それやこれやでお昼休みになった。
みんなが僕の机の周りに集まってくると、霧島さんが教室にやってきた。
「どうした翔子」
「・・・・・今日は、ここでお昼を食べたい」
「そうか、遠慮なく座れ。じゃ、俺は学食でカレーを食って来・・・グワア」
「・・・・・今のは、いくら温厚な私でも許せない」
霧島さんが右手を雄二の顔面に食い込ませて体ごと持ち上げた。相変わらずホレボレするようなアイアンクローだ。
「・・・・・(康太、康太)」
ん?小さな声が聞こえる。入口を見ると工藤さんがドアから顔だけ出して小声で一生懸命ムッツリーニに呼びかけている。
僕はもうこの人の行動に驚いたり不思議に思ったりすることはとっくに止めている。
どうせ理由を聞いたって理解できないのだ、最初からそういうことを考えない方が楽でいい。
「ねえ、ムッツリーニ。何か工藤さんが来ているみたいだけど」
「・・・・・え?あいつは何をしているんだ?」
「(康太、早くこっち来て)」
「ムッツリーニ。なんか呼んでいるみたいだよ」
ムッツリーニは首を傾げながら入口に向かった。
「・・・・・お前は一体何をしているんだ、愛子」
「理想のカップルの観察に決まっているじゃん」
「・・・・・まだ、諦めてなかったのか。で、何で俺は呼ばれたんだ?」
「康太も一緒に観察しなきゃ意味ないでしょ」
「・・・・・観察って、俺はお前に呼ばれるまであの場にいたんだぞ」
「ふっ二人で一緒に観察することが大事なの。さあ早く、康太もドアから顔を出して。バレないように気をつけてね」
「・・・・・この状況でバレないのは難しいと思うのだが」
なんか今度はムッツリーニまで、ドアから顔だけ出して教室の中を伺っている。一体あの二人は何のつもりなんだろうか?
「ぐぉぉぉぉ、離せ、翔子・・・・・」
「・・・・・今日は雄二の分もお弁当を作ってきた。一緒に食べてくれる?」
「さてと。あ、秀吉のお弁当美味しそうだね」
「そういう明久のも豪華じゃのう」
「いや、昨日の残りを詰めただけだよ」
「まあ、そういうワシも似たようなもんじゃが」
「ぐぉぉぉぉ、貴様、翔子ぉぉぉ」
「・・・・・一緒に・食・べ・て・く・れ・る?」
「でも、秀吉の弁当って時々とても質素な時があるよね。漬物盛り合わせとか」
「姉上と交代で作っておるからな。姉上はまああれじゃし」
「ちょっと、あんたたち。ほのぼのランチタイムしてるけど大丈夫なの?」
「え?」
おかしなことを言う美波だ。僕は周囲を見渡してみた。
いつもと変わることのないFクラスの風景じゃないか。一体、美波は何を心配しているのだろうか?
「何かあったの、美波」
「何かあったじゃないわよ。アキの横で坂本の額からミシミシって音がしているわよ」
雄二?ああ、そういえば霧島さんにアイアンクローされていたね。あまりに見慣れた風景だったので気にも留めなかったよ。
「ハハハ、心配いらないよ。骨は折れた部分が一番強くなるっていうじゃないか」
「折れること前提なのね」
「ねえ、康太?」
「・・・・・何だ」
「代表は、何をしているのかな?」
雄二に無理やり言うことをきかせるためにアイアンクローを極めているとは絶対に言えない。
そんな方法を知れば、この少女は絶対に実行してくる。
「・・・・・雄二が頭痛なので、霧島がこめかみをマッサージしているんだな」
「ふーん、でも坂本君随分苦しそうだよ」
「・・・・・酷い頭痛なんだろう」
「じっじゃあ、康太が頭痛の時は、ボクがああやってマッサージしてあげるね」
「・・・・・ああ、頼むぞ」
「うん、ボクに任せて」
少年は、鎮痛剤をカバンに常備しておこうと決意した。
「ぐぐぐぐ・・・・」
「・・・・・雄二」
「ぐぐぐ、何だ」
「・・・・・握力には自信がある。そろそろ肩も暖まったから本気を出す」
「どこのピッチャーだ、お前は」
さすがは雄二だ。この状態でもツッコめるところには律儀にツッコんでくる。
まあ霧島さんがボケ倒すので自然にツッコミスキルが上達したとも言えるが。
ピッチャーを育てるのはキャッチャーと言われているが、ツッコミを育てるのはボケということだね。
「・・・・・ちなみに」
「なっ、何だ」
「・・・・・私はこの間の体力測定で、握力計を壊してしまった」
「そろそろ昼飯にしようか、翔子」
「・・・・・わかってくれてなにより」