ハイスクールD×D ~正義の味方を目指す者~   作:satokun

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第27話 三大勢力の会談。彼の夢とは・・・

 

日が沈み、夜の静けさが街を支配する時刻―――ついに三大勢力の会談が始まる。

会談が行われる場所は事前にサーゼクスが言っていた通り、駒王学園である。正確には、新校舎の職員会議室。

念のため、本日は臨時休校となっており、昼間から生徒はおろか、学園の教員まで、誰一人学園に入ることは禁じられている。勿論、それは一般の者達だけであり、裏の関係者達は会談のための準備を行っていた。

学園の周辺には大掛かりな結界が張られている。結界は、かなり強力なもので、一度入れば会談が終わるまで外に出ることも出来ずに、外側からも介入することはできなくなっており、それに加え、認識阻害と人除けの効果もあるため、一般人には悟られる心配もない。

更に付け加えるならば、結界の外側と内側には、それぞれの陣営の軍勢が配置されている。

 

翔達はすでに部室に集まっており、何時でも出れるようにしていた。

リアス達は、先日のコカビエルとの戦闘について、説明しなくてはいけないためこの会談に出席するのだ。

翔が部室を見渡せば、祐斗とゼノヴィアを除く、誰もが緊張した表情を見せている。

 

現在の三大勢力の均衡は紙一重で成り立っている。

今まで小さい小競り合いは起こっていたが、それほど重要視することがないものばかりであったため、今の今まで均衡が保たれていたが、それが先日の一件で状況が変わった。

 

・・・そう。コカビエルによるエクスカリバーの強奪、駒王学園での襲撃だ。

 

それによって、現在の三大勢力の均衡は不安定なものになっている。

ふとしたことで、大戦が再び始まっても可笑しくはないのだ。

故に、此度の会談は慎重に事を進めなければならない。

コカビエルと戦闘を行ったリアス達の証言によっては、均衡を崩しかねない状況に陥る可能性もあるといえる。

そのため、緊張するなと言う方が酷である。

 

ま、今回の会談の結末はもう決まっているんだろうけどな・・・

サーゼクスさん、セラフォルー、ミカエルさん、アザゼルの性格を考えると、自ずと結果が見えてくる

だから、それほど心配する必要はない・・・・・・心配をするとすれば、それは―――

 

「翔くんは何時も通りだね?」

 

「ん?・・・ああ、そうだな。緊張するほどのことでもないだろ」

 

祐斗が話しかけてきたため、翔は考えを中断する。

 

「そう言うお前こそ、緊張しているようには見えないな、それにゼノヴィアも」

 

「そう見えるかい? これでも緊張はしているんだけどね。翔くんとの鍛錬の成果かな?」

 

「まぁ、あまり緊張し過ぎも、良くないと思ってな。それに私が深く考えすぎたところで何が変わるわけではないからな」

 

なるほどな・・・

祐斗の方は、“静”の心―――明鏡止水を身に着けてきたな・・・これなら自ずと、次の段階に至れるな

対して、ゼノヴィアは、肝が据わっていると言えば聞こえはいいが、今回の会談について深く考えていない様子だな・・・こいつは鈍感な部分がるからな

ま、確かに考え過ぎているよりはいいが・・・

 

二人の様子見を見て、翔はそんなことを内心で思っていると、座っていたリアスが立ち上がった。

その動きに全員の視線が彼女に集まる。眷属の顔を一人一人見回してリアスはゆっくりと深呼吸を行い、表情を引き締めて、一言告げる。

 

「行くわよ」

 

その言葉に全員が頷く。

 

「部長! みなさぁぁぁん!!」

 

部室の隅に置かれているダンボールの中から顔だけを出しているはギャスパーが声をかける。

理由はよく分からないが、ダンボールの中が気に入ったようだ。

 

「ごめんなさいね、ギャスパー。まだ完全に時間停止の神器(セイクリッド・ギア)を使いこなせていない貴方を会談に連れていけないのよ」

 

「はいぃ! ぼ、僕は何時も通り引き篭もっていますぅ!」

 

ここ短期間で翔と行動をよく共にするようになったギャスパーであったが、未だに引き篭もり体質と対人恐怖症は改善されていない。だが、最初の頃に比べれば、良くなっているのは確かだ。

 

翔はダンボールから顔を出しているギャスパーの頭をポンポンと軽く撫でる。

 

「本来なら、誰か一人をここに置いておきたかったんだが、コカビエルとの戦闘に関わったグレモリー眷属は全員参加しないといけないようだからな。とりあえず、菓子とか作っておいたからそれでも食べて暇をつぶしてくれ」

 

「はいぃ! 翔先輩の料理は美味しいから楽しみですぅう!!」

 

翔手作りのお菓子が食べれることとなったギャスパーはその赤い目を輝かせて喜びを示す。

 

「ん? どうしたんだ、小猫?」

 

ギャスパーを眺めていると、不意に裾を引っ張られるのを感じた翔は目線を僅かに下げるとそこには、じっと翔のことを見上げる小猫の姿があった。

その視線にはどこか期待に満ちたものが宿っている。

 

「わかったわかった。今度、小猫にも作るよ」

 

「・・・・・・ありがとうございます」

 

そっけなく答える小猫であるが、何時もの無表情とは違って頬が緩んでいるのが見えた。

 

「みんな行くわよ」

 

リアスを先頭に翔達は会議が行われる会議室へと向かった。

 

「失礼します」

 

リアスがドアをノックして会議室へと入ると、部屋の中には既に他の面々は揃っていた。

室内の内装は豪華絢爛となっており、その全てが今回特別に用意されたものばかりだ。

その中で一番目立つのは中央に置かれた長いテーブル・・・王族のみが使うのを許されたような風格を醸し出している。

それを囲んでいる面々はほとんど、翔が顔を知っている人物達だった。いずれも真剣な表情を浮べている。

 

悪魔側は魔王であるサーゼクスとセラフォルー。そして、サーゼクスの傍には給仕係としてグレイフィアが控えていた。

 

天使側は天使長であるミカエルとその後ろには、おっとりとした雰囲気を放っているウェーブのかかったブロンドの女性天使が控えていた。その女性天使から感じられるオーラはミカエルに匹敵するものである。

 

堕天使側は総督であるアザゼルと白龍皇ヴァーリがいるだけだ。

 

当然の如く、全員が正装に身を包んでいた。

因みに翔達は全員制服姿だ。

 

翔が室内に入って全体を軽く見渡した時にウェーブのかかったブロンドの女性天使と目が合った。目が合うこと自体は驚かなかったのだが、目が合った瞬間、女性天使は翔に誰もが魅了するような慈愛に満ちた優しい微笑みを浮かべてきた。

流石にそれには面を食らった表情を浮かべる翔であったが、すぐに表情を戻して、軽く会釈し返す。

 

次に目が合ったのは、アザゼルの隣に座るヴァーリだ。笑みを浮かべながら手を振ってきたので、翔もそれに応えた。

 

翔達が全員室内に入ったのを見計らって、サーゼクスは立ち上がり、翔達の近くまで来ると、この場にいる全員に改めて紹介する。

 

「今回のコカビエル襲撃を解決に貢献してくれた私の妹とその眷属達だ」

 

リアスは軽く会釈をすると、それに倣うように翔達も軽く頭を下げた。

すると、座っていたミカエルとアザゼルが立ち上がる。

 

「そのことなら既に報告を受けています。この場でお礼をさせていただきます」

 

「悪かったな。うちの馬鹿が迷惑かけた」

 

ミカエルは深く頭を下げて、感謝の言葉を告げるが、逆にアザゼルは不遜な態度というより、悪びれた様子ではない。・・・とてもトップとは思えない態度だ。アザゼルの態度にリアスは軽く口元を引き攣らせているが、サーゼクス達にとってはアザゼルの態度は当たり前なのか、特に表情を変えることはない。

内心でアザゼルに対して思うところがあるリアスであったが、とりあえず、ミカエルとアザゼルの言葉を受けて、再び会釈を行う。

 

「では、その席に座りなさい」

 

サーゼクスが指示した席に向かう。翔達用に用意されている席には既に生徒会長であるソーナが腰かけていた。リアスはソーナの横に座った。

リアスの隣にはもう一つ席があり、翔は《女王》である朱乃が座ると思って、他の空いている椅子に座ろうとしたところ―――

 

「翔くん、君はリアスの隣に座ってくれないか? コカビエルと直接戦闘した君にも聞きたいことがあるからね」

 

「わかりました」

 

サーゼクスにそう告げられたため、翔はリアスの隣の席に腰掛ける。

他の眷属達は順々に空いた席に座っていった。

 

「これより三大勢力の会談を始めさせて貰う。僭越ながら私、サーゼクス・ルシファーが進行を行うのだが、異論がある者はいるだろうか?」

 

サーゼクスがそう言うと、その言葉に反論する者はいなかった。

 

「全員が揃ったところで会談の前提条件を一つ。ここにいる者達は、最重要禁則事項である『神の不在』を認知している」

 

サーゼクスの言葉に、全員が無言で肯定する。

そうして、三大勢力の会談が始まりを告げた。

 

まず最初に話し始めたのは、サーゼクスであった。

現状の悪魔について、そして未来について熱弁して、そして戦争を行う気はないことを告げた。

次にミカエルが口を開いた。

ミカエルは、神がいない世界をどうのようにして平和を保つかを掲げるかを話し始めた。

途中途中でアザゼルがわざと空気を読まない発言を入れて、場を凍りつかせてたりしていたが、彼の言葉を聞いていれば、彼が戦争を起こす気もやる気もないことが窺えた。むしろ、この平和を気に入っているとさえ告げている。

 

そんなトップ同士の話を、翔は他人事のように眺めていると、不意に手を掴む者がいた―――リアスだ。

掴まれた手からは、僅かに震えが伝わってきた。

何時もは豪胆で毅然としているが、彼女は年相応の女の子だ。緊張していても可笑しくはない

 

「大丈夫だ・・・。ゆっくりと静かに息を吸って、そして溜まっている不安とかの気持ちを吐き出すようにイメージしながらゆっくりと息を吐いてみろ」

 

軽く手を握り返し、翔はリアスに小声でそう告げる。

リアスは翔に言われた通りにする。すると、緊張による震えが治まっていった。

そして、翔に握られた手から感じられる温もりが、ゆっくりと全身を伝っていき、心の不安が消えていくように感じられた。

 

「あらあら、部長と翔くんは会談中でもラブラブですね」

 

後ろに座る朱乃は微笑みながらも少しからかうように小声で話しかける。

 

「翔から勇気を貰っているのよ」

 

リアスは何故か少し得意げにそう言い返す。

すると、話が一段落したようで、サーゼクスはリアス達に視線を向ける。

 

「さて、そろそろ先日の事件について話してもらおうか。お願いするよ、リアス」

 

「はい、ルシファー様」

 

サーゼクスに促され、リアスは席から立ち上がった。

リアスに続き、ソーナも立ち上がり、二人はコカビエル襲撃の時についての一部始終を話し始める。淡々と話をするリアスだったが、その手は緊張から僅かに震えていた。先ほど、翔のおかげで緊張は和らいだのだが、やはり実際に各陣営のトップ達の視線を一身に浴びているのだ。緊張するのは無理ないだろ。

 

三大勢力のトップ達は二人の話を様々な表情を浮かべて、聞いていた。

コカビエルが何故、聖剣を強奪し襲撃を行ったのか、誰が協力していたのか、そして、コカビエルを撃退する際に翔が見せた聖剣エクスカリバーの復元など、全てを・・・。

その際、エクスカリバーの話題となった瞬間、その場にいた全員の視線が翔に集中したのだが、当の本人は他人事のように話を聞いていた。

 

「以上が私、リアス・グレモリーとその眷属が関与した事件の報告です」

 

「ご苦労、座ってくれ」

 

「ありがとう、リアスちゃん☆」

 

サーゼクスの一言でリアスは着席し、セラフォルーもリアスにウインクを送った。

 

「アザゼル、今の答えを聞いた上で、堕天使総督の意見を聞きたい」

 

サーゼクスの問いかけられたアザゼルに全員の視線が集中する。

アザゼルは集中する視線を気にせずに、不敵な笑みを浮かべて話し始めた。

 

「先日の事件はコカビエルが俺や他の幹部に黙って単独で起こした事件だ。

今さっき、そこの嬢ちゃん達が話してた通りだ、あいつはそこにいる赤龍帝との戦闘で再起不可能に近いほどの重傷を負った。その後は『神の子を見張る者(グリゴリ)』の軍法会議で刑を執行・・・俺が直々に『地獄の最下層(コキュートス)』で永久冷凍してやった。一生出てこれねぇよ。その辺の説明はこの前送った資料に書いてあっただろ?それが全てだ」

 

「ええ、最低限の事しか書かれてないものですがね・・・。もう一度確認しておきますが、単独という事は、貴方自身は我々と事を起こす気はないと受け取ってよろしいのですね?」

 

ミカエルさんの問いに、アザゼルさんが当然だとばかりに答える。

 

「当たり前だろ。俺は戦争なんて全く興味ねえんだからよ。コカビエルも散々俺の事こきおろしてくれてたみたいだしな。・・・まぁ、そんなことより俺は知りたいことがあるんだよ」

 

「貴方と意見が合うとは、珍しいこともありますね」

 

アザゼルの言葉にミカエルが便乗する。

そして二人は、その視線を翔へと向ける。

だが、翔は向けられた視線には答えずに、ただ黙っているだけだ。

 

「黙っているお前だよ、赤龍帝、御剣翔。コカビエルの野郎の一件後、お前って人物について調べたんだ。その上で問いかける―――お前は何者だ?」

 

先ほどまでの軽い雰囲気はなりを潜めて、目を細めて追及してくるアザゼル。

 

「お前ほどの実力者がこれまで何の音沙汰なしで生きてきたとは思えないんだよな・・・。

お前に関しての情報は全くと言っていいほど出て来やしねぇ・・・。

出てくるのはリアス・グレモリーの眷属になった後だけで、それ以前の過去は分からなかった。

ここ数日話してみたが、お前はドがつくほどのお人好しだ。そんなお前がこれまで何の事件に関与していないってのは可笑しいんだよ・・・」

 

アザゼルが言っていることは正しい。

悪魔や堕天使による神器(セイクリッド・ギア)所有者に対しての横暴的な行動は目に余るものが多い。

悪魔ならば相手の人間の了承を得ずに、不当な契約で己の眷属にしたり、堕天使なら強力な神器(セイクリッド・ギア)を宿しているだけって裏の世界とは無縁の人間やその家族すら殺したりしている。・・・そんな事件が日本だけじゃなく世界各地で起きているのが現状だ。

そんなことが起きているというのに、お人好しの翔がそれらに関与していないってのは、あまりにも不自然すぎる。

 

「それと報告でありました、エクスカリバーの再現についてもお聞きしたいですね。

あの聖剣の真の姿を知っている者は限られている。大戦で折れた後、教会の錬金術師達と修復を試みましたが、完全に修復することは出来なかった。そのため七つに分けて、それぞれ能力を付加した。あれを個人の力のみで一時とは言え、再現して見せた。あれはどういうことですか?」

 

アザゼルに続くようにミカエルも翔が行った奇跡に追究する。

 

アザゼルとミカエルの話を聞いて、翔を除いたリアスとグレモリー眷属は内心で冷や汗を掻き、顔を僅かに強張らせる。翔の秘密を知っているのは、彼女達だけだ。翔が口止めしているため、ソーナには勿論のこと、サーゼクス達にも告げてはいない。

事前にリアスが危惧していたことが、現実となってしまった。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

アザゼルの言葉に翔は沈黙を貫くだけだ。

 

「おいおい、黙ってれば何とかなるなんて思ってねぇよな?

お前なら分かってるだろ? ここで黙っていても何も変わらねぇぞ」

 

「アザゼル、そんなことでは彼も喋り辛くなるばかりですよ」

 

「そんなこと言っているが、お前も気になんだろ? こいつの正体が?」

 

アザゼルの言葉にミカエルは押し黙る。

彼が言っている通り、ミカエルも気になっているのだ。

いや、この二人だけではない。この場にいる者達、全員が翔の翔達について知りたいのだ。

すると、今まで沈黙を保っていた翔が不意に息を吐きだしてから話し出す。

 

「ふぅ・・・、別に話したくないから黙っていたわけじゃないさ。

ただ、どう話すか考えていただけだ。・・・それにそろそろ潮時かもしれないな」

 

翔の言葉を聞いて、不安そうに見つめてくるリアス達に安心させるように笑みを浮かべて、大丈夫だと静かに告げる。

 

「さて、どう話したらいいか・・・」

 

翔は腕を組んでそう呟く。

呟かれた言葉と放たれる雰囲気は以前の夜、サーゼクスに己の過去の一端を語ったときと同じだ。

その姿を始めてみるアザゼルやミカエル達は、翔から放たれる年不相応の雰囲気に息を呑む。

まるで自分達同様に幾年の時を生き抜いた者だと錯覚してしまうほどのものだ。

 

「まずアザゼルの質問の答えに対しては、俺は人間だ。それ以上でもなければそれ以下でもない」

 

「おう、それは分かっているさ。神器(セイクリッド・ギア)も宿っていることだし、何よりお前からは人外の気配はねぇからな。まぁ例の『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』って言ったか?あれで悪魔に転生しなかったのは不思議だが・・・・・・ま、そんなことよりも―――」

 

「―――君はこれまで何をしてきたんだい?」

 

アザゼルの言葉を引き継ぐように翔に問いかけるサーゼクス。

その表情は優しげに微笑んでいるが、声色は真剣そのもので、嘘を許さないといった風だ。

 

「その問いをするということは、先日の話を信じていない、ということでいいのか?」

 

「いいや、君がそんなくだらない嘘をつくとは思わない。・・・ただね、君が話してくれた過去は『存在しない』のだよ」

 

「だろうな」

 

サーゼクスの言葉に翔は即座に肯定する。

 

「むしろ、あったら驚きだ」

 

「・・・それはこの前の話が嘘ということでいいのかな?」

 

僅かに目を細めるサーゼクス。

今まで見せてきたフレンドリーな雰囲気はなりを潜めている。

 

「いや、あの話には一切偽りのない。俺が過去に経験した事実だ、魔王サーゼクス。

だが、()()()()においては、その事実は存在しない」

 

翔の言葉を聞いて、事実を知っているリアス達以外の者達は怪訝な表情を浮かべている。

唯一アザゼルだけは、ニヤリと言った風な表情を浮かべ、面白そうなものを見る目で翔を見ていた。

 

「この世界ね・・・、まるでお前が別の世界から来たみたいな言い方だな」

 

「まるでじゃなくて、その通りだ。俺は別世界、所謂、『並行世界』から来た人間だ」

 

「並行、世界・・・ッ!?」

 

アザゼルが驚きの声を上げた。

他の者達は声こそ上げなかったが、驚きで目を見開いていた。

あのヴァーリでさえ、驚きを示していた。

 

「ある時点から分岐した今の時空に並行に存在する世界―――並行世界。

・・・まさか、そんな回答が返ってくるとは思ってもいなかったな」

 

流石のアザゼルも呆然とした様子で呟いている。

 

「・・・リアス達は知っていたのかい?」

 

「・・・はい」

 

翔の発言で驚いていなかったリアス達を見て、サーゼクスは静かに問いかける。

その問いかけにリアスが静かに肯定を示した。

 

「リアス達は責めないでくれ。俺が口封じをしていたからな」

 

「その判断は正解だと思うぜ? このことが公になれば、全世界で混乱が起きても可笑しくねぇ・・・」

 

「確かにそうだね」

 

アザゼルは思案顔でそう言うと、サーゼクスはその言葉に賛同する。

 

「随分とすんなりと受け入れるんだな」

 

周りがあまりもすんなりと自信の言葉を信じるので、翔は少し呆れたように言葉を漏らす。

 

「信じるも何も、それだと全部説明が出来んだよ。いきなり出現したお前の存在がな・・・。

でも、解せねぇな。お前ほどの実力者がそう簡単に死ぬとは思えないんだが・・・・・・お前はどうしてこの世界に来たんだ?」

 

アザゼルが翔に問いかけると、全員の視線が翔へと集中する。

 

「どうしてか・・・。それが分かったら苦労しないな」

 

肩を竦めて、そう告げる翔。

その言葉通りならば、本人の意思とは関係なく、この世界に来たことが分かる。

 

「俺も突然のことだったかな、どうして俺がこの世界に来たのかも、俺がどうして生きているかもわからないな」

 

「・・・その言い方だと、君はまるでここに来る前に死んだような言い方だね?」

 

「ああ、その通りだ」

 

「ちょ、ちょっと! それはどういうことよ!!」

 

翔の言葉にこの場にいた全員が動揺と驚きを交えた表情を浮かべるが、一番最初に声を上げたのはリアスだった。彼女は音を立てながら座っていた椅子から立ち上がり、隣にいる翔に声を荒らげながら追究する。

 

「言葉通りだ。俺はここに来る前に一度完全にその生を終えた・・・。全身に至る所に致命傷、流れていた血の量を見ても、助かる見込みはない状態だった。そして、俺自身が確かに感じ取ったんだ、体の端から襲いかかる冷たい・・・『死』という感触が全身に伝わるのを・・・・・・だというのに、気が付いたら見知らぬ公園で眠っていて、いきなりはぐれ悪魔に襲われ、それを撃退したところで、お前達と出会った」

 

それが事実だ、と告げる翔。

すると、今まで黙って話を聞いていたヴァーリが口を開いた。

 

「君ほどの人間が死に追い込まれた原因は何なのかな? それに君がこれまで何をしてきたのかも気になるね」

 

「それは確かに気になるな・・・。コカビエルの馬鹿は、あれでも堕天使の幹部であり、歴戦の戦士だ。それを退けた。一体、それほどまでの実力をどうやって身に着けた?」

 

ヴァーリの言葉にアザゼルも便乗する。

他の者達も興味があるようで、集中していた視線がさらに強くなる。

それを見て、翔は逃げ場ないことを悟り、溜め息を吐いた。

そして、遠い記憶を思い出すかのように目を細めて、口を開いた。

 

「俺には、叶えたい夢があってな・・・」

 

「叶えたい夢?」

 

翔の言葉にヴァーリが聞き返す。

 

「ああ、俺は『正義の味方』になりたかったんだ」

 

「正義の味方?」

 

その答えにヴァーリは呆けた表情を浮かべた。

あまりにも見慣れたその表情に、翔は苦笑しながらも言葉を続けた。

 

「助けを求める人、死に瀕している人、理不尽な目にあっている人・・・そんな人達を救い、護ることが出来る『正義の味方』。そんな存在になりたかった・・・」

 

以前に、翔の話を聞いたサーゼクス達は悲しげな表情を浮かべる。

知っているからだ。彼が何故それになろうとしたのか、何故その道を選んだのか、を・・・。

それに気づきながらも翔は話を続ける。

 

「そのために俺は様々なことを学んだ。武術に剣術は勿論のこと、医療と言った多くの知識を詰め込んだ。そして、俺の師匠の一人でもあった育て親が死んでから数年後、旅に出た。世界のどこかで苦しんでいる人々、助けを求める人々を救うに行くために・・・」

 

翔はどこか先を眺めるように空虚を見つめながら語る。

彼の瞳に映っている光景は、ここにいる誰にも理解はできない。

 

「世界は争いで満ちていた。何も争いの無い世界を夢見ていたわけじゃない。ただ俺は・・・せめて自分が知りうる限りの世界では、誰にも涙してほしくなかっただけなのにな・・・」

 

翔の姿は酷く儚げであった。

 

「より多くを救うために、この身を賭してきた。だが、所詮は人一人の力ではどうすることも出来ない。全ての人達を救うことは叶わなかった。救えない命、護れなかった命、見捨て斬り捨てた命。自分勝手な理想で、何十という人間の救いを殺して、目に見えるモノだけの救いを生かして、より多くの願いを殺してきた」

 

自嘲、悲しみ、寂しさ、無力さ・・・様々な感情が混じった声色で語る。

 

「少数を斬り捨て、多くを救う。・・・ああ、確かに理に適っている。全てを救うことなどできない。誰もが幸福な世界など、そんなのは空想の御伽噺だ。そんな夢しか抱けないのならば、抱いたまま溺死できた方がいっそ楽だったのかもしれないな・・・」

 

後悔しているように語っているのに、翔からは後悔という思いが伝わらない。

 

「でも、最後まで歩き続けるって誓ったからな。だから、最後までつまらない意地を張り続けた」

 

苦笑しながら告げるその言葉とは、裏腹にその表情は穏やかなものであった。

自身の結末がどのようであったとしても、決して後悔だけはない。

 

「そして、その果てが人が生み出した『業』の存在との戦いだ。見渡す限り異形の存在が満ちた荒野、その奥には、世界に終焉を喰らう化け物・・・『終焉の化け物(アルカード)』と呼ばれる存在がいた。俺は独り、それらと戦い、勝利はしたものの、その戦闘で受けた傷が原因で死んだ」

 

誰もが口を開くことが出来なかった。翔が語った内容はあまりにも酷かった。

理想のために、人々のために戦い続けた男の話。

だが、その最後は人が作り出した業によってその命を落とした。

 

サーゼクスは、今すぐにでも内に湧き上がる衝動を抑え込んだ。

 

―――殺意だ。

 

別に人間が嫌いだとも思わないし、むしろ自分達より色んな可能性を秘めている存在と知っているため、彼らは乏しめることはないし、見下すこともない。

だが、この時ばかりは身勝手な人間達の行いに、殺意を抱けずにはいられなかった。

以前、翔から聞いた過去話と今の話を繋げると、彼の人生はあまりにも報われない。

 

一度は全てを失った―――ある一つの呪いを残して・・・。

育て親である御剣隼人に救われ、共に暮らしたが、その彼も病でなくなり、その数年後、翔は旅に出た。

残った一つの呪い・・・・・・『正義の味方』になるという誓いを胸に、彼は世界で起きている争いから人々を救おうと、護ろうとした。時には全てを救えたこともあたのかもしれない。だが、そんなのは極稀だろう・・・。

深い絶望に襲われたのかもしれない。その思いが、心が壊れかけたのかもしれない。

でも、彼は戦い続けた。

大切な人との誓いのために、唯一残った誓いために・・・。

 

リアス達は翔の壮絶すぎる過去に何も言えずに、今の自分達では彼の支えにすらならないという事実に、自分たちの無力さに唇を噛み締めるだけ・・・。

 

すると、不意に立ち上がった存在がいた。―――女性天使だ。

今の今まで黙ってミカエルの近くに控えていた彼女は、突如立ち上がり、歩き出した。

誰もがいきなりの行動に驚きを示した視線を彼女に向けるが、当の本人はそれに構わず、ある場所を目指す。

その場所とは―――

 

「俺に何の用だ?」

 

先ほどまで自身の過去を語っていた翔の傍だ。

何時もと違って、少しだけ冷たい態度を見せる翔だが、それに気にすることのなく女性天使は翔に微笑みかけた。

翔は怪訝な表情を浮かべたが、それはすぐに純粋な驚きに変わった。

 

「よく頑張りましたね」

 

『なっ!?』

 

翔だけではなく、この場にいた誰もが彼女の行動に目を見開いて驚きを現した。

なんと、女性天使は座っている翔を抱きしめたのだ。まるで母親が子を抱きしめるように優しく、そして慈愛に満ちた表情を浮かべて。自身の豊満な胸に翔の頭を押し付けて、片手で翔の頭を撫で始めた。

 

「ちょ、ちょっと! ガブリエル様!」

 

リアスが女性天使の名を呼ぶ。

 

ガブリエル

四大熾天使(セラフ)の一角であり、女性天使最強の存在。

 

そんな彼女がいきなり翔に抱き付いたのだ、声を上げないほうが無理だ。

リアスだけでなく、他の者達もガブリエルのいきなりの行動に目を見開いて驚いている。

 

抱きしめられた翔は、相手が怪我をしない程度に動いて逃れようとするが、彼女は翔を離すことはなかった。むしろ、ますます強く抱きしめる。

 

「今日会談で初めて貴方と会いましたが、最初見た貴方の瞳からは、深い愛と深い闇を感じました。貴方の歩んできた道ならば、人を憎んでも、後悔があっても仕方がない・・・。だというのに、貴方は人を憎むことも、後悔することもなく今まで生きてきた。そしてこれからも・・・」

 

母が子を慈しむように、愛するように、慰めるように、翔の頭を撫でながら抱きしめ続ける。

逃れることが叶わないと悟った翔は、ガブリエルにされるがままとなった。

リアス達も、何を言っても無理だと悟ったため、黙って見ていることにした。

何故なら、あまりにも綺麗だったからだ。

何時の間にかガブリエルは、その背中からミカエル同様の12枚の黄金の翼を出し、神聖な光を放っていた。

まるで一枚の絵がのような光景に誰もが言葉を忘れたかのように見入っていた。

 

数分後、翔のことを抱きしめていたガブリエルがようやく離れた。

すでに翼を仕舞ってある。

 

「まぁ、なんだ・・・。気遣ってくれてありがとう」

 

少し照れたように頬を指で掻きながら告げる翔に、ガブリエルは優しい笑みを浮かべる。

 

「いえ、私が勝手にしたことですからお気になさらずに」

 

そう言って、彼女は元いた場所へと戻って行った。

 

「まさか、天界一の女性天使が赤龍帝に惚れ込むなんてな」

 

アザゼルがそうやって、からかう様に言った途端、アザゼルのみに冷たい殺気が向けられた。

 

「あら、別にそういうわけじゃありませんよ。私はただ、一人の天使として、彼に慈愛の気持ちを送っただけです。そういう冗談は思っても口に出すべきではないと思いますよ、堕天使総督さん♪」

 

ニッコリと笑みをアザゼルに向けるガブリエル。

 

「お、おう、そうだな・・・(相変わらず、あいつを怒らせるのは怖ぇな。今回は迂闊過ぎたぜ・・・。これ以上なんか言うと、後で何されるか分からねぇ。女を怒らすのが怖いってのは、あいつから生まれた言葉かもしれねぇな)」

 

内心で冷や汗を掻きながら、若干上ずった声で返事をするアザゼル。

そんな彼を見て、ガブリエルは満足そうに頷いてから言う。

 

「お時間を取らせてしまって申し訳ありません。会談の続きをどうぞ」

 

そう言われ、サーゼクスとミカエルは苦笑しながら頷くのであった。

彼らも藪をつついて蛇を出す、という愚行をするつもりはないため、会談を再開した。

 

「では、話を戻すとする。ミカエル殿の質問に対しての答えは何なのかね?」

 

サーゼクスの言葉に全員がミカエルの質問内容を思い出す。

そう、エクスカリバーの再現の話だ。

 

「そうだな・・・。結論から言うと、あのエクスカリバーは完全な再現ではない。

あの聖剣は『神造兵器』、人でも神でもない、この星が作り出した最強の聖剣、『最強の幻想(ラスト・ファンタズム)』だ。あれを個人の力で作り出すことなど不可能だ。あの時の一撃は精々、本来の威力の半分にも満たない」

 

「・・・確かにそうです。あの聖剣は『聖書の神』が星から貰い受けた聖剣。人の力で再現は愚か、復元させおうとすること自体が間違いだったのでしょう。ですが、貴方は本来の彼の剣の姿を知っていた。そうでなければ、あそこまでの再現はお出来なかったはずです。それが完全でなものではなくとも・・・。

貴方はあの聖剣の本来の姿を知っていたのですか?」

 

「ああ、知っていた。俺は伝説の騎士王が担い手であった本来のエクスカリバーを見たことがある。故にあそこまでの再現が出来たってことだ・・・」

 

まぁ、他にも色々と理由があるんだが、言う必要はないな・・・

 

他にも要因があるのだが、それを口にはしない翔。

ミカエルもこれ以上は聞くのが無理だと悟ったため、これ以上追及することはなかった。

 

「どうやら赤龍帝への質問も一応は区切りがついたようだし、会談の話を続けようぜ?」

 

「そうだな。アザゼル、何故ここ数十年、神器保有者をかき集めている。最初は人間を集めて戦力増強を図り、我々か天界に戦争を仕掛けるのではないかと予想していたんだが・・・」

 

「そう、何時まで経っても貴方は戦争を仕掛けてこなかった。『白い龍(バニシング・ドラゴン)』を手に入れたと聞いた時は強く警戒したものですが・・・」

 

サーゼクスに続き、ミカエルも疑問を口にする。

 

神器(セイクリッド・ギア)の研究の一環だ。別に戦争なんかしかける気なんてこれっぽちもねぇよ。これ以上くだらない争いを続けても、互いの種が消えていくだけさ。そんなのはお前らも望むことじゃねぇだろ?それに、これ以上こそこそと神器(セイクリッド・ギア)の研究するのも限界か・・・・・・分かった分かった。―――和平を結ぼうぜ。元々、お前等もその気だったんだろ?」

 

和平。

アザゼルが言い放ったその言葉に数人を除いて、誰もが驚きの表情で息を呑んだ。

驚いていないのは、事前に知っていたであろうヴァーリと、何となく予想をしていた翔だ。

翔は隣を見れば、リアスとその隣にいるソーナは相当驚愕している様子だ。それほどまでにアザゼルの『和平』という発言には凄いことなのだ。

凄いというよりは、この場の誰よりも胡散臭いであろうものから、その言葉が出たことに驚いているといったほうが正しいのかもしれないが・・・とりあえず、凄いことなのだろう。

 

「・・・まさか貴方の口からそのような言葉が出るとは思いませんでした」

 

「俺だって伊達に総督やってるわけじゃねぇんだぜ? さっきも言ったが、これ以上の争いは意味のない犠牲を増やすだけだ。続けていく必要がない。次に戦争をすれば、三大勢力は人間界に大きな影響を及ぼして共倒れ・・・最悪、他の神話連中も争いだして、この世界は完全に終わる。俺らはもう戦争を起こさないし、起こしちゃならない・・・。なら、俺らが辿る道なんて自ずと出てくるだろ?」

 

「ああ、確かにアザゼルの言う通りだ。私も天使と堕天使と和平を結びたいと思っていた」

 

「ええ、そうですね。私も元よりそのつもりでした」

 

これで三大勢力の和平は決まったようなものだ。

それからは、これからの各勢力の対応やら、戦力の話となった。

 

「・・・と、こんなところだろうか?」

 

サーゼクスのその一言でミカエル達は大きく息を吐き出す。

大方の重要な話は終えて、会談も終わりに近づいて来た。

 

「そうですね。話もだいぶ良い方向へと行ったことですし、私もこの場を借りて、謝罪したいことがありますので」

 

「ん? 謝罪だ?」

 

ミカエルの言葉にアザゼルを始め、多くの者が怪訝な表情をする。

翔と朱乃の二人だけは、ミカエルがこれから謝罪することに関しては予想できた・・・というより知っていた。

 

ミカエルはその場から立ち上がると、翔達がいる方向へと体を向けた。

その視線に捉えているのは、アーシアとゼノヴィアだ。

 

「・・・アーシア・アルジェント、ゼノヴィア。貴方がたを異端扱いとしたことを本当に申し訳ありませんでした」

 

ミカエルは二人に深々と頭を下げて謝罪の言葉を送ったのだ。

その行動に、翔と朱乃、そしてガブリエル以外の全ての者が驚愕の表情を浮かべた。

翔と朱乃は先日のアスカロン受け取りに際に話を聞いており、ガブリエルは事前に聞いていたのだろう。

 

「ミ、ミカエル様!?」

 

「あ、頭をお上げください、ミカエル様!」

 

慌てふためくアーシアにゼノヴィア。

それはそうだろう。元とはいえ、二人は教会の出身。その時のトップであった、存在が頭を下げてきているのだから、慌てるなと言う方が無理だろう。

 

事情も知らずに謝られている二人に、翔は軽くこうなった経緯を話す。

 

何故、アーシアとゼノヴィアが異端となったのか?

何故、そのようにしなければならなかったのか?

 

それらを簡単に説明をした。

二人は黙って、翔の話を聞いており、その間ミカエルは頭を下げたままであった。

 

「そうですか・・・」

 

全ての話を聞き終えた後、アーシアはそっとそう呟いた。

 

「私にはどうすることも出来ません。私は悪魔にしてしまった貴方がたに償わなければなりません」

 

ミカエルの中には自責の念で一杯なのだろう。

すると―――

 

「いいえ、いいんです。頭をお上げてください、ミカエル様」

 

優しい声が室内に響いた。

声を発したのはアーシアだ。

彼女の表情は何時も通りの優しさに満ちたものであった。

アーシアに言われて、ようやくミカエルはその頭を上げた。

 

「私は今、とても幸せです。確かに、教会を追放された時は悲しかったですし、寂しかったです。でも、今はそれ以上に幸せなんです!

翔さんと出会い、今まで知らなかったことをたくさん教えてくれました。

堕天使に捕えられた時も、不安で押し潰されそうになった時も、神の不在を知って絶望に負けそうになった時も、翔さんが支えてくれました」

 

「そうだな・・・。私もアーシアと同じだな。あの時・・・今まで支えだったものを縋っていたものを失ったとき、翔に言われたんだ、『前を見ろ。自分の足で立って歩け。お前達には立派な足がついてるじゃないか』ってね・・・。重傷で立つのがやっとの状態で自身ではなく私達を気遣い、微笑みを浮かべて言ってくれた彼の言葉に私は救われたんだ。主に縋るだけじゃなく、自身の足で歩くことが大事なんだ、と教えてくれたんだ」

 

そう言ってゼノヴィアは翔に視線を向けた。

当の本人は、彼女と視線を合わせずに違う方向を見ていた。

そんな彼に周りの者達は生温かい視線を送っている。・・・いや、アザゼルだけはニヤニヤした視線だった。

 

「だから、ミカエル様。私達のことはお気になさらずに・・・。確かに幼少の頃からいた教会から追放され、少しの後悔や寂しさもありましたが、今の私はこの生活に満足しております。・・・それに大事な友達も出来ましたから」

 

最後の言葉は少し照れたように頬を赤らめながら、アーシアに視線を送ってからゼノヴィアはそう言った。

アーシアも最初は驚いた表情を浮かべてが、すぐに嬉しそうに目元を潤ませながら笑ったのだ。

 

「そうですか。貴方がたの寛大な心に感謝を。そして、これから貴方がたが幸せでいられるようにせめて祈らせていただきます」

 

穏やかな表情でそう告げるミカエル。

 

「ミカエルの話も終わったようだし、そろそろ俺達以外にも世界に影響を与えられそうな連中の意見を聞いてみるか。赤龍帝と白龍皇にそれぞれ話を聞こうじゃないか。まずはヴァーリ、お前はその身に宿る神をも殺せる『神滅具(ロンギヌス)』で何をしたいんだ?」

 

アザゼルの問いにヴァーリは不敵な笑みを浮かべて告げる。

 

「私は強い奴と戦えればそれで良いさ」

 

戦いに魅入られた者の典型的な答えだ

彼女の場合、完全な修羅道には堕ちていないが・・・・・・危ういことには変わりない

 

そんなことを考えていると、アザゼルが翔に声をかけた。

 

「赤龍帝、お前はどうだ?・・・って、お前はもうやることは決まってそうだな。

どうせ、これからも自身の夢に向かって歩き続けるんだろ?」

 

「ああ、そうだろうな・・・。きっと俺は届かないと知っていても、それを諦めなんだろう。

それが俺のたった一つの望みのようなものだからな」

 

苦笑して告げる翔に、リアス達は顔を歪める。

また彼は同じ道を辿ってしまうという・・・。

だが、今の自分達では彼を支えることなど到底無理な話だ。

 

「・・・・・・しないわ」

 

すると、リアスが小さく何かを呟いた。

 

「ん?」

 

「絶対に貴方を独りになんてしないわ! するもんですかッ!!」

 

翔が聞きかえると、リアスは椅子から立ち上がって、そう叫んだ。

 

「いい翔! 昔の貴方がどうであれ、今は私の大切な眷属なのよ!

別に貴方の夢を否定するわけでもないし、目指すな、なんて言わない。でも、勝手に一人で死ぬなんて私が許さないわ! 自分が死んでいいなんて思わないで! 貴方の命は貴方だけのものではないのよ! 決して最後まで生きることを諦めないで!!」

 

翔に指を突き付けて、リアスはそう宣言した。

息継ぎなしで言い続けたため、言い終えた後は、はぁ・・・はぁ・・・と肩で息をしている。

突然のリアスの言葉に、翔は呆けた表情を浮かべていたが、すぐに呆れと苦笑いが混じったような表情で肩を竦めた。

 

「・・・やれやれ、どうやら俺の主はとんでもなく我が儘なようだな。

ああ、了解したよ、リアス。お前から・・・いや、お前達の前から勝手に消えたりしないさ。この命ある限り、精一杯生きてやるさ」

 

そう告げた翔に、リアスは満足げに頷いた。

すると、今まで優しげな眼差しを翔達に向けていたサーゼクスが、真剣な表情を浮かべてアザゼルに問いかけた。

 

「私からも一つ。―――アザゼル、何故、神器(セイクリッド・ギア)を集めていた? 戦争を起こす気がないならどうして?」

 

「ああ、戦争は起こす気はねえ。ただ蓄えていたんだ・・・力をな」

 

「力を蓄える? それこそ戦争を起こすためじゃないのか?」

 

アザゼルの言葉にサーゼクスを始め、多くの者達が怪訝な表情を浮かべる。

そんな彼らにアザゼルは、苦笑いをしながらも言葉を続けた。

 

「まぁ聞けって、サーゼクス。確かに俺は神器(セイクリッド・ギア)を集めていた。それはさっきも言ったが趣味の一環でもある。それともう一つ―――ある存在達を危惧してだ」

 

アザゼルの言葉に翔は予想できていた。

以前、それとなく忠告されたからだ。

 

『お前と言う存在を狙っている輩がいるかもしれねぇぞ?』

 

と・・・。最初は三大視力以外の神話勢力達のことを言っていると思っていた翔であったが、どこか腑に落ちなかった。

確かにそれもあるだろうが、当時のアザゼルは翔が並行世界から来た人間だとは知らないはずだ。

ならば、翔が他の勢力から狙われる可能性があるとは考えづらい・・・。ならば何故?

翔が会談が始まる前に考えていた可能性。それは―――

 

「―――テロリスト」

 

『ッ!?』

 

翔の呟きに誰もが目を見開いて驚愕を示す。

アザゼルも一瞬は驚いたが、すぐにニヤリと不敵な笑みを浮かべて翔を見る。

 

「赤龍帝は誰よりも先に辿り着いたようだな。・・・ああ、テロリストどもだ。

このことは俺達、堕天使サイドも少し前に露見した事実なんだが・・・・・・特にその組織のトップがヤバいなんてものじゃない。

マジで世界を滅ぼせるくらいの奴だ。そいつらに対抗するためにも、今は俺達は争うべきじゃねぇ・・・」

 

「まさかそんな事情があるとは思いもしませんでした」

 

「アザゼル、君が危惧するほどの組織・・・。そんな組織が秘密裏に結成していたとは・・・」

 

サーゼクスとミカエルは戦慄したように呟く。

それはそうだろう。アザゼルが警戒するほどの組織が秘密裏に結成されていたのだ。

 

「その組織は、三大勢力の危険分子どもを集めているようでな。

禁手(バランス・ブレイカー)にも至っている神器(セイクリッド・ギア)所有者もいて、その中には『神滅具(ロンギヌス)』も含まれているそうだ」

 

「それは随分と危険な組織ですね・・・。その者達の目的は?」

 

「破壊と混乱。単純明快だろ? この平和な世界が気に食わねぇ―――テロリストだ。

しかも最大級に性質(たち)が悪い。組織の(かしら)は『赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)』と『白い龍(バニシング・ドラゴン)』より強大で凶悪なドラゴンだよ」

 

『―――ッ!?』

 

アザゼルの言葉に翔とヴァーリを除いた全員が絶句する。

 

ドライグやアルビオンより強いドラゴンって、オーフィスかグレートレッド以外にいるのか?

 

『いいや、俺ら天龍クラスのドラゴンなんぞ、その二匹以外いない』

 

ってことは、オーフィスだな、その組織のトップってのは・・・

ライザーと一件以来会っていなかったが、あいつはそんなことをしていたとはな

 

『ああ、恐らくそのテロリストどもにグレートレッドを倒してやるとでも言われて、力を貸しているのだろうな。あいつは無限の体現者。自身の力の極一部を他者に貸したところで本人はさして問題はない』

 

なるほどな・・・、そこまでして静寂を得たいのか、あいつは・・・

 

翔は少し寂しそうに思う。

 

翔とドライグが内心で話していると、サーゼクスが険しい表情で呟く。

 

「・・・そうか。彼が動いたのか『無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)』―――オーフィス。

神をも恐れたドラゴン。この世界が生まれたときから最強の座に君臨し続ける存在」

 

その言葉に全員が戦慄した表情を浮かべる。

 

「・・・・・・それでその組織の名は?」

 

ミカエルは険しい表情のままアザゼルに問いかける。

 

「ああ。その組織の名は―――」

 

アザゼルが組織の名を言おうと口を開いた瞬間―――

 

「ッ!? やられた!?」

 

舌打ちをして、翔は立ち上がった。

そして、旧校舎がある方向へ龍のような鋭い視線を向けた。

翔は複数の気配が旧校舎に出現したことを感じ取ったのだ。

 

突然の行動に誰もが驚き、訳が分からないといった表情を浮かべた。

・・・いや、唯一ヴァーリだけは純粋に驚愕していた。

何故、分かったのかと言いたげな表情を浮かべて・・・。

それに一瞬視線を向けた翔であったが、すぐに視線を旧校舎へと向けて、一言呟いた。

 

「悪い・・・、ギャスパー」

 

すると目に見えない波動が、翔達に襲い掛かった。

そして一瞬、視界の全てがモノクロへと変り果てる。

 

 

 


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