これが土屋家の日常   作:らじさ

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13話目にしてやっとデートが始まりましたw。
これ、どうすればいいんだろうか?



第13話

【颯太と由美子のカップルの場合】

 

「三宮由美子くん・・・・・」颯太が椅子に腰掛けて腕組みをして真っ直ぐ前を見つめたまま由美子に言った。

「はっ、はい・・・・・というか、なぜいきなりフルネームを?」由美子が困惑しながら答えた。

「そういう雰囲気なのだ、気にしないでくれ。ところでさっきから俺の胸の中にある種の感情が吹き荒れている気がするのだが・・・・・」

「はあ、それって」

「うむ、世間一般でいうところの「アウェー感」という奴だと思う」

「えっと、それは一体?」

「簡単に言えば、甲子園球場の巨人阪神戦で、ライト側阪神応援席に巨人のユニフォームを着て紛れ込んでしまった観客が感じるような感覚だな」

「野球は詳しくないんですが、ツラいんですか?」

「世界樹の葉がグロス単位であっても足りないくらいだ」

「そこまでスゴい感覚なんですか」由美子が首をヒネって言った。

「デート初心者である俺がプランを全面的に君に任せたことは悪かったと思っている」

「いえ、私も行きたかったのでちょうどいいかと思いまして」

「では、もう一度確認したいのだが、ここは何だね?」颯太が由美子の方を向いて真顔で尋ねた。

 

「はい、ウィーン・フィルハーモニー交響楽団のモーツアルトコンサートです。お嫌いですか?」

「好きも嫌いも名前しか聞いたことがないのだが。で、どうするんだい?」

「いや、コンサートだから普通に音楽を聴けばいいんじゃないでしょうか?」由美子がニッコリと微笑んで言った。

「そもそも、これは世に言うクラシックという奴ではないのかね?」

「はい、モーツアルトはお嫌いですか」

「曲は一つも知らんが似顔絵は描けるぞ」

「はっ、はい?それは結局好きなんですか嫌いなんですか?」

「いや、中学の時に音楽室に飾ってあったモーツアルトの絵にマジックで落書きをしたら、音楽教師が理不尽にも怒りだしてな」

「それは理不尽でも何でもないような気が・・・・・」

「罰としてモーツアルトの似顔絵をソラで描けるまで描かされたのだ」

「なんでそんな罰を・・・・・?」

「いや、他に思いつかなかったんじゃないかな。曲鑑賞とかだったら数秒で寝るし。ちなみにAtsushiがバッハでGonがベートベン・・・・・」

「要するに、皆さんで絵に落書きしたわけですね」由美子が呆れながら言った。

「俺とクラシックの接点といえばそれくらいしかないのだが、ここで君は俺に何をしろと」

「いや、ぜひタコ&ライスの音楽にもモーツアルトの要素を取り入れて欲しいなぁと」

「無茶言うな。音楽というくらいしか繋がりがないぞ。球技という繋がりだけで、野球のテクニックをサッカーに活かせと言っているようなもんだ。そもそも、どうやってビジュアル系ロックバンドにモーツアルトの要素を取り入れればいいんだ?」

「お兄さん、音楽に違いはないんですよ」由美子が真顔で言った。

 

どうもこの娘は土屋家関係者ではブッチ切りで一番の常識人だと思っていたのだが、幽霊の話といいどこか一般人と感覚がかけ離れているような気がする。育ちがいいせいなのか、常人離れした呑気さなのか?それはともかくとして、いま一つ確認しておかなければならないことがあったのだ。

 

「ところで三宮由美子くん」颯太が改まった様子で言った。

「また、フルネーム?何でしょうか?」

「デートプランを君に丸投げして、どこに行くのかと聞かなかった俺にも非はあることは認めよう。だが、「初デートに何を着ていけばいいのか」という俺の質問に、君は「アンナちゃんといつもデートしているような格好でいいですよ」と答えたね」颯太がやや問い詰めるような口調で言った。

「はい、確かにいいましたけど、それがその格好なんですか?」由美子が上から下まで視線を走らせて言った。

「そうだ」颯太が言った。

「いや、お兄さん。彼女とのデートでジャージの上下にスニーカーというのはどうかと思いますよ」由美子が諌めるように言った。

「あいつは彼女じゃないという問題はとりあえず別にして、映画観に行く前日に「明日は特別な日ですカラ、一張羅のお洋服を着ていきますね」と言って、SASデザートパターン迷彩服を誇らしげに見せびらかす奴を連れて、そんなにいい格好できるか」

「それでそのジャージなんですか?」

 

由美子は迷彩服を着たアンナとジャージ姿の颯太がデートしている風景を想像してみた。なかなかにシュールというか、溢れんばかりの不審感に満ちたカップルである。まあ、出かけているところはどうせ中野か池袋か秋葉原くらいだろうから、それほど変な格好でもないかも知れないなどとオタクの皆様には大変失礼なことを考えていた。

 

「そうだ、俺が迷彩服を着たあいつを連れて恥ずかしい思いをしているんだから、あいつもジャージ姿の俺と一緒という恥ずかしい思いをさせてやろうと思ってな」

「いや、それ何の問題解決にも報復にもなってないというか。少なくとも恥ずかしい格好という認識はあったわけですか?」

「俺がこれだけ恥ずかしいんだから、あいつはもっと恥ずかしがればいいのだ」

 

どの当たりから説明したらいいのだろうかと由美子は悩んだ。颯太の主目的がアンナちゃんへの報復に移っているのでは、それはもうデートと呼べる行動ではないと思うのだが。

というか、そんなに恥ずかしいのなら一緒に行かなければいいんじゃないかという疑問も浮かばないではなかったものの、颯太の本当の気持ちとアンナちゃんのマイペース度合いを考えれば、そういう発想は浮かばないし、たとえ浮かんでもそもそも聞いてはもらえないのだろう。

 

「たぶんですけど、アンナちゃんはお兄さんがどんな格好しようとも何とも思わないと思うんですけど・・・・・」

「うむ、冷静に考えたらそういう気もしてきた。単に俺が内と外の両方向から恥ずかしいだけじゃないのか?」

「お兄さんだけにダメージがあるというか、盛大な自爆というか・・・・・」

「くっそう、どうりでアンナが文句を言わないはずだ」颯太が頭を抱えた。

 

 


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