ハイスクールD×D ~正義の味方を目指す者~   作:satokun

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第25話 後輩はヴァンパイア

 

授業参観に愉快な魔王二人が来訪した翌日の放課後。

翔達は旧校舎一階にある通称『開かずの教室』と呼ばれていた部屋の扉の前に立っていた。

リアスの話では、この部屋の中にもうもう一人の《僧侶》がいるらしい。

眷属では新参の部類に入る翔とアーシア、ゼノヴィアにとっては今まで話に聞いていただけで謎になっていた存在である。この三人以外の者達は《僧侶》とは面識がある。

 

翔達が聞いた話によると、その能力が危険視され、リアスの能力では扱いきれないからと言う理由で封印をするように上層部から言われていたらしい。

だが、フェニックス家との一戦とコカビエルとの一戦で高評価を得たリアスは、今ならば《僧侶》を扱える判断され、解禁が許されたのだ。

 

扉には『KEEP OUT!!』のテープが何重にも張られてあり、扉には呪術的な刻印も刻まれていた。

 

「随分と厳重だな・・・、それだけ危険視されたってことか」

 

「ええ、宿っている力が宿主が制御できないほど強すぎるため危険視されているのよ。一日中ここに住んでいるの。一応、深夜には術が解けて旧校舎内だけなら部屋から出ても良いのだけれど、中にいる子自身がそれを拒否しているの」

 

「つまり引き篭もり?」

 

「簡単に言いますとそうなりますわ」

 

「でも、パソコンを介して人間と契約を執り行っていて、一番の稼ぎ頭なんだよ」

 

翔の言葉に朱乃が頷き、祐斗が苦笑しながらフォローの言葉を付け足す。

 

「・・・正直言えば、ライザーとのゲームやコカビエルとの戦闘は、翔がいたから乗り越えられただけで、私の力なんて大したことはないのだろうけどね」

 

「そう自虐するな。成長ってのは急激に起こる場合もあれば、地道なものもある。故に気づかないだけだ。お前はちゃんと成長しているさ。だから、胸をはれ。《王》のお前がそんな顔してたら、引き篭ってる《僧侶》が不安になるだろ?」

 

今回の件を納得できていないリアスは自嘲したように呟くが、それを翔が制する。

そして、暗くなっている心をなくすかのように、リアスの頭を優しく撫でる。

 

「ありがとう。・・・そうね、せっかくこの子が自由になったんだから喜ばないと・・・。さて、開けるから少し待ってなさい」

 

リアスが扉に手を翳すと、次々と封印が解除されて、扉を開いた瞬間―――

 

「嫌ぁぁぁああああああああっ!!!」

 

「ッ!? 何の悲鳴だ? 何かあったのか!?」

 

中から耳を破壊するような絶叫が発せられた。

それに驚いた翔は、何かあったのではないかと思い部屋に突貫しようとするが、それをリアスと朱乃が制止させる。

 

「ちょっと、情緒不安定なのよ。多分、いきなり封印が解けたから驚いているだけでしょ」

 

「うふふ、ここは私達にお任せください」

 

そう言って、二人は部屋へと入っていく。

 

『ごきげんよう。元気そうで良かったわ』

 

『な、な、何事なんですかぁぁぁぁ?』

 

『あらあら、封印が解けたのですよ?もうお外に出られますわ。さぁ、私達と一緒に出ましょう?』

 

『嫌です!ここが良いです!外に行きたくない!人に会いたくないっ!』

 

「これは酷過ぎないか・・・?」

 

朱乃の優しい声にも拒絶の声が返ってくるだけ。最早、重症の域を超えている引き篭もりだ。

中の様子も気になった翔は部屋の中に入っていく。

カーテンが閉め切られたカーテンは薄暗い。

しかし、中は意外にも清潔で、ぬいぐるみが置いてあるなどの可愛らしさもあった。

ただ、その中でも異質を放つものが一つ・・・。

 

「棺桶? 西洋式・・・ではなさそうだが」

 

翔に続いて入ってきたゼノヴィアが部屋の隅にある、凝った装飾が施された漆黒の棺桶を見て感想を漏らす。更に部屋に踏み入ると、リアス達の姿が見えた。さらにその奥の部屋の角に金髪、赤目の美少女?がいた。

だが、《僧侶》を見た瞬間、翔は怪訝な表情をする。

 

「リアス、こいつが?」

 

翔が訊ねると、リアスは小さく頷く。

リアスの眷属、もう一人の《僧侶》は部屋の角でプルプルと震えている。

 

「それで女装しているのは、何か意味でもあるのか?」

 

「よくこの子が男ってわかったわね?」

 

「見ればわかるだろう? 体の線は細いが骨格が女性のとは違う」

 

「本当に翔くんは、何でも知っていますのね」

 

初対面で《僧侶》の性別を見破った翔に、リアスと朱のは驚きを示すが、翔だからと思いすぐに表情を戻す。

 

「この子の女装は趣味よ」

 

「そうか・・・」

 

リアスの言葉に翔は頷くことしかできなかった。

すると―――

 

「と、ところでそちらの方達は誰なんですか?」

 

金髪の女装趣味の《僧侶》は、翔とゼノヴィア、そして部屋の中に入ってきたアーシアを指差す。

 

「貴方がここにいる間に増えた新しい眷属よ。《兵士》の御剣翔、《騎士》のゼノヴィア。それと貴方と同じ駒の《僧侶》のアーシアよ」

 

挨拶しなさい、とリアスに言われるが美少女はたくさん人が増えてるぅ!と怖がるだけだった。

翔とゼノヴィアは困ったような表情を浮かべ、同じ駒であるアーシアは怖がられた事で若干涙目になっていた。

 

「お願いだから一緒に外に出ましょう。貴方はもう封印されなくて良いのよ?」

 

「嫌です! 僕に外の世界なんて無理です!! どうせ、僕が外に出ていったって人様に迷惑をかけるだけだよぉ!!」

 

リアスの優しい声音にも泣き叫んで駄々をこねる始末。

翔は内心で溜め息を吐きながら、その《僧侶》に近づく。

 

「ほら、大丈夫だ」

 

翔は普段より穏やかに、そして安心させるような雰囲気を放ちながら近づき《僧侶》の頭を撫でる。優しく安心させるように・・・。

 

「ほへぇ・・・」

 

《僧侶》は触れられたときは一瞬ビクッ!?となるも段々と緊張が解けてゆき、最後には気持ちよさそうに目を細めてされるがまま状態になる。

 

「お、驚いたわ。初対面で興奮させずにこの子に触れるなんて。・・・流石は翔って言ったところかしら?」

 

「本当に翔くんはすごいですわね」

 

《僧侶》のことを撫でている翔を見ながら、リアスと朱乃は若干羨ましそうにしながらも、驚きで目を見開いて驚いている。

 

「それで、こいつの名前は?」

 

「この子の名前は、ギャスパー・ヴラディ。転生前は人間と吸血鬼(ヴァンパイア)のハーフだったの。

そして、封印されていた理由は、その身に宿す神器(セイクリッド・ギア)が理由よ。興奮したりすると、その力が暴走するから危険視されていたのよ」

 

「暴走すると、どうな―――」

 

「何だ? 大丈夫そうじゃないか」

 

翔の言葉を遮って、ゼノヴィアが《僧侶》に近づこうとした。

 

「ひぃ!?」

 

次の瞬間、何かしらの力の波動が翔達を襲った。

 

「・・・時を、停めたのか?」

 

「えぇぇぇええええっ!? 何で貴方は動けるんですかぁあ!?」

 

余程のことでは動じない翔でも流石に驚きを示し、呆然としたように呟く。

世界がモノクロになったかと思えば、それは一瞬で何もなかったかのように感じられる。まるで何事もないように感じられるのだが、部屋にあるカーテンは風に靡いたまま動きを停められている。

世界が停まったかのような錯覚まで覚えるほど、周りが停まっているのだ。動けているのは、この現象を起こしているギャスパーと翔の二人だけだ。

 

「おそらく、俺とお前とでは実力に差があるからだろう、それと赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を宿しているという理由もあるかもしれないな。ま、兎に角俺には効かないようだ」

 

「僕の力が、効かないんですか・・・?」

 

すると、翔の目の前にいるギャスパーは目を見開いて信じられないような顔をして驚いていた。

翔以外の眷属は確かに停まって動けなくなっている。

 

「お前の神器(セイクリッド・ギア)は時を停めることができるのか。・・・確かに強力で、危ういな。ちゃんと制御できなければ、全ての存在の時を停め、命そのものを停止させることも出来るだろう」

 

翔の言葉にギャスパーは顔俯かせて、静かに泣き始める。

 

「僕は、こんな力なんかいらない・・・」

 

「怖いのか? 自身の力が?内に眠る強大な力が?」

 

「・・・僕の力は人を傷つけてるだけです! だから僕は・・・!!」

 

ギャスパーは小さな体を震わせて泣きながらそう叫ぶ。

床には零れた涙が、落ちていく。

それを見て翔は―――

 

「よく頑張ったな」

 

「え・・・?」

 

優しく抱きしめて、頭を撫でた。

 

「今まで、その力故にたくさん苦しんできたのだろう、たくさん涙を流したのだろう。誰かと共にいれば、その誰かを傷つけてしまう。だから、お前は一人になることを選んだ。・・・だけどな、もうお前は一人じゃないだろ?」

 

引き篭もりと聞いて、多少の対人恐怖症であると思っていたが・・・・・・この怯え方は異常だ

こいつの反応を見るに、こいつは自身の力で停めてしまった者達に酷いことをされたのだろう、その力故に疎まれてきたのだろう・・・

 

「今のお前にはリアスがいる、グレモリー眷属がいる。誰もがお前を受け入れるさ。例え、お前がリアス達を停めたとしても、あいつ等はお前を嫌うこともないし、ましては殴ることもしない」

 

「でも、僕は力の制御なんて出来ないです! 今みたいにきっと、暴走させる! そのせいで周りを停めしまう! 友達も仲間も、全て・・・・・・。だから、こんな僕なんて消えちゃえば―――」

 

「俺がいるだろ?」

 

「え・・・?」

 

呆然と声を漏らすギャスパー。

 

「ほら、俺はお前の力なんて効かない。例え、お前に動きを停められたとしても怖くないし嫌ったりはしない。お前は一人ぼっちになんてさせるか」

 

「ぼ、僕は消えなくていいのでしょうか・・・?」

 

「ああ。消えたりなんてしたら、リアスが怒るぞ? あいつの怖さは知ってるだろ?」

 

「う、うわぁあああああああ!!」

 

翔の胸に顔を押し付けて泣き叫ぶギャスパー。

初めて自分を真正面から受け入れてくれた存在に、ギャスパーは喜び、そして泣いたのだ。

翔が泣き叫ぶギャスパーの頭を撫でていると、効果が切れたようで停まっていたリアス達が動き出した。

 

「ギャスパー、貴方はまた力を暴走させ―――これはどういう状況かしら?」

 

停められて、翔とギャスパーの状況を知らないリアスは翔に問いかけた。

 

ギャスパーが落ち着きを取り戻したところで、場所を何時もの部室に変え、翔はリアス達が停まっていた時の事情を説明した。

 

「そう、翔だけは動けたのね。もう貴方だから驚きもしないわ。改めて紹介するわね。私のもう一人の《僧侶》であるギャスパー・ブラウディ。宿しているは神器(セイクリッド・ギア)停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)。視界に映った全ての物体の時間を、一定時間停止させるのよ」

 

バロール・・・確かケルト神話に登場するフォモール族の魔神の名だったな

その名を冠する神器(セイクリッド・ギア)か・・・

 

内心でギャスパーの神器(セイクリッド・ギア)のことについて考える翔であったが、考えても仕方がないか、と思い疑問に思った点をリアスに問いかける。

 

「明らかに駒一つで足りない潜在能力だが?」

 

「眷属にできた理由は。ある特殊な駒を使ったからね。『変異の駒(ミューテーション・ピース)』と呼ばれる、一つの駒で数個分の駒と同じ価値があるのよ」

 

「なるほどな・・・」

 

ギャスパーの才能は眷族の中で、朱乃に次いで高いらしく。

無意識の内に神器(セイクリッド・ギア)の力が高まっていき、将来的には禁手に至るとさえ言われている。

さらに由緒正しき吸血鬼の血を引いている上に人間としての部分もあるので人間の魔術も使え、『デイウォーカー』という特殊な吸血鬼の血を引いてているため弱点である太陽も平気で日中に活動できるのだが、本に曰く、太陽や光は苦手ではないが、嫌いであるとのことだ。

 

「す、凄いんですね、ギャスパーさんって」

 

「だな。・・・ただ、引き篭もり症と対人恐怖症が重なって、物の見事にプラマイゼロになってるぞ」

 

リアスがギャスパーのことについた一通り話す。

聞いたアーシアは感心したように言い、その隣ではゼノヴィアが辛辣な感想を漏らしていた。

すると翔が吸血鬼特有の衝動について訊く。

 

「そう言えば、吸血とかはどうしているんだ? 半分とは言え吸血鬼なんだ、吸血衝動があるだろ?」

 

「ハーフだからそこまで飢えている訳じゃないのよ。十日に一度、輸血パックから補給すれば事足りるの」

 

それに・・・、と言葉を詰まらせながらリアスは何とも言えない表情を浮かべながら、本人であるギャスパーを見る。

 

「血なんて嫌いです! 生臭いのも嫌ぁ!! レバーもらめぇええ!!」

 

もう輸血パックから補給すれば事足りるという以前の話だ。

 

「へたれだな」

 

「・・・通称、へたれヴァンパイア」

 

ゼノヴィア、小猫が容赦なく言い放つ。

 

「二人が虐めるよぉおおお!!」

 

そう言って、翔に泣きつく。

ちなみに今までの会話をしている時もギャスパーはずっと翔の制服の一部を握りながら後ろに隠れていた。

 

「随分と懐かれたようだね、翔くんは」

 

「そうみたいだな」

 

苦笑しながらそう言う祐斗に、翔もまた苦笑で返す。

別に懐かれるのは構わないが、ここまで懐かれるとは思ってもみなかったのだ。

 

「・・・ねぇ、翔。貴方は停まっている間にギャスパーに何て言ったのかしら?」

 

「ええ、気になりますわ」

 

「別に大したことは言ってないんだが・・・」

 

翔にとっては普通だったのだが、ギャスパーにとっては違ったのだ。

 

「い、いえ、大したことじゃないです。あんなに優しく抱きしめてくれて貰ったのは久しぶりで・・・。それに全てを包み込んでくれるんじゃないかって、思うほど翔先輩は温かったです」

 

「俺って温かいのか?」

 

「はい! 翔さんはとても温かいと思います!」

 

「確かに、翔は全てを受け入れてくれるんじゃないかと思うな」

 

「・・・・・・翔先輩といると落ち着くのは確かです」

 

翔の疑問にアーシアとゼノヴィア、小猫が順に答える。

そういうものか?と考えている翔に対して、リアスと朱乃は狼狽えていた。

 

「ど、どうしよう!? まさか、翔にそっちの気が・・・!?」

 

「リアスや私の誘惑に反応しないのも納得しますね」

 

「ちょっと、朱乃!何で貴方が翔のことを誘惑してるのよ!?」

 

「あら、口が滑りましたわ」

 

「詳しく説明なさい! 翔は私のものよ!」

 

何故か途中で前にも似たような光景になる二人。

それを見た翔は溜め息を吐いてから、二人にデコピンを繰り出して、その場を治める。

ちなみに、そっちの気など持ち合わせていない。と翔自身が二人に告げたため、変な誤解はなくなったが、逆に今度はどのような女性が好みなのかと質問攻めにあって大変な目にあったのだが・・・。

 

しつこく訊いてくるリアスと朱乃を相手にしていた翔は、途中で周りに助けを求めようとしたが、アーシアとゼノヴィアは興味津々といった表情で翔達のやり取りを見ており、その他の祐斗やギャスパー、小猫の三人も気になった様子で見ていたため、助けはないと悟り、翔はリアスと朱乃に先ほど以上の威力のデコピンを放ち、物理的に鎮圧させた。

 

その後、落ち着きを取り戻したリアスは三竦みの会談のことで色々とやらなければいけないことがる、と告げて朱乃を伴って部室に備え付けらている転移用の魔方陣に乗る。

その際に祐斗もサーゼクスから聖魔剣について訊かれるらしく、二人と一緒にサーゼクスがいる冥界に転移していった。

残ったのは翔とアーシア、ゼノヴィア、小猫、ギャスパーの五人だ。

 

ギラリ、とゼノヴィア、小猫の目が輝く。二人の視線が突き刺さり、ギャスパーは鋭く息を呑み込む。

 

「さてと、このままでは眷属云々以前の問題だ。何、心配するな。小さい頃から相対してきたから吸血鬼の扱いには慣れている」

 

そう言うゼノヴィアに対して、それは狩る側でだろ?と翔が告げるのだが、彼女はその言葉を無視した。

 

「・・・・・・ギャーくん、いい加減外に出れるようにならなきゃ駄目」

 

「ひぃぃいいいいいいいいいいいっ!!」

 

ギャスパーの悲痛な悲鳴が響く。

 

「ほら走れ。デイウォーカーなら日中、外に出ても何ら問題ないだろ」

 

「・・・・・・ギャーくん。ニンニクを食べれば健康になれる」

 

「嫌ぁああああ! 助けてぇえええ、翔先輩ぃいいいいいいいいいっ!!」

 

翔達は場所を移し旧校舎付近にいた。

そして、ギャスパーに助けを求められた翔は持参していたお茶を啜りながら一言。

 

「平和だな・・・」

 

「どこがですか!?」

 

のんびりとした雰囲気の翔にアーシアの鋭いツッコミが炸裂する。

二人の眼前では聖なるオーラを放ちながら輝いているデュランダルを振り回すゼノヴィアと両手にニンニクを握った小猫。そしてガチ泣きしているギャスパーが二人に追い掛けられていた。

身の丈ほどもある大剣を片腕で振り回すゼノヴィアもシュールだが、両手ニンニクの小猫は更にその上をいっている。

 

『健全な精神は健全な肉体に宿る』

 

事の発端はゼノヴィアのこの発言から始まる。

早い話が、あんな旧校舎の一室に閉じ篭っていたら精神が腐っちまう、少しでも運動して健康的に過ごそうぜ!ということだ。

 

精神を鍛えるために身体を鍛えるのには賛成だが・・・ゼノヴィアだと、ギャスパーが滅せられるな

 

そんなことを思いながら翔は特訓風景を眺めていた。

 

「ふ、二人を止めましょう翔さん! このままじゃギャスパーさんの体力が尽きる前に精神力と存在が擦り切れちゃいます!!」

 

「ま、そろそろ傍観するのもやめるか。それに見物客もきたからな」

 

「随分楽しそうだな」

 

翔が視線を向けた先から、生徒会であり、ソーナの《兵士》である匙が姿を見せた。

 

「ちょっと会長から解放された眷属がいるって聞いたから、休憩がてら見に来たってわけだ」

 

「耳が早いな」

 

あいつだ、と翔はギャスパーを指差す。

おお、あの子か!と頷いた匙は指を指された方を見ると、豪快にデュランダルをぶん回すゼノヴィアに目を点にさせた。

 

「おいおい。伝説の聖剣をあんな豪快に振り回して大丈夫なのか?」

 

ただでさえ、ゼノヴィアはパワー重視。テクニックなどは必要ない、と豪語するような彼女が、あれだけ暴君のデュランダルを振りまわしていれば、勢い余ってギャスパーを滅する可能性も少なくはない、と考えてしまうのも仕方はないだろう。

 

「いくらゼノヴィアが力のコントロールが上手く出来ないからって、そこら辺のことはキチンと考えてるだろう・・・。それに―――疾ッ!」

 

言葉を途中で止めて、翔は懐からある物を取り出す。

刀身のない柄・・・黒鍵だ。黒鍵に刀身を生じさせて、それをゼノヴィアの方へと投擲する。

すると、勢いよく振りまわしていたデュランダルに衝突し、鉄甲作用という技法でもって、デュランダルをゼノヴィアの手から吹き飛ばす。

 

「危なくなったら、何時でも強制的に止めることが出来るようにしているからな。

ゼノヴィア! ギャスパーを鍛えるのもいいが、まず自分の相棒くらい使いこなせて見せろ!」

 

「うっ!・・・すまない」

 

翔に叱られるゼノヴィアは、気まずそうに視線をずらす。

その光景を眺めていた匙は一言漏らす。

 

「相変わらず、御剣はすげぇな」

 

「そうでもないさ。改めて紹介するが、あいつが俺達のもう一人の《僧侶》であるギャスパー・ブラウディだ」

 

「おお! 金髪の美少女!!」

 

「ひぃ!!」

 

興奮したように叫ぶ匙に、ギャスパーは怯えたように翔の後ろに隠れてしまう。

その動きが匙をますます興奮させるのだが、翔はそんな匙に現実を教える。

 

「喜んでいるところ悪いが、こいつは男だからな」

 

「・・・・・・そんな真実知りたくなかった。世界ってのは残酷だな」

 

「真実ってのは得てしても優しくないものさ。・・・ためになっただろ?」

 

四つん這いになって落ち込む匙に、翔は以前言われた言葉を送る。

 

「それで、お前は何時まで隠れてるんだ?」

 

「・・・やっぱりお前の気配察知は凄まじいな。よく俺がいるってわかったな」

 

翔が唐突の問いかけに、アーシア達は首を傾げるが、翔の言葉を返す者がいた。

少し離れた茂みから姿を現す、浴衣姿の男。

 

「数日ぶりだな、アザゼル」

 

「そうだな。最近呼べなくて悪いな、少し忙しくて・・・。ひと段落したら、また相手してくれよ。それにしても普通は警戒とかすんだろ?」

 

流石のアザゼルも呆れが混じったように問いかける。

普通は悪魔の管理している学園に、敵対する組織の総大将がきたのだ。警戒する方が普通だ。

 

「敵意のない奴を警戒する必要はないさ。それにサーゼクスさんが言ってたんだよ。お前は戦争好きじゃなくて、ただ神器(セイクリッド・ギア)所有者を集めているだけだ、とな・・・。俺もお前と同じ思いだから。ここで事を荒らげる必要もないだろ。ただし―――お前がコカビエルの奴と同じように戦争を始めようとするんだったら、それ相応の対応はするがな」

 

殺気を籠めた龍のような鋭い眼をアザゼルに向ける。

 

「お、おう・・・(俺が冷や汗を掻くなんて、こいつどんな経験をしてきたんだ?)」

 

内心そんなことを思うアザゼルに周りのアーシア達は、へぇ~、アザゼルか~とまじまじとアザゼルを見る。そして―――

 

『アザゼルぅぅぅぅううううっ!?』

 

見事なハモりだった。

いきなり目の前に堕天使総督なんて大物が出てきたら誰だってそうなるだろう。

寧ろ、いくら面識があるとはいえ、何時も通りの翔が異常だ。

ゼノヴィアがデュランダルを構えながらアーシアを護るように前に出る。

小猫と匙も何時、戦闘になってもいいように構えていた。

ギャスパーは相変わらず、翔の背後に隠れている。

 

「んな凄むなよ。別にこっちに戦闘の意思はねぇっての。というか、赤龍帝ならともかく、お前等じゃ束になっても俺に勝てないって何となく分かってるだろ? ここには散歩で来たんだよ。ところで―――」

 

「聖魔剣ならここにはいないぞ。そんなに見たければサーゼクスさんの居る冥界まで足を運ぶことだな」

 

アザゼルの疑問に先回りして翔は答えた。

翔の返答を聞いて、アザゼルは露骨に落胆の表情を作る。

 

「そうかよ。はぁ・・・わざわざここまで来たっていうのに無駄足かよ。サーゼクスもタイミングの悪ぃな・・・。しっかし―――」

 

そこでアザゼルは視線を翔、それから匙へと向けた。その瞳に敵意や殺意といったものは映っていなかったが、匙は一歩後退り、翔は特に気にした様子もない。

 

赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)黒い龍脈(アブソープション・ライン)か。いいねぇ、やっぱりドラゴン系の神器(セイクリッド・ギア)は面白い。宿主の感情次第で様々な姿に変化していく。

・・・まぁ、聖魔剣使いがいねぇんじゃしょうがねぇ、出直すか。ああ、それと赤龍帝の後ろに隠れている吸血鬼」

 

くるりと踵を返そうとしたアザゼルは、翔の後ろにいるギャスパーに話しかける。

 

「お前の停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)。そいつはキチンと制御できてねぇと害悪になる代物だぜ? 五感から発動する神器(セイクリッド・ギア)は持ち主のキャパシティが足りてないと勝手に発動、最悪暴走するから危ないんだよ」

 

サーゼクスから神器(セイクリッド・ギア)に強い興味を持っているという言葉は伊達ではなかった。知らない事をつらつらと喋るアザゼルにアーシア達は目を丸くする。翔は、ほう・・・と感心する。

 

「何だよ、お前等はそんなことも知らねぇのか?・・・って、悪魔側はそこまで神器(セイクリッド・ギア)の研究が進んで無いんだっけか。・・・おい、そこの」

 

「いっ、俺!?」

 

いきなりアザゼルに指差され、匙は変な声を上げてしまう。

匙の驚きを無視し、アザゼルは言葉を続ける。

 

「お前の黒い龍脈(アブソープション・ライン)を吸血鬼に接続してみろ。そうして余計な力を吸い取りながら発動させれば、暴走する危険性は減るぜ?」

 

「そ、そんなこと出来るのか、俺の神器(セイクリッド・ギア)って?」

 

「何打知らなかったのか?自分の宿してるもんを理解しろ。お前の神器(セイクリッド・ギア)には五大龍王の一角、『黒邪の龍王(プリズン・ドラゴン)』ヴリトラが封じられてるんだぜ?今のお前のスペックじゃ精々ライン一本が限度だろうが、お前が成長すればどんどん進化していくぜ、そいつは」

 

だからこそ、ドラゴン系神器(セイクリッド・ギア)は面白いんだよな~と語るアザゼルは神器(セイクリッド・ギア)の研究者としての一面を見せた。

 

「あ、そうだ。もっと手っ取り早い方法があるぞ。赤龍帝の血を飲むことだ」

 

「俺の血か・・・」

 

「吸血鬼を強くするには血を飲ませるのが一番だからな。ま、練習するなら俺の言った方法でやってみろ。すぐにとは言わないが、継続していけばそれなりに成果は出るはずだぜ?」

 

んじゃな、と今度こそアザゼルは学園の敷地外へと歩いていく。

アザゼルの姿が見えなくなると場の緊張が解け、ゼノヴィア達はやっと肩の力を緩めた。元々、緩めていた翔は関係ないのだが・・・。もっとも翔は何時アザゼルが動いても対応できるように自然体で構えていたのだ。

もしアザゼルがあれ以上、ゼノヴィア達に近づいていれば、即座に翔は動いただろう。

だがら、アザゼルはあれ以上は近づかずに、すぐ離れていったのだ。

 

「なるほどな・・・。意識が集中していたり、精神が安定している状態ならば、ある程度のコントロールが出来るようだな・・・」

 

翔は空中に停まっているボールを見ながらそう呟く、

 

時刻は夜。

現在は体育館でギャスパーの特訓の続きを行っていた。

アザゼルのアドバイス通り、ギャスパーに匙の神器(セイクリッド・ギア)である黒い龍脈(アブソープション・ライン)を接続させて、ギャスパーの余分な力を吸い取りながらやっている。

その甲斐あってか、視界に入る全てを停めてしまっていたギャスパーであったが、段々とコントロールが出来ていき。特訓を始めて2時間ほど経つ頃には、翔が投げたボールだけを停めることが出来るようになっていた。

 

「だが、気を抜くとボールだけじゃなくて、私達まで止めてしまうぞ」

 

「そうだな・・・。そこはやって慣れるしかないだろ。俺やアーシアとは違って、ギャスパーのは体の一部である眼そのものが神器(セイクリッド・ギア)だから、より本人の精神や感覚が重要となるはずだ」

 

翔とゼノヴィアの二人がギャスパーについて分析している間。話の話題であるギャスパーは小猫とアーシアに両腕を掴まれて動きを封じられている。

 

ギャスパーは間違えて誰かを停止させてしまう度に叫びながら謝罪し、どこかへと逃げてしまうのだが、ギャスパーの体には匙の黒い龍脈(アブソープション・ライン)が接続されているため、居場所がすぐに分かる上に、翔だけは停止されないので逃げ出す瞬間に捕まえ、アーシア達が動き出すまで頭を撫でて落ち着かせているという作業を何回も繰り返していた。

 

だが、何度も翔以外の者達を停止させるため今現在は泣きながら謝り続けているのだ。

逃げないように掴んでいるアーシアと小猫もどうしたらいいのか分からずに困った表情を浮かべている。

 

「二人ともギャスパーを離していいぞ」

 

「え? でも・・・」

 

「・・・・・・離したらギャーくんがまた逃げますよ」

 

翔の言葉に戸惑うアーシアと話したら面倒なことになると告げる小猫。

 

「大丈夫さ」

 

翔にそう言われ、二人はギャスパーを離す。

すると、離された瞬間、脱兎の如く逃げ出そうとするギャスパーを翔が捕まえる。

 

「ごめんなさい!ごめんなさい! お願いだからぶたないでぇぇぇえええ!!」

 

そう叫ぶギャスパーに対して翔は目線を合わせ、両手でギャスパーの顔を固定し自身の顔と見合わせる。

 

「ギャスパー・・・俺の目を見ろ」

 

「停めちゃってごめんなさ・・・・・・へ?」

 

怒るわけでも怒鳴るわけでもなく、静かな声音にギャスパーは言われたとおり、翔の目を見た。視線を合わせたギャスパーを見て、翔はギャスパーの目尻に浮かんでいる涙を親指で拭い取りながら黒い瞳で赤い双眸を覗き込む。

 

「ギャスパー、よく聞けよ。お前が勝手に停止させても、俺はお前を怒らないし、ぶつこともしない。自身の力が強大故に制御出来ないことなどよくある話だ」

 

だがな・・・と言葉を続ける。

 

「それから逃げるな、何も恐れるなとは言わない・・・。いや、むしろ強大な力故に恐れるのは当たり前だ。だが、自身の力からだけは目を背けるな。それは、お前の力でお前自身でもあるんだ。例え、今すぐに制御が出来なくても、諦めるな。そしたら、絶対に使えるようになる」

 

「・・・・・・本当にそうですか?」

 

翔が語りかけた後に、顔を俯かせながら不安な声色で翔に尋ねる。

そう言うギャスパーに翔は微笑みながら優しく、そして安心させるように頭を撫でながら言う。

 

「努力は決して裏切らないって言わない。でもさ、自分がやった努力くらいは信じれるだろ? 今日俺達と一緒にやった特訓は決して無駄じゃないと信じられるだろ?・・・だから、一緒に頑張って行こう、ギャスパー」

 

そう言って、翔は少し乱暴に頭を撫でる。まるで出来の悪い弟を慰めるように・・・。

 

「ッ!?・・・・・・はい!!」

 

翔の言葉に泣きそうになる表情を浮かべたギャスパーだったが、一度顔を俯かせて次に顔を上げた時には満面の笑顔で頷いたのであった。

 

「翔は息を吐くように口説いていくな・・・。いや、あれが普段通りなのだろうが・・・」

 

「色々と複雑です・・・。でも、ギャスパーさんもやる気になって良かったですよね!」

 

「・・・・・・翔先輩の言葉は不思議とやる気になりますからね」

 

「御剣には本当に憧れるな!」

 

ゼノヴィアとアーシアに二人は翔とギャスパーのやり取りを見て、少々複雑な表情を浮かべるが、ギャスパーがやる気になったことには喜びを表し、小猫は無表情で言っているが、その視線は若干羨ましそうに撫でられているギャスパーを見ていた。

匙は尊敬の眼差しを翔に向けていた。

 

翔達が特訓を再開してから一時間ほど経った頃に、リアスが様子を見に来たので、休憩することとなった。

そして、リアスが作ってきてくれたサンドイッチとお握りを食べながら、一応アザゼルが来たことを話していた。

 

「そう、アザゼルが・・・」

 

「目的は祐斗の聖魔剣だったな。それで―――」

 

「去り際にギャスパーに停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)についての助言をしてきたと・・・。アザゼルは神器(セイクリッド・ギア)に関する知識が深いという噂は本当だったようね。・・・悪魔側に助言を与える余裕があるほど研究が進んでるのかしら?」

 

「それもあるだろうが、あいつの場合はただのお節介に近いな。お人好しそうだしな」

 

「・・・アザゼルも翔だけには言われたくない言葉よね」

 

リアスの言葉に翔を除く全員が頷く。

解せんな・・・、と遺憾な表情を浮かべる翔に、リアスは話を逸らすように特訓の成果について問いかける。

 

「そ、それであれからどうかしら?」

 

「そこそこはコントロールが出来始めているぞ。後は失敗しても謝るだけで逃げなくはなったな」

 

「本当に? 凄い進歩ね」

 

翔の言葉にリアスは目を見開いて驚きを示したが、すぐに優しい微笑みを浮かべてギャスパーに視線を向けた。

 

「んじゃ、リアス先輩も戻ってきたことだし、俺は生徒会に戻るわ」

 

サンドイッチとお握りをそれぞれ一個食べてから匙は立ち上がった。

 

「色々助かった」

 

「ありがとうね、匙くん」

 

「いや、リアス先輩達にはコカビエルの時、会長の大切な学園を護ってくれた恩があるから、これくらいはして当然ですよ」

 

礼を言う翔達に匙は少し照れたように頬を指で掻きながらそう言う。

 

「御剣、後は頑張れや。俺に手伝えることが遠慮なくいってくれ。何時も俺もお前に助けられているからな」

 

「別にあれくらいのこと気にすることもないんだが・・・」

 

「お前にとってはそうでも、俺達生徒会にとっては御剣がよく手伝ってくれて助かってんだ。それに一緒に鍛練させてもらってるしな。偶にはこっちも恩を返したいんだよ。人の恩は素直に受け取れよ」

 

「・・・わかったよ、その時はまたよろしく頼む。お前も頑張れよ。そっちこそ手伝えることがあったらまた言ってくれ」

 

じゃあな・・・、と言って匙はこの場から去っていく。

 

「さてと、ギャスパー。まだ行けるわね? 匙くんに力を吸い出されたから力もいい感じに調整出来てるでしょう、ここからは私も付き合うわ」

 

「は、はいぃ!、頑張りますぅ!!」

 

若干まだ肩で息をしてるが、それでもギャスパーは空元気を振り絞って立ち上がる。正直、ここまでいい反応が返ってくるとは予想していなかったので、リアスは若干面食らう。

 

「ねぇ、ギャスパーってば何があったの? 何時もなら『もう無理です、僕なんか特訓したって何にも出来ないんですぅぅぅ!!!』とか言って泣き出すと思ってたんだけど・・・」

 

「あれを見れば一目瞭然だと思うが?」

 

若干、不機嫌になりながらゼノヴィアはギャスパーを指差す。

リアスが視線を動かすと―――

 

「しょ、翔先輩ぃ、特訓頑張りましょう!」

 

「ん? 随分気合が入ってるな、ギャスパー。まぁ、やる気になって何よりだ」

 

「は、はい!」

 

翔に頭を撫でられて嬉しそうに頬を染めているギャスパーの姿が映った。

引き篭もりの上に対人恐怖症の駄目駄目な自分を励ましてくれて、真っ向正面から向き合ってくれる翔の姿に惹かれたのだろう、というのがゼノヴィアの見解である。

 

「またなのね・・・。でも、翔はそっちの気ないって。いや、彼相手ならば誰であろうと関係はないのかもしれないわね」

 

「男までとは・・・いくらなんでも節操が無さ過ぎるぞ」

 

「翔さん・・・」

 

深刻そうな表情で呟くリアスの隣ではゼノヴィアが額に手を当てて溜め息を吐いており、更にその後ろではアーシアは涙目で翔を軽く睨んでいる。

三者の予想通りな反応を見ながら小猫は一人呟く。

 

「・・・・・・しょうもない」

 

時刻は夜。

誰もが寝静まった時刻に翔とリアス、朱乃の三人は部室にいた。

すでに他の者達は帰っており、アーシアは一人で帰らせるのは危険だと思った翔は、ゼノヴィアと小猫の二人を共に帰らせた。その際に、ゼノヴィアと小猫の二人には翔の家に泊まってもいいと告げている。

三人は紅茶を飲みながら、ギャスパーについて話していた。

 

「ギャスパーの事をどう思う?」

 

「成長しただろうな・・・。力だけじゃなくて、その心も・・・」

 

翔の言葉にリアスと朱乃が頷く。

 

「体を鍛えたりするのは出来るんだが、神器(セイクリッド・ギア)になると心構えぐらいしか助言することが出来ないからな・・・。後は本人の努力次第だろう」

 

「でも、アーシアの話だと貴方はギャスパーに絶対に出来るようになるって言ったそうじゃない?」

 

「ああ、それは確かだと思うぞ?」

 

そう言う翔に、何の確信があってそう言えるのよ?って訊くリアス。

 

「今はギャスパー自身が自信が持ってないようだが、何かしらのきっかけがあればあいつは強くなるさ」

 

そう断言する。

 

神器(セイクリッド・ギア)はあいつの一部だ。どんなに捨ててたくとも、嫌っていても、拒んでいても・・・・・・それだけは変わらない。自身を受け入れないほど辛いことはない」

 

翔の言葉に朱乃は暗い顔を浮かべる。

朱乃も自身にも思う事があるのだろう。

それを見逃す翔ではないのだが、ここで問うことではないと判断し何も訊かなかった。

 

「ま、ギャスパーの話はこれくらいでいいでしょ」

 

話を逸らすリアス。

 

「翔には早めに伝えとこうと思って・・・・・・三大勢力の会談が行われる日が決まったわ」

 

真剣な表情を浮かべながら告げるリアス。

 

「何時なんだ?」

 

「明後日よ!」

 

「明後日? 普通に学校がある日に行われるんだな」

 

「いいえ、明日は臨時休校になって、他の一般生徒達が立ち入り出来ないようにされるわ。私達も会談に向けて色々と任されているわ」

 

「なるほどな・・・。それで俺が今日残された理由はそれだけじゃないだろ?」

 

「ええ。相変わらず、鋭いわね。貴方には明日行って欲しい場所があるのよ」

 

「行って欲しい場所・・・?」

 

リアスの言葉に翔が怪訝な表情を浮かべながら問い返すと、朱乃が近づいてきた。

 

「はい。翔くんには明日の放課後、来てほしい場所があるのですわ。そこで会談前にどうしても貴方に会いたいと仰られる方がいるのですわ」

 

「それくらい構わないが・・・。俺に会いたい人か、誰なんだ・・・?」

 

「うふふ、それは会ってからのお楽しみですわ」

 

翔の疑問に朱乃は悪戯を考えているような表情を浮かべてるだけ・・・。

 

「まぁいいさ。会えば分るんだろ? なら、朱乃の言うとおり楽しみにしておくさ。さてと・・・」

 

「あら、もう帰るのかしら?」

 

そう言って立ち上がる翔に、リアスは問いかける。

 

「いや、今日はギャスパーと一緒にいるって約束したからな。だから、気にせず帰ってくれ」

 

「それはそれは・・・、少しばかり気になりますわね」

 

「別に大したこともないさ。ただ、男同士で話し合うだけだよ」

 

朱乃の言葉に苦笑で返す。

おやすみ、と告げて翔は部室から出て行った。

 

「・・・・・・・・・情けないわね」

 

翔が部室から出て言って数分後、沈黙が続いていた部室で唐突にリアスが自虐するように呟いた。

 

「それはギャスパーくんのこと? それとも翔くんのこと?」

 

「どっちもよ」

 

朱乃の問いにリアスは静かに答える。

 

「きっと翔も地震について訊かれるかもしれないって予想はしてたいのでしょうけど、いざ彼と対面し訊こうとすると、どうしても躊躇ってしまう・・・・・・・・・本当に情けない」

 

自嘲的な笑みを浮かべて語るリアス。

 

「リアス・・・。今の私達じゃ、彼の足枷となるばかり、彼のことを知ったところで何も出来やしない。―――強くなりましょう。力だけじゃない、心も・・・」

 

決意が籠った声でそう告げる朱乃。

 

「そうね・・・」

 

リアスは朱乃の決意を見て、そう呟くだけだった。

 

翔、貴方に頼ってばかりでごめんなさい

私はきっと駄目な《王》なんでしょうね・・・

大切な下僕の傷を癒してあげられず、貴方に縋るばかりで・・・

私は貴方に何も返してあげられない、支えにもなってあげられない

でも、何時かきっと・・・貴方が言ってくれたように強くなる

貴方が誇れる自慢の《王》になってみせるわ

 

リアスもまた、朱乃と同様に胸の奥に決意の炎を灯すのであった。

 

 




投稿が遅れてしまいすみませんでした。
PCは修理はせず、新しいのを買うかどうか検討しているところなので、次の投稿も何時になるかわかりません。
楽しみにしてくださっている皆様には迷惑をおかけします。

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