これが土屋家の日常   作:らじさ

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最終話

帰りは同じ方向なので一緒の電車に乗った。

「・・・・・で、結局今日の成果はどうだったのだ?」

正直よくわからなくなった。代表は相変わらず綺麗で優しくて頭がいい上にスタイル抜群で、自分とはあまりにも違いすぎるのだ。

「よくわかんない。ボクと違いすぎちゃって」

 

やがて電車が少年の最寄駅に停まったが、少年は降りる気配がなかった。

「康太。駅に着いたよ」

「・・・・・うん?ああ」

それでも降りようとはしない。ドアが閉まって電車が動き出す。たぶんボクを家まで送ってくれるつもりなのだろう。

(康太は、こういう時でも何にも言わないんだよね)。テレ屋なんだかぶっきら棒なんだか。

おかしくなってクスッと笑ってしまった。

 

「・・・・・何がおかしい」

「べ~つに。どう、今日は楽しかった?」

「・・・・・楽しいも何も雄二たちを付け回していただけだ」

「ボクは一日康太といられたからとても楽しかったんだけど・・・・・」

「・・・・・別に楽しくなかったとは言ってない」

本当に素直じゃない。だけどとても分かりやすい。

 

少女の最寄駅に着いた。当然のように二人で一緒に降りた。

「今日もここで買い物があるのかな?」笑いをこらえながら言ってみた。

「・・・・・ああ、まあそんなもんだ」少年は誤魔化すように言った。

 

二人で少女への家の道を並んで歩く。「手を繋げたらな」と思ったが、そんな勇気は二人とも持ってない。

こういうところが、理想のカップルとの違いなんだろうなぁと思った。

 

「・・・・・いいと思うぞ」

ふいに、少年がつぶやくように言った。

「え?ごめん康太。よく聞こえなかった」

「・・・・・無理しないでいいと思うぞ」

 

何のことを言ってるんだろう。無理ってなに?ボクは何か無理してるの?

「ボク別に何も無理してないよ」

「・・・・・そうか?では霧島を見習おうとしなくてもいいのではないか?」

「だって、代表はボクの理想の人だし・・・」

「・・・・・それはいい。お前が霧島が好きで、霧島のいろいろなところに憧れる気持ちはよくわかる」

「いろいろなところっていうのが引っかかるんだけど?」

「・・・・・そこに引っかかるな。お前が霧島に憧れていたとしても、

カップルとしての霧島と雄二のようになろうとするのは違うんじゃないか?」

「・・・・・・」

「・・・・・お前はどうやっても霧島にはなれんし、霧島だってお前にはなれん。

それなのにカップルとしての霧島を理想としてそれに近づこうとするのはちょっと違うんじゃないか?」

「・・・・・じゃ、じゃあどうすればいいのさ。ボクたち初心者なんだよ」

「・・・・・普通のお前と俺でいいじゃないか。普通に話して、普通にデートして、結果としてそれが楽しければ、

理想のカップルなんじゃないかな。俺たちは、誰かに自慢するためにデートをしているわけじゃない。何を焦っている」

「だって、ボクたちあと1年ちょいで卒業なんだよ。だから・・・」

「・・・・・時間はまだある。焦る必要はない。それに高校生活だけで終わるわけじゃない・・・」

「・・・・・え、それって」

「・・・・・」

康太はそれ以上何も言わずに黙って歩いていた。たぶん顔は真っ赤になっていることだろう。

ボクは、心が軽くなっていくのを感じた。そうだよね。

高校を卒業したってボクたちの時間はまだまだ続いて行くんだよね。卒業しても・・・・・そしてできればその後の人生も・・・。

ボクたちは黙って歩いていた。康太とだったら黙ってたって気持ちがいいのはなぜだろう。

 

やがてボクの家の前についた。

「あの、ありがとうここまででいいよ」

「・・・・・ああ、じゃまた明日な」

「うん、康太。今日はありがとう」

「・・・・・礼には及ばん」

 

少年は踵を返して駅の方向に向かって歩きだしたが、少し進んでから少女の方を振り返り、さも思い出したという感じで言った。

 

「・・・・・そう言えば愛子」

「ん?何」

「・・・・・俺たちのデートは今日で2回目だったな」

「そうだね。1回目が遊園地で、2回目が今日だね」

少年がいきなり何を言い出したのか理解できなかった。

 

「・・・・・それでは、今日が正式に付き合い始めてから初めてのデートということになる」

「・・・えーっと、そういえばそういうことになるのかな。それがどうかしたの?」

「・・・・・いや、それがわかっていればいいんだ。じゃあな」

少年をそれだけを言うと再び踵を返して駅への道を戻っていった。

 

「・・・・・変な康太。なにが言いたかったんだろう」

不思議に思いながら家に入り、自室へと戻った。

「ああ、今日は疲れたなあ」といいながらバッグを机の上に放り投げた。

「コトッ」っと小さな音がした。

「あれ?何の音だろ。何か硬いもの入ってたっけ」

バッグを手に取って中を開けてみた。記憶にない箱が入っていた。

「なんだろうこれ?」

自分のものではない。キレイにラッピングされた小さな箱だ。包装紙をそっと剥がしてみる。

指輪の箱だった。胸の高まりを感じた。おそるおそるゆっくりと蓋を開けてみた。

中に入っていたのは想像通りのものだった。自分の言ったセリフが蘇ってくる。

 

「・・・小さい頃から初めてのデートの時に、この石の指輪を贈ってもらうのが夢だったんだ」

 

指輪を手に取りそっと左手の薬指にハメてみる。サイズはピッタリだ。これは確かにあのジュエリーショップで自分が見ていた指輪だ。

たぶんファーストフードでトイレに行くと言って出て行った時に店に戻って買ってきてくれたのだろう。

指にハメたまま、ためすがえす眺めてみた。ハっと気がついてバッグをあさってみた。

やはりカードが一枚入っていた。ドキドキしながらカードを開いてみると、そこには几帳面な字でこう書かれていた。

 

 「 1 回 目 」

 

鼻の奥がツンとして泣きたくなった。

「そうだよね。ボクたちには今日が最初のデートだったんだもんね。

初めてのデートでこの指輪をもらうのがボクの夢だったものね」

 

嬉しい。嬉しい。嬉しい。嬉しい・・・・・何回言葉にしても、この気持ちを言い表すことなんてできっこない。

一度は仕方がないと諦めた夢を彼は取り戻してくれた。嬉しい。嬉しい。嬉し・・・・・

 

そうか、理想のカップルなんて探す必要なんてないんだ。康太の言った言葉の意味が理解できた気がする。

ボクたちが自分の理想のカップルになればいいんだよね。時間だってたくさんあるものね。

ボクたちはまだ始まったばかりで、これからいろいろケンカもするだろうけど、

それでも少しずつお互いを分かり会えればいつか理想のカップルになれるよね。

 

少女は、この喜びを少年に伝えようと早速メールをした。電話だと泣いてしまいそうだったから。

 

「ありがとう、とても嬉しい。明日、学校でみんなに見せびらかすよ」

 

しばらくして少年から返信があった。

 

「・・・・・お願いだからそれだけは止めてくれ。いろいろとマズいんだ」

 

これはどういう意味だろう。なぜ、隠す必要があるんだろうか?

少々憤慨しながら再度メールを送信した。

 

「絶対やだ。必ず指輪していく」

 

そして、少年から連絡がこないように携帯の電源を切った。

 

「ふふふ、さあ寝よう。早く明日にならないかな」

いつものように抱き枕を抱きしめながら左手の薬指にハメた指輪をいつまでも嬉しそうに眺めていた。

 

 

深夜、少年は戦いの準備に追われていた。

 

「・・・・・スタンガン、特殊警棒、マキビシ、煙幕弾。これだけでは足りない。明日はFクラス全員と

下手をすれば他クラスの連中も敵に回るかも知れない。装備にゆとりを持たさなければ・・・」

 

少年の長い1日は続くのだった。

 

 

 

 


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