ハイスクールD×D ~正義の味方を目指す者~   作:satokun

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第18話 聖剣破壊計画

時刻は深夜、町は暗闇と静かさが支配している。

そんな時刻に翔は1人、縁側に座って夜空を眺める。

 

「すでに目覚めているか・・・」

 

不意に一言漏らす。

すると、翔の左手の甲に緑色の宝玉が姿を現す。

 

『ああ、どうやら白い奴もすでに目覚めているようだな』

 

「ウェールズの象徴であり、国旗にも描かれているドラゴンはウェールズ語で『ドライグ』。

英語では『ウェルシュ・ドラゴン』とも呼ばれている存在・・・・・・それがお前だろ、ドライグ?」

 

『ああ、そうだな。では、すでに白い奴のことは分かっているのだろう?』

 

「ウェールズの象徴が『赤い龍』であるならば、サクソン人の象徴である『白い龍』が対となる存在・・・」

 

『『白い龍(バニシング・ドラゴン)』アルビオン。白龍皇と呼ばれているな』

 

「随分と大物のドラゴンに宿られたもんだな・・・。それにアーサー王伝説に関わりを持つドラゴンとはな・・・」

 

奇妙な運命に思わず苦笑を漏らしてしまう。

 

『ああ、相棒が以前言っていた『彼女』とは、アーサーのことを言っていたのか・・・』

 

「・・・・・・会ったことがあるのか?」

 

『当たり前だろ? これでもウェールズの守り神だぞ。ま、アーサー王自身には宿らなかったがな。

それにしても相棒があの()()と会っているとは思わなかったな・・・。いったいどうやって出会ったのだ?』

 

「・・・・・・色々あったんだよ、色々とな」

 

彼女との思い出を思い出すように、翔は瞳を閉じる。

 

「ところで、お前らはどうして神器なんかに封じ込まれたんだ?」

 

それから沈黙が続いていたが、翔は不意に閉じていた瞳を開き、ドライグに問いかける。

 

『ああ、それか・・・・・・神と天使、堕天使、悪魔、これらが大昔に戦争をしていたのは知っているな?』

 

「ああ、三大勢力の大戦だろ?」

 

『そのとき、いろんな存在もそれぞれの勢力に力を貸した。妖精、精霊、西洋の魔物、東洋の妖怪、人間。だが、ドラゴンだけがどの勢力にも手を貸さなかった』

 

「ああ、何となくわかる気がするな・・・」

 

『明確な理由は今ではわからない。しかしな、ドラゴンってのはどいつもこいつも力の塊で、どいつもこいつも自由気ままで我が儘だった。

なかには悪魔になったり、神に味方したりしたドラゴンもいたようだが、大半は戦争なぞ知らんぷりして好き勝手に生きていた』

 

「自由な種族なんだな・・・」

 

『まぁな。ところがな、三大勢力戦争の最中、大喧嘩を始めたバカなドラゴン二匹いた。

しかもそいつらときたら、ドラゴンのなかでも最強クラスで、それこそ、神や魔王に匹敵するほどの力を持っていた。

戦争なんて知るものかと、三大勢力の面々をぶっ飛ばしながら二匹だけでケンカをし始めたんだよ。傍から見たら、これほど邪魔な存在もなかっただろう。

真剣にこの世界の覇権をめぐる戦いをしているのに、そんなのお構いなしに戦場を乱しに乱したのだからな』

 

「喧嘩の理由は?」

 

『さて、何が面白くなかったんだろうな。そいつらもきっと、最初のケンカの理由なんて思い出せもしないだろう。それで怒り心頭の三大勢力は初めて手を取り合った。『この二匹のドラゴンを先に始末しないと戦争どころじゃない! 協力して倒そう!』ってな。

ケンカの邪魔をされた二匹はそれはそれは怒った。『我らの邪魔をするな!』、『神ごときが、魔王ごときが、ドラゴンの決闘に介入するな!』ってバカ丸出しの逆ギレだ。神と魔王、堕天使の親玉に食って掛かった。まぁ、それがいけなかったんだろうな。

結局、二匹のドラゴンは幾重にも切り刻まれ、その魂を神器として人間の身に封印された。

神器に魂を封じられた二匹は人間を媒介にして、お互いに何度も出会い、何度も戦いをするようになってしまったんだよ。毎回、どちらかが勝ち、どちらかが死んだ。

たまに出会う前に片方が死んでしまい、戦わないこともあったが、だいたいは戦っていた。媒介である人間が死ねば、神器であるドラゴン達も機能を一時的に停止する。

次にドラゴンの力を宿せる人間が生まれてくるまでこの世に魂を漂わせるのさ。それを長い年月の間、延々と繰り返してきた』

 

「それが『赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)』と『白い龍(バニシング・ドラゴン)』か・・・」

 

翔は呆れたように声を漏らす。

ドライグの話を聞く限り、封じられた理由が自業自得過ぎる。

『お前はドラゴンに憑かれた者。ドラゴンってのは、どの時代、どの国でも力の象徴だった。

ほら、形は違えど、いろんな国にドラゴンの絵や彫刻があるだろう? 人間は様々な時代でドラゴンに憧れを持ち、敬意を払い、恐れたんだよ。ドラゴンは知らず知らずのうちに周囲の者を魅力する。もしくは、ドラゴンのもとに力が集まる。お前さんのもとに憧れる者、挑戦する者が現れたとしたら、それはドラゴンの力だろう』

 

「そうか・・・俺からしたらいい迷惑だな」

 

『諦めてくれ、と言うしかないな』

 

翔の溜め息と共に溢した言葉に対して、おどけたように答えるドライグ。

 

「いいさ、何の因果かは知らないが、あいつが救おうとした、護りたかった国の象徴であるドラゴンが宿ったんだ・・・最後まで苦楽を共にするさ。・・・・・・謝るとしたら俺の方になるかもしれないな」

 

『ほう、何故相棒が謝ることになるんだ?』

 

興味深そうな声を漏らすドライグ。

 

「いや、聞き流してくれ・・・・・・今日はこれくらいだな。明日は忙しくなる予定だからな、

さっさと寝るとするか」

 

そう言って、翔は立ち上がり自分の部屋へと戻っていった。

 

「それで御剣、俺に何の用だ? 俺にできることなら何でもやってやるぜ!」

 

「・・・・・・そうです。何をするつもりだったんですか?」

 

胸を張って、まかせろ! と言った風な表情を浮かべる匙と翔の服を掴んで離さない小猫が翔と共にいた。

 

翌日の放課後、最初は匙だけを呼んだのだが、学校が終わり喫茶店に向かったのだが、喫茶店に向かう途中で小猫と偶然鉢合わせしてしまい、結局最後までついてきてしまったのだ。

最初は軽く話して立ち去ろうとした翔だが、小猫が何かあることを嗅ぎ取ったようで着いてきたのだ。

途中、翔はそれとなく撒こうとしたんだが、《戦車》の力で服を掴まれて失敗となった。

逃げ切ろうと思えば、逃げれたのだが、そうするとリアスに連絡がいってしまうと考え、仕方なく小猫も同行させることとなった。

 

「まぁ最初は匙だけにしか話すつもりはなかったんだが・・・仕方ないか。

聖剣エクスカリバーの破壊許可をゼノヴィアと紫藤イリナから貰おうと思う」

 

「なっ何だって!?」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

翔の言葉に匙は大声を出して驚きを現し、小猫も声こそは上げなかったが、目を見開いて驚きを示している。それもそうだろう。普通の悪魔ならば、自ら進んで天敵である聖剣に関わろうとはしない。

尤も、翔はリアスの眷属ではあるが、その身は人間であるため、聖剣は然程脅威ではないのだが・・・。

それでも悪魔の眷属であることに変わりはないため、聖剣に関わるべきではない。

 

「匙は、ソーナ・・・会長から聖剣使いに関しての話は聞かされてんだろ?」

 

「あ、ああ・・・だいたいの内容は聞いてるぜ」

 

危うく生徒会である匙の目の前でソーナのことを呼び捨てにしてしまう翔であったが、匙はそれに気づかず、未だに呆然とした表情で翔の問いかけに頷く。

 

先日の一件以来、一方的に翔に対して毛嫌いした態度をしていたが匙であったが、今では普通に会話を交わすほどの交友は持っている。

どうやら翔との戦闘で天狗になっていた自分を反省したようで、今では翔に鍛練を頼んでくるときもある。

それに加え、匙は生徒会で唯一の男子という事で、よく学園で雑用のような事をしている。そのため、お人好しの翔がそれを見かけると、手伝いをするため、話す機会がよくあるのだ。

それに以前から、翔は学園の壊れた備品などを見つける度に、直していたのが、生徒会で発覚したため、最近では生徒会から依頼を受けている。そのため、匙以外にも生徒会の生徒達とも関わりを持つようになっている。

 

「あいつらの目的は盗まれたエクスカリバーの奪還、もしくは破壊だ。一応利害は一致してる」

 

翔の言うおり、ゼノヴィアは奪還が難しいのならば、最悪の場合破壊しても構わないと言っていた。

聖剣の核となる部分さえ残っていれば、聖剣の修復は可能とのことだ。

そして、今はいない祐斗の願いは聖剣の破壊。

こちらには関わるな、と釘を刺されたが、向こうから許可を貰えば、祐斗もより動きやすくなる。

 

それにこのまま傍観していたら祐斗は命を落とすかもしれないからな・・・

 

内心でそう考えながら翔は話を進める。

 

「あくまでも上手くいけばの話だ。いくら利害が一致しているからと言っても敵対勢力である悪魔側にすんなりと許可を出すとも限らない。だから、今回のこの件は『人間の御剣翔』として協力を交渉する。リアス達は一切関係ない、だが協力者として何も手伝わないわけにはいかないので、『非力な人間である御剣翔は悪魔側に護衛の依頼をした』。そして、敵に襲われた際にその護衛が聖剣を壊してしまっても問題はあるまい」

 

開いた口が塞がらないとはまさに今の心境をいうのだろう、と心の中で考えてしまう匙と小猫。

翔の話は確かに筋は通っているのかもしれないが、あまりにも無理やり過ぎる。

 

「俺自身は自分の身は自分で護れるが、それだとうっかりに聖剣を壊してしまいそうだからな・・・」

 

「「なるほど・・・」」

 

困ったように笑いながら言う翔に、匙と小猫は納得したように頷く。

翔から鍛練を受けている2人からすれば、翔の言葉は現実になってしまうと思うのも無理はないだろう。

それにフェニックスを生身で相手したのだ、その言葉はより信憑性を持ってしまう。

 

「まぁ向こうも2人で堕天使の幹部を相手にするのは分が悪いと理解していたからな。

俺はドラゴン・・・赤龍帝の力を貸す、と言えば頷く可能性は高くなるだろう」

 

「そうかもしれないな・・・・・・で、俺が呼ばれた理由は何だよ?

いくらなんでも、会長まで納得してくれないと思うぞ?」

 

「ああ、納得させる気はないからな。それに匙、お前はここで聖剣を相手にするのは良い経験になる。

この町の管理は、リアスとソーナが担っているが、主に荒事の面ではリアスが担当している。

鍛練も重要だが、実戦で得るものはなによりも多い・・・・・・最近の鍛錬で前より強くなったお前自身の力を認識させるには丁度いい機会だ」

 

「マジかよ!? そんな勝手な事をやったら俺は会長に殺される!」

 

「だから、リアス達には内緒に進めるんだ」

 

「・・・・・・翔先輩のやりたいことはわかりました。部長達を騙すようで心は痛みますが、祐斗先輩がいなくなるよりはマシです」

 

「ッ!?・・・・・・はぁ・・・、後輩が腹括ったんだ、先輩の俺が逃げ出したらいけないよな」

 

小猫の言葉を聞いて、喚いていた匙であったが、覚悟を決めた。

 

「リアスは融通が利かないからな。ばれた際は俺が責任を全て負うから安心しろ」

 

「いえ、怒られるのは一緒です」

 

きっぱりと言う小猫。

それに僅かに眼を見開く翔であるが、すぐに微笑みを浮かべて、悪いな・・・、と言って小猫の頭を撫でる。

顔を紅くする小猫だが、決して逃げようとはしない。

 

「さて、そろそろあの2人を探さないとな・・・」

 

そう言って、翔は伝票を手に持って会計を済ませに行く。

 

「でも、どうやって見つけるんだ? 普通、どっかに拠点とから構えてるんじゃないのか?」

 

喫茶店から出た3人はゼノヴィアとイリナを探すために町の中を歩き始めるが、どうやって探すのかと匙が翔に問いかけた。

 

「そこは歩いて探すしかないな・・・、ある程度近くにいれば、気配で―――」

 

わかるから、と言葉を続けようとした翔は途中で言葉を止め、呆れたように溜め息を漏らした。

突然の翔の態度に、疑問符を浮かべた匙と小猫だったが、翔にすぐにわかる、と言われ黙って着いていく。

少し道を歩くと、ある光景が目に入った。

 

「えー、迷える子羊にお恵みを~」

 

「どうか、天の父に代わって哀れな私たちにお慈悲をぉぉぉ!」

 

白いローブ姿の二人組が手作りの募金箱を持ちながら道行く人に祈りながら募金活動をしていた。

喫茶店を出て、まだ10分も経っていないといのに、こうも簡単に見つかったことに喜べばいいのか、それとも呆れればいいのか悩んでいると、なかなか募金が集まらないことにゼノヴィアが嘆き始める。

 

「なんてことだ。これが超先進国であり経済大国日本の現実か。これだから信仰の匂いもしない国は嫌なんだ」

 

「毒づかないでゼノヴィア。路銀の尽きた私達はこうやって、異教徒どもの慈悲なしでは食事も摂れないのよ? ああ、パンひとつさえ買えない私達!」

 

「ふん。元はと言えば、お前が詐欺まがいのその変な絵画を購入するからだ」

 

ゼノヴィアが指差すほうに聖人らしき者が描かれた下手な絵画が置かれていた。

誰が見ても、騙されて買わされたものだろう、と思うほど酷いものだ。

だと言うのに、イリナはそれを理解していない。

 

「何を言うの! この絵には聖なるお方が描かれているのよ! 展示会の関係者もそんなことを言っていたわ!」

 

「じゃあ、誰かわかるのか? 私には誰一人脳裏に浮かばない。」

 

「・・・多分、ペトロ・・・様?」

 

「ふざけるな。聖ペトロがこんなわけないだろう」

 

「いいえ、こんなのよ! 私にはわかるもん!」

 

「ああ、どうしてこんなのが私のパートナーなんだ・・・・・・主よ、これも試練ですか?」

 

「ちょっと、頭を抱えないでよ。貴方って、沈むときはとことん沈むわよね」

 

「うるさい! これだからプロテスタントは異教徒だというんだ! 我々カトリックと価値観が違う! 聖人をもっと敬え!」

 

「何よ! 古臭いしきたりに縛られてる、カトリックのほうが可笑しいのよ!」

 

「なんだと、異教徒め」

 

「何よ、異教徒!」

 

遂には路上で人目も気にせずに言い争いを始めだす。

それにより、ますます人が離れていく。

 

ぐぅぅぅぅぅ・・・

 

突如響く、腹の音。

 

「・・・まずはどうにかして腹を満たそう。そうしなければエクスカリバー奪還どころではない」

 

「・・・そうね。それじゃ、異教徒を脅してお金儲けもらう? 主も異教徒相手なら許してくれそうなの」

 

『(流石にそれは駄目だろう)』

 

翔と匙、小猫はイリナの言葉に揃って呆れる。

あまり話しかけたくはないが・・・仕方がない、と翔は割り切り、2人に近づき声をかける。

 

「おい」

 

「「あ・・・」」

 

「これから近くの店にいくんだが・・・・・・一緒に来るか?」

 

「「行く!」」

 

「じゃあ、行くとするか」

 

即答する2人に苦笑しながらも、翔は手を差し出す。

 

「美味い! 日本の食事は美味いぞ!」

 

「うんうん! これよ! これが故郷の味なのよ!」

 

テーブルに並べられた料理の数々を食べていくゼノヴィアとイリナ。

それを見て、翔は苦笑しているが、匙と小猫は呆れた視線を目の前にいる2人に向けているが、本人達は食べることに夢中で気づいていない。

 

ファミレスに来るまでは『私達は悪魔に魂を売ったのよ』、『これも信仰を遂行するためだ』などとぶつぶつ言っていたが。いざ、料理がくるとそんなことはお構いなしの見事な食べっぷりを見せている。

匙に財布のことを心配されたが、翔にとってはこれくらいの出費は問題はない。

先ほども言ったが、翔は学園の設備などを生徒会に依頼され、修理しているのだが、流石にただ働きをさせるのは申し訳ないと、ソーナが翔に対して、依頼金を払い始めたのだ。当然の如く、最初は貰うことを拒んだ翔であるが、本来事務の職員が行うことを代わりにやっているため、依頼金を貰ってはくれないか?と困ったようにソーナに言われてしまい、翔は仕方なく貰うことにした。

それ以外にも、翔は偶にある喫茶店のマスターから手伝いを頼まれることもあり、その際にも給料を貰っているため、お金は普通の学生よりは持っている。ちなみに、そこで集まらなかった理由は、リアスや朱乃もそこを利用するので、鉢合わせにならないようにしたためである。

 

「ふぅ・・・落ち着いた。君達悪魔に救われるとは、世も末だな」

 

「奢ってもらってそれか、普通はありがとうだろ?」

 

「はふぅ・・・ご馳走さまでした。ああ、主よ。心優しき悪魔達にご慈悲を」

 

胸で十字を切るイリナ。

 

「「うっ!」」

 

その瞬間呻き声をあげて頭に手を当てる匙と小猫。

 

「あ、ごめんなさい。つい十字を切ってしまったわ。・・・って翔くんは平気みたいね?」

 

「だから俺は人間だから・・・」

 

翔の言葉に納得したように頷くイリナ。

 

「で、私達に接触した理由は?」

 

「最初はエクスカリバーの破壊に協力したいと思ったんだが・・・昨日、戦った相手があんなことをしていたらな・・・」

 

「「うっ!?」」

 

単刀直入話を切り出してきたが、翔の皮肉の言葉に2人は呻いてしまう。

 

「・・・何はともあれ重要なのは前者だ。今日は人間の御剣翔としてエクスカリバーの破壊の協力をしに来た」

 

翔の言葉に、ゼノヴィアとイリナは目を見開いて驚きを示して、互いに顔を見合わせてから再び翔に視線を戻す。

 

「それはどういうことだ?」

 

「言葉の通りさ、悪魔の眷属とは関係なしに御剣翔個人としてお前達と協力する、と言っているんだ」

 

翔の言葉にゼノヴィアは考える仕草をした後に再び翔に視線を戻して言う。

 

「・・・そうだな。一本ぐらい任せてもいいだろう。破壊できるのであればね」

 

予想外にすんなり許可が下りたことに翔は内心で僅かに驚く。

匙と小猫の2人は目を見開いて驚いている。

 

「ちょっと、いいの? 相手は翔くんとはいえ、悪魔関係者なのよ?」

 

異を唱えるイリナ。 反応としてはこちらが普通だろう。

 

「イリナ、正直言って私達だけでは三本回収とコカビエルとの戦闘は辛い」

 

「それはわかるわ。けれど!」

 

「最低でも私達は三本のエクスカリバーを破壊して逃げ帰ってくればいい。私達のエクスカリバーを自ら手で壊せばいいだろう。で、奥の手を使ったとしても任務を終えて、無事に帰れる確率は三割だ」

 

奥の手か・・・

いくら折れて七つに分かれたからと言っても、元が最強の聖剣・・・

それを上回る聖剣は数が限られてくるな

 

内心でそんなことを考えながら、ゼノヴィアとイリナの会話を聞く。

 

「それでも高い確率だと私達は覚悟を決めてこの国に来たはずよ」

 

「そうだな、上にも任務遂行して来いと送り出された。自己犠牲に等しい」

 

「それこそ、私達信徒の本懐じゃないの」

 

「気が変わったのさ。私の信仰は柔軟でね。いつでもベストな形で動きだす」

 

「貴方ね! 前から思っていたけれど、信仰心が微妙に可笑しいわ!」

 

「否定はしないよ。だが、任務を遂行して無事に帰ることこそが、本当の信仰だと信じる。

生きて、これからも主のために戦う。―――違うか?」

 

「・・・違わないわ。でも―――」

 

「だからこそ、悪魔の力は借りない。代わりにドラゴンを宿した人間の力を借りる」

 

ゼノヴィアの視線が翔に向けられる。

 

「昨日の手合わせで彼の実力は身に染みたはずだ。彼が本気になった場合、奥の手を使っても勝てない。それに伝説の通りなら、その力は魔王にも匹敵するのだろ?」

 

「今はまだそれほどじゃないが、上級悪魔を圧倒できるほどの力はある」

 

そう言う翔に匙とイリナが息を呑み、驚きを示すが、ゼノヴィアは嬉々とした表情を浮かべている。小猫が驚かないのは先日のリアスの婚約騒動で翔の力は見ているからだ。

 

「信じてみようじゃないか、ドラゴンの力を」

 

「交渉成立だな。じゃあ、今回の俺の相棒を呼ばせてもらうか」

 

翔は携帯を取り出し、ある者に連絡をする。

 

「・・・話はわかったよ」

 

祐斗は嘆息しながらコーヒーに口をつけた。

翔が呼び出した者は祐斗であった。

 

「正直、エクスカリバー使いに破壊を容認されるのは遺憾だけどね」

 

「ずいぶんな言い様だね。そちらが『はぐれ』だったら、問答無用で斬り捨てているところだ」

 

途端に睨みあうゼノヴィアと祐斗。

すると―――

 

「睨みあうのは構わないが、時と場所を考えてくれよ」

 

笑顔を浮かべながら翔はそう言う。

だが、その笑顔を向けられた2人は顔を盛大に引き攣らせながら、冷や汗を掻いていた。

何故なら、表情こそは笑顔なのだが、目が全くと言っていいほど笑っていない。

さらに2人のみ、気絶しない程度の殺気を放っているからだ。

 

「う、うん。無暗な争いはよくないな! うん!」

 

「そ、そうだね!」

 

ハハハッ! と笑う2人に他の3人は憐れむような視線を向ける。

翔が2人を諭してから話を進めていく。

 

「やっぱり『聖剣計画』のことで恨みを持っているのね」

 

イリナがそう言うと、祐斗は目を細めながら、冷たい声で肯定する。

 

「だが、その事件は私達の間でも、最大級に嫌悪されたものだ。処分を決定した。

当時の責任者は信仰に問題があるとされ、異端の烙印を押された。今では堕天使側の住人さ」

 

「堕天使側に? その者の名前は?」

 

「―――バルパー・ガリレイ。『皆殺しの大司教』と呼ばれた男さ」

 

そいつが、祐斗の仇か・・・

 

「僕も情報を提供したほうがいいね。先日、エクスカリバーを持った者に襲撃された。

その際、神父を1人を殺害していたよ。そちら側の者だろうね」

 

『ッ!?』

 

翔以外の全員が驚きを示す。

 

「相手はフリード・セルゼン。この名に覚えは?」

 

「なるほど、奴か・・・」

 

「元ヴァチカン法王庁直属のエクソシスト。十三歳でエクソシストになった天才。悪魔や魔獣を滅していく功績は大きかったわ」

 

祐斗の出した名に覚えがあるゼノヴィアとイリナ。

 

「そうか。フリードは奪った聖剣を使って同胞を手にかけていたのか。

あの時、処理班が始末できなかったツケを私達が払うとはな」

 

忌々しそうに言うゼノヴィア。

 

「フリード? ああ、あの白髪のはぐれ神父か・・・それほどの実力者だったのか」

 

思い出したように呟く翔。

以前、翔が悪魔の契約のために訪れた家に居たはぐれ神父。

それを思い出して、無意識のうちに拳を握り締めてしまう。

 

「翔くんは彼と戦ったことがあるの?」

 

「少しだけな・・・」

 

だが、あいつも教会の被害者かもしれないな・・・

あの異常な身体能力は純粋に鍛えられたものではない、薬などの人体実験によるものだろう

 

「では、そろそろ終わりにしよう。御剣翔、飯の礼は必ず」

 

「ご飯ありがとね!」

 

話も終わり、ゼノヴィアとイリナは立ち上がる。

それを見て内心で考えるのを止めて、2人に話しかける。

 

「ああ、共同戦線を受け入れてくれて感謝する。・・・・・・2人で無茶するのはやめろよ。誰かが死ぬのは見たくない」

 

「ああ、そのつもりだ。そちらも気をつけてな」

 

そう言ってゼノヴィアとイリナの2人は店から立ち去って行った。

 

「はぁ・・・緊張したぜ」

 

腑抜けた声を漏らす匙。

それも仕方ないだろう。悪魔の彼にしてみれば、聖剣使いは天敵・・・それを前にして緊張するなと言うのが無理な話だ。

 

「同じ眷属が死ぬのを黙ってみるほど、薄情じゃないさ」

 

「翔くん・・・」

 

「私は・・・祐斗先輩がいなくなるのは、悲しいです。・・・お手伝いします。

・・・・・・だから、いなくならないで」

 

何時もは無表情な小猫が悲しげな表情で祐斗に言う。

大抵の男ならこれで落ちるだろう、現に匙や他にいた男性客達も胸を撃たれたかのような仕草をして悶えている。これが平気なのは翔くらいだろう。今の小猫を見ても可愛いな、程度にしか思っていない。

 

「ははは・・・まいったね。小猫ちゃんにそんな事を言われたら、僕も無茶できないよ。わかった。

今回は皆の好意に甘えさせてもらおうかな。みんなのおかげで真の敵もわかったしね。でも、やるからには絶対に壊す!」

 

改めて決意を固める祐斗。

 

「ってかさ、結局、何がどうなって木場とエクスカリバーが関係あるんだ?」

 

今まで黙って話を聞いていた匙が疑問の声を上げる。

 

「・・・少し、話そうか」

 

祐斗は自分の過去を語った。

 

計画はとある施設で執り行われていたこと。

被験者は剣に関する才能と神器を有した少年少女だったこと。

皆、神に愛されると、救われると信じながら、来る日も来る日も辛く非人道的な実験を行われていたこと。

 

そんな過酷な実験に耐えた結果が『処分』だったこと。

祐斗達は聖剣に対応できなかったんだ。

 

「・・・皆、死んだ。殺された。神に、神に仕える者に。誰も救ってはくれなかった。『剣に適応できなかった』、たったそれだけの理由で、少年少女たちは生きながら毒ガスを浴びたのさ。

彼らは『アーメン』と言いながら僕らに毒ガスを撒いた。血反吐を吐きながら、床でもがき苦しみながら、僕達はそれでも神に救いを求めた」

 

施設からなんとか逃げ出せた祐斗だが、毒ガスは既に体を蝕んでいた。

一部の者を除いて、能力が平均値以下の被験者は用無しと処分されたのだった。

逃げおおせた祐斗は、死ぬ寸前でイタリア視察に来ていたリアスと出会い、今に至る。

 

「同志達の無念を晴らしたい。いや、彼らの死を無駄にしたくない。僕は彼らの分も生きて、エクスカリバーよりも強いと証明しなくてはいけないんだ」

 

唯一の生き残りだからこその想いか・・・

 

翔は憂いを帯びた表情で祐斗に視線を送る。

 

「うぅぅぅ・・・」

 

するとすすり泣く声が聞こえてくる。―――匙だ。

号泣している。ボロボロ涙を流して、大泣きしていた。

鼻水まで垂れ流しながら・・・匙は祐斗の手を取り言う。

 

「木場! 辛かっただろう! キツかっただろう! ちくしょう! この世に神も仏もないもんだぜ!酷い話さ! その施設の指導者やエクスカリバーに恨みを持つ理由もわかる! わかるぞ!

俺はイケメンのお前が正直いけすかなかったが、そういう話なら別だ! 俺も協力するぞ! ああ、やってやるさ! 会長のお仕置きをあえて受けよう! それよりもまずは俺達でエクスカリバーの撃破だ! 俺も頑張るからさ! お前も頑張って生きろよ! 絶対に救ってくれたリアス先輩を裏切るなよ!」

 

熱いことを言う匙に、翔と祐斗は苦笑を漏らし、小猫は引いたような視線を向けている。

現に近くにいるOLの集まりに、クスクスと笑われている。

翔が彼女らに迷惑の詫びるように、すみません、と笑みを浮かべながら言うと顔を紅く染める。

その理由に気づかない翔は首を傾げるだけだった。

 

翔は立ち上がり、祐斗に手を差し出す。

 

「とりあえず、改めてよろしくな、祐斗。コカビエルの相手は俺がする」

 

「ははは、翔くんのことだからコカビエルを倒しちゃいそうだね」

 

苦笑いを浮かべながらも、祐斗は差し出された翔の手をしっかりと握り返した。

 

 

 




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