Angel Beats! AFTER BAD END STORY   作:純鶏

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EP15 ― dream in the future part 2

 今の時間は6時ちょっと前くらいか。制服からジャージに着替え、オレはついさきほど、史織と一緒に大食堂にやってきた。

 大食堂の中では、テーブルに座って夕食を食べている学生や券売機の前に立っている学生達がちらほらと見える。比較的今はまだそこまで混んでいないようだが、きっとこれから段々と学生が増えてくるのだろう。

 

 

「はい、牛肉カレーおまちどうさま」

 

 

 券売機で食券を買い、カウンターに持って行って食堂のおばちゃんに手渡した。すると、中では手馴れた作業をこなしていくように、おばちゃん達がスムーズにお盆の上に料理を盛り付けていく。手渡し口の前で待っていると、約2分も経たずに注文したカレーとサラダを用意してくれた。いつも思うが、こんなに早く出来たての料理が来るのは食堂ならではなのだろう。きっとNPCのおばちゃん達は何百年もやっているからこそ出来る芸当なのかもしれない。

 

 

(さて、史織は……っと)

 

 

 注文した牛肉カレーを持っては、先に料理を持ってどこかのテーブルに座った史織を探す。階段近くのテーブル付近まで行くと、通路や階段から離れた壁側に近いテーブルのとこに史織は座っていた。あえて人通りの少なさそうな場所を選んでくれたのだろうか。どちらにしても、馴れ馴れしいようなやつや知ったかぶりをしたNPCに話しかけられるのは避けたい。史織の気配りが有難く思える。

 

 

「ゆー……づるくんは、牛肉カレーにしたんだ」

 

「最近、食べてなかったからな。メニュー見ていたら、なんとなく熱々のカレーが久しぶりに食べたくなった感じだ。そういう朝霧は、ナポリタンにフルーツポンチに……って、またいつものイチゴ大福か」

 

「やっぱり、これは欠かせられないんだよね。まぁ、食後のデザートにと思って注文したの」

 

 

 いつものことではあるが、史織はほんとイチゴ大福が好きだなと思う。毎日1個以上は絶対に食ってるんじゃないのだろうか。

 でも、食後のデザートならフルーツポンチの方が適している気がしないでもない。いや、それ以前に、フルーツポンチいらなくないか? あと、イチゴ大福って3個セットのやつだから、1人で3個も食うつもりなのかよ……

 

 

「私、あんまりカレー注文しないけど、けっこう美味しそうだね。ねぇ、それって辛いの?」

 

「んー、そこまで辛くはないかな。どちらかというと、やや辛口くらい? オレとしてはもっと辛い方が好きなんだけど、ここのメニューに激辛カレーはないからな」

 

「たしかここの食堂って、激辛麻婆豆腐はあるんだっけ。麻婆豆腐は激辛あるのにカレーには激辛がないのはなんでだろうね?」

 

 

 そういえばそうだ。そこらへんは謎ではあった。日本人の味覚による基準なのか、食堂というものの定番でそうなっているのか。ただ、カレーといえば辛口。麻婆豆腐といえば激辛。というのが、この世界の学生達にとって需要があるものなのだろう。

 でも、食堂のおばちゃんに頼めば、多少は新メニューを増やせたり、変更も可能らしい。たしか、死んだ世界戦線メンバーで生レバーを増やしてもらい、何度も注文していた猛者がいたと聞いたことがある。

 

 ただ、生レバーは腐りやすいせいかは知らないが、食った人間は必ず腹を下すとか何とかで、メンバー内に噂が広まっては誰も注文しなくなったらしい。今ではメニューから消えているあたり、ほんとに誰も注文しなくなったのだろう。てか、好んで生レバーなんて食うやつは少数しかいないだろうから、自然的にそうなるのは仕方ないのだろうけど。

 

 

「そういえば、今日はどうだった? 授業には出れた?」

 

「あ……いや、今日は結局授業には出られなかったんだ」

 

「そっか、結局無理だったんだね」

 

 

 史織の顔は少し悲しげではあるが、どことなく優しい。授業を受けれなかったことを責めるつもりはないようだ。史織に気を遣われている自分が少し情けなく感じてしまうが、これに限ってはどうしようもないのだから仕方がない。

 

 

「一応は学習棟の中までは入れたんだけどな……」

 

「でも、仕方ないよ。また無理して授業の時に吐いちゃったりしたら大変だもん。今度、円堂先生とかにどうやったら負担がなく授業受けられるようなるか相談してみようよ」

 

「そうだな。今度、ちょっと話してみるよ」

 

 

 円堂先生……か。何回か会って喋ったこともあるけど、悪い先生でないことは知っている。生徒の話に真摯に聞いては考えてくれるあたりは、良い先生であると言った方がいいのだろう。

 だけど、結局NPCであることには変わりはない。自分にとって都合の良いように態度を変えたり、親身に話しかけたりすることもあるから、正直気持ち悪く感じることもある。

 

 

「あの先生って生徒のことをよく考えてくれるし、結構頼りにもなるから、きっと結弦くんの力にもなってくれるよ。それで、いつか一緒に学校行けるようになるといいよね」

 

「ああ。そうなったら良いよな。そうなったら朝霧ともっと一緒にいる時間が増やせるもんな」

 

「うん。そうなったら一緒に弁当を食べたり、学校帰りに一緒に図書館に行ったり、一緒に買い物に行ったりとかいろんなこと出来るね」

 

「それで、2人で一緒の大学にも行くんだもんな。そのためにも、一緒に勉強も頑張ったりしないとな」

 

「……はぁ。せっかく楽しいこと考えてたのに、勉強もしないといけないと思ったら、なんだか現実に戻された気分に……」

 

「こればかりは、学校生活なんて楽しいことばかりじゃないからな……でも、楽しい未来のためにもお互い頑張っていこうぜ」

 

「そうだよね、そのためにも中間試験頑張らないとだね! よぅし、頑張るぞ~!」

 

「ああ、その意気だ」

 

 

 史織はそう意気込むと、止めていた手を動かしてはナポリタンを食べ始める。オレもカレーが冷めてしまうので、食べることにした。

 

 正直言うと、オレは今を生きていくしかない。未来を見据えるわけじゃなく、刹那的な考えで生きて行く。一瞬一瞬の目の前のことだけ考え、今という時間を過ごしていく。今は、それでいい。難しく後先のことを考えたって、何も変わらない。未来を予想すればするほど、不安になってしまうだけなのだから。

 

 

「そうそう。オレ、部活に入ることにしたよ」

 

「あーっと、柔沢くんの部活に入るんだっけ?」

 

「え、知ってるのか?」

 

「だって柔沢くん、嬉しそうに話してたもん。結弦くんが入ってくれたの、相当喜んでたみたい。ちょっと涙目だったし」

 

「そうか……それなら良かった」

 

 

 そういや柔沢には、部活の詳しい活動内容とか聞いてなかったな。そこらへんとかももっとよく聞いてから、部活に入るべきだっただろうか。ちょっと不安になってきたな。

 いや、ここで迷っちゃいけない。自分で言ったことを曲げるつもりはないんだ。どんなんであれ、入ると決めたのだからそこを覆すことは自分としてのプライドが許さない。

 

 

「あれれっ? しおりんじゃない? 何してんの、ここで~?」

 

 

 夕食を食べる人が増え始め、座れる席がないか探している最中の女子生徒が急に近づいてきた。どうやら、史織の知り合いらしい。そういや、史織の知り合いの女子なんて初めて見た。

 

 

「あ、つーちゃん。つーちゃんも夕食?」

 

「そうそう、いつもこの時間帯に食べに食堂来てるんだけど、しおりんがここにいるの珍しいね……って、この人は?」

 

「え、音無くんだけど……あれ? たしか、つーちゃんと一緒なクラスだったよね?」

 

「えっ? そういや……ああ、そうだった。音無くんだ。音無くんじゃない。ここ最近見かけないから、すっかり顔を忘れちゃってたわ」

 

 

 まさかの、自分と同じクラスの女子だったとは。オレの名前を言ってくる辺り、こりゃあ知り合い補正か何かがかかってるな。

 

 

「えっと……すまない。名前が思い出せないんだが……」

 

「えー、去年も一緒なクラスだったじゃないの。ここ数ヶ月会わなかっただけで、忘れちゃった感じなの? って私も顔を忘れてたから人のこと言えないわよね……えっと、私は“三河月子”だよ。どう、名前聞いて思い出せない?」

 

「ああ、そういえばそうだったな。すまない、オレもすっかり忘れてたよ」

 

 

 明らかに初対面のはずなんだけどな。

 でも、こういう場合は適当に受け答えしていく方が良い。変に真面目に受け答えすると、こういったNPCはとても馴れ馴れしい感じになってくる。

 

 

「まぁ、人間誰しも忘れることあるよね。そうやって人は、大切なことを覚えていくようになるんだろうなーって思うようになったんだけど……ん? あれ? なんか忘れているような……? 音無? 音無結弦? 音無結弦って言えば……あの紫野せいと」

 

「ああっ! ねぇねぇ、つーちゃん! ちょっといいかな!!」

 

 

 史織が急に立ち上がり、三河という女子の一人語りを遮っては、手を引っ張る。史織の行動に、三河月子も口が止まったようだ。

 

 

「ごめん、ちょっと女の子同士で話したいことがあるから、ちょっと行ってくるね。えっと、待っててね」

 

「あ、ああ……わかった」

 

 

 そう言うと、史織は三河月子の手を引いて行ってしまう。一緒に持っていけばいいものの、三河月子は今まで持っていた肉うどんをテーブルに置いたままにして行ってしまった。目で追う限りでは、方向的にはトイレに向かっている感じだろうか。

 それにしても、史織はどうしたのだろう。急に焦ったように立ち上がっては、2人でどこか行ってしまうなんて。あの女子の言葉に何か気に障ったのだろうか。それとも、オレに聞かれたくないような用事でもあったのだろうか。

 

 ま、どちらにしても、史織が三河月子というNPCを連れて行ってくれたおかげで助かった。正直、話を合わしていくのが面倒になっていた。それに彼女は話が長くなりそうではあったからな。

 

 もしかしたら、史織はオレが三河月子のことを嫌がっているのを察したのだろうか。テーブルだって、あんまり人と会わないようにして壁側を選んだんだろうし、史織の知り合いならなおさらだ。史織が空気を読んで、三河という女子を別の場所に連れて行ってくれたのかもしれない。むしろその可能性の方が高いし、そう考えるのが妥当だ。

 

 

(とりあえず、カレー全部食ってしまわないとな)

 

 

 史織が戻るまで食べるのを待っててもいいが、それでは注文した牛肉カレーが冷めてしまう。別に食べるのを待っててと言ったわけじゃない。さっさと食べてしまった方が、いいかもしれないな。

 

 それにしても、やっぱりか。人が多い場所に来ると、やっぱりこういうことが起こってしまう。特にオレと関わりがある設定を持つNPCは、性格が変わるくらい人が変わったりする。自分が関わらなければNPCが変わることはないっぽいけど、実際どういう仕組みでそれがどうなってんのか分からないんだよな。

 ただ、史織は他のクラスであったおかげか、そういった脳内設定が加わる様子は今も見られていない。そして、そのまま親しくなったおかげもあってか、今も史織と関わっていて違和感を覚えることがないから助かっている。

 

 だけど、脳内補正というか親しい関係であるように脳内設定が加わることを踏まえて、今後は史織と行動するべきかもしれない。自分一人のときはまだ良いけど、史織と一緒にいて他のNPCと関わると、史織自身にもそういった変化が起こるかもしれないのは確かだ。根底から変わってしまうことはないと思うが、何かしら変化が起きることはあるかもしれない。そういった積み重ねが、史織という人物を変えてしまうのではないかと思うと、途端に不安になってきた。

 

 

 カレーを食べ終えて水を飲んでいると、史織がこっちに向かっているのが見えた。もう一人の三河月子というNPCの姿は見られない。どうしたのだろうか。

 

 

「ごめん、待たせちゃったね。ちょっと学校のことで話があったの。急にごめんね」

 

「ああ。べつに構わないが……さっきの三河さんはどこに行ったんだ?」

 

「えーと、なんか他の友だちと一緒に食べる約束があるんだって。今は、その友だちを探しに行ってる。あの子、多分ここで食べたいだろうし……だから、ちょっと私達が席を移動しようか」

 

「え、オレ達が? いや、別に構わないけど」

 

 

 何でオレ達が移動しないといけないのかがちょっと腑に落ちない。勝手にここに来たのだから、あの三河月子がどっか別の場所に行けばいい話だ。それに、肉うどんを放置したまま、友人を探しに行くとかも変な話だ。そんなことをしたら、肉うどんが冷めてしまうと思うんだが。

 

 でも、史織がそう言うのだからそうしよう。とりあえず、これ以上あの三河月子とかいうNPCと関わり合いたくない。今ならまだどっか探せば空いてるテーブルはあるかもしれないしな。

 

 

「あ、じゃあこのカレー食い終わったから返してくるよ。ついでに、飲み物買ってくるよ」

 

「わかった、じゃあ奥の方ならテーブルも空いてると思うから、私は先に席に座って食べてるね」

 

 

 そう言うと史織は、今まで食べていたものを持っては、玄関側であり大きい窓側でもある奥側のテーブルの方へと向かって行った。

 さて、自分もさっさと返却口に持っていて、自販機で何か飲み物でも買おうか。何を買おうかな。そこまで喉が渇いているわけじゃないけど、せっかくだからKeyコーヒーのブラックでも飲もうかな。

 

 オレは足早に、食べ終えたカレー皿をのせたお盆を持って、返却口へと向かった。

 

 

 

   ×    ×    ×    ×

 

 

 

 カレーを返した後は一度トイレに寄り、その後自販機で無糖のKeyコーヒーを買って、史織を探す。

 史織は一番端っこのテーブルに座っては、注文したナポリタンを食っていた。

 

 

「ここにいたのか」

 

「うん、ここの方がいいかなと思って」

 

「そうだな、ここならさすがに人が通らなさそうだもんな」

 

 

 さっき座っていた場所が悪かったわけじゃなかったが、さすがに周りのテーブルが空いてる中にオレ達が座っていたもんだから、逆に目立っていたのかもしれない。

 でも今なら、人が増えてきたおかげもあってそこまで目立ちにくい。これなら、オレのクラスメートとか朝霧の知り合いに話しかけられる可能性は低くなった。

 

 

「そのコーヒーって、ブラック?」

 

「ああ、ここんとこ加糖の方ばかり飲んでたからな。たまには無糖もいいかなって」

 

「へぇ、ブラック飲めるのすごいなぁ……私には絶対無理だな」

 

「案外飲み慣れてくると美味しく感じるんだけどな。今ではたまに麦茶みたいな味覚になることもあるし」

 

「えっ!? 麦茶に? さすがにそれはないんじゃない?」

 

「いや、それが不思議と麦茶の味になるんだって。ブラックコーヒー飲んでると、たまにそんな味に変わるんだよ」

 

「えー、信じられないけどなぁ。コーヒーなんて私には苦すぎて飲めないし、味なんて分からないもん。それにコーヒーって飲んだら眠れなくなるじゃない。むしろ、結弦くんがよくコーヒー飲んでも普通に眠れるのかが不思議だよ」

 

「まぁ昔は眠れなくなったりしたんだけど、今はいくら飲んでも眠れるようにはなったな。そこらへん、やっぱ体に耐性が出来たのか単に慣れたのか分かんないな」

 

 

 コーヒーと言えばカフェインが入っている飲み物で、飲むと眠れなくなるというイメージがある。だけど、コーヒーを飲んでいる人で飲んだせいで眠れなくなるということはないようだ。

 しかし、コーヒーに含まれるカフェインの量というものは相当なものだ。本来なら眠くはならないはずなのだが、他の人に聞いても眠たくなると言う。やはり、体が慣れてしまっているからなのではないかと思ってしまう。

 

 

「でも、コーヒーに含まれてる……カフェインだっけ? それってガンとかの病気の予防に良いってどこかで聞いたよ。だからコーヒーは体に良いんだって言ってた。本当かどうか分かんないけど」

 

「へー、ガン予防に良いのか。でも確かに、それって何を根拠にそう言ってんのか分かんないよな。それに、カフェインが体に良いってのも、イメージ的には想像つかないな」

 

「私もそう思うな。どちらかというと、体を無理させる感じがするもん。それに、ガン予防になるからってコーヒーを飲もうとは思わないかなぁ」

 

「むしろ、飲み過ぎると体に悪いって話の方がよく耳にするし、コーヒーなんて好きで飲むものであって、健康のために飲むものじゃないよな」

 

「そうそう。野菜ジュース飲んでた方がよっぽど健康維持できそうだね」

 

 

 そんな会話をしながら、オレがコーヒーを飲み切ったところで、史織もちょうどフルーツポンチを食い終えたようだ。残るはデザードのイチゴ大福だけだ。

 史織がデザートを食べ終えて部屋に戻ったら、2人で勉強してはその後ダラダラ過ごして寝る感じになるのかな。それで明日は、担任の円堂先生に会いに行かなきゃならないのか。あ、それと柔沢に戦研部のことも聞かないとな。入部するとは言ったけど、正式に入部したわけじゃないし、入部届も書かないといけない。

 

 

「そういや、入部の申請ってどうするんだ? 入部届みたいな紙を書いて、顧問の先生に渡せばいいのか?」

 

「えっと確か、生徒に関する書類とか紙は生徒会が取り扱っているんじゃなかったかな。ここの学校のシステムでは、部活動のことも含めて生徒に関することは色々と生徒会が管轄しているみたいだし」

 

「そうなのか。じゃあ、入部届は生徒会室に行けばあるのか?」

 

「まぁ、ある……とは思うけど……うーん、忙しいだろうから、生徒会室に行くのはちょっとやめといた方がいいと思う。入部届なら柔沢くんに頼むか職員室に行って顧問の先生に言ってもらえばいいと思うな。それに、顧問の先生が誰かは知らないけど、入部するって挨拶しに行った方が良いんじゃないかな」

 

「ああ、なるほど。それもそうだな」

 

 

 顧問の先生に直接会いに行って、自分が入部することを言うのは確かに必要なことだ。そこらへんも含めて、柔沢ともっと話さないといけないな。教室に行けば会えるだろうし、最悪教室には行けなくとも、夕方に部室を訪ねればきっと会えるはずだろう。

 

 

「ねぇ、ちょっと聞きたいんだけどさ。結弦くんって、生徒会長のこと知ってる?」

 

「生徒会長って……たしか、紫野とか言うやつだっけか? 一応、会ったことはあるから知ってるけど、その生徒会長がどうした?」

 

「いや、単に知ってるのかなって思っただけだから。私も会ったことがあるんだけど、生徒会長なだけあってなんだか他の人とオーラみたいなものが違うなぁーって」

 

「ああ、たしかにな。オレも一回だけ直接会って喋ったことがあるけど、他のやつとは確実に違うよな」

 

「そうそう。って、生徒会長と喋ったこともあるんだ。そっか、会ったことがあるのか……むしろ、だからだね」

 

 

 多分、オレの言っていることと史織が言っていることの意味合いには違いがあるのだろう。たしかに、他のNPCと比べたらオーラというか雰囲気が違うのは確かだ。

 でも、それ以上に普通のNPCとは違うような何か。周りのNPCにはないような凄みを持っていた。明らかに能力らしきものも持っていたし、この世界のことについても何か知っていそうな雰囲気だった。絶対にただのNPCではないことは間違いないのだろう。

 

 だからと言って、あいつは人間じゃない。あくまでNPCの範囲内で異質であるというだけの話でしかない。

 いや、もしかしたら人間なのかもしれないな。けれど、どうにも人間であると断定することが出来なかった。あの紫野という生徒会長と会話した限りでは、人間という確証は得られなかったことが大きい。

 

 なんだろうな。例えるなら、まるで立華かなでみたいな感じだろうか。異質な感じではあるんだけど人間らしさが見受けられなかった。なんだか、この世界に来た人間じゃないような感じだった。疑惑の念を抱いていたオレを無視して、生徒会の仕事を優先したこともそうだし、今もオレにコンタクトを取って来ない辺りが人間のように感じられない要素になってしまう。

 

 

「そういや、前の生徒会長って誰だったか覚えてるか?」

 

「前回の生徒会長? えーっと……あれ? 誰だったかなぁ? 今の生徒会長のイメージが強すぎて、どんな人だったか忘れちゃったな」

 

「そうか……いや、忘れちゃったんならいいんだ別に」

 

 

 立華がいた頃は、立華自身が生徒会長という役職を持って色々と活動していた。だから、もしかしたらNPCの記憶に残ってたりするのかなと淡い期待を持って聞いてはみたんだが、史織が知らないんじゃあ、やはり他のNPCにも記憶に残っていないんだろうな。

 

 

「それよりもさ、話変わるんだけど。私、最近スマホ買おうかなーと思うんだけど……結弦くんもどう? この際、一緒にスマホ買わない?」

 

「……その、“スマホ”ってなんだ?」

 

「スマホって言ったら、スマートフォンじゃん。今年から校則が少しゆる~くなって、ケータイも持ってもいいみたいになったじゃない。それから最近はみんなも持つようになってきたし、だから私も買おうかなーって。一緒にスマートフォン買ったら、いつだって連絡取り合えるようになるよ」

 

「いや、ちょっと待ってくれ……その“スマートフォン”ってのは携帯電話の名前か何かか? すまないがそういうのには疎くて分からないんだ、教えてくれ」

 

「スマートフォンっていうのは、簡単に言うとタッチパネル式の携帯電話のことで、アプリってのを活用して普通のケータイより便利で何でも出来るようになった携帯電話って感じなのかな」

 

「えーっと……タッチパネルとかあんまり分かんないが、つまりは最新式の携帯電話ってことで良いのかな?」

 

「うん、まぁそれで合ってるかな。とりあえず、前まではこの学園内に持ち込み禁止になってたんだけど、現生徒会長のおかげもあってなのか、持ってもいいことになったの。私もあまり興味はなかったんだけど、クラスの子が使っているの見てたら欲しくなっちゃってさ。とりあえず、ケータイあったら便利かなと思ってさ。一緒に買わない?」

 

「ああ、まぁ良いけど……最新式なら高いんじゃないのか? それこそ普通に2・3万くらいするんじゃあ……」

 

「そこまで安くはないでしょ。どこの電話会社に新規で入るかにもよるんだろうけど、せいぜい安くて5・6万程度だと思うけどな」

 

「え? 携帯電話で、5・6万? まさか……嘘だろ?」

 

 

 信じられない。オレが生前の頃は携帯電話なんてみんなが持ってはいたが、割と高校生でも手に入るように安く手に入るものだった。それなのに、5・6万もする携帯電話なんて誰が欲しがるのだろうか。スマートフォンというものがどれほど便利なものかは知らないが、携帯電話なんて最悪電話とメールさえ出来れば良い。多少ネットが繋がれば良いとは思うが、この世界でネットなんてものは存在しないだろうし、したところで必要性をあまり感じない。

 

 

「スマートフォンじゃなくても、ガラパゴスケータイでも良いとは思うよ。ただ、みんな段々とスマホにしてるから、ガラケーだと逆に珍しい感じになりそうではあるけど。あ、ガラケーってのは、折り畳み式とかスライド式とか昔のやつね」

 

「あ、ああ。とりあえずはケータイを持つことには賛成だ。でも、実際に大型量販店に行ってみないとな。その時にどうするか決めることにするよ」

 

「わかった。じゃあ、今度一緒に買い物に行く? 終末だと混むかもしれないから、明日か明後日の放課後あたりにでもどうかな?」

 

「そうだな、せっかくなら明日行くか。じゃあオレはそのつもりで明日は円堂先生に会いに行った後、夕方は部屋にいるようにするよ」

 

「うん、じゃあそうしよっか」

 

 

 明日の夕方の予定が決まったところで、史織もイチゴ大福を食べ終えてお茶を飲んでいる。お茶を飲み終えた史織は、ほんと満足そうな表情だ。美味しかったと言わんばかりの顔をしている史織を見て、自分の頬もまた緩んでしまう。

 幸せな雰囲気の中、オレ達は夕食を終えて自分達の部屋へと戻っていく。勉強が面倒ではあるけれど、自然と明日の予定が楽しみとなってきたせいか、嫌な気分にはならなかった。

 

 

 ああ、幸せだ。なんて改めて考えたりすることはないけれど、日々の中で感じているものが幸せというものであるのは間違いないのだろう。

 史織と過ごす幸せな日々は永遠に変わらない。幸せな日々は決してなくなることはないと。疑うことさえもせずに……




15話:dream in the future  ー  “未来に夢見る”


前回と今回は、朝霧史織との会話回という内容でした。
書いていた時はラブラブバカップルな感じになってしまい
あまりにも酷かったので、途中全面的に修正しました(遠い目

音無との仲が良いシーンを書きたかったためにこのお話を書いたのですが、
まさか話の本筋の内容に関わる要素が入ってしまうくらい内容が増加しました。
そのためにも話を分割しまして、
そして、日常のパート1と物語の本筋のパート2で区分けしました。

そして次回からは、皆様おまたせしました。
vol.2も半分くらいが終わり、後半戦ということで、
本編の物語はクライマックスに向け進んでいきますのでお楽しみに。

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