これが土屋家の日常   作:らじさ

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ここで全員集合するはずだったんですが、この3人組話が進まないったらありゃしない。


第25話

その日の夕方、「反省会までがデートだよ」という愛子が宣言したおかげで、土屋家には全員が揃うことになっていた。

 

「何であたし達まで参加する必要があるのよ」由香が呟いた。

「だって愛ちゃんが反省会するっていうから全員集合しなくちゃいけないんだよ」陽向が非難の声を上げた。

「とことんハタ迷惑な人だな。というか全ての問題をお前が一人で起こしてたんだから、お前だけ猛省すりゃいいだけの話じゃねぇか」誠も同意するように言った。

「その割には素直についてきたよね、マコちん」

「ああ、あの先輩にお前にこれ以上アホな入れ知恵するなってことを言い聞かせておかないとな、それと・・・」

「まだ何かあるの?」

「あのアホ兄貴に徹底的に文句言ってやらなきゃ俺の気がすまん。赤の他人にこんなハタ迷惑な代物押し付けやがって」

「愛ちゃんに対する苦情だったら颯兄じゃなくって康兄に言わないと・・・」

「竜崎が言っているのは100%あなたのことだと思うんだけど」由香が幼児に諭すように言った。

「兄貴が3人もいるってのに「アホ」だけで誰のことかわかるってのもスゴい兄妹だな」誠が呆れたようにツブやいた。

「土屋一族の間じゃ陽兄は「ヘタれ」で、康兄は「ムッツリ」って呼ばれてるんだよ」陽向がなぜか誇らしげに言った。

「あなたのとこのスットコドッコイな一族の中でも「アホ」って呼ばれてるってどれだけなのよ」

「全員が彼女の尻に敷かれているって時点で「ヘタれ」なんだよ!」

 

「いやいや、マコちん。土屋一族じゃお父さんは一番偉いんだよ」陽向がむきになって反論した。

「スットコドッコイとは言え伝統ある頭領の家柄ともなると男尊女卑なわけね」由香が感心したように言った。

「うん、土屋一族の家庭は立憲君主制だからね。「君臨すれども統治せず」をモットーにしているんだよ」

「とてもそんな立派な思想を持った一族には思えんのだが」誠が首をひねって言った。

「だからお父さんが君臨して、お母さんが「司法・立法・行政」の権限を一手に引き受けるという分業制度が・・・」

「それは「尻に敷かれている」という状態を婉曲に表現しているだけなんじゃないかしら?」

「なんの話させてもロクでもねぇオチしか出てこない一族だな」

 

「毎年年度末になると翌年度の王室予算の月額1000円の増額を巡ってお父さんとお母さんの間で火花が飛び散るような予算折衝会議があるんだけど、毎年却下されてるんだよねぇ」

「ずいぶん壮大な話になっているけど、要するにお父さんが月のお小遣いを1000円上げろってお願いしているだけなんじゃないの?」

「そりゃお袋さんが全権握ってるんだから、即座に却下されるに決まってるだろうに」

「失礼だよ、マコちん。土屋家は民主主義家族なんだからお父さんやあたしたち兄妹にも議決権はあるんだよ」

「それなら全員上がってもいいんじゃないのかしら?」

「誰かがお小遣いの増額を要求するとお母さんが「上げてもいいんだけど、その分誰のお小遣いを減らせばいいのかしら」ってツブやくだけで、他の人間が全員反対に回るんだよね」

「前からずーっと思ってたんだが、お前ら本当は全員血が繋がってないんじゃねぇのか?」

「うーん、「他人の幸せは許さない」という考え方は全員一緒だから一応血は繋がっていると思うんだけど」

「自分でも自信がないわけね。そういう外道な思想を持ってる人間ってそうそういないと思うから、あなたたちは間違いなく家族だとわたしも思うわ。なんで一緒に暮らせているのかがわからないけど」

 

まさか自分が毎日通っている学園に同じドグマを受け継ぎし闇の一団がいるということに思い至らない由香なのであった(ついでに言えば「相手の不幸を願っている」わけではないものの、結果的に相手を不幸のズンドコに叩き落としてしまう人間が約3人(翔子、愛子、アンナ)ほどいるのだが)。

 

やがて3人は土屋家の玄関まで辿り着いた。

 

「じゃ、2人とも入って」陽向がドアに手をかけながら言った。

「ねぇ、さっきから気になっていたんだけど」由香が尋ねた。

「俺もずっと気になっていた。商店街からの道のあっちこっちに血の跡みたいものがあって、それがこの家の玄関まで続いているんだが」

「陽向、何か事件でもあったんじゃないかしら。警察に電話した方がいいんじゃない?」

「ああ、気にしなくていいよ。たぶん康兄の鼻血だから」陽向がこともなげに言った。

「いや、鼻血なんて可愛いもんじゃなくて血だまりになっていたぞ」

「今日の康兄のデート相手は、セクシーダイナマイツのアンナちゃんだからね。いつもより多く鼻血が出たんだと思うよ。でもやっぱり彼女の愛ちゃんに手を握られた時の方がスゴいよ」あくまで気にしない陽向であった。

「やっぱり事件じゃないかしら。警察に電話した方が・・・」由香が心配そうに言った。

「いや、警察に電話した方が家族的には問題なんだよ」

「まあ事件だったら全国ニュースレベルの出血だったしな。巻き込まれると問題なのはわかるが・・・」さすがに誠も心配になったようである。

「警察に電話したら「ちゃんと掃除しておいてください」って怒られるから、面倒くさいったらありゃしない」

「あなたの家庭的にはそっちの方が心配なのね」

「大体この辺でうちに何かしに入る根性のある強盗なんていないよ?ラスボスのお母さん倒そうと思ったら自衛隊に出動要請出さないと。運悪くお母様会の会合の時なんかに出くわした日にゃあ、強盗が警察に同情されちゃうよ」

「治安はいいかもしれんが、環境は極悪な地区だな」

 

「まあ、そんな些細なことはどうもいいから入ろう。もうみんな待ってるはずだよ」陽向が玄関前のひときわ大きな血だまりの跡を避けながら玄関のドアを開けた。

 

 


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