これが土屋家の日常   作:らじさ

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第14話

「でもやっぱりカスタネットなんてできません、ボク」

「そうか愛ちゃんは、カスタネットはいやか」Atsushiはニヤリと笑って言った。

「ところで言い忘れていたんだが、うちのバンドにはバトルシステムというのがあってね」

「なんですか?それ」

「颯太がリーダー権限で導入したんだが、ライブやアルバムなどの節目には、ギターならギターの奴に楽器勝負を挑んで勝ったらパートチェンジができるというものだ。

颯太が自分がボーカルやりたくないから導入したんだが、利用しているのはあのアホだけだ」

「そんなにボーカルがイヤなんだったらバンド辞めればいいのに」

「だが、モテたいという欲求はそれ以上に強いのだ」

「というか今まで話を聞いてきて、誰からも音楽の話がでてこないんですけど、このバンド」

 

「いま、あいつはアンナちゃんの指導にかかりっきりになってるから、そのシステムの存在を忘れているようだが、一声かければ思い出すだろうなあ。カスタネットならいい勝負になると、喜んで愛ちゃんにバトルを申し込むんじゃないかな?」

「ボクが負けたらどうなるんですか?」

「もちろん愛ちゃんにタコ&ライスの2代目ボーカルとして歌ってもらう。今度のライブだけじゃなく、ツアーやアルバムでもね。愛ちゃんが誰かに勝って次の奴がボーカルになるまで」

「ぜ~ったいムリです」

 

「大丈夫カスタネット勝負で勝てばいいんだよ、じゃ、颯太に声をかけよう。おーい、そ・・・」

「ちょっと待って、ちょっと待って。カスタネットやりますボク」

「いや、無理する必要はない。ボーカルで頑張るという道もあるじゃないか」

「ダメです。ボクやります。カスタネットやらせて下さい」少女は半泣きになっていた。

「そうか、うれし泣きまでして、そんなにやりたいのなら考えてやらんでもないが」

「悲しくて泣いているんです」

「お~い、颯・・・・・」

「嘘です。心の底からやりたいと思っています。ぜひボクにやらせて下さい」

「愛ちゃん、人にものを頼む時はなんていうんだっけ?」

「クッ・・・・・お願い・・します・・・ボクにカスタネットをやらせて下さい」

 

「さすが篤兄さんだな。愛ちゃんを手玉に取っている」

「・・・・・というか、あのバカは別にライブに出る義務など全くないということを完全に忘れているな」

「そこが篤兄さんのテクニックだろう」

「・・・・・ほとんど洗脳だと思うのだが」

 

「だが、俺たちも仮にもプロだ。さすがに素のカスタネットで舞台に立つわけにもいかん」とGonが何やら取り出した。

「何ですか、それ?」細い板の上部を紐で結んである。

「沖縄の楽器で三板(さんば)という。左手の親指、人指指、中指の間に板を通して・・・・・」

と言って、板を閉じたり右手で弾いたりして、リズミカルな音を出してみせた。

「難しく見えるが慣れりゃ簡単だよ。練習してくれ」と言って少女に渡した。

「まあ、心配するな。愛ちゃんの出番はヨメーズ勢揃いの最後のアンナの歌の時だけだから」

「だから、そのヨメーズってのを何とかして下さい」

 

少女は舞台のそでで恐る恐る三板を弾いたりして練習していた。

その間にもメンバーはコンサートの曲をやったり、アンナの曲をやったりと練習は続いていた。

 

そして「よーし、今日は終わりだ」と颯太君の声がして会場が静かになった。

「よーし、帰るべ」

「腹減った」

「おーい、愛ちゃん。帰るよ」

「あ、はい。今行きます」

「じゃ、明日は最終練習日だ。Atsushi、Yukiに連絡しとけよ。衣装合わせするから」

口々にそういって一人ずつ会場を後にしていった。

 

ボクたちも会場を出た。

「メシでも喰って帰るか?」と颯太君が言った。

「すいません。今日はボク帰ります」とボクは答えた。

「ん?愛ちゃん、何か用事あるの?」

「いえ、この三板を練習しとかないと」

「そうか。真面目だな愛ちゃんは頑張れよ」

 

ボクは一人だけ、電車に乗って家に帰った。家につくとすぐにお風呂に入って三板の練習をした。簡単そうに見えて結構難しい。その日は遅くまで練習をした。

 

翌日、遅刻しそうになって走っていったらみんなライブハウスの入り口で待っていてくれていた。

 

「すいません。夕べ遅くまで練習していたら寝坊しちゃった」

「・・・・・遅い」

「でもちゃんと、お昼のサンドイッチは作って来たんだよ」

「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」

「どうしてみんな黙り込むのさ?」

「まっまあ、お昼のことは後で考えよう。とにかく練習だ」

 

ボクたちは会場に入っていったら昨日と同じように、みんな既に準備を終わっていた。知らない女の人が最前列の椅子に腰かけていた。

 

「誰かな?」

「・・・・・Yukiさんだな。兄貴たちの仲間だ」

「俺たちの中学時代からの同級生で、今はバンドのスタイリストとメイクもやってくれてる」

「えっ?Yukiさんって、今ファッション雑誌で超売れっ子のスタイリスト兼メイクアップアーティストの?」由美ちゃんが言った。

「ああ、最近売れているらしいな。何を好き好んで無料で俺たちの仕事してんだか?」と颯太君が答えた。

 

女性が振り向いた。ものすごい美人だ。代表も美人だけど、大人の色気のある美人という感じだ。

 

「颯太、その子たちなの?」

「ああ、採寸して衣装を頼む。いつものように任せる」

「舐めないでよ。これくらい見りゃわかるわ。まず、そちらの外人の子は身長が175cmでバストはそうね。93-Gってところね。こちらの黒髪のお嬢さんは、身長が158cmでバストは86Dかしら。そっちのボーイッシュな子は、身長が162cmでバストは・・・・ごめんなさいね、気を使うべきだったわ」

 

「ねえ、康太。なんでボク謝られたの?」

「・・・・・俺に聞くな。どう答えても地獄への道だ」

「もういいのか?」

「ええ、帰って衣装の準備をするわ。明日のライブ前にはちゃんと間に合わせるから」

 

「スゴい美人だったね」

「・・・・・美人?」

「Yukiさんだよ。ボクあんな美人初めてみたよ」

「・・・・・お前Yukiさんは・・・」

「おーい、練習始めるぞ」と颯太の声がかかった。

 


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