に熱い視線を送っている。

それを察知したリアス達、女性陣は明らさまに溜め息を吐く。

 

「予想通りですわね。・・・ええ、初めから分かっていたことですし、翔くんに関しては仕方ないですわ」

 

呆れと諦めが混じった声色で呟く朱乃。

彼女の言葉にリアス達は大いに頷き同意を示す。

 

「何のことを言っているのか分からないが、さっさと移動を再開しないと会合に送れるんじゃないか?」

 

「・・・ええ、そうね。今ここであなたに理解させるのは無理だから、この話は追々にしましょう。

それじゃあ、みんな鉄道に行くわよ!」

 

翔の言葉に再び吐きそうになる溜め息を呑み込み、翔達に歩き出すように促した。

その際に周りにいたファン達に向けて、微笑みを浮かべながら手を振るリアス。

それにより、先ほど以上に叫び出すファン達の声に、翔は苦笑をしながら小さく呟く。

 

「やれやれ・・・。まぁ、確かに彼女は魅力的なのは否定しないがな」

 

その呟きはリアスの耳にも届いていたようで、一瞬何を言われたのかを理解できないと言った表情を浮かべた彼女であったが、すぐに内容を正しく理解した彼女は顔を紅く染め上げると、翔から視線を外して、周りを無視して目的地へと足を進め始めた。

 

「・・・何か気に障ることでも言ったのか、俺は?」

 

そんなリアスの様子を見て、翔は一言呟くと、周りにいた朱乃達からは呆れられた溜め息を吐かるが、本人は周りの反応の真意が読み取れず首を傾げるだけだった。

 

因みに翔の背中には大勢の悪魔に反応して涙目になったギャスパーが張り付いていた。

翔のおかげで多少はマシになっているギャスパーであるが、流石にこれほど多くの者達の視線が

こちらに集中する環境は厳しいようだ。

翔自身もそれが分かっているため、今は彼の好きなようにしている。

 

黄色い声援を送ってくれるファン達に別れを告げて、翔達は地下鉄に乗り換えて、目的地である、都市で一番大きい建物の地価にあるホームへと到着した。

ここには魔王を始めとした悪魔社会を取り仕切る上層部と若手悪魔達が集まっているとのことだ。

リアスを先頭にして、地下からエレベーターに乗り込む。

その間にリアスは自分の眷属達に言い聞かせる。

 

「もう一度確認するわ。何が起こっても平常心でいる事、何を言われても手を出さない事。上にいるのは将来の私達のライバル。無様を見せるわけにはいかないわ」

 

再び気合を入れるが、翔だけは自然体でリアスの言葉に頷く。

上と昇り続けていたエレベーターが漸く止まり扉が開く。

エレベーターから一歩踏み出せば、そこには広いホールがあり、使用人と思しき人達がリアス達に会釈をしてきた。

 

「ようこそグレモリー様。こちらにどうぞ」

 

使用人悪魔の案内に従って廊下を歩いていく。

するとリアス達の視界に複数の人影が入る。

どうやら彼らの中に知己の人物がいるらしく、リアスはその集団へと歩みを進めていく。

 

「サイラオーグ!」

 

リアスの声に反応したようで、その人物とその周囲にいた者達もリアスに歩み寄ってきた。

 

「久しぶりだな、リアス」

 

サイラオーグと呼ばれたその男。

短い黒髪に、鍛え抜かれた肉体、そして何よりも野性的なギラギラとした紫の瞳。

 

「ほう・・・」

 

翔が小さく感嘆の声を漏らす。

 

悪魔にしては珍しい・・・。随分と鍛え抜かれた身体だ

そして、抑えているが体の内から溢れだすのは、闘気だな・・・

余程の鍛錬を積まなければ、あれほどの域には届かないだろう

それに―――

 

僅かに細めた目でサイラオーグの腕に視線を向ける。

その視線の意味に気が付いた者はサイラオーグ本人を除いて誰もいないだろう。

 

「変わりないようね、何よりだわ。初めての者もいるわね。彼は私の母方の従兄弟でもあるの。

名前は―――」

 

「俺はサイラオーグ・バアル。バアル家の次期当主だ」

 

リアスの言葉に続くように自己紹介をするサイラオーグ。

言われてみれば確かにリアス、というよりもどこかサーゼクスに似ている。

彼の名を聞いて、翔は言葉を漏らす。

 

「バアルといえば、悪魔社会において魔王に次いで権力があるとされる『大王』の一つだったな・・・」

 

元72柱の序列は最上位であり、何よりもバアル家が持つのは全てを滅亡させることが出来る

―――『滅びの力』という絶大な先天性の力がある

確か、リアスとサーゼクスさんの母親であるヴェネラナの出身だったはずだ・・・

だが、彼からはリアス達から感じられる特有のオーラは感じられないな

 

ミリキャスト共に習った内容を思い出しながら、翔は目の前にいるサイラオーグのことを観察する。

 

「ええ、どうやらちゃんと勉強していたみたいね」

 

「まぁな。ミリキャスが真面目にやっているというのに俺だけ不真面目だと示しがつかんだろ」

 

翔の言葉に反応したリアスの言葉に対して、本人は肩を竦めて答える。

 

「それもそうね。ところで貴方はここで何をしていたの? 会合が始まるまで控室で待機の筈よ?」

 

「何、余りに下らなかったのでな。それで出てきた」

 

リアスの言葉にサイラオーグは溜め息を吐きながら言葉を返す。

 

「下らないって・・・他のメンバーも来ているの?」

 

「アガレスとアスタロトは既に来ているのだが、後から来たゼファードルがアガレスとやり合い始めてな。一緒にいるのも面倒でな、他に誰かが来るまで外で待っていたということだ」

 

心底不快な表情でサイラオーグが嘆息した。

すると、翔はリアスの前に一歩前に出る。

それをリアスを始めとし、周りの者達が怪訝な表情を浮かべ、代表としてリアスが翔に問いかけようとするが、それよりも早く翔が小さく呟いた。

 

「どうやら本格的にやりはじめるようだぞ」

 

「えっ? それは―――」

 

―――どういうこと?とリアスが言葉を続けようとするが、それは途中で遮られる。

 

ドオオオオオオオオオオオオオオオオンッッッッッッ!!!!!!!!!

 

突如響き渡る轟音にリアス達は身構えるが、翔がそれを制する。

 

「心配はないぞ。どうやら振動だけでここまで被害は来ないようだ」

 

「リアス、良い眷属を見つけたようだな」

 

サイラオーグの言葉に対して、当然!と誇らしげに胸を張り、自慢げに言うリアス。

そんな彼女を見て、翔は苦笑を浮かべながら、サイラオーグに話しかける。

 

「我がまま娘だが、俺の主だからな。初めまして、サイラオーグ・バアル。

リアス・グレモリーの《兵士》であり、現赤龍帝の御剣翔だ」

 

そう告げた翔はサイラオーグに向けて、手を差し出す。

それに応えるようにサイラオーグも手を差し出し握手をする。

 

「愚直に鍛えられた良い手だ」

 

「それはそちらもだろう」

 

サイラオーグの言葉に翔は苦笑しながら返す。

 

一見、細身に見える身体だが、その実極限までに絞り込まれている無駄のないもの・・・

まさに戦うために鍛えられた身体だ、すでにそこらの上級悪魔を凌駕している・・・

 

あの手はただひたすら鍛え続けてきた者の手だ・・・

積み上げ続けて、至った境地・・・

 

サイラオーグと翔は一言ほど言葉を交わした後、手を放し何かを確かめるかのように握手をした手を軽く握りしめながら内心で相手について考察する。

 

それから一通り、互いの自己紹介を終えた後、リアスとサイラオーグはそれぞれの眷属を従え、騒音がする方向にある扉へと向かった。

扉の前には使用にが控えているのだが、中から響き渡る騒音に対して無関心を貫いている。

どうやら止めに入る気はないらしい。

 

「まったく・・・。だから開始前の会合など必要ないと進言したのだ」

 

扉の向こうの光景を見て、サイラオーグは呆れたように呟く。

絢爛な装飾がされてたであろう大広間は破壊尽くされており、椅子やテーブルも無残な残骸と化している。中央ではそれぞれの眷属を従えた若手悪魔が二人おり、一触即発の雰囲気で対峙していた。

 

睨み合っている一人は女性悪魔であり、彼女は眼鏡をかけていて、冷たいオーラを身に纏っていた。

もう一方はとてもじゃないが上級悪魔とは思えないほど品が感じられず、上半身裸で全身に魔術的なタトゥーを彫っている男の悪魔であり、それぞれが己の眷属を従えていた。

 

そして、比較的荒れていない奥で優しげな表情を浮かべた少年悪魔とその少年を中心に眷属であろうフードを被った者達がいた。

 

翔は何気なくその少年悪魔に視線を向けると、ある違和感が感じられた。

 

・・・何だ?

浮かべている表情とは裏腹にその奥にはどこか黒い何かが感じられたのは気のせいか・・・?

それにこの気配、どこかで・・・

 

翔が奥にいる少年を観察をしていると、女性悪魔が対峙しているヤンキー風の男に冷たく言い放つ。

 

「ゼファードル、こんな所で戦いを始めても仕方なくてはなくて?死ぬの?死にたいの?殺しても上に咎められないかしら」

 

「言ってろよクソアマッ!俺がせっかくそっちの個室で一発仕込んでやるって言ってやってんのによ!アガレスのお姉さんはガードが固くて嫌だね!だから未だに男も寄って来ずに処女やってんだろう!?・・・ったく、どいつもこいつも処女臭くて敵わないぜ!だからこそ、俺が親切心で開通式をしてやろうって言ってんのによッ!!」

 

上級悪魔とは思えないほど下品な口調で話すゼファードルと呼ばれるヤンキー風の男。

 

「翔さん。こ、怖いです・・・」

 

「ああ、大丈夫さ。何があってもお前達には手出しはさせないから。

・・・すまないが、朱乃と祐斗。アーシアとギャスパーを頼む」

 

室内に充満している殺気を感じ取ったアーシアは怯えたように翔に近づいて来たので、彼女を安心させるように優しく微笑みながら頭を撫でる。

そして、アーシアと同じく怯えていたギャスパーと共に二人を朱乃と祐斗に任せ、翔は何時でも介入できるようにしている。

 

その際に翔は一瞬奥に控えている少年悪魔に視線を向ける。

そこには表面上は笑みを浮かべているが、その眼には憎悪を宿した視線を自身に向けているのが確認できた。

 

奴の狙いはアーシアか・・・?

部屋に入って来た時に随分とアーシアに視線を送っていたようだが・・・

それに俺がアーシアの頭を撫でた際に殺気を向けてきた上に、あの憎悪の籠った視線・・・やはり何か裏がありそうだな・・・・・・何も確証はないが警戒だけはしておくか

 

誰にも悟られることなく、僅かに目を細めて、少年悪魔に対して警戒していると、

目の前に広がる光景に呆れたように言葉を漏らすサイラオーグの声が聞こえた。

 

「ここは時間が来るまで若手が待機するための広場だ。本来なら若手が集まって軽く挨拶を交わす程度なんだがな。血の気の多い連中を集めるんだから、問題の一つも出てくる。それも良しとしている古き悪魔達もどうしようもないな」

 

確かに下らないので部屋から出てくるのも理解できる。

 

すると、どうやらもう対峙している二人の魔力がさらに上がる。

どうやら本格的に戦闘を始めかねない状況になっていた。

それでも女性悪魔の方はまだ冷静な部分があり、話し合いで終わらせようとしているが、

相手のヤンキー風の男が煽り続けているため、いつ爆発しても可笑しくはない。

 

「やれやれ、ここまでになると流石に見過ごすわけにはいかないか・・・」

 

拳を鳴らしながら、二人に介入しようとするサイラオーグであったが、それをリアスが制する。

 

「サイラオーグ。貴方が出る必要はないわよ。・・・はぁ、彼にあれを見過ごせと言う方が無理な話よね・・・」

 

「それはどういう意味だ?」

 

「簡単な話よ。お人好しの彼が仲裁しないわけないじゃない」

 

リアスの言葉に怪訝な表情を浮かべて問いかけるサイラオーグ。

それに対して、リアスは笑みを浮かべて告げると、彼に対峙している二人の方へ視線を戻すように促す。

再び視線を戻すサイラオーグが見たのは、対峙している二人の間に立つ翔の姿であった。

 

「ほらね? ・・・主としては止めなくてはいけないのだろうけど、そんな彼が好きだから止められないのよね」

 

苦笑しながら呟く彼女ではあるが、その声色は何処は嬉しそうであった。

 

「おいおい、下級悪魔如きが出しゃばることじゃねぇんだよ! 殺されたくなけりゃ、さっさと失せな!!」

 

「悪いけど、下がってくれないかしら。そろそろ自分を抑えられないのよ」

 

命令口調で話すゼファードルと冷たいがどこか翔を気遣うような言葉を漏らす女性悪魔。

 

「ああ、申し訳ないが、周りの者達が迷惑をしていてな。この辺で終わらせないか?」

 

翔の言葉を聞いて女性悪魔は新たに入ってきたリアスやその眷属達を見て、幾分か冷静になったのだが―――

 

「ハッ! 誰がてめぇの言うことなんか聞くかよ。・・・おっ? あそこにいるのはリアス・グレモリーじゃねぇか。相変わらずイイ体してるねぇ、俺好みだわ」

 

全身を嘗め回すような卑猥な視線をリアスに向け、彼女の方へと歩き出したゼファードルであったが、その彼の腕を掴んで翔が制止させる。

それに対してゼファードルが文句を言おうとする前に翔が口を開く。

 

「悪いが、俺の主に近づかないでくれるか? 貴様如きが近づいていい女性ではないのでな」

 

冷静に告げるようであるが、口調が僅かに変化している。

 

「あぁん? って、事は・・・お前はグレモリーの眷属の一人か?

なら、なおさら下僕の無礼は主がちゃんと償わないとなぁ?

おいおい、聞いてくれよ、お前んとこの下僕が俺に向かて無礼を働いてるんだぜ? 主としてそこんとこどうよぉ? これは主であるお前に詫びを貰わねぇとな? だから、ちょっと別室にいって俺と―――うぉお!?」

 

翔の言葉を聞いて、ゼファードルは嫌らしい笑みを浮かべると翔の手を振り払い、扉近くに立っているリアスに近づこうとしたが、それは強制的に止められた。

ゼファードルが歩き出そうと一歩踏み出した際に、翔は彼に足払いを行いその場でこけさせる。

 

それにより、情けない声と共にその場でこけるゼファードル。

そんな彼に対して翔は皮肉気な言葉を送る。

 

「どっかの馬鹿が部屋を散らかしたからな。足元には気を付けたまえ」

 

「て、てめぇ・・・。俺様に対してこんなことして、ただで済むと思うなよッ!!」

 

どうやら怒りの沸点が容易に超えたようで、立ち上がったゼファードルは全身から魔力を放つ。

それに対して翔は冷静に言葉を返す。

 

「そちらが先に無礼な振る舞いをしたのだろう? 仮にも上級悪魔ならば、少しはそれ相応の振る舞いをしたらどうなのだ?」

 

「うるせぇんだよッ! 俺様はやりたいようにやるだけだ!!」

 

我が儘な子供がそのまま大きくなったかのような発言をするゼファードルに対して、この場にいる殆どの者が呆れた表情を彼に向けている。

 

「やれやれ、これは困ったな。こちらの言葉を理解できないとは・・・さて、どう対応するか」

 

「調子に乗ってぇんじゃねぇえッ!! 力の差ってのを教えてやる!!」

 

小馬鹿にするように言葉を放つ翔に対して、ますます怒りを露わにするゼファードル。

自身の力の差を見せるために全身から魔力を放出させて威嚇をしてくる。

それに対して翔は―――

 

「力の差とは―――こういうことか?」

 

赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を顕現させて、全身から赤黒い魔力迸らせる。

 

『ッ!?』

 

翔の左腕に出現させた赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を見て、翔の事を知らなかった者達が驚きの視線を彼に向ける。

今の彼が発する力の波動は、上級悪魔であるゼファードルの魔力を軽く凌駕している。

だが、そのことに気づいていない本人は、翔に嘲笑を向けている。

 

「・・・そうか、てめぇが転生に失敗したグレモリーの《兵士》か、くくくっ、こりゃ傑作だな!

転生悪魔にすらなれなかった屑な人間風情が上級悪魔に盾突くんじゃぇねよッ!!」

 

突然、魔力弾を翔に向けて放とうとするゼファードルであったが、それよりも早く翔の拳がゼファードルの腹部に放たれていたが、そのことを認識できたのはこの場にいた者達の中で数人にも満たないだろう。

 

声を発することなくその場で崩れ落ちるゼファードル。

最初は何が起きたか分からず、状況を掴めていなかったが時間が経つにつれて状況を把握した

ゼファードルの眷属達は崩れ落ちた主に近づき翔に殺気をぶつける。。

 

「貴様ッ!?」

 

「よくもゼファードル様を!」

 

「人間の分際で!」

 

今にも襲い掛かってきそうな眷属達の様子を見て、翔は嘆息したように息を吐くと、目の前にいる者達に向けて言葉を告げる。

 

「確かに主に手を出されて、その相手に怒りをぶつけるのは間違いではないが、まず貴様らが

やらなければならない事は何だ? これから大事な行事が控えているのだ。

主の介抱がやるべきことではないのか? 主をまずは回復させるべきだろ。

それ以前にいくら主と言っても、その暴挙を止めるのも眷属に役目の一つだと思うがな・・・」

 

翔の言葉に思うところがあるのか、ゼファードル眷属達は唇を噛み締めると、倒れた主を介抱するために運び始めた。

 

すると、離れていた女性悪魔と遠くで様子を見ていたリアスとサイラオーグが翔に近づいた。

 

「まったく、あれほど手を出してはいけないって言っていたのに・・・」

 

「そう言ってやるな、リアス。彼がしなかったら、俺も似たようにに強制的に終わらせていたさ」

 

リアスは呆れた視線を向け、サイラオーグは翔の行動を肯定するかのような言葉を告げる。

すると、翔に諌められて少し離れていた女性悪魔が近づいてきた。

 

「ゼファードルをこうも簡単に退けるなんて・・・噂に違わぬ実力のようですね。

―――リアス・グレモリーの《兵士》である赤龍帝」

 

「何、あの程度はただのハッタリさ」

 

そんな言葉に対して、翔はおどけたように答え―――

 

「ほう・・・。ハッタリの割には余裕そうに見えたが?」

 

「さて、何の事だ?」

 

サイラオーグの指摘に翔は肩を竦めながら答える

 

奴がゼファードルに放った拳を見えた者は極僅かだろう・・・

ほとんどの者に悟られない速さ、そして意識を奪う程度に抑えられた威力・・・

口で言うのは簡単だが、実際に行うのは相当の腕がなければ、ああ容易くは出来まい

・・・・・・何時か奴と拳を交えるのが楽しみで仕方ないな

 

内心で湧き上がら衝動を抑えるサイラオーグ。

リアスの眷属である為、翔の噂は以前から耳にしていたが、実際に会ってみると噂以上の実力者であったため、より一層興味が惹かれてしまった。

 

「ふむ。こう部屋が滅茶苦茶では、落ち着いて話すこともままならないな・・・。

外にいる使用人達にスタッフを呼んでくるように告げるか。それとアガレス。お前はその間に化粧でも直しに行ってこい。一度殺気だったのだ。そのまま会合に行くわけにはいかないだろう」

 

「ええ、分かっておりますわ。後ほど、改めて自己紹介をさせていただきます。それでは失礼します」

 

サイラオーグの言葉にアガレスと呼ばれた女性はリアスと翔に一度頭を下げてから、

眷属と共に部屋を出て行った。

すると、アガレスと入れ違いのようにある者達が入って来た。

 

「ごきげんよう・・・。それでこの状況は一体どういうことですか?」

 

会長であるソーナ・シトリー率いる駒王学園の生徒会メンバーだ。

挨拶をした彼女は片手で眼鏡を上げると、何時も通りの冷静な表情でリアス達に問いかける。

 

「何、大したことはないさ。少しばかりやんちゃな者がいただけだ。

久しぶりだな、ソーナ会長。それに匙と生徒会諸君。悪いが少し待っていてくれないか?

すぐに部屋を片付けるのでな」

 

彼女の問いかけに翔が答えると、彼は袖を捲り、部屋の片づけを始めた。

 

「私はシーグヴァイラ・アガレス。大公アガレス家の次期当主です。先ほどは失礼をいたしました。お詫びを申し上げます。」

 

そう言って、優雅に一礼をするシーグヴァイラ・アガレス。

 

翔とスタッフが部屋の片づけを行った結果、数分で片づけを終えた部屋で、ゼファードルと

その眷属達を除いた者達で会合前の顔合わせを行っていた。

中央に置かれたテーブルを囲うように今回集まった若手悪魔の《王》達が座っており、各眷属達は自分達の主の後ろに控えている。

 

「ごきげんよう、私はリアス・グレモリー。グレモリー家の次期当主です。先程は私の《兵士》が勝手な行動をしていまい申し訳ありません」

 

「私はソーナ・シトリー。シトリー家の次期当主です。

先の騒動については仕方ないことです。リアスやシーグヴァイラには非はありません」

 

「俺はサイラオーグ・バアル。大王バアル家の次期当主だ。

最初の段階で収拾をつけておけば良かった。その事を詫びおう」

 

リアス、ソーナ、サイラオーグの順で挨拶を交わし、そしてその最後に先ほど翔とアーシアに視線を送っていた少年悪魔が挨拶をする。

 

「僕はディオドラ・アスタロト。アスタロト家の次期当主です。皆さん、よろしく」

 

笑みを浮かべながら当たり障りのない挨拶をするディオドラだが、彼が浮かべる笑みに対して、違和感を抱く。

 

一見、害はなさそうに見えるが、貼り付けたかのような笑みは気になるな・・・

それにあくまである奴が元シスターであるアーシアに対して、何かしら関係があるのか?

接点などはあるはずが―――

 

思考を続けていた翔はある会話の内容が蘇った。

 

―――教会近くで傷を負った悪魔を癒した。

 

「ッ!?」

 

眼を見開いて驚きを示した。

だが、すぐに意識を切り替えて、平静を取り戻す。

幸いなことに翔の表情の変化に気づいた者はいなかった。

表情は普段通りなのだが、心の内では怪訝な思いで埋め尽くされていた。

 

このような偶然があり得るのか?

アーシアが治療した悪魔が上級悪魔だと・・・

三大勢力が和平を結んだ今ならあり得ない話ではないが、彼女が教会を追放される原因となった

出来事は和平の前だ・・・

その時はまだ教会とは悪魔にとっては忌むべき場所―――敵陣だ

そのような場所に傷を負った上級悪魔が現れるのか?

悪魔も堕天使も癒してしまう神器(セイクリッド・ギア)を宿すアーシアがいる教会に・・・

・・・・・・駄目だ。考えるにしても情報が少な過ぎる

少なくとも奴がアーシアに近づいた時は注意しておく必要があるな

 

「ああ、あと言い忘れていたが、グラシャラボラス家は先日、御家騒動があったらしくてな。次期当主とされていた者が不慮の事故死を遂げたばかりだ。先程のゼファードルは新たな次期当主の候補と言う事になる」

 

翔がディオドラについて思考に陥っていると、サイラオーグが補足するようにそうを告げた。

それを機に翔は思考を一旦止めて、リアス達に会話へと耳を傾ける。

 

「それであの『凶児』がこの会合に参加していたのね」

 

「『凶児』か、それほどとは思えないがな・・・」

 

リアスの言葉を聞いて、翔は小さく言葉を漏らすが、どうやらサイラオーグやリアス達に聞こえていたようで彼は軽く笑いながら翔に対して言葉を漏らす。

 

「そう言ってやるな。赤龍帝であるお前にはそうかもしれないが、奴は次期当主の候補として相応しい才能もあれば、実力もある」

 

「翔! そういう発言は控えなさい!」

 

「リアスの言う通りですよ。我々の前だったから良いものの、もしこれが上層部の前でしたら、貴方だけではなく、その主であるリアスにも罰があったかもしれませんよ」

 

サイラオーグに言葉とは反対に、リアスとソーナは翔を叱りつける。

 

「やれやれ・・・以後気を付けることにするよ」

 

翔は肩を竦めて二人の言葉に頷く。

そのあと《王》同士の談笑が始まったため、《女王》は《王》の傍に控え、それ以外の者達は自由に話し始めた。

 

「おっす、御剣」

 

「ああ、久しぶりだな。匙」

 

祐斗達と話していた翔の所に、匙が近づき話しかけてきた。

 

「上級悪魔のいざこざに首を突っ込んだらしいな。相変わらずお人好しの行動だろうけど、手は出さないほうがいいぞ?」

 

「別にお人好しではないさ。ただあれ以上続けられると周りにも迷惑だったのでな」

 

「それがお人好しっていうんだよ・・・」

 

翔の言葉に匙は苦笑しながら答える。

 

「それにしてもあの時の翔くんの拳を見えた者はどれくらいたんだろうね?

ゼノヴィアや小猫ちゃんは見えた?」

 

「いいや、全く見えなかったぞ? 殺気があれば察知は出来ただろうが、あの時の翔からは一切何も感じられなかったからな」

 

「・・・・・・私も翔先輩の動きは見えませんでした」

 

あっけからんと言うゼノヴィアに対して、小猫は苦い表情で言った。

そんな小猫の様子を見て、翔は軽く彼女の頭を撫でながら気にしないように告げる。

 

「見られないようにしたからな。後々、面倒なことになるかもしれないから、それなりに放ったんだ・・・と言っても祐斗には見えていたようだな」

 

「ぼんやりとね? 翔くんが動いた程度しか認識できなかったよ」

 

「そうか。だが、彼は見えていたようだな。・・・彼がこの若手の中では一番と言ってもいいだろう。実力もそうだが、《王》としての器もな・・・」

 

そう言って視線をリアス達の方へと向ける。

翔の視線の先にはリアス達と会話をしているサイラオーグがいる。

どうやら向けられた本人もその視線に気付いたようで不敵な笑みを浮かべる。

 

「もっとも現段階ではな。リアスやソーナそれにシーグヴァイラもこれから伸び代はまだまだある。無論、お前達もな」

 

その視線に対して、翔は苦笑で返してから視線を祐斗達に戻して言葉を続けた。

それに対して、祐斗は悔しそうに呟く。

 

「翔くんがそう言うならそうなんだろうね。今の僕達では歯が立たない。・・・翔くんを除いて。まだまだ修業が必要だね」

 

「ああ、木場の言う通りだ。・・・だが、何時までも翔一人に負担をさせるつもりはない」

 

「そうだね」

 

祐斗の言葉を聞いて、それを肯定するゼノヴィアだが、すぐに不敵な笑みを浮かべて告げる。

その言葉に祐斗も頷く。

 

「俺だって、負けてらんないぜ! この夏で滅茶苦茶強くなってやる!!」

 

二人に続けて、両拳を力強く握りしめて、気合いを入れる匙。

 

「ああ、楽しみにしているさ」

 

そんな彼らに翔は笑みを送る。

すると、《王》同士で会話をしていたリアスが翔の事を呼んだため、翔は祐斗達に一言告げてからリアスの元へと歩いていった。

 

「何か用か?」

 

「ええ。もっとも用があるのは私じゃなくて、彼女なのだけれど」

 

「お呼びして申し訳ありません」

 

そう言ったのは先程ゼファードルと言い争っていた女悪魔・・・シーグヴァイラ・アガレスだ。

ソーナと同じく眼鏡をかけており、露出の少ないドレスを身に纏っており、控えめでありながらも、

気品さが損なわれないのは、彼女が放つ清楚な雰囲気故だろう。

 

「なるほど・・・。―――先程は不遜な真似をしてしまい申し訳ない」

 

「いいえ、先程の件を咎めようとして貴方を呼んだのではありません。ですから、頭を上げてください」

 

翔は居ずまいを正して、右拳を左胸に当てて、先程のことについて詫びてから頭を下げる。

だが、それに対してシーグヴァイラは頭を横に振って、否定する。

 

「では、私に何か御用ですか?」

 

翔は左手を腹部に添え、右手を後ろへ回して問いかける翔の立ち姿はまさに執事の如く。

先程までの態度とは打って変わって、礼儀正しい翔の姿に周りは感嘆の声を漏らす。

 

「そう言えば、貴方って執事の経験があったわね? 夏休みの間はグレモリーの執事として働いてみる?」

 

「中々、堂に入った姿だな。熟練された動きを感じさせる」

 

「翔くん。最初からそのように出来るなら始めからそうしておくべきです」

 

リアス、サイラオーグ、ソーナの順で翔に言葉をかける。

 

「いえいえ、リアス様。私にそのような仕事は務まりませんよ。精々、雑務を熟せる程度です。

サイラオーグ様も冗談が過ぎますよ、私程度の動きなど練習すれば誰でも出来ます。

それにソーナ様。私がこのように話されたらどう思いますか?」

 

三人の言葉に対して、翔は礼儀正しく答えるのだが、普段の翔を知っているリアスやソーナからしたら違和感を感じてしまう。

 

「そうね。偶にならいいかもしれないけど、これからずっとそれは嫌だわ」

 

「そうですね。もしかしたら翔くんを偽った別人だと思ってしまいますね」

 

そんなことを言う二人に対して、翔は雰囲気を何時も通りに戻して肩を竦めながら苦笑する。

 

「やれやれ、酷い言われようだな。ま、これで楽に会話が出来る。あまり苦ではないがやらなくて済むならその方がいい。・・・ああ、申し訳ない。それで改めて聞くが、俺に何か用か、シーグヴァイラ殿?」

 

「ええ、噂の赤龍帝と話してみたかったのです」

 

「俺と話しても大して面白いことなどないと思うんだが・・・」

 

シーグヴァイラの言葉に翔は首を傾けるがそれを否定する者はいた。

 

「それはないと思うぞ。俺自身もお前については興味がある」

 

サイラオーグだ。

彼は好奇心旺盛な表情を浮かべて、翔に視線を向けていた。

 

「流石は神滅具(ロンギヌス)の所有者と言ったところです。すでに下級悪魔の域を超えています

・・・下手をしたら、上級悪魔にも匹敵し得るほどです。」

 

「それは違うぞ、アガレス」

 

シーグヴァイラの言葉を否定するサイラオーグ。

それに否定された本人は怪訝な表情を浮かべる。

 

「何が違うのです? 貴方も感じたでしょう、サイラオーグ? あの時、彼が放った魔力の波動を」

 

「ああ、確かに感じたよ。神器(セイクリッド・ギア)の力も使わない上に、抑えられた威圧をな」

 

「―――ッ!? あれは彼の素の力で、それも抑えていた、というのですか?」

 

サイラオーグの言葉にシーグヴァイラは目を見開いて、信じられないと言った表情を翔に向ける。

 

「さてね・・・。まぁ赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)の力を使っていなかったのは否定しないがな」

 

そう言った翔にサイラオーグは好戦的な笑みを浮かべて、翔に問いかける。

 

「なら、俺と拳をぶつけてみないか? 俺ならばゼファードルのように遠慮はいらないぞ?」

 

「いや、どうやらそれはお預けのようだな」

 

サイラオーグの言葉に翔がそう答えると、部屋に響くノックの音。

それからゆっくりと開かれた扉には使用にが立っており、部屋の全体を見渡してから告げた。

 

「大変長らくお待たせしました。会場が整いましたのでご案内させていただきます」

 

 

 


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