Angel Beats! AFTER BAD END STORY   作:純鶏

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話の内容が長くなりましたので、分割しました。
なので今回の話は2つで1つのお話になっています。


EP14 ― dream in the future part 1

《2011年5月24日11時30分頃:3-B教室内》

 

 

「柔沢、ちょっと来てくれ」

 

 

 3限目の授業が終わったところで、今まで授業をしていた円堂先生に俺は呼びだされた。教卓まで行っては、何の話かと思えば、先生の親戚の子である堕花(おちばな)のことだった。相変わらずこの先生は、堕花のことばかりを心配している。

 確かに、あいつのことが心配になるのは分かるが、それでもあいつはあいつなりに考えて自分の意思を持って行動している。変に口を出して良いことじゃない。これだから、大人というやつは……

 

 特にこの先生は、自分の娘のことを見ない。出来た娘であると言って、正面から見ようとしない。心配すべきなのは堕花じゃなく、娘の円堂緑の方だろ。

 

 

「もういい。あんたと話してもラチがあかない! もうあいつの勝手なんだから、あいつがやりたいようにさせりゃあいいだろ!」

 

「ちょっと待て柔沢! まだ話は終わってない!!」

 

 

 円堂先生の言葉をスルーして、教室の扉を開けては教室の外へと出て行った。

 イライラする気持ちが治まらない。そんな状態のまま、廊下を足早に歩いていった。

 

 

「ったく、なんなんだあの人は! 全然分かっちゃいねぇよ。なんでいっつもああなんだ!」

 

 

 そう、いつものことだ。あの人は変わらない。何を言ったところで、何も変わらない。そんなことは分かっているからこそ、俺自身もいつものことだと割り切っていた。

 

 しかし、いつからだ。ここ最近、怒りという感情が抑えきれない。まるで、寝不足でキレやすいというか。ほんと、カルシウム不足なのではないかと疑いたくなるくらい、すぐにイライラしてしまう。

 

 

 そんな感情抱きながら階段を下っていくと、見覚えのある顔の男子が見えた。辛そうな表情で、階段のそばにいる。

 見た瞬間、何故かイラ立ちが消えた。音無に話しかけようと思った。朝霧に頼まれていたこともあったが、それ以上に話しかけないといけないような。そんな感覚に陥る。

 

 そうだ、音無に話さないといけないことがあったんだ。音無と出会うと、何知れぬ意思を抱いてしまう。仲良くしないといけないような、変な感情のようなもの。まるで、誰かに命令されているかのような……いや、さすがにそこまでのものじゃない。単に、音無とは仲良くしたかったんだ。きっと、そうだ。そうに違いない。

 

 

 俺は、音無に声をかけながら階段を下りて行った。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

《2011年5月24日17時40分頃:男子寮第3棟の3200号室》

 

 

(ふぁ……っ、ねむっ……)

 

 

 部屋の中でベッドに横になりながら、推理ものの漫画を読む。ただ残念なのは、何回か読んだことがあることだ。内容を知っているのだから、犯人と犯行の動機もトリックも分かっている。正直、何度も読むものではない。

 

 だけどこの世界では、人間として堕落させるようなもの。曖昧ではあるが、エロいものとかテレビゲームなどそういった娯楽は、割と乏しかったりする。もっと探せば色々とあるのかもしれないが、漫画に関して言えばそこまで多くない。発売されている漫画のジャンルも限られているし、内容もサラッと軽く読めるようなものはけっこう少ない。店頭に並ぶものの大半は、人間として向上させる何かが含まれていそうな漫画ばかりだ。

 

 ましてや、自閉症の子のノンフィクションものとか戦争経験者による体験談ストーリーとかの大型本が結構多い。正直そんなのを読んでいても、一度読めばもういいかなという気持ちになる。

 

 でも、少女漫画に関してはそこそこ充実してある。そろそろ少女漫画にでも手を出してみようかと考えているところではあった。

 

 

「……眠いなぁ。一旦寝ようかな」

 

『やめとけ、また寝れなくなっちまうぞ。最近やっと寝れるようになったんだぞ。ここで寝ちまったらまた寝不足になって朝が起きれなくなっちまうよ』

 

「まぁ、それもそうだな……眠いけど我慢するか」

 

『そうそう。結局授業サボったんだから、そんなに疲れてもねぇだろ? ちょっとNPCと一緒にお遊戯したくらいじゃねぇか。あれで疲れたなんて言ったら、授業なんてもっと疲れるってもんだ』

 

「そりゃ……そうだろうけどさ」

 

 

 本当は、授業を受けるつもりだった。今日こそは授業を受けるためにと、午前中は頑張って学習棟まで向かった。なのに、オレは午後から学習棟に行くことはなかった。

 結局のところ、行けるわけがなかった。元々、午前中の授業ならまだ机に向かってノートを書くだけの内容の授業。古典や世界史など比較的受け易そうな科目であっただけに、頑張って行こうという気持ちにはなっていた。それで、本来なら授業を受けては大食堂で昼食を取って、そのまま学生寮の部屋に帰る予定だった。それなのに、その予定は柔沢と出会ったことによって崩れてしまったのだ。

 

 べつに柔沢が悪いわけじゃない。柔沢と色々あったことで、少し気が楽になった。たしかに、部活とやらに入ることになって不安がないわけではない。でも、柔沢とならまだやっていけそうな感じがする。それこそ、他の見知らぬNPCと関わるよりかは断然楽な気がする。

 それはきっと、柔沢がNPC臭くないからなのかもしれない。見知ったように、とても馴れ馴れしく接してくるやつや変な目で見てくるようなNPCが多い。そんな中で柔沢は、NPCの中でもまともというか、どことなく人間臭いような何かが感じられた。

 

 とは言っても、そう感じるのは、最近までNPCを避けていたからかもしれない。最近は、NPCにも人間らしい一面があることがわかった。以前はどのNPCと出会ってもそんなことはなかったのだが、NPCにだってよく探せば本当に色々いるのだろう。案外自分と気が合うやつはちゃんと探せばけっこういるのかもしれないな。

 

 

 でも、だからといって、授業が受けられるわけじゃない。さすがに柔沢との勝負を終えた後だ。今日は授業を受けようという気持ちが高まることはなかった。きっとNPCとだって、個人個人で関わっていくくらいなら大丈夫なのだろう。授業を受けるというだけで、何も気負うことはないのだとは思う。

 なにせ、クラスという多くの人数のグループの中に新しい人間が入っていくというのは、なかなか難しいことだ。それは、その教室によって存在する空気。見知らぬ人間がすぐには馴染めないような雰囲気。それに適応していくのはそんな容易なことじゃない。それこそ自分が教室に入っては場違いな空気を味わい、耐えなければならないことくらい予想できる。

 

 そのうえ、以前の教室から逃げ出したこともあって、変な目で見られるかもしれない。冷たい目で見られるかもしれない。そんなことを想像するだけで、気持ちが滅入ってしまう。

 

 

「……はぁ、面倒だ」

 

 

 溜め息が出てしまう。授業を受けるだけならそんなに苦労しないはずなのに、受けることが出来ず立ち止まってしまっている自分が情けない。1回受けてしまえばどうってこともないのだろうけど、その1回がどうしても踏み出せないのだから困ったものだ。

 こんな時、朝霧と一緒なクラスだったらどれだけ良かったか。最近はそんなことばかり思ってしまう。極論を言えば、そりゃあ朝霧の教室に行って一緒に授業を受ければいい。でも、さすがに他のクラスで授業を受けるなんてことはハードルが高過ぎる。それこそ、クラスのNPCから部外者扱いされて、冷たい目で見られてしまうのがオチだ。

 

 

「ただいま~」

 

 

 部屋の扉の方から朝霧の声が聞こえる。どうやら、今日の授業を終えて帰って来たようだ。つい嬉しくなってしまい、漫画を置いてベッドから跳ね起きる。

 

 

「あっ、おかえりー! 今日も早かったんだな」

 

「だって、中間試験が近づいているからね。勉強してから帰っても良かったんだけど、早く帰れるんなら早く帰るに越したことはないかなって。それに、ゆーくんにも早く会いたかったし……」

 

「朝霧……」

 

 

 嬉しさのあまり、胸が締め付けられる。

 ああ、オレに会うためにいつも早く帰って来てくれるなんて、ほんとかわいいやつだ。こんなかわいいやつ、今まで会ったことがない。死後の世界だけでなく、生前の時でもこんなに可愛い女の子はいなかったと朝霧に言いたくなる。

 

 

「はぁ~、それにしても今日も疲れた~。もう、中間試験の勉強とかやりたくないなぁ……」

 

 

 朝霧はカバンを床に置き、ベッドに腰を下ろしてはオレの隣に座る。さらには、ベッドに横になって気持ちよさそうにしては、オレが着ている学生服の袖を指でつまんで引っ張る。オレもベッドに横になってということらしい。

 横になると、朝霧は天井を見ていた。この後、また勉強しないといけないという現実から目をそらしたいのか、遠い目をしてぼんやりとしている。

 

 

「そうだな。でも、朝霧はオレと一緒に天上大学の医学部を目指すんだろ? それなら、もっと成績が上がるよう頑張ろうぜ。勉強ならオレも手伝うしさ」

 

「はぁ……ゆーくん授業受けてないくせに、なんでそんなに勉強が出来るのかほんと不思議なんだけど……」

 

 

 そりゃあ、今まで勉強してきたから。としか言いようがない。自分自身そこまで頭が良いわけではないが、高校の勉強は一通りやってきた。時間は経ってはいるが、ある程度は理解しているつもりだ。今から新しいことを覚えるのではなく、以前覚えたことを思い出すようなものだから、授業を受けなくても勉強は出来る。

 

 そりゃあ今更勉強なんてしたくはない。勉強したところで意味なんてないのだから、したところで徒労に変わるだけだ。でも、朝霧が大学を目指すというのなら、それを手伝ってあげたいと思った。

 以前、自分の将来のことを聞かれ、なんだかんだで自分が天上大学という大学の医学部を目指しているということになってしまった。その上、話の流れで朝霧も一緒に同じ大学を目指すことになった。別に一緒な大学を目指す必要はないと思うのだが、今後もオレと一緒にいたいがために頑張っている朝霧を見ていて、オレが止めることが出来るわけがなかった。

 

 

(…………大学、か)

 

 

 正直言うと、自分が大学を目指しているということは複雑な心境になる。医者になるという夢を抱いたまま死んだオレが、また勉強して大学を目指しているなんて、笑えてくる。叶わなかった夢を叶えようともう一度奮闘したところで、大学には行けても医者になれるわけじゃない。大学に受かるという目標はあっても、それが最終目標ではないのだから。

 それに実際、大学にだって本当に行けるわけじゃない。卒業すれば朝霧ともお別れになるだろうし、そのまま、またこの学園で暮らすことになる。考えたくはないが、実際にそうなる可能性が高い。

 

 だけど、時間はまだたくさんある。今はとりあえず、朝霧のために出来ることをするだけ。ただ、それだけだ。

 

 

「はーあ、このまま寝ちゃおうかな?」

 

「いや、ダメだろ。まだ5時過ぎだぜ、寝るにはまだ早い。それに着替えてからじゃないと制服にシワができちまう」

 

「え~、つれないな。いいじゃない、夕方までゆっくりしてようよ!」

 

「いや、でもほら、それなら先に面倒くさいことやってからゆっくりした方がいいと思うぞ。ほらほら、面倒かもしれないけど、はやく着替えようぜ」

 

「はいはい、もう仕方ないなぁ」

 

 

 オレが朝霧の手を引っ張ると、朝霧はやれやれと言いたげだ。それでも、オレに構ってもらえるのが嬉しそうな朝霧の態度に、オレも顔が緩んでしまう。

 ほんと、朝霧は可愛いらしい。さっきから“かわいい”という言葉ばかり頭によぎるが、かわいいのだからかわいいと表現してもおかしくはない。むしろそれ以外の言葉がパッと思いつかないくらいだ。それくらい、オレからしてみれば本当にかわいいのだ。

 

 

「じゃあ……」

 

「うん?」

 

「面倒だし、ここで着替えちゃおうかな?」

 

 

 耳を疑った。単なる聞き間違いかと思ったが、朝霧は制服のヒモのネクタイを解いた。夏服のシャツのボタンにも手をつけ始め、確実に制服を脱ぎ始めている。

 

 

「い、いやいや、待ってくれ! さすがにそれはちょっとマズイというか、ダメだろ!」

 

「……ゆーくんってば、なに焦ってるの?」

 

「へ? だって、朝霧がここで着替えるって言うから……」

 

「さすがにここで下着姿になるわけないでしょ。もういやらしいなぁ」

 

「べ、べつにそんなつもりじゃ……」

 

「とりあえず着替えて来るね~」

 

「あ、ああ……」

 

 

 どうやら朝霧はオレをからかったみたいだ。本当に着替えるんじゃないかと焦ってしまった自分が恥ずかしい。いや、別に着替えても良いんだけどさ……いや、やっぱ良くないか。

 でも最近は、朝霧もこういったオレを困らせるようなことをしてくるようになってきた。たまに手におえない時もあるから、本当に困ることがある。いやむしろ、オレが困っているのが楽しいというのか、オレを困らせたいからこういうことをするようになったのかもしれないな。その可能性は十分にある。

 

 

「あ、それとゆーくん!」

 

「どうした朝霧?」

 

「その“朝霧”ってのは、やめて欲しいな。せっかく名前で呼ぶってことにしたんだから、部屋の中ではちゃんと“史織”って呼んで?」

 

「あ、そうだったな。すまない……史織」

 

「そうそう。名前で呼ぶのってやっぱり大事だと思うから……」

 

 

 そう言うと、朝霧はタンスからジャージを引っ張り出し、部屋のシャワールームの中へと入って行った。

 しかし、名前のことはすっかり忘れていた。どうやら、まだ朝霧と呼ぶ癖が残っているみたいだ。これからはちゃんと史織って呼ばないとな。

 

 

『それでおまえも着替えないのか?』

 

「そりゃ着替えるけど、でも、あさ……史織が着替えてからだな」

 

『なぁにチンタラしてんだよっ! 別に下着姿くらい減るもんじゃあねぇんだから、一緒に着替えちまえばいいじゃねぇか。それこそ、一緒に汗でも流したらどうだ? まぁ、それだと別の意味で汗かきそうだけどな。げへへへっ』

 

「…………はぁ」

 

 

 つい、溜め息が出てしまった。もう一人の自分であるナツキの発言に、何とも言えなくなってくる。こんなのが自分の中にいると思うと、なんだか悲しくなってきた。ほんと、下ネタ好きなおっさんみたいな感じがしてならないんだけど……

 

 

「茶化すんなら、口聞かないぞ」

 

『わりぃわりぃ。あまりにも2人が仲良しだったもんでな。ついつい茶々入れたくなんのよ。な、ゆーくん?』

 

「もう、いいよ……ったく」

 

 

 ナツキがいることで何かを気にするわけでもないが、たまにこうやって茶化してくる感じが面倒くさいというか、嫌というか。史織とのことを触れずに黙っていればいいのに、こうやって何かと言ってくる。正直言うと朝霧と会話している時は心臓を止めたいと思ってしまうが、さすがにそれは出来ない。息は止められても、心臓や血流を止めることはさすがに不可能だ。結局、自分自身が我慢するしかないのだろう。

 

 

『まぁ、でも……最近はほんとに元気いっぱいになってくれて嬉しいけどな。あ、下の方じゃねぇぞ? そこらへんは相変わらず元気だけどさ』

 

「いや、そんなことはわざわざ言わなくても分かってるよ」

 

 

 相変わらずナツキは下ネタ関連が好きだ。それは、ナツキ自身による性格によるものなのか本能的な生理的欲求からそういう言葉が出てきてるのかは謎だけど。

 

 

『結局、変に考えない方が良いってことだ。何度も言ってきたけど、自分の人生を悔いて自暴自棄になる必要はないからな。まぁ、それじゃあオマエ自身、気が済まないんだろうけどさ』

 

「さすがにもう自暴自棄になって自殺とかはしないよ。ただ……なんだろうな。自分の生きてきた人生だけは、未だに割り切れないというか。自分で自分自身を許すことも納得することもまだ出来ないんだ」

 

『そりゃそうだろうけどさ。でもやっぱり、俺としては自分を割り切ったうえで今の人生を楽しんで欲しいのよ。時間はそれこそ無限にあるわけだけど、今の生活が無限にあるわけじゃないからな』

 

「……そうだな」

 

 

 ナツキの言うことは、オレにとって今一番良いことなのだろうな。自分の人生のことを今更悔やんだり、後悔の念を抱いて生きるのは間違えているのだろう。それを分かっていつつも、心の底から後悔を拭うことが出来ないのは、やっぱり自分の中で納得できない何かがあるからだ。

 

 でもナツキがこうやって口にして言ってくれたおかげで、今の状態になれたと言っても過言ではない。そりゃあ朝霧がいたのもあるが、ナツキもまた一緒にいてくれたからこそ、自分が今こうやって元気に生活を送れるようになれた。そのことだけは本当に感謝してる。2人がいたからこそ、今の自分があるのだと言っても過言じゃない。

 

 

 ナツキとそんなやり取りをして、さっきまで読んでいた漫画を片づけていると、シャワールームの扉が開いた。どうやら史織は着替えを終えたようだ。まるで今からスポーツでもするかのように、髪を結んではジャージの袖をまくっている。やや大きめのジャージを着ている史織は、制服の時とは違って可愛らしさが増している気がする。

 

 

「それで、夕食はどうしよっか? また弁当でも買ってくる?」

 

「ああ、そうだな……今日は大食堂でも行って一緒に食おうか」

 

「え、いいの? 今の時間帯だと人増えるけど、大丈夫なの?」

 

「ああ、きっと大丈夫だろ。少しは人混みにも慣れておきたいし、ここ最近は弁当ものばっかりだったからな。せっかくなら大食堂で何か注文して食べようか」

 

「そっか、ゆーくんがそう言うならそうしよっか。じゃあ、ちょっと暑いけどこの長袖のジャージのままで行こうかな」

 

 

 史織は心なしか嬉しそうにしている。ちょっとウキウキしている、そんな史織が可愛らしく思える。

 たまに人混みの少ない8時頃に大食堂に行く時はあるが、注文できないものもある。史織にはいつも気を遣わせてばかりだし、たまには大食堂で好きに食べるのも良いだろう。

 

 

「じゃあ、ゆーくんもさっそく着替えたら?」

 

「ああ、そうするよ。さすがに今日は暑かったからな。シャツが汗だくだ」

 

「そうそう、今日は暑かったよね。あ、私気にしないからここで着替えたら?」

 

「いや、オレが気にするんだが……」

 

「まったく、仕方ないなぁ。男は男らしく着替えればいいのに」

 

 

 史織は腰に手を当ててため息を吐くと、そのまま歩いて行ってはシャワールームの中に入ろうとする。

 男であれ女であれ、着替えているとこを見られるのは誰だって恥ずかしいとは思うんだが。

 

 

「って、史織がシャワールームに入ってどうするんだ。逆だよ逆!」

 

「あっ、それもそうだね。私としたことがうっかりしてた。ふふっ、ごめんごめん」

 

「いや、わざとだろ……」

 

 

 オレのツッコミに対して、屈託なく笑う史織。笑った表情の史織を見ていると、まるでオレと一緒にいる時間を楽しんでいるように見える。ほんと、以前よりもだいぶ明るくなった気がするな。

 そんな史織が本当にかわいい。かわいくて、ほんとにかわいくて、史織をとても愛しく想ってしまう。愛しいという気持ちで満たされる。

 

 

 きっとこの気持ちが、俗に言う“愛”と呼ぶものなんだろうな。

 




話は次回に続きます。

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