これが土屋家の日常   作:らじさ

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第4話

「なるほど、大体の話はわかった」颯太は苦虫を噛み潰したような顔で言った。

「困っているのを見捨てるわけにもいかんだろう・・・・だが、この娘はいったいなんなんだ?ええい、いいかげんに離れろ」

両手で颯太の顔をつかまえてキスをしようとしているアンナの顔を引きはがし、片足でアンナの体を押しのけていた。

 

「・・・・・何と言えばいいか」

「Shuのファンなんです」

「ニェット、愛子。私はShuの妻になるノ。運命の定めでここで会えたノヨ」

「いったい、この娘は何をいっているんだ?話がさっぱり見えんのだが」

 

「ねえ、陽太君」

「なっなにかな、由美ちゃん?」

「あの4人は何の話をしているのかしら?Shuってタコ&ライスのShuのこと?」

「・・・・・どうやらそうらしいね。ハハハ」

「あの外人の女の子Shuのファンみたいだけど、なんでお兄さんに抱きついてるの?」

「・・・・・まあ、よんどころなき事情があるというか、青春のほとばしりというか」

 

「お前らこの娘に俺がShuだと教えたのか」

「・・・・・教えないでおこうと愛子と相談した矢先に兄貴を見たら飛びかかってった」

「自分でいうのもなんだが、今の俺をみてよくShuだとわかったな?」

「化粧落としてても、顔の骨格見ればわかるそうです」

「日本のコアなファンにだっていねぇぞ、そんな奴」

「手だけ見てもわかりマスね」

「どんだけストーカーだ、お前は」

「愛のなせる業デス」

「キレイにまとめてんじゃねぇ」

 

「お兄さん「俺がShu」って言ってるけど本当なの?」

「まあ、そうだと言えないこともないような気がすることは否定できない」

「どっちなの?」

「そうです」

「どっどうして教えてくれなかったの?私大ファンなのに」

「兄がShuはバンドの時の別人格で、プライベートでは颯太だと」

「どういう意味?」

「Shuの時は全ての行動はファンがShuに望むものを演じているだけで、本当の自分じゃないと。

だから颯太でいるときはShuを一切自分や周囲から消すんだと」

「そうだったの。だからいつも無理してジャージなんか着たり演歌なんか歌ってたのね」

「いや、あれは普通に兄貴が好きなだけなんだけど・・・」

 

「おい、ロシアン娘。頼むからいい加減離れてくれ・・・」

「Shuが私をお嫁さんにしてくれると約束してくれたら離れます」

「出会って1分でそんな約束できるか」

「(・・・・・おい、愛子。アンナに何か憑りついてるんじゃないのか?最初とイメージが違いすぎるぞ)」

「(うーん、恋する女の子の思いがなせる業というか、恋する女の子に不可能はないというか・・・・・)」

「(・・・・・落ち着いている場合か、何とかしろ)」

「(何とかしろって言われてもなぁ。どうしたらいいものやら。代表に電話して聞いてみようか?)」

「(・・・・・それだけは止めとけ。事態は確実に悪い方向に進行する)」

「(だいたい颯太君もキスの一つや二つやってあげりゃいいのに。外国じゃ挨拶がわりなんだし)」

「(・・・・・確実に2日は意識不明になるぞ)」

「(どんだけ女の子に弱いのさ。それでよくビュジュアル系バンドなんかやる気になったよね)」

「(・・・・・いや、最初の動機は「バンドやって女の子にモテるぜ」だったのだが)」

「(不純だけど、まあありがちな理由だよね)」

「(・・・・・いざ人気が出ると、メンバー全員思ってた以上に女の子に弱いことがわかり)」

「(それは、最初に気がついておこうよ)」

「(・・・・・今は「硬派なビジュアル系を目指すぜ」とホザいている)」

「(音楽性はどうでもいいんだね。でも「硬派なビジュアル系」って難しいコンセプトだよね)」

 

兄は再び唇を寄せてきた少女の顔を両手で遠ざけながら、疲れ果てた様子で言った。

「わかった、お前の言うことはよくわかった。だからここはお互い妥協しよう。

まずはお互いをよく知るために友達から始めよう、っな」

「友達・・・・・デスか?」

「そうだ。友達から始めて、ご近所さん、顔見知り、同僚、ガールフレンド、恋人、許嫁、婚約者、夫婦と関係を深めて行こうじゃないか」

「なるほど、それが日本のやり方デスか」

「そうだ、ジャパニーズ・トラディッショナル・スタイルだ」

「(友達からご近所さん、顔見知り、同僚じゃ、明らかに関係が後退してるよね?)」

「(・・・・・全部クリアするのに何年かかるんだ?)

「(でも「まずは友達から」って25歳の男性が、女子高生に迫られていうセリフじゃないよね?)」

「(・・・・・文通・交換日記と言わなかっただけ陽太より年上だと誉めてやれ)」

 


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