帰り道にお御籤売り場があった。
「よし、ここで各人お御籤をひく」
「兄貴、今時お御籤って流行らないよ」
「バカ者、神社にお参りしてお御籤を引かずにどうする。神様からの声だと思って今後の人生の指針にするがよいぞ」
「(お御籤ってそんなに壮大なものだったの?)」
「(・・・・・逆らうな。どこかの世界に逝ってしまっている)」
ということで颯太君の命令によって、みんなでお御籤を引くことになった。
「よし、各人それぞれのお御籤を取ったな。開け」颯太君の号令で一斉に開いた。
「中吉か、まあまあだな」
「・・・・・」
「・・・・・吉だ。用心が必要なのか?」
「・・・・・・・・・・」
「私は小吉です。ちょっと悔しいなぁ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「ふぇ~、ボク末吉だよ。アンナちゃんは?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「私は大吉デス」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「すご~い、見せて。なになに「待ち人:既に傍にいる」って合ってるじゃない」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「さっきから黙っているけど、颯太君はなんだったんですか?」
「うん?いや、大したことないよ、愛ちゃん。さあ、帰ろうか」
「そんなこと言わずに見せて下さいよ」ボクはそう言って颯太君の手からお御籤を奪い取った。
「え~っと、なになに。・・・・・凶。あ、でも恋愛運はいいじゃないですか。「待ち人:既に傍にいる」って」
「(大吉のアンナちゃんと凶の兄貴のお御籤の文言が一緒なんだが)」
「(・・・・・しかも、それがほぼ合ってるところが恐ろしいな、ここのお御籤は)」
「フフフフ」急に颯太君が笑いだした。
「どっどうしたんですか、颯太君。そこまでお御籤に人生かけなくても」
「何を言うんだ、愛ちゃん。さあ、練習は終わりだ。本番いくぞ」
「「「「「はぁ?」」」」」
「ライブでも何でも周到な練習なくして、成功はありえん。だから今のは練習だったのだ。さあ諸君、本番のお御籤を引こう」
「(おい、何か言いだしたぞ)」
「(・・・それより何をすれば、お御籤が成功したことになるのだ?)」
「(お兄さんって、勝つまでゲームやめないタイプだったんですね)」
「(颯太君って、どれだけ大人気ないの?)」
「(お御籤って、この番号をコンプリートすればいいんデスか?)」
颯太君のせいで、アンナちゃんがお御籤を間違って理解してしまった。
「何をグズグズしている。神様を待たせては失礼だ。早くひけ」
しょうがないのでボクたちはもう一度お御籤を引き、颯太君の号令で一斉にあけた。
「大吉だな」
「・・・・・大吉か」
「あら、私も大吉」
「えーっ、ボクも大吉だよ」
「私もまた大吉デス」
全員の目が颯太君に注がれた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「颯太君は何だったんですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・大凶だ」
「大凶なんて入っているもんなのか?」
「・・・・・恐ろしいほどの神の意志を感じる」
「まっまあ、後は良くなるだけと思えば・・・」
「スゴイなあ。大凶なんてボク初めて見たよ。ある意味、大吉より激レアだよね」
颯太君がワナワナ震えている。
「そう言えばアンナちゃんは、また大吉だったんだ。ちょっと見せて。恋愛運は「思うがままに突き進め」かあ」
今迄も十分突き進んできたと思うんだけど、神様のお墨付きが得られたわけだ。
「颯太君の恋愛運は何ですか?」
「えっ、恋愛運?「この門より入りし者、全ての希望を捨てよ」って、これがお御籤の文句かぁ」と言ってお御籤を地面に叩きつけた。
由美ちゃんがそれを拾って
「あらあらバチが当たりますよ。アンナちゃん、お御籤を貸してちょうだい」と言ってアンナちゃんからお御籤を受け取ると、
二枚のお御籤を重ねて折り畳み近くの木の枝に結んだ。
「これで大丈夫です。二人で半分っこ。アンナちゃんの幸運がちょと減っちゃうけど大丈夫よね、アンナちゃん」
「はい、ソータの側にいられる方が大事デス」
うーん、アンナちゃんは健気だなぁ。それにひきかえ颯太君ときたら
「ふん、俺はもともとこういうものは信じてないんだ。さあ、宿に帰って温泉にでも入ろう」と言って歩き出した。本当に大人気ない。
「(さっき、お御籤は神の声だから人生の指針にしろとか言ってなかったか?)」
「(・・・・・覚えてないだろう絶対)」
一人で先にズンズン歩いている颯太君の頭に鳩のフンが落ちた。
「「「「「あっ」」」」」
「・・・・・さぞや名のある神社に違いない」康太が境内を振り返りつぶやいた。