「それはちょっと可哀そうな気がするなあ。Wデートとかしてデートの作法とか教えてやればよかったのに」
「・・・・・なぜかお前はWデートに自信を持っているようだが、兄貴の場合はあくまで結果オーライだからな」
「そうは言うけどね、愛ちゃん。女の子紹介してもあのザマじゃ紹介以前の問題よ。それにあいつらだって言うほどモテなかった訳じゃないのよ」
「えっ、そうなんですか?」
「・・・・・それは初耳だ」
颯太だって篤だって残りの連中だって結構ラブレターとかもらってたのよ」
「じゃ何で」
「颯太が廊下でラブレターを女の子から渡された時は、真っ赤になって叫びながらその場から逃げ出したわ。泣きそうになった女の子を慰めるのにどれだけ苦労したか。まあ、あたしの新しい彼女になってくれたんだけどね」
「そういうところが腹黒いと言われる由縁なんですね」
「偶然よ、偶然。泣きそうなその子を慰めていたら頼れると思ったらしくて向こうからアプローチしてきたのよ」
「颯太君は文句言わなかったんですか?」
「その子の顔も覚えてなかったわ」
「なんかあの連中がモテたいだの彼女が欲しいだのって言うのは、足し算覚えたレベルで相対性理論解きたいって言っているようなもんだね」
「そう、だから女の子の紹介は止めたの。それ以前に女の子に慣れろって言って」
Yukiは簡単に言ったものの、現在の状況を見ているととても成功しているようには思えない。それどころか颯太など寝ぼけたアンナちゃんにキスされただけで気絶する始末だ。
「大体あいつらに女の子を紹介するのは大変なのよ。5人まとめて紹介しないといけないし」
「えっ、5人に順番に1人ずつ紹介していけばいいんじゃないんですか」
「甘いわ、愛ちゃん。あいつらはね、すきっ腹の野犬と同じなの。待てなんて命令聞きゃぁしないわ。それに何より嫌いなのが人の幸せだっていうんだから、そんな連中に1人ずつ順番に紹介してやるから待ってろなんて言っても馬耳東風よ。誰か1人に女の子を紹介したら残りの4名が全力で妨害してくれたわ。そういう時のあの連中のチームワークときたら、そりゃ見事なもんだったわよ」
Yukiはそう言うとため息をついた。
「(なんかごく身近でそういう連中の話聞いた記憶があるんだけど・・・)」
「(・・・・・ああ、立派なFFF団の団員になれる)」
Yukiがコーヒーを一口飲んで話を続けた。
「そのうちある事件があってね」
「事件ですか?」
「そう、同級生が他校の不良に恐喝されたの。それを聞いた連中が喜んじゃって・・・・・」
「なっ、何で喜ぶんですか?人の幸福が許せないからですか」
「ああ、人ってのは自分以外の他の4人のことよ。喜んだのはお金を取り返すという名目で大っぴらにケンカできるから。何しろうちの学校の不良は、あの5人に散々ボコボコにされてたから目をつけられないように七三分けにして厚底メガネかけてたほどだもの」
「それってもう不良って言わないんじゃ?あの連中ってケンカ強かったんですか?」
「メチャクチャ強かったわね。何しろ5人同士で幼稚園の頃から毎日殴り合いしていた上に、朝夕とお母様会にボコボコにされていたんですもの強くもなるわよねえ。1人で不良中学生の10人程度なら勝てたわ」
「意外な事実だね」
「そりゃもう喜び勇んで学校飛び出してって、その日のうちにお金を取り戻して帰ってきたわ」
「ほう」
「それで済めば友達思いのいい話だったんだけどね」
「やっぱりロクでもない方向に話は進むんですね」
「外部の不良を殴る喜び覚えちゃったもんだから、ことあるごとに「不良狩りだー」とか言って学校飛び出して行ったわ。おかげで仲間内の殴り合いはなくなったけど、篤が颯太のお弁当の卵焼きを食べちゃったという理由で殴られる不良も災難よね」
「どんだけハタ迷惑な連中だったんですかねぇ」
「まあ、一般生徒には絶対に手を出さなかったのは偉かったわね。お母様会の躾が行き届いていたのね」
「・・・・・躾というよりも猛獣の調教に近いと思うのだが」
「まあ、そんな風にそこら中の不良を好き放題に締めていたら、不良連中が団結しちゃってね。ある日、70人の不良に河川敷に呼び出されたのよ」
「おい、ちょっとどうするんだよ向こうは70人だよ」
「心配するなYuki。俺たちは1人で10人は倒せる」
「・・・・・10×5で50人しか倒せないんだけど、残りの20人はどうするのさ」
「む、そうだったか。ということは1人で・・・何人倒せばいいんだ?」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・たぶん18人くらいじゃないか?」自信なさげに剛が言った。
4人が答えを求めるように一斉にYukiを見つめた・・・・・
「1人14人!!中学生なんだから割り算くらいできるようになれよ。しょうがない僕も一緒に行くよ」
「いや、ちょっと待てYuki。気持ちはありがたいが、お前にかすり傷でも負わせたら、不良相手のケンカどころじゃないほどの大ケガをお袋たちに負わさせられる」
「そうそういつも、何かあったらあんたたちは死んでもいいから、Yuki君を守りなさいと言っているんだ」
「うちなんかあんた達が死んでも誰も泣かないけど、Yuki君になにかあったら国家の損失だからねと言っているぞ」
「ふ、冷たい母親ばかりだな。うちなんか私の本当の子はYuki君であなたは橋の下で拾ってきた影武者なんだから、ちゃんとYuki君の盾になるのよと言ってるだけだ」
「いや、それはお前がわが子という事実に耐え切れなくなって、現実逃避しているだけじゃないのか?」
ケンカ前の緊張感もヘッタくれもあったものではなかった。