これが土屋家の日常   作:らじさ

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Yukiにお願いがあると呼び出された愛子と康太。中学時代の5馬鹿のアホな行動をさんざん聞かされげんなり。
Yukiのお願いとは、最近妹に彼氏ができたみたいでどんな男なのか探って欲しいというもの。その彼氏の名前を聞いた二人は硬直してしまう。「まさか・・・・・」。



9.友と初恋とシェークスピア
第1話


ある日、少年と少女はライブで知り合いになったスタイリストのYukiにファミレスに呼び出された。

 

「うううう、Yukiさん何の用なんだろう。ボクあの人苦手なのに」

「・・・・・ほう、お前にも苦手な相手がいるとは思わなかった」

「だってあの人、ライブの時にボっボクの生着替えを覗いたんだよ。トラウマだよ。」

「・・・・・いや、その表現はどうかと思うぞ。覗いたんじゃなくて、スタイリストとして楽屋に一緒にいただけだろう」

「結果的に同じだよ。乙女の生着替えだよ、生着替え」

「・・・・・仕事とはいえ大変だっただろうなYukiさんも」

「彼氏なんだからボクの心配をしなよ。将来の旦那さんにしか見せないって心に誓っていたこの柔肌をあんな男に見られるなんて」

「・・・・・男冥利につきるセリフだな。・・・・・・で、本音は?」

「男のクセにボクより美人だなんて絶対に許せない・・・・・」

少女は悔しさを噛みしめるようにテーブルの上の拳を震わせた。

 

「・・・・・そんなことだろうとは思っていたが、それは完全無欠ないいがかりだ。だいたいYukiさんは昔からああだから」

「ゲイなの?」

「・・・・・いや、あの人はああ見えても女好きだ」

「じゃ、なんであんな格好を」

「・・・・・本人曰く、おネエキャラの方がモテるんだそうだ」

「結構、計算高いんだね。そもそも一体どんな人なのYukiさんって」

「・・・・・そうだな。言ってみれば、霧島の頭脳と雄二の腹黒さと秀吉の外見を持った人だ」

「それってかなりのハイスペックだよね。なんでまたベクトルが真逆なあの5馬鹿と友達なのさ」

「・・・・・話せば長くなるんだが、ちょうど本人が来たから聞いてみろ」

そう言って少年はコーヒーを飲み干した。入口からYukiが入ってくるのが少女にも見えた。

 

「ごめんなさい。私から呼び出したのに遅れちゃって」Yukiは注文を済ませるとそう言って二人に謝った後、飲み物を注文した。

「・・・・・いえ、俺たちも今来たところですから」

「さっそくだけど・・・・・」

「その前にボク、Yukiさんに聞きたいことがあるんです」

「えっ、何かしら、愛ちゃん」

「あの、Yukiさんって何であんな連中と付き合ってるんですか?」

「あんな連中?・・・・・ああ、5馬鹿のことね。中学の同級生だったのよ」

「えー、でもYukiさんとあの連中って全然接点がなさそうなんですけど」

「うーん、そうね」Yukiはやってきたアイスコーヒーを一口すすった。

 

「愛ちゃんはちょっと勘違いしているようだけど、あの連中は・・・」

「バカじゃないんですか?」

「いえ、バカか否かと聞かれれば、大バカと言わざるを得ないんだけど、学校じゃそれなりに人気とか人望はあったのよ」

「想像できないなぁ」

「5人ともそれなりに運動神経はあったから、よく運動部の助っ人を頼まれていたわね。篤は陸上の100mで中央大会まで出たし、剛二に至っては柔道で全国大会まで出たのよ」

「部活とかすれば少しはマシな人間になったのに」

「それが5人一緒じゃないと嫌だというし、一緒にしたらしたで騒ぎ起こすし」

「騒ぎ?」

 

「野球部の助っ人で5人が一緒に試合に出たことがあってね。裕二がバッターボックスに立った時に、応援に来てた女生徒から声援が飛んだの」

「次に何が起こったか想像がつくんですけど」

「多分あってるわ。次の瞬間、味方ベンチからバットが4本飛んできて裕二を直撃よ」

「想像を遥かに超えていたね。それで大丈夫だったんですか」

「颯太のバカは「デッドバット4本分だから1点入るな」とかウソぶいていたけどね。」

「やっ野球ってそんなルールでしたっけ?」

「本当にそんなルールがあったら、あいつらの誰かがボックスに立つたびにベンチからバットが飛んで来てピッチャーの球を打つどころの話じゃなくなるわよ。」

 

うーん、今もバカだが昔はもっとバカだったんだなぁと少女は思った。

 

「でも、Yukiさんとは接点がないような」

「颯太と同じクラスだったのよ」

「ああ、それで」

「あいつは全然覚えてなかったけど」

「・・・・・・意味がわかんないです」

「ある日、私が彼女と繁華街を歩いていたら不良5人にカラまれてね」Yukiは遠い目をして言った。

「もう少しで殴られるという時に颯太に助けられたの」

 

「どうもありがとう土屋君」

「むっ、お前俺を知っているのか」

「知ってるも何も同じクラスの結城だよ。一学期は学級委員長だった」

「記憶にないな」

「・・・・・・もう二学期も半分過ぎているんだけど」

 

「という会話があってね」

「バカだという傍証がこれでもかとばかりに出てくるね。それで仲良くなったんですね」

「そんな甘いもんじゃないわ、あいつらは。その後同じことが3回あったのよ。その度に自己紹介するハメになったわ」

「・・・・・バカとかいう以前に脳に障害があるんじゃないのかな?」

「本人は「モテる奴は目にも記憶にも残らんのだ。結界が張られているのかも知れん」とか言っていたわ」

「モテる人がよっぽど嫌いなんだね」

 

しかし、常識で考えてクラスメイトを2学期まで覚えてないということが有り得るのだろうか。あいつらなら有り得ると思えてしまう自分もどこかおかしくなっているに違いない。というかよく考えてみたら自分の周囲には、代表とかアンナちゃんとか康太とか、いろいろと常識を超越する人間が多いことに気がついた。

 

そう考えれば2学期までクラスメイトの存在に気がつかないくらい普通かも知れない・・・・・・・・・・・・

と自分を納得させてみようとしたが、やっぱり無理だ。バカはどう取り繕ってみてもやはりバカだ。

 

メンテ


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