「よし、午前中の練習は終わりだ。昼食にしよう」
「ああ、腹減って死にそうだ」
「何食おうかな。かつ丼2杯は行けそうだぜ」
「普通にそれくらい食ってるだろう、お前は」
「あの~、皆さんボクお昼にサンドイッチを作ってきたんですけど」
「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」
「よかったら、皆さんでどうぞ」
「よし、ライブまで時間がないんだ。昼飯抜きで練習するぞ」
「あ、ボクがサンドイッチを・・・」
「今日しかないんだからな、お前ら」
「・・・・・作ってきたんですけど」
「Gon、お前バスドラがバラバラだったぞ」
「・・・・・・・・・・お昼に食べませんか?」
「気合を入れていくぞぉ~」
「「「「おおぉ~」」」」
「・・・・・・・・・・・・・・・・サンドイッチ」
「ほら、愛ちゃんも早くポジションについて」
「えっ、あ、はい。そうだ。」少女は振り向いて客席に向かって叫んだ。
「陽太君に康太。このサンドイッチを・・・・・」先ほどまで客席に座っていた二人の姿はどこにもなかった。
・・・・・・三時間後
「だめだ。目が回ってきた」
「空腹で倒れるか、愛ちゃんのサンドイッチ喰って倒れるか。究極の選択だな」
「バカやろう。俺は昨日イナゴ入りのおにぎり食ったおかげで、ライダー軍団と戦う夢を見たんだぞ」
「倒れてもいいから俺はサンドイッチ喰う」
「ライブ直前で倒れられてたまるか。喰うんならライブ終わってから喰え」
「それじゃ、意味ないだろう。倒れるだけ損だ」
既に少女のサンドイッチは劇物扱いとして、メンバーの共通認識になっていた。
「つーか、颯太の奴いつまで練習させる気だ」
「アンナちゃんといちゃつきたいだけじゃねぇのか」
「奴のやりそうなことだな」
「殺るか?・・・・・・」
空腹のせいかメンバーの発想が危険な方向へ走り出している。
視線を感じた颯太が言った。
「お前ら、人でも殺しそうな目をしてるぞ」
「ほう、良いカンしてるじゃないか。身体で味わってみるか?」
「よくわからんがこれでリハは終わろう。明日は3時集合な」
本人の気が付かないところで、あやうく命拾いした颯太であった。
「終わったぁ」少女は床に崩れるように腰を落とした。
そこに微笑みながらAtsushiが近寄ってきた。
「フー、シャアアァァァー」と少女は猫のように威嚇した。
「愛ちゃん、愛ちゃん。自分が人間であることを忘れちゃいけないなぁ」
「近寄らないでください。あなたの話はロクなことがないですから」
「それはひどいなぁ、愛ちゃんに良いことを教えてあげようと思っていたのに」とtsushiが微笑みながら言った。
「なんですか?」さんざんイジり回されてきた少女は警戒しながら言う。
「ライブの時に愛ちゃんの前にはマイクは置かない」
「それってどういうこと・・・・・?」
「つまりマイクで音を拾わないから、観客には聞こえない。それらしい格好だけつけてくれればいいってこと」
「・・・・・それだったら何とかなるかも、というかそれならわざわざボクが出る意味がないっていうことですよね」
「だからヨメーズとして出してあげたかったって言ってるじゃない」
「いいかげんにそのヨメーズって名称をなんとかしてください」
「音は拾わないけど、それらしく見えるように最低限は練習しといてね」と言って再び微笑んだ。
「はい、頑張ります」
その時、メンバー全員が目配せして怪しい微笑みを浮かべた事に、少女は気が付かなかった。
そして練習最終日が終わった。