大風邪ひいて死んでいたもんですから。
まだ、頭は戻ってませんが、とりあえず連載が
気になったので書いてみました。
【康太とアンナのカップルの場合】
「コータ、いい加減にしてくだサイ。歩いて10分の商店街まで1時間かけてもまだたどり着きまセン」
腰に両手をあててロシア娘は怒っていた。
「・・・・・お前こそ何度、腕を組むなとか、むっ胸を押し付けるなと言えばわかるのだ」
腕に輸血の針を指して寝そべったまま少年が力なく答えた。
「デートならこれくらいは当たり前デス。そんなに鼻血ばっかり出して飽きないんですカ?」
「・・・・・人が趣味で鼻血を出しているような言い方をするんじゃない。女に触れるとこうなると何度説明すれば理解できるのだ、お前は」
「そこまで姉萌だと、ワタシも嬉しいデス」
「・・・・・別に姉だから鼻血が出るわけではない」
それにしても家からここまであっちこっちに血溜まりができているのだが、問題にはならないのだろうかとさすがの超絶天然ボケのロシア娘ですら心配になった。
「ところでコータ、この血どうすればいいんですカ?連続通り魔事件レベルにあっちこっちで血溜まりになってマス」
「・・・・・心配いらん。町内の人間なら「あら、また土屋さんとこの康太ちゃんだわ」で済ませてくれる」
「この町内はどれだけ治安が悪いんですカ。ヨハネスブルグやデトロイトだって、これだけたくさん血溜まりつくっていたら、連続殺人事件で警察が飛んで来ますネ」
「・・・・・警察ならこの間うちに来た」
「さすがに事件になったんですネ」
「・・・・・いや、いつもより血の量が多かったから身体は大丈夫かと心配して見に来てくれたのだ」
「警察ですらそんなことしか問題にしないんですカ、通り魔はこの町内を狙うべきですネ。ところでなんでその時だけ血の量が多かったんですカ?」
「・・・・・愛子のバカが、俺を脅かそうと後ろから抱きついてきたの・・・・・ブーッ」
その時のことを思い出して、少年は輸血しながら再び鼻血を吹き出した。
「思い出し鼻血という技は初めて見まシタ」アンナが感心したように言った。
「・・・・・だから技でも趣味でもないと・・・ああ、そこの輸血パックを一つ取ってくれ」
「軍隊でもこれだけの輸血パックを常備していまセン」アンナが輸血パックを渡しながら言った。
「・・・・・写真用具と輸血パック代だけで、ムッツリ商会の収益はトントンなのだ」
「ワタシの写真を売れば、大儲けできますネ」
平然とアンナが言った。別に自慢気でもなく淡々と事実を述べているだけと言った風情が更に腹が立つ。いや、確かにアンナの写真は売れ筋で売上には大部貢献してくれている。だがそれ以上にこの娘は風呂あがりにバスタオル1枚巻いたままで歩き回るなどしてくれるものだから、被害はそれ以上なのだ。
「お袋、アンナにバスタオル巻いただけで家を歩き回るなと注意してくれ」と颯太がたまりかねて母に言ったことがあった。
「それもそうね。あの、アンナちゃん。バスタオルだけだと寒くて風邪引いちゃうわよ」
「そこを注意しろという意味じゃない」
「大丈夫ですユーコ。ロシアでは-20℃からを「寒い」と言いマス」
「人類のカテゴリーから外れて、マイペースで進化している民族は黙ってろ」
「それ以外に何の問題があるのよ」母が不思議そうに尋ねた。
「問題大ありだろうが。この家には年頃の男が3人も揃っているんだぞ」
「それのどこが問題なの?アンナちゃんってばスタイルいいんだから、あんた達も眼福じゃないの」
「それが母親のセリフか!俺たちだって男なんだ。いつ狼になるかわからんぞ」
「はっ」母が鼻先で笑い飛ばした。
「このババ・・・・・ママン、その沸騰した鍋から手を離して。鼻先でお笑いになりやがりましたね」敬語がメチャクチャになっていた。
「いいこと教えてあげるわ。陽太は由美ちゃん一筋だから問題なし。康太は愛ちゃんが怖いからこれも問題なし。で、一番問題になりそうなのはあなたなんだけどもね」ここまで言って母はため息をついた。
「ママン、なぜため息なんでしょうか?」
「あんたが狼なるくらいに甲斐性があったら、あたしも来年には孫が抱ける予定だったはずなのに。アンナちゃんをホームステイさせた意味がないじゃない、本当に何の役にも立ちゃしないったらありゃしない」
「なにぃ、俺だって中学の頃は狂狼と不良どもから恐れられていた男だぞ」
「はいはい、確かに男相手のケンカは強かったわね。何度学校に呼び出されたことか」
「狼じゃねえか」だんだん話のポイントがズレてきたような気がするのだが、とりあえず話を合わせることにした。
「あのねぇ、あんたお母様会で何て呼ばれているか知ってる?」母が尋ねた。
「ジェード・ロウに後ろ姿が似ているとか、右斜め上39.28°の角度からみるとジョニー・デップの雰囲気を彷彿させることもある可能性が否定出来ないという意見を人から噂で聞いたことがありますが」
「それは似ていないということを婉曲に表現しているだけじゃないの?」
「いや、俺のことはいいから、お母様会でなんて呼ばれているんだ」
「お母様会じゃ、あんたは「羊の皮被った山羊」って呼ばれているの」
「皮被る意味あるのか!」
「アンナちゃんが寝ぼけて夜這いした時、あなたどうしたからしら」
「は、クリスチャンとして貞節を守るべく身体を固くして身を守っておりました」
「いつからクリスチャンになったのか、面倒くさいからきかないけど。自分よりも8歳も年下の女の子から夜這いかけてきたのよ。やることやらなきゃ男じゃないでしょ」
「ママン、さきほどから保護者として不適切な発言が飛び交っているような気がするんですが」
だめだ、この母は既にアンナに洗脳されている(というより颯太の信用が全くないというのが真相なのだが)。俺がなにを言おうがアンナとの結婚は2人の間では既定路線になってしまっていて、自分の意見をいう隙がない。かと言ってこのままだとトンでもないことになるのは火を見るより明らかだ。颯太は10分間考えて理論武装をし、反論を想定してそれにたいする対抗案までシュミレートした」
「ちょと待て、俺にだって言いたいことがあるんだ」
「何よ、披露宴の食事は苦手の中華は抜いといてあげたわよ」
「そりゃ助かる・・・・・いや、そういう話じゃなくて、俺の意見も聞きやがれ」
「時間の無駄ね」母が声だけかけるとアンナとの話し合いにもどった。
漏れ聞こえてくる話に耳をすますと、既に新婚旅行を通り越して新居の位置や付近の保育園情報についての話にまで進んでいる。いい加減に止めないと本当に逃げ場がなくなってします。
「ちが~う。俺の話をちゃんと聴けと言っているんだ。俺には言論の自由はないのか」
「高校中退だから知らないだろうけど、不本意ながらあなたにも基本的人権としてそんな風なものはあるわね」
「じゃ、俺にも発言させろ」
「ただ、憲法の規定は言論の自由までであって、言論の後の自由は保証されていないんだけど、そこまで命かけて訴えたいことが何かあるの?」
「いえ、どうぞご歓談をお楽しみ下さい」
この時に颯太の運命は、老後の年金生活のやり方まで決まってしまっていたことは、まだ本人は知らない。