ハイスクールD×D ~正義の味方を目指す者~   作:satokun

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第12話 ゲーム中盤戦!

翔が相手をするのは棍使いのミラと双子のイルとネルの《兵士》である。

 

「解体しま~す♪」

 

「バラバラバラ♪ バラバラバラ♪」

 

無邪気な声と顔で双子の《兵士》が翔に近づいてくる。

非常に可愛らしい・・・・・・手にチェーンソーさえ持ってなければ・・・・・・。

ドルルルルルッ!と、危険な稼働音が翔に迫りくる。

 

「可愛い顔して、随分と物騒なものを振りまわすな」

 

呑気な感想を漏ら、特に慌てる様子もなく。

翔は全身を無駄に緊張させずにただ自然体で構え、双子を見据える。

 

「お兄さん、カッコいいけどライザー様の命令だからバラバラバラにするね♪」

 

「バラバラにしてあげるよ♪」

 

言っている声は可愛らしいのだが、内容と行動が物騒すぎる。

双子は遠慮なくチェーンソーを翔に向けて振りまわし続けるが、翔は難なく躱し続ける。

チェーンソーは当たった時の攻撃力は高いが、大物過ぎて攻撃が大振りになってしまう。

それに翔ほどの技量があれば、その稼働音でどこから来るか見ないでもわかる。

その音で威嚇はできるが、ある程度の相手には通用しないためあまり効果的な武器とは

言えないが―――

 

「イル!」

 

「はいさ!」

 

双子ゆえか、連携は凄まじく卓越されている。

ネルと呼ばれる子が、もう一人のイルに一言声をかけるだけで、イルはネルの動きに瞬時に合わせる。この隙のないコンビネーションがこの2人の強さなのだろう。

前と後ろに同時に攻められる翔。

並みの者なら避けるのは困難だろう・・・・・・“並みの者なら”。

翔は左右には避けずに、一歩前へと踏み込む。

普通なら相手の間合い、つまり死地へと入ることになるが、戦いには勝利を掴むためにそこに踏み込む必要がある。

一歩踏み込んだことにより、後方からの攻撃が来る前に前方に来るチェーンソーが完全に振り下ろされる前に相手・・・ネルに肉迫し、手首を軽く打ち上げるように掌底を放つ。

そのことにより、突然したから来た衝撃に耐えきれず、振り下ろしていたチェーンソーが戻るように後ろに下がり、それに従って、ネルも後ろへと吹き飛ばされる。

そして、間を開けずに後方から迫ってくる相手・・・イルの持つチェーンソーの根本に回し蹴りを放ち吹き飛ばす。

 

「ハァアア!」

 

掛け声と共に突撃してくるミラは棍棒で鋭い突きを放ってくるが、翔は左腕で棍棒の突きを受け流し、相手が軽く引き飛ぶ程度に加減した掌底を腹部へと放つ。

 

「いい連携だ」

 

一連の攻防が終わった後に相手に褒め言葉を言う翔であるが、

相手からしたら嫌味にしか聞こえないだろう。

吹き飛ばした相手達はすでに立ち上がっており、武器を構えてこちらを窺っている。

その間に、翔は《戦車》であるミュエランの相手をしている小猫を見た。

不死鳥であるライザーの眷属である故に、炎の加護でもあるのかは知らないが、相手の《戦車》は手足に炎を纏わせて、拳と蹴りを放っている。

格闘センスもあり、魔力の質も中々高く。実力者であるだろう。

小猫が相手をするのは、荷が重いと言えるだろう・・・・・・10日前までは。

現在の小猫はダメージを負った様子は見られない。ちゃんと見切って避けられているようだ。

そして、隙を見せた相手に最小限の動きで威力の高い突きを喰らわしていた。

 

「くっ!? な、なんなの・・・ 私の攻撃は当たらないし、至近距離から出せる威力じゃないわ!」

 

「・・・・・・私が10日間のうちで、翔先輩との修行で翔先輩に触れられたのはたったの一回だけです!それも加減された状態で・・・。そして、私に合った技法を教わりました!」

 

小猫の突きを受けて、思わず血を吐き、小猫から間合いを取るミュエランに対して、

油断なく構える小猫が相手の疑問に答える。

10日間で小猫は翔から接近戦の戦い方を教わった。

小猫は体格が小さく、手足のリーチも他社に比べて短い。

そのため相手の懐に入らなければならない。

それは接近戦よりさらに接近した戦い―――超接近戦での戦いになるのは必至と言えるだろう。

その際に、至近距離からのわずかな動作で高い威力を出す技法―――寸勁を身に着けたのだ。

寸勁とは、中国拳法の発勁の技法。呼吸法や重心移動、打突力、意識のコントロールなどを用いて最小の動作で最大の威力を出す。まさに小猫に御誂(おあつら)えの技と言えよう。

だが、まだ錬度が低く。現在の小猫では最小限の動作で最大限の威力は出せていないが、それでも《戦車》の特性により威力は凄まじいものである。

相手のミュエランが立っていられるのは、《戦車》の特性の一つである防御力があるからだろう。

ただの《兵士》や《騎士》だったならば、おそらく小猫の一撃で立てないほどのダメージを受けていてもおかしくはないだろう。

 

「さて、余所見が過ぎたな・・・。そろそろ終わりにするか」

 

翔が小さく呟く。

先ほどまで翔の様子を窺っていた3人は翔を囲うように位置し、そして同時に仕掛けてきた。

2人同時だと無力化されたが、3人同時なら、と考えたのだろう。間違えではない考えだが―――

 

「甘いな・・・」

 

翔相手には甘い考えだろう。

同時に仕掛けてきたが、翔にとってはたいして脅威ではない。

 

「もらった!」

 

ミラがそう叫ぶ。

ほぼ同時の3方向からの攻撃。絶対に避けられない、そう思ったのだが、2つのチェーンソーと棍棒が当たる寸前、ガシャンッ!と何かが破壊されるような音がした、と思ったら目の前にいた翔の姿が消えた。

 

「え・・・?」

 

それは誰の呟きだったのだろう。

3人は自身の武器が破棄されたことに気づき、いきなり姿を消した翔に呆然となる。

それも束の間、呆然としていた3人は糸が切れた人形のようにその場に倒れた。

リタイアしないところを見ると、ただ気絶しているだけのようだ。

 

「悪いが、少しの間眠っててくれ」

 

気絶している3人の傍にいる翔がそう言う。

翔が行ったのは簡単なことだ。ただ単に目にも止まらない速さで3人の武器を破壊した後、すぐさまその場を離脱し、3人の延髄に軽く手刀を入れ、気絶させた。ただそれだけである。

言葉で言うのは簡単なことだが、実際に行うのは至難の技だろう。

速さを特製とする《騎士》が行ったのならば理解できる。だが、これを行ったのは『プロポーション』していない《兵士》。それも翔はただの人間である。

この場にいた者達で翔の姿を捉えられたものは一人もいないだろう。

 

「ネル、イル、ミラ!」

 

思わず、小猫と対峙していた《戦車》のシュエランは叫んでしまう。

それが仇となった。

ただでさえ、小猫に攻められていたというのに、視線を小猫から外してしまったのだ。

 

「・・・・・・隙を見せすぎです」

 

その隙を逃す小猫ではない。

しまった!と思うミュエランであったが、もう遅い。

 

「・・・・・・翔先輩、直伝の技―――単把(たんぱ)!!」

 

小猫は右足で強く踏み込み、右掌にもう一方の左掌に重ね、打ち抜くような掌底をミュエランの腹部に放った。

 

「かはっ!?」

 

腹部に来る強烈な痛みにより肺から強制的に空気を吐きだすミュエラン。

そして、耐えることが出来ずにその場で崩れ落ちる。

 

『翔、小猫。状況はどう?』

 

「ああ、こっちは《兵士》3人、《戦車》1人を無力化させた」

 

『それは結構。朱乃の準備が整ったわ』

 

「了解。小猫、外に出るぞ」

 

丁度、体育館にいた敵全てを無力化した時に、リアスから通信が届いた。

どうやら作戦の準備が出来きたらしい。

翔は小猫を連れて、体育館から出て、出来るだけ離れた瞬間―――

 

カッ!

 

一瞬の閃光。刹那――――

 

ドォォォォオオオオンッッ!!

 

轟音とともに巨大な雷の柱が体育館へ降り注いだ。

雷が止んだとき、目の前にあったはずの体育館が根こそぎ消失していた。

 

撃破(テイク)

 

声が聞こえた方向に視線を向けると、ニコニコ顔の朱乃が黒い翼を広げて空に浮いていた。

 

『ライザー・フェニックス様の《兵士》3名、《戦車》1名、リタイア』

 

グレイフィアの声がフィールドに響く。

 

『皆、聞こえる? 朱乃の一撃が派手に決めたわ。これで最初の作戦は上手くいったわね』

 

体育館はチェスでいうセンターを位置する場所、重要な場所と言っていいだろう。

だから、囮になる・・・。

リアス達の人数で体育館を護りきるのは不可能と言えるだろう。

ライザー側に占拠されるのは時間の問題であった。

リアス達が勝利を掴むには短期決戦で決めなければならない。

体育館がライザー側に渡ってしまったら長期戦になる上に面倒になる。

だったら最初から切り捨てればいい。体育館を囮にし、体育館ごと撃破するのが、翔がリアスに提案した作戦だ。

 

「・・・・・・翔先輩、次は祐斗先輩と合流です」

 

「ああ、その前に―――」

 

翔が先へと急ごうとする小猫を引き寄せた瞬間、2人がいた場所が爆発した。

 

「どうやら上手く引っかかったようだね」

 

そう呟く祐斗。

今彼がいるのは、旧校舎の付近の森だ。リアスの指示通り待機しているのだ。

祐斗の仕事は体育館とは別のルートで攻めてくる敵を倒すことである。

リアスの考え通り、《兵士》の3人がこの森から旧校舎を目指していた。

途中には祐斗と小猫が仕掛けたトラップがあったのだが、

流石にそれ如きで仕留めることは出来なかった。

だが、《女王》である朱乃が仕掛けた幻術は突破できなかったようだ。

現に《兵士》の3人は、何もないところで止まっていた。

それを見て、祐斗は相手の《兵士》3人に姿を見せる。

 

「君達が見ているのは、僕らの副部長が仕掛けた幻術だよ。そして、閉じ込められた」

 

「ッ!? 結界の中に閉じ込められた!」

 

「あのトラップは囮か・・・!?」

 

自分達が罠にかかったことに顔を歪める。

しかし、それも束の間すぐに相手は余裕な表情を浮かべる。

 

「・・・割と好みだから言いたくないけど、もしかして貴方一人で私達の相手をする気?」

 

「そうだよ」

 

相手の問いかけに、祐斗は特に気負うこともなくただ自然体で答える。

その態度は、3対1で本当に勝つ気でいるつもりだ。

祐斗は静かに腰に帯刀している剣を抜く。

剣の銘は光喰剣(ホーリーイレイザー)である。以前、翔と小猫で堕天使と戦った際に持っていた剣である。

 

「(ま、でもあの時は、出番がなかったんだけどね)」

 

あの時に事を思い出して、内心で苦笑する祐斗。

そして、思い出すのはこの10日間での翔との修行だ。

祐斗は本気で斬りかかったが、全てが見切られていた。

《騎士》の特性である速さを最大限に使っても翔には通用しなかった。

だから、祐斗は速さと剣技を鍛えた。より速く、より鋭く。

そして、教えられた。戦い望む覚悟を・・・。

斬る者は斬られる覚悟も同時に持たなければならない。

故に慢心は捨て、相手の一挙一動も見逃さない。

 

「・・・面白い!行くわよ!」

 

《兵士》の1人が声をかけると、3人同時に祐斗に迫ってきた。

祐斗は目の前から来る敵を見据えながら、正眼に剣を構えた。

そして、《兵士》3人が祐斗の目前に迫り、攻撃を仕掛けようとした瞬間―――

 

「なっ!?」

 

祐斗の姿が消えた。

 

「ど、どこに・・・!?」

 

「ここだよ」

 

《兵士》の3人は祐斗の《騎士》の速度で翻弄され、あちこちと視線を動かすが追いつけない。

そして、1人の《兵士》の声に、祐斗は背後から声を発する。

気づき背後を向いたところを祐斗は容赦なく斬り捨てる。

そして、間を置かずに残りの2人も一刀両断する。

深い傷を負った敵は時間が経てば、勝手にリタイアするだろう。

祐斗はこの場を後にして、翔と小猫に合流しようと駆け出そうとした時―――

 

ドォオオオオオオオオオオンッ!!

 

大きな爆発音がフィールドに響いた。

 

「ッ!? 体育館の方から・・・! 翔くん、小猫ちゃん!」

 

爆発が起きた場所を理解した祐斗は、通信器で翔と小猫の名を呼ぶがノイズが聞こえるだけで反応がない。

 

「いや、まだリタイアの放送はない。まだ健在しているってことだ。今僕がやるべきことは合流地点に急ぐことだ」

 

祐斗は2人の無事を信じて、先を急いだ。

 

「ふふふ・・・狩りを終え、油断しているところを狩る。・・・狩りの基本よ」

 

砂煙をあげる大地を上空から嘲笑いを浮かべながら眺めて呟くドレスのようなローブを着た女性、ライザーの《女王》だ。

先ほどの爆発は彼女が起こしたものだ。

相手が油断しているところを攻める。それは正しい判断と言えるだろう。

だが―――

 

「この程度か、ライザーの《女王》」

 

「ッ!? あの爆発をどうやって!?」

 

《女王》は背後から聞こえた声に反応し、振り返る。

そこには小猫を抱きかかえた、無傷の翔が宙に立っていた。

 

「簡単な話だ。こっちは1人減るだけでも大打撃だが、そっちは違う。

ならば、多少の『犠牲(サクリファイス)』でこっちを削りに来る可能性は低くない。ライザーがそんな考えをするかは怪しいが、もしあいつの眷属内に建設的な考えを持つ者がいるかもしれない・・・・・・

警戒していて当然だろ?《女王》のユーベルーナ」

 

「・・・・・・やっぱり坊やは油断できないわね。ここで退場してもらうわ」

 

《女王》のユーベルーナは手に持つ杖を構える。

 

「そう簡単にいくと思うか?」

 

対する翔も小猫を左腕で抱えたまま、立ち向かおうとする。

ちなみに小猫は翔に抱えられて、顔を真っ赤にして硬直しているため、

動くことは出来そうにない。

互いに放つ魔力が相手を威圧するようにぶつかり合う。

そして、ユーベルーナが爆発の光弾を放とうとする瞬間―――

 

「あらあら、ここは私に任せてください」

 

2人がいるさらに上空から巫女服姿の朱乃が悪魔の翼を広げて現れ、翔の隣に浮かぶ。

 

「朱乃か・・・魔力は大丈夫そうか?」

 

「ええ、大分回復しましたわ。翔くんと小猫ちゃんは先を急ぎなさい」

 

確認する翔に朱乃は笑顔で答える。

 

「油断はするなよ・・・」

 

そう言い、翔は小猫を抱えたまま、地面へと降りようとするが、それを態々見逃す相手ではなく、ユーベルーナは背中を見せた翔に容赦なく爆発の光弾を撃つが、朱乃が放った雷に相殺されてしまう。

 

「貴女のお相手は私ですわ。『爆弾女王(ボムクイーン)』さん」

 

「うふふ、『雷の巫女』である貴女に知られているなんて光栄だわ。でも、私をその名で呼ぶのはやめてくださる?あまり好きでないのよ」

 

「あらあら、それは申し訳ありませんわ」

 

互いに全身から魔力を迸らせる。

眷属で最強の駒と呼ばれる《女王》同士の戦いが始まった。

 

『ライザー・フェニックス様の《兵士》3名、リタイア』

 

「・・・・・・祐斗先輩がやったようですね」

 

小猫の言葉に頷きながら、翔はあたりを警戒する。

翔と小猫はユーベルーナを朱乃に任せた後、運動場付近の茂みにいた。

運動場付近で祐斗と合流する予定なのだ。

すると、翔はある茂みに視線を向けて、言葉を発する。

 

「どうやらその本人が来たようだな」

 

「やっぱり翔くんには気づかれちゃったか」

 

笑みを浮かべながら茂みから姿を見せる祐斗。

 

「翔くん、運動場には残りの駒全てが揃っているよ」

 

「ああ、気配を隠しもしない奴が1つと他には隠している奴が6つある。

提案があるんだが・・・いいか?」

 

翔の言葉に頷く祐斗と小猫。

 

「そろそろ隠れてやるのは面倒だ。いい加減、正面からでいいと思う」

 

「同感だね。もう十分だと思うよ」

 

「・・・・・・賛成です」

 

提案に乗り気な2人を見て、翔は満足そうな表情を浮かべる。

 

「じゃあ、修行の成果を堂々と見せるとしますか?」

 

「うん!」「はい!」

 

気合の入った声で頷く2人。

3人はそのまま運動場へと駆け出す。

 

「さあ、ゲームも終盤戦だ。ライザー眷属達いるのは分かっている。さっさと出てこい」

 

運動場の真ん中に立つと、翔は静かに、だが運動場全体に響くように声を上げる。

 

「真正面から堂々と現れるとは、正気の沙汰とは思えんな・・・・・・だが―――」

 

翔達の少し離れた地点に砂煙が舞ったと思うと、そこから甲冑姿の女性が現れる。

 

「私はお前らのような馬鹿が大好きだ!」

 

腰に帯刀していた剣を抜き、その切っ先を翔達に向ける。

刀身には炎が纏われる。姿から見てライザーの《騎士》だろう。

 

「私はライザー様に使える《騎士》カーラマインだ。さぁグレモリ―の《騎士》よ、名乗れ!」

 

「・・・・・・僕はグレモリ―様に使える《騎士》、木場祐斗。《騎士》同士の戦い、待ち望んでいたよ!」

 

祐斗は答えるように帯刀していた剣を抜刀し、同じように切っ先をカーラマイン相手に向ける。

それを見たカーラマインは笑みを浮かべる。

 

「良く言った、リアス・グレモリ―の《騎士》よ!!」

 

2人はそのまま一直線に突っ込み衝突をし、そのまま《騎士》の特性を生かして、目にも止まらぬ速さで激しい剣戟に繰り広げる。

すると―――

 

「まったくカーラマインったら、頭の中まで剣馬鹿なのだから・・・」

 

呆れた声と共に翔と小猫から少し離れた場所に、お嬢様のような服で身を包んだ金髪のツインロールの女の子が姿を現すと、それを機に顔の半分を隠す仮面をつけた女性に、和服を纏う女性、猫耳を生やした双子、大剣を背に背負う女性が姿を現す。・・・残りのライザー眷属が集結したのだ。

 

「随分と物静かだな。リアス・グレモリーの《兵士》と《戦車》」

 

仮面をつけた女性が2人に話しかける。

 

「この程度動じてたら、戦いには勝てないさ」

 

「確かにな・・・・・・ならばその力を見せてもらおう!」

 

そう言って、仮面をつけた女性は翔へと突っ込んでくるが、その間に小猫が割って入る。

相手はそれを見て、足を止める。

 

「・・・・・・貴方の相手は私です」

 

「むっ!お前は・・・」

 

「リアス・グレモリーの《戦車》塔城小猫です」

 

「そうか、私の同じ《戦車》か。私はイザベラ。ライザー様にお仕えする《戦車》だ!」

 

小猫とイザベラの2人は接近し、拳と蹴りを繰り出す。

イザベラの一撃一撃を小猫は小柄な体を利用して、最小限に避けて、攻撃の隙を縫って、先ほどと同じように寸勁で攻撃を繰り出そうとするが、イザベラは柔軟な動きでそれを躱す。

 

「やるな、グレモリーの《戦車》よ! いきなりギアを最大まで上げても問題なさそうだ!」

 

「・・・・・・貴方こそ翔先輩ほどじゃありませんが、かなりの強さです」

 

「むっ! あの《兵士》はそれほどの実力者か・・・・・・ぜひとも戦いたいものだ!」

 

「・・・・・・相手は私です!」

 

「ッ!? ならば、お前を倒してからにしよう!」

 

イザベラの言葉に苛ついたのか、小猫は鋭い突きを放つ。

それを片手で受け止めたイザベラだが、一瞬苦悶の表情を浮かべる。

だが、すぐに表情を戻し、嬉々として小猫と戦いを続ける。

 

「さてと、とりあえずは最初の相手はフェニックスであるお嬢さんか?」

 

翔は軽く祐斗と小猫の戦いを眺めてから、金髪のツインロールの女の子に話しかける。

 

「・・・・・・よく私がフェニックスとわかりましたね?」

 

翔の言葉に目を見開いて驚きを示した後、感心したように言う女の子。

 

「ここに来るときに、相手がどれくらいの人数がいるのかを探った際に、ライザーと似たような気配を感じてな・・・。君はおそらくライザーの血縁関係ではないかと思ったのだが、どうやら当たりのようだな」

 

「ええ、私はライザー・フェニックスの妹であるレイヴェル・フェニックスです」

 

服の両側の裾を持ち、優雅にお辞儀をする女の子―――レイヴェル・フェニックス。

 

「妹の君が何故ライザーの眷属にいるんだ? 純粋な悪魔ならば、そのうち『悪魔の駒』を手に入れられるはずなのだが・・・・・・」

 

修行の際に教えられた悪魔の知識を思い出しながら呟く。

すると、その呟きが聞こえたレイヴェルは、はぁ・・・と深い溜息を吐いて呆れた声で翔の疑問に答える。

 

「お兄様曰く、『ほら、妹萌えっていうの? 憧れたり、羨ましがる奴多いじゃん? ま、俺は妹萌えじゃないけどさ。まぁ形として眷属悪魔ってことで!』っと言っていましたわ。まったく何を考えているのやら・・・・・・」

 

思わず額に手を当ててしまう翔。

それもそうだろ。そんなくだらない理由で実の妹を眷属にするとは馬鹿にもほどがある。

 

「・・・・・・苦労してるんだな」

 

「ええ・・・。馬鹿な兄を持つと大変ですわ」

 

翔の言葉にしみじみと呟くレイヴェル。

 

妹か・・・

 

『翔兄さん』

 

綺麗な黒髪を風で靡かせ、こちらを振り向き、微笑みを浮かべる女性の姿が思い出される。

 

今思い出すことじゃないだろ・・・

 

頭を振って脳裏に思い出された人物を頭の隅に追いやる。

そして、思考を切り替える。

 

「それにしても不死が2人もいるとはな・・・・・・。これは面倒なことになった」

 

ライザーだけなら何とかなるが、流石に現段階で不死を2人同時に相手するのは厳しいな・・・

さて、どうするか

 

翔はレイヴェルとその他のライザー眷属を注意しながら、これからどうするかを考えていると、レイヴェルからまたもや驚きの言葉を聞く。

 

「いいえ、私は戦いませんわ」

 

「・・・・・・・・・は?」

 

レイヴェルから告げられた言葉に、少しの沈黙の後、素っ頓狂な声を思わず漏らしてしまう。

それを見て、クスクスっと口元に手を当てて、上品な笑みを浮かべるレイヴェル。

 

「私はあくまでも形だけの眷属。それに私は出る必要はありませんわ」

 

その言葉に翔は怪訝な表情を浮かべる。

 

「《王》であるお兄様は『不死鳥』。決してやられることのない“不死”。あまり言いたくありませんが、リアス様に勝ち目はありませんわ」

 

僅かに顔を歪めさせて言うレイヴェル。

 

「君はこの試合は不満なのか?」

 

「・・・・・・ええ。正直言ってこんな出来レースで婚約を決めていいとは思えませんわ」

 

「なるほど・・・。だが、決めつけるのは些か早いだろ?」

 

「えっ・・・ですが、《王》が不死では勝ち目が・・・」

 

レイヴェルの言葉にやれやれっと肩を竦めてから答える。

 

「先に言っとく・・・・・・不死に絶対などない。聞いた話だと、神クラスの一撃、もしくは精神が尽きるまで攻撃を与えればいい。―――死ぬまで殺せばいい。簡単な話だろ?」

 

「あっ貴方は自分で何を言っているのか理解していますの? 少なくとも精神を折るまで倒すのは至難の業ですよ」

 

「確かにそうだが・・・あのお坊ちゃんのライザーにそれほどの胆力があるとは思えない」

 

「・・・・・・ええ確かにそうですわ。ですが―――」

 

レイヴェルは一旦言葉を止めて、片手を挙げる。

すると、今まで控えていた残りの眷属達が一斉に翔の前へと立ちはだかる。

 

「こちらもフェニックスの看板に泥を塗るわけにはいかないので、全力で貴方をここで倒させてもらいます!」

 

レイヴェルの声を合図に、残り全ての眷属達が一斉に翔に襲い掛かった。

 

「ハァアアアア!」

 

気合の入った声と共にカーラマインは炎を纏わせた剣を振るうが、祐斗はそれを受け止め、鍔迫り合いをする。

 

「中々やるなリアス・グレモリーの《騎士》よ! ここまでの技量をもつ《騎士》はそうはいないぞ!」

 

「お褒めの言葉をありがたく頂戴するよ!」

 

「だが、いいのか? そちらの《兵士》1人に対して、我らは残りの眷属を当てている。急いで加勢すべきだろう」

 

「翔くんに対しては心配ないね。なんせ彼は僕達の中で1番強い!見てみなよ!」

 

祐斗の言葉を受け、カーラマインは一旦間合いを開けて、翔が戦っている場所に視線を向けると驚きの光景があった。

翔が相手しているのは、ライザーの残りの《騎士》と《僧侶》が1人に《兵士》2人の計4人。

明らかに翔が不利なはずなのに、全くと言っていいほど、翔は押されていなかった。

《騎士》の一撃を避け、双子の《兵士》の息の合った体術も躱していた。

表情を見るにまだまだ余裕であることが窺える。

さらに言うなら、翔はまだこのゲームで一度も神器の赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を能力はおろか、顕現さえしていない。実力差は嫌でもわかってしまう。

もっともライザー側は翔が何の神器を持っているかは知らないのだが・・・。

リアスが赤龍帝である翔を眷属にしたことを知っているのは、リアスの実家・・・つまりグレモリー家と魔王だけと極僅かな者達だけだ。無暗に情報が流れれば、面倒なことになるためだ。だが、このゲームで翔が赤龍帝だと知れ渡ってしまうだろう。

 

「まさかこれほどとは・・・!?」

 

「(それに翔くんは一度も赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を使ってない。ライザー・フェニックスの時のために残しているんだろうね・・・)」

 

内心でそう考えながら祐斗は修行の時に翔が言っていたことを思い出す。

確かに神滅具である赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)の能力は絶大だ。だが、弱点もある。

主な弱点としては、倍加させるのに時間がかかるという点だ。しかし、これは相手の攻撃を避け続けられる技量があればたいして問題ではない。問題なのは倍加した際にかかる負担だ。『身に余る力は、身を滅ぼす』。

簡単に言えば、風船を膨らますのと似たような原理だ。無理に膨らませ過ぎた風船は破裂するのが通り・・・・・・翔自身の力量を越えた倍加は翔自身を滅ぼすことになる。

修行の時に翔は『Explosion!!』で力発動できる限界倍加は5回まで、と言った。

だが、それでも上級悪魔を越え、最上級悪魔に匹敵するかもしれないほどの力である。

 

「(だから、翔くんは最小限の力でこの場を制するつもりだ)・・・・・・あまり悠長には出来ないね」

 

祐斗はそう言って、両手で持っていた剣を右手だけに持つ。

その様子を怪訝な表情で見ていたカーラマインであったが、次の瞬間、驚愕の表情を浮かべる。

 

「往くよ―――魔剣創造(ソード・バース)!」

 

力強い掛け声と共に、祐斗の左手にもう一本の剣が“創造”される。

氷のような刀身をした剣が姿を現す。

 

炎凍剣(フレイム・デリート)!一気に決めさせてもらうよ!!」

 

二刀流となった祐斗は一気にカーラマインへと肉迫する。

最初は驚いたカーラマインであるが、すぐに動揺を抑え冷静に対応しようとするが、カーラマインの持つ剣が、祐斗の炎凍剣と衝突したときに、炎を纏った剣は一瞬で凍らされ、そして砕け散った。

 

「なっ!?」

 

驚きの声を漏らすカーラマイン。

そして祐斗はそのまま、右手に持つ光喰剣で袈裟斬りし、左手の炎凍剣で逆袈裟に斬り裂く。

カーラマインの胴体にはクロスの切り傷が完成され、口から血を吐きだす。

だが、その表情は満足気であった。

 

「見事だ・・・」

 

相手である祐斗に賞賛の言葉を贈り、カーラマインは光に包まれた。

 

『ライザー・フェニックス様の《騎士》1名、リタイア』

 

グレイフィアの放送が流れる。

 

「なっ!? カーラマインを倒すなんて!!」

 

遠くで様子を見ていたレイヴェルが驚きの声を上げる。

すると、複数の敵を避けている翔から声が上がる。

 

「レイヴェル・フェニックス。中々のやるだろ?グレモリー眷属も。ほら、《戦車》同士の戦いにも決着がつきそうだぞ」

 

翔は不敵な笑みを浮かべて言う。それを聞いてレイヴェルは小猫とイザベラが戦っている方に視線を向けた。

体中には殴られた後や、鋭い蹴りによって衣服が僅かに破けていたりしていた。

小猫とイザベラは互いに口の端から血を流しながらも、殴り蹴り合いをやめなかった。

すると、一旦両者は間合いをあける。

小猫はスゥ・・・ハァ・・・、と呼吸を整えており、対するイザベラもその場で軽くステップを踏み、自身のリズムを整えている。どうやら互いに次で決める気でいるようだ。

 

「・・・・・・決めます!」

 

気合の入った声と共に小猫は思いっきりイザベラに向かって駆け出す。

イザベラもその場で腰を軽く落とし、何にでも対応できるようにする。

小猫は駆け出した勢いを殺さずに、イザベラに右肩と背面部があたるように突進する。

中国拳法の靠撃(こうげき)と呼ばれる突進系の技だ。修行中に翔が小猫に見せた技で、小猫が見よう見まねでやったのだ。

 

「そんな直線的な攻撃が最後の技だと!」

 

憤りと落胆が混じったような声で叫ぶイザベラ。

一直線の攻撃のため、一対一の戦いでは軌道が読まれ、躱されカウンターを入れられる可能性がある。

だが、そんなことはやっている小猫も百も承知。

イザベラは小猫が自身とぶつかる直前で横に避け、強烈な蹴りを放とうとするが、小猫はイザベラが避けた瞬間、その場で右足を強く踏み込み、突進の勢いを殺さず反時計回りに自身の体を回転させて、イザベラの蹴りを紙一重で躱し、無防備なイザベラの脇腹に突進の勢いと回転の勢いを加えた強烈な左肘打ちを喰らわせる。

ソーク・クラブと呼ばれるムエタイの回転肘打ちであり、これも靠撃同様に翔が修行中に小猫に見せた技だ。

その威力はイザベラの内部にまで貫き、内臓にダメージがダイレクトに与えた。

 

「がっ!?」

 

内臓に襲い掛かる痛みにイザベラは口から血を吐き出し、そのまま崩れ落ちる。

そして、光に包まれた。

 

『ライザー・フェニックス様の《戦車》1名、リタイア』

 

これで残すは《王》と《女王》に《僧侶》と《騎士》が1人、そして《兵士》が2人の計6人となった。

人数で有利であったライザーであったが、今ではリアスと同様の数になってしまった。

だが、祐斗と小猫には戦闘の疲労が残っているので、まだ油断できない状況だ。

傷はアーシアに治してもらえばいいが、体力までは回復しない。そのため、ライザー相手を相手にするまでにどこまで体力を残せるかが重要だったのだが、2人はそれほど焦ってはいない。

何故なら、翔がいるからだ。神器も使わずにライザーの眷属4人を同時に相手しているというのに、疲労の色は微塵も見えず、まだまだ全力すら出していないからだ。

 

「さて、祐斗と小猫もしっかりと終えたようだからそろそろ決めるとするか」

 

「馬鹿にして!」

 

呟く程度の声量だったが、接近していた《騎士》には聞こえたようで怒りを見せながら手に持つ大剣を振り下ろすが、翔はタイミングよく大剣の腹に手刀を当て、刀身を叩き斬る。

なっ!? と驚きの声を上げる《騎士》だが、翔はすでに次の動作に入っている。

翔は相手に半歩前へと踏み出しながら中段突きである崩拳を繰り出す。これは半歩崩拳(パンプポンケン)と呼ばれ、中国拳法の1つ形意拳である。単純だが難度の高い技で、極めれば『半歩崩拳、遍く天下を打つ』と呼ばれたように絶紹となるほどである。ちなみに絶招とは簡単に言うと奥義である。

一撃で相手を沈めた翔は、次に猫耳を生やした双子の《兵士》の間へと一息で間合いを詰める。

片方の《兵士》には、単純に右拳で正拳突きを喰らわす。だが、突進力と腕の瞬発力を加えられ、

重心移動で自身の全体重を乗せた突きだ。その威力は計り知れない。

そして、すかさずに隣にいた《兵士》には、正拳突きで突きだした右腕を引き戻し、今度は左拳で

正拳突きをする動作を行うが、全く逆方向に力を発しさせ、空手の動きにおける引き手でもって

肘打ちを喰らわせる。

近くにいた3人を降した翔は、少し離れた位置にいた《僧侶》に一瞬で目の前に移動した。

相手の顎を掠めるように突きを放った。それにより相手の頭骨内部で脳が振動激突を繰り返し起こし、典型的な脳震盪を引き起こさせた。いきなり現れた翔に驚くこともできずに《僧侶》はその意識を遠い彼方へと旅立った。

それぞれに一撃だが、全てが完璧に入った一撃だ。ごふっ!? と血を吐きながら崩れ落ちる3人と意識を失い崩れ落ちる1人。そして、光に包まれた。

 

『ライザー・フェニックス様の《僧侶》1名、《騎士》1名、《兵士》2名、リタイア』

 

まさに一瞬の出来事と言っても言いだろう。瞬く間に倒されるライザー眷属達。

翔の動きをちゃんと視認できたのは《騎士》である祐斗くらいだろう。小猫も目を凝らしてもかすかにしか見えなかった。

 

「こっこれがリアス様の《兵士》・・・・・・。実力が違いすぎますわ・・・ッ!?」

 

あまりの出来事に呆然としていたレイヴェルであったが、すぐに意識を取り戻させて、驚きの声を上げる。

それもそうだろう。すでに成人し、ゲーム経験者であるライザーの眷属達をいとも容易く倒したのだ。驚かない方が可笑しい。

 

「さてと、後は―――」

 

ドォオオオオオオオオオンッ!!

 

ライザーだけだな、と言おうとした翔であったが、その声は運動場から離れた場所の上空から聞こえた爆発音に止められた。

 

「ッ!? 朱乃!」

 

すぐにそちらへと視線を向けた翔。

視線の先には爆発で起きた煙の中から、ボロボロの朱乃が落下していた。

それを見た瞬間、翔は一瞬で朱乃の元へと行き、受け止めた。

 

「・・・翔、さん・・・。すみ、ません・・・。油断して、しまいましたわ・・・」

 

辛そうに息をしながら、謝罪の言葉を述べる朱乃。

瞳からは一筋の涙が流れる。

眷属の中でもっともリアスといた朱乃。大切な友を助けられなかった自分の不甲斐なさから出る涙だ。

それに対して、翔は片手でその涙を優しく拭うと、微笑みながら朱乃に言う。

 

「涙なんか似合わないぞ・・・。後は俺達に任せろ」

 

はい・・・、と弱々しい動きで翔の手を掴んで笑みを浮かべながら返事をする朱乃。

その笑みは今までのニコニコとした笑みではなく、朱乃の本当の笑みだ。

朱乃は光に包まれて、翔の腕から姿を消す。

 

『リアス・グレモリー様の《女王》、リタイア』

 

朱乃に掴ませた手を強く握りしめる。

彼女の思いを自身に籠めるように・・・。

 

「あら、今度は坊やがお相手なの?」

 

すると、上空から悪魔の羽を生やしたユーベルーナが姿を現した。

服は所々破けているが、傷が見当たらない。

それを見て、翔は僅かに眼を鋭くさせて呟く。

 

「・・・フェニックスの涙を使ったのか」

 

フェニックスの涙

フェニックス家だけが製造できる回復アイテム。その効果は凄まじく、それが1つあれば戦況を大いに変えることが出来る。

 

「ご名答。1試合に2個だけ使用が許されているアイテム。そっちにも回復系の神器使いがいるから文句は言えないでしょ?」

 

随分とふざけた事をぬかす・・・。回復役がアーシアにしか居ないこっちに対して、そっちは不死が

2人に誰にでも持ち運びが可能な回復アイテムが2つ・・・・・・

利便性の差なんて考えるまでもないだろうに・・・。だが、可笑しい・・・

 

内心で舌打ちをする翔であるが、途中で可笑しな点に気づく。

今まで頭の隅で疑問に思っていたことが、さらに強くなる。

 

何故、フェニックス家側はこちらにフェニックスの涙を渡さなかった?

人数不足の上に経験もないリアス。回復系の神器である聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)を持っている者がいるというだけで、フェニックス家側がフェニックスの涙を渡さない理由にはならない・・・

・・・むしろ後々に文句をつけられたくないと思えば、渡しておくはずだ

婚約がかかったゲームを公正に勝負を行わなければ、傷になるのはむしろ不死身の特性に加え、戦力でも経験でも圧倒的優位なライザー側だ・・・・・・。いくらライザーが馬鹿な奴だとしても、その親までは違うだろう・・・。レイヴェルを見る限り、そこまで酷い貴族とも思えないな・・・

 

そこまで考えて、翔はとりあえず思考を止める。

現在考えることじゃないと思ったからだ。

 

「まぁそれはどうでもいい。お前の最初の疑問に答えるとすると、答えは“No”だ。何故なら―――」

 

「僕達が相手だからださ」

 

「・・・・・・翔先輩速すぎです」

 

翔の言葉に続くように悪魔の羽を出し宙に浮かんでいる祐斗が言う。

続いて小猫も祐と同様に悪魔の羽中に浮かびながら一言呟く。

 

「だとさ・・・。悪いが俺は先を行く・・・だが、その前に―――」

 

翔はゲームが始まって初めて赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を顕現させた。

 

「なっ!? それはもしや神滅具の1つ―――」

 

赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)だ」

 

ユーベルーナの言葉に続くように己に宿す神器の名を言う。

 

「・・・・・・危険だわ、坊やは。貴方みたいな子は結構好きなんだけれど、ライザー様の元へは行かせられないわ。ここで潰させてもらうわよ」

 

「出来ると思っているのか? 俺は今までこれを使わなかったのは単純に必要なかったからだ。

それに―――」

 

『Boost!』

 

籠手から機械的な音声が流れる。

 

「最初に言っただろ? お前の相手は俺じゃない」

 

翔の言葉が終わると同時に、後ろにいた祐斗と小猫が前に出て、ユーベルーナと対峙する。

 

「これは餞別だ」

 

『Transfer!!』

 

翔が2人の肩をそれぞれ掴むと、籠手から今まで聞いたことがない音声が流れたと思ったら、赤いオーラが2人に流れ込むと、魔力が上昇した。

 

赤龍帝からの贈り物(ブーステッド・ギア・ギフト)。倍加させた力を他に移す力だ。もっとも、2つに分けたからたいして上がらんがな」

 

翔はそういうが、祐斗と小猫は思わなかった。

今までの戦闘で消費した魔力や体力で最強の駒である《女王》に挑むのは無謀だ。

ここで2人の能力が上がったのは大きい。

 

「フェニックスの涙を使って回復しているが、その後に朱乃が頑張ったおかげで万全の状態じゃない。つけいれる隙はあるはずだ。―――頼んだぞ」

 

「うん!」「はい!」

 

力強い声を出す2人に思わず笑みを浮かべる翔。

だが、すぐに真剣な表情になり、この場を後にする。

 

「行かせると思っているのかしら!」

 

杖から光弾を飛ばすユーベルーナであるが、それは祐斗が投擲した炎凍剣にぶつけられて相殺されてしまう。

 

「思う思わないじゃない」

 

「・・・行かせるために私達が来たんです」

 

剣を構える祐斗、拳を握りファイティングポーズをする小猫が言う。

 

「あら、随分と言うじゃない。なら、精々頑張って私を足止めすることね!」

 

複数の爆発の光弾を自身の周りに作り出し、容赦なく放つユーベルーナ。

 

戦いは終盤へと迎えた。

 

 




感想、意見受付中!

戦闘描写が難しい!
書くのがものすごく難しく、2周間ほどかかってしまいました。
これから大丈夫かな・・・?
とりあえず2週間に1回は投稿していきたいです。



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