その日の深夜、彼の自室にて。
「あっちぃー。なぁ照、机の上にお茶置いてなかったか」
「これのこと?」
「サンキューな………あー旨い」
須賀くんは残っていた緑茶を一気に飲み干すと、ペットボトルを部屋の隅に置かれたゴミ箱へ投げ込んだ。緑色の筒は直線状に空を切って――外れ。小さく舌打ちをしてから身体はそのままベッドに倒れ込む。床に散乱するゴミがまた一つ増える前に私はボトルを拾い上げた。
「明は気付いてるのかな」
「どうだか……知ってて何も言わないだけかもな」
「だとしたら恥ずかしいね」
「『恥ずかしい』で済む問題か?バツが悪いなんてもんじゃねーよ」
「須賀くん」
「ん?」
「明のこと、本当はどう思ってるの」
「また夕方の話を蒸し返すつもりか?何度聞かれても考えは変わらないし、そんなオカルトありえないっての。照が過敏になってるだけだろうさ」
「嘘」
「嘘って、何がだよ」
「本当は気付いてるのに見て見ぬふりしてるだけでしょ。私には分かるもの」
「どうしてそんな…………まさかお前、照魔鏡か」
「ふふ、やっぱり」
「覗いたんだな」
「あれは人の本質を見透かすためのものだよ。嘘発見機じゃない」
「真面目に答えてくれよ」
「本当だって。理由なんて特にはないけれど、須賀くんならそんなことじゃないかって思っただけ」
これが白旗を上げる代わりだとでも言いたげに、彼が深く溜息をつく。
「………心当たりが無いわけじゃないんだ。ただそれは麻雀じゃなくてさ、もっとこう……歩き方とか料理の味付けとか、ふとしたときの手癖とか。仕草っていうか、とにかくそういうのがそっくりなんだよ。親子だから勝手に似るもんなのかと思ってたし、特に気にしてたことは今までなかったんけどな」
「ふうん、よく見てるんだ」
「……なんだよ。含みのある言い方だな」
「別に……へくしゅん」
今夜は底冷えする。十分ほど前に須賀くんが暖房を切ってしまったせいだろうか、不意に体中を寒気が走っていった。私は持ってきたパーカーを羽織ってから再び立ち上がって、
「そろそろ寝ようかな」
「そうですか。おやすみなさい、照さん」
「おやすみ」
「ちゃんと暖かくしてくださいよ」
「京ちゃんもね」
部屋から廊下に出ると、まるで別世界に来てしまったかのような――ついさっき感じたものとは異質の薄ら寒さを感じた。明かりも物音も、人肌の温もりもない丑三つ時の暗闇が私を待っていた。早く布団に入ってしまおう………
静かに、静かに扉を閉めた。