いろいろあったけれど6時限も無事に終わった。僕たちが帰ろうとした時
ドアが大きな音をたてて開け放たれると、そこには霧島さんが立っていた。
「・・・・・土屋、少し話がある、付き合って」
「・・・・・今日は疲れたから帰りたいんだが」
「・・・・・いいから付き合って」
そういうと問答無用といった感じで、踵を返して歩きだした。ムッツリーニも仕方なくついて行った。
「マズイな。翔子の奴マジギレしてるぞ」
「いつもと同じ無表情にしか見えなかったのじゃが」
「いや、あれはマジギレしてる。俺にはわかる」
「さすがに夫婦だけあって、妻のちょっとした様子の違いまでわかるんだね」
「誰が夫婦だ。幼馴染で長年見てきたからわかるんだよ。実は俺も一度だけマジギレさせたことがある」
「あの翔子をキレさせたなんてどんな非道なことをしたのよ」
「事故だったんだ。ある日、翔子の所へ駆け寄った俺は小石につまづいてしまった。
倒れながら反射的に手を伸ばすと何かが手に触れて、思わず俺は掴んでしまった。で、そのままズルズルと・・・
まさか掴んだのが翔子のパンツだったとは・・・一生の不覚だ」
「で、キレた翔子ちゃんは、どうしたんですか」
「知らん」
「「「はぁ?」」」
「覚えてないんだ。気が付いたら自分の部屋で寝ていて、3日が経っていた」
「何やら想像を絶することがあったようじゃの」
「思い返せば翔子が俺と結婚すると言いだしたのは、あの日からだったような気がする。あの日、転びさえしなければ・・・・・」
雄二が遠い目をして言った。いや、雄二の回想に付き合っている場合じゃない。
「こんなことしてる場合じゃないよ。二人を追わなくちゃ」
僕たちは慌てて二人を追った。
霧島さんとムッツリーニは、人気のない校舎裏までくると霧島さんがこちらに向き直ってムッツリーニに言った。
「・・・・・私はAクラスの代表だからクラスメートを守る義務がある。ううん、それだけじゃない。
愛子は私の親友だから、愛子のことは私が一番良く知っている。愛子の力になってあげたい。
その愛子が今朝泣きながら登校してきた。原因は土屋、あなたしか考えられない。
今朝なにがあったのか全部正直に話して」
静かだけど有無をも言わさぬ口調だった。うーん、Fクラスの代表に聞かせてやりたいセリフだ。
ムッツリーニは初めは嫌がっていたが、霧島さんの気迫に押されてポツリポツリと今朝のことを語りだした。
上のお兄さんが大人気のインディーズバンドのリーダーであること。
下のお兄さんがそれを利用して合コンで女の子の電話番号をゲット(だけ)していること。
工藤さんが合コンという単語で怒りだしたこと等々。
だけど僕たちが聞いてもなぜ工藤さんが怒りだしたのかサッパリわからない。
うちの女性陣だけでなく学園一の乙女心の持ち主と定評を取る秀吉ですら首を傾げている。
「・・・・・話は分かった。土屋、やっぱりあなたが悪い」
「ごめん、霧島さん。ムッツリーニをかばうわけじゃないけど、僕にもなぜ工藤さんが怒ったのかわからないんだ」
霧島さんは、やれやれといった感じでため息をついた。
「・・・・・あなた達は、愛子のことをただのエロ好きの下ネタ親父女子高生と思っているようだけど」
「いや、ちょっと待て。エロいとは思っていたが、いくら何でもそこまで思っちゃいないぞ」
「愛子もすごい言われようだわね」
「私が一番知っていると断言した人間の評価がそれでは、工藤もうかばれんのお」
僕たちが工藤さんをどう思っているかよりも、霧島さんが工藤さんをどう思っているかの方が問題なんじゃないだろうか?