これが土屋家の日常   作:らじさ

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商店街の福引でアンナが1等の旅行券を射止める。さんざん騒いだ末にみんなで温泉旅行に行こう颯太が提案。土屋兄弟のほかにアンナ、由美子、愛子も呼んだ6人で温泉旅行へ。
ところが神社仏閣が大好きだという颯太が張り切って案内してくれたのだが、神様から嫌われているとしか思えない事態が続発。
温泉に入ると思いもかけない連中までやってきて・・・



8.み籤と仲間と温泉旅行
第1話


「よし、全員揃ったな。念のため点呼を取る、番号」

「いち」

「・・・・・に」

「さん」

「ヨン」

「ご!」

 

「うむ、欠員なしだ」

「点呼なんか取らなくとも見りゃわかるだろう」

「陽太、そういう油断が事故を招くんだ」

「(ねぇ、康太。颯太君って温泉行ったことないの?なんか悪い薬でもやってるみたいに舞い上がっているみたいだけど)」

「(・・・・・温泉というよりも福引で当たって行けるというのが嬉しいんだろう)」

 

・・・・・一週間前

 

「ソータ、夕ご飯の買い物に行きまショウ」とアンナが言った。

「お前の買い物は尋常な量じゃねえんだよ。買った店から宅急便で宅配してもらえ」

「バカなこと言わないでくだサイ。荷物を持つのは夫の努めデス」

「そんなもんになった覚えはないと、何百回言えば理解するんだお前は」

「・・・・・ファーストキッス」

「うっ・・・・・」

「ワタシの唇をムリヤリ奪いまシタ」

「寝ぼけて俺の唇を奪ったのはお前だ」

「あれは寝ぼけていたからノーカンデス」

「そんな都合のいい話があるか」

「嫌がるワタシを押さえつけてムリヤリ乙女の唇を奪いまシタ」

「ちょっと待て、どれだけ話を脚色してやがる」

「そっちの方がドラマティックだとお母サンが・・・」

「あのババア・・・いいかアンナ、あいつの話は真に受けるな。買い物は付き合ってやるから、その話をよそでするんじゃないぞ」

 

「・・・・・エーット、わかりまシタ」

「なんで目が泳いでるんだお前は。まさかもう誰かに喋ったんじゃないだろうな」

「大丈夫デス。ユミコとアイコにだけデス」

「愛ちゃんは、一番喋っちゃいけない部類の人間なんだよ。どんだけ明後日の方向に誤解するかわかりゃしない」

「何か「アンナちゃん、大人の階段昇っちゃったんだね」としみじみと言ってまシタ」

「確実に最悪な方向に誤解してるな」

「大丈夫デス。アイコももうすぐコータと一緒に大人の階段を昇れるネとフォローしましたカラ」

「そりゃ、フォローじゃなくてトドメさしてるだけだ」

「顔が真っ赤でシタね」

「だいたいお前は、大人の階段って意味がわかってるのか」

「ファーストキスのことでショ?」

「もういい買い物行こう。おーい陽太、康太手伝え」

 

「なんで俺たちまで」と陽太がボヤく。

「・・・・・夫婦の問題は夫婦だけで解決すべき」康太も同調する。

「誰が夫婦だ。あいつの買い物は尋常じゃねぇんだよ。1回で段ボールに3箱も買いやがる」と颯太が答える。

確かに見ているとアンナは楽しそうに商店街を飛び回るようにあっちの店こっちの店と買い回り、その度に3兄弟の持つ荷物が増えていった。

 

「おい、アンナ。いいかげんにしろ。これ以上は持てん」

「ソータは体力なさすぎデス。パパならこれくらい一人でもてマス」

「スペツナズの教官と日本の民間人を比べるな」

「ところでソータ、お店でくれたこのカードはなんデスか?」アンナが福引券を差し出した。

「おお、これは福引券じゃないか」颯太の目が輝いた。

「フクビキ?」

「うむ、英語で言えばLucky Pullだな」

「いや、兄貴。それは全然違う上に、そもそも英語にする必然性が全くないんだが」陽太が思わずツッコんだ。

「よし、買い物はこれで終了だ。福引きを当てにいくぞ」颯太は福引き場に向かって意気揚々と歩きだした。

 

「なんで兄貴はああも福引きが好きなんだ?」

「・・・・・あれだけ好きな割には5等のタワシが2回当たったのが最高で、後はすべて6等のポケットティッシュなんだが」

「前世でどんだけ悪行を重ねたら、あそこまで外せるのかと思うほどのハズレ率だな」

既に颯太の手には9個のポケットティッシュが握られていた。残る回数は1回だけ。

 

「凄いデス、ソータ。ティッシュを9個もゲットしまシタ」アンナが心から感嘆の声をあげた。

「悪気がない分だけ破壊力のあるイヤミだな」陽太がツブやいた。

 

「フフフ、俺を本気にさせたようだなロシア娘」

「アンナと呼ぶ約束デス」

「そんなことはどうでもいい。俺の本気を見せてやる・・・」そういうと颯太はひざまずき祈りの言葉を唱え始めた。

「高天原に神留まり坐す 皇が親神漏岐神漏美の命以て八百万神等を神集へに集へ給ひ・・・」

「何かと思えば神頼みか」

「・・・・・福引きを外し続けただけで、祝詞まで覚えたのか、あの男は」

「ネエ、陽太」

「ん、何だいアンナちゃん」

「天にまします我らが父よ、み名が聖とされんことを。み国が来たらんことを・・・・・」

「・・・・・今度はキリスト教か」

「颯太はガラガラと何をやってたの?」

「ああ、あれは福引きと言ってあの機械を回して出てきた玉の色で景品がもらえるのさ」

「仏説摩訶般若波羅蜜多心経 観自在菩薩行深般若波羅蜜多時・・・・・」

「・・・・・今度は仏教か。どれだけ福引きに命をかけてるのだ、この男は」

 

「コレを回すんデスか?」アンナが無造作に抽選器を一回転させたところ、金色の玉がポロリところげ出てきた。

係員がカランカランと鐘を鳴らし「一等賞おめでとうございます」と大声で叫んだ。

 

「いと尊きアッラーの御名に・・・・・えっ?」

「ソータ、綺麗な金色のボールが出まシタ。これ貰えるんデスか?」

 

1等の景品は、10万円分の旅行券だった。


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