これが土屋家の日常   作:らじさ

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土屋家次男の陽太。容姿端麗、高身長、日本一のT大生という高スペックながら、女性と話すのが苦手という欠点が災いして女性と付き合った経験無し。ついたあだ名が「車庫に入れっぱなしのフェラーリ」。
そんな陽太がケーキ屋の女の子に恋をした。
「恋愛相談ならボクにまかせて」と張り切る愛子。「お前だって男と付き合うのは俺が初めてだろうが」というムッツリーニのツッコみを受け流し、張りきるあまり状況をどんどんややこしくしていく。
うやむやのうちにWデートの約束を取り付けたのだが・・・・・


6.恋とケーキとキューピッド
第1話


いつものように二人で下校している時に、突然少女が言いだした。

 

「ねぇ康太、代表から桜町に美味しいケーキ屋さんができたって聞いたんだけど、これから食べに行かない?」

「・・・・・ケーキか。当分ケーキは見たくないんだが」

顔を曇らせて少年が答えた。それを聞くと少女は険しい顔つきになった。

「何それ。まさかボク以外の女の子とケーキ食べ歩きとかしてるの?」

興奮した少女は少年の胸ぐらを締め上げた。

「・・・・・待て、落ち着け。事情があるんだ」

「事情って何?まっまさか二股かけてるとか」

「・・・・・いいかげん、そこから離れろ。家に来ればわかる」

少年は怒り狂った少女を必死でなだめた。

 

「えーっと、これは何かな?」

「・・・・・見ての通り、ケーキの箱だが」

「それはわかるんだけど、何でこんなにいっぱいあるの?」

少女が驚くのも無理はなかった。リビングのテーブル一面にケーキの箱が並んでいたのだ。

「・・・・・それはだな」

 

その時、玄関が開く音がした。

「お、康太帰っているのか。ケーキ買ってきてやったぞ」

少年はウンザリとした顔で言った。

「・・・・・原因が帰ってきた」

 

リビングに下の兄である陽太が顔を見せた。手にはケーキの箱をブラ下げている。

「あ、愛ちゃんも来てたのか。ケーキ食べる?愛ちゃん」

「あ、はい。いただきます」

「じゃ、ケーキ買ってくるね」

「えっ?ケーキなら手に持ってるんじゃ・・・」

「イヤ、愛ちゃんにこんな古いケーキなんか食べさせるわけにはいかないよ。すぐに新鮮なケーキ買ってくるから」

兄はそう言い残すと、飛び出すように外に出て行った。

「ねえ康太」

「・・・・・何だ?」

「新鮮なケーキって何?」

「・・・・・俺に聞くな」

 

「ふむふむ、大体の事情はわかったよ」手近にあった箱からモンブランを取り出すと手づかみで食べながら少女は言った。

「でも、このケーキおいしいね」

「・・・・・相談にのるか、ケーキを食うかのどちらかにしてくれ」

「でも本当に美味しいんだよ、このケーキ」

「・・・・・よかったらここにあるケーキ全部持って帰ってくれ。ここ1週間ケーキ付けで家族全員もうケーキにはウンザリしているんだ」

「え、いいの?いや、問題はそこじゃなくて、つまりは陽太君がそのケーキ屋の女の子に恋したというわけだね」

「・・・・・恋というか、下手すればストーカー一歩手前だな。酷い時には1日3回ケーキを買ってくる」

「それで少しは進展しているの?」

「・・・・・あの男が女性に声をかけきれるはずがない。会計の時でも目を伏せているはずだ」

「そんなに女性苦手なの?今までの彼女とはどうしてたんだろう」

「・・・・・ふ、奴は今まで女性と付き合ったことがない」

「えーっ?陽太君って、T大で頭はいいし、背が高くてあんなにハンサムなのに」

「・・・・・高校時代は「車庫に入れっぱなしのフェラーリ」の異名を取っていた」

「それはいいあだ名なのかな?」

「・・・・・多分、無駄に高スペックという意味だと思うんだが、車庫に入ったままじゃ原付にも勝てん」

 

「大学に入っても彼女できなかったの?」

「・・・・・大学に入った時には、これで俺もキャンパスライフを満喫するぜとかはしゃいでいたが」

「そうだね。同じ選択だったら女の子との距離も近くなるしね」

「・・・・・だが、入学したのは物理学科だ。同級生に女性は一人だけと言っていた」

「でも、サークルがあるじゃない。大学生活の花はやっぱりサークルでしょう」

「・・・・・しかし、奴が入ったのは「男声合唱部」だ」

「本当に彼女作る気あるの?」

どう考えても女性を避けているようにしか見えない。

 

「・・・・・それで大学では新たなあだ名がついたらしい」

「ふむふむ」

「・・・・・最近は、友人たちから「撒き餌」と呼ばれているとのことだ」

「どういう意味?」

「・・・・・奴が合コンに参加すると言うと、女性の参加率がいいらしい」

「女の子を集める餌なわけだね」

「・・・・・本人は合コンで女の子の電話番号をゲットしたぜと俺たちに自慢しているが、

奴が女の子に電話できるわけがないので単なる電話番号コレクターになっている」

「陽太君いい人なのになあ」

 

「・・・・・とにかくそのケーキ屋の女の子にフラれるなりダメになるなり警察に通報されるなりしてくれんと、家族全員糖尿になる」

「ウマく行くっていう選択肢は全く考えてないところがスゴいよね。よし、ほかならぬ陽太君のためだ、ボクが協力してあげる」

「・・・・・いや、ちょっと待て愛子。お前が張りきると大概ロクなことにならん」

「ふふふ、何をいうのさ康太。中学時代は友達からタイタニック愛子と呼ばれて頼られていたボクだよ。

大船に乗ったつもりで任せておいて」

「・・・・・確かに大船だが、それは沈没するという意味ではないのか?」


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