幸いなことにそれ以上なにが起きることはなかった。
もしあの二人が腕を組んで登校なんてことをしたら、少女の来襲を避けるために
少年は登校時間を朝5時にしなければならなくなるところだった。
ターゲットの二人は玄関で別れてそれぞれの教室に向かった。
「じゃ、康太また後で」少女がヒソヒソ声で言った。
「・・・・・まだやるつもりなのか」
「当たり前じゃない。まだ始まったばかりだよ」
「・・・・・俺はもう一日分疲れたのだが」
・・・・・と言った時には少女の姿は既に消えていた。
「・・・・・理想のカップルよりも先に、人の話をちゃんと聞ける普通のカップルを目指して欲しいのだが」
少年は独り言をつぶやいた。
教室に入っていくと雄二が机に突っ伏していた。朝の騒ぎで一日分のエネルギーを使い果たしてしまったらしい。
その無防備な姿を見ていると理不尽な怒りが湧いてきた。
そもそもこいつがもっとマトモに霧島と付き合ってたら、自分がこんなに苦労することはなかっただろう。
冷静に考えれば完全な八つ当たりなのだが、FFF団特別顧問の肩書は伊達ではない。
この程度の八つ当たりは理不尽のうちにも入らない。
雄二の机を軽く蹴った。
「はぁ、なっ何だ?・・・ムッツリーニじゃねぇか。どうしたんだ一体」
「・・・・・もっとしっかりしろ」
そう言うと自分の席についた。
「???何を言ってるんだ、あいつは?」
「機嫌悪いみたいだね」
「まあ、ムッツリーニが感情を揺らすとしたら原因は一つしかあるまい」
「工藤か?だが、あいつが工藤とケンカしたとして何でおれが「しっかりしろ」と怒鳴られなきゃならんのだ?」
「工藤さんが雄二のだらしなさに怒り心頭とか?」
「アホ、工藤にとっちゃムッツリーニ以外の男子は全部石ころだ」
「霧島さんと雄二みたいなもんだね」
「ちょっと違うな。翔子にとっちゃ俺も石ころだ」
否定してあげたいのだが、否定できる根拠が何一つないことに気がついた。
だが、ここは友人として慰めの言葉の一つもかけてやるべきだろう。
「そんなことはないと思うよ、雄二」
「そうか?」
「うん、僕らは別に霧島さんに酷い目にあってる訳じゃないから。それを考えると雄二は石ころ以下なんじゃないかなあ」
ただ一人酷い目にあってるのが雄二なのだから、あながち間違ってはいないだろう。
「てめえ、明久なんてこと言いやがる」
「何で怒るのさ、雄二」
まったく、人の心遣いが分からない奴だ。
その時、鉄人が入ってきて事態はウヤムヤになってしまった。