これが土屋家の日常   作:らじさ

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第22話

「で、今日の日本観光はアンナちゃんのご家族にご満足いただけたのかしら?」裕ちゃんが言った。

「ええ、多分この上なく満足してもらったと思います」あれを日本観光の範疇に入れていいのかは疑問だが、カリーニン家御一行様全員がキラキラした目をしているところを見ると満足したことは間違いないだろう。

 

アンナパパ・・・・・半年も前にロシアから予約した『攻殻機動隊 初回限定版「草薙素子」フィギュア付きBD BOX』と最終的に颯太君を振り切って購入した『K-おん 1st BD Box』

宗介君・・・・・・・・・陽向ちゃんに買ってもらった『ポキモン劇場版DVD』と『クレヨンけんちゃん劇場版DVD』

アンナちゃん・・・乙女ロードで買った袋一杯の雑誌とガーメストで購入した大きな箱群。中身が何なのかを聞く勇気はない。尋ねたが最後、小一時間はアンナちゃんのそれに対する薀蓄と愛情をタップリ聞かされるハメになるから。というか裕ちゃんの前で触手フィギュアなんか出された日にはフォローのしようがない。一流ファッション雑誌の読者も、自分たちのお金が、こんなものを買うのに使われたと知ったら、さぞ嘆き悲しむだろう。同情を禁じ得ない。

 

以上がこのロシア人一家の購入した品物だ。全員何かを成し遂げたかのような満足そうな顔をしている。アンナパパと宗介君はてっきりアンナちゃんの結婚話をツブしに来たんだと思ってたんだけど、実は本当に予約したBDを買いにわざわざ日本まで来たのだろうか?

 

「で、皆さん何をお買いになっ・・・・・」

「お母さん、あたしお腹すいちゃった。晩御飯にしようよ」裕ちゃんの質問を陽向ちゃんが遮った。

「なんです、お行儀の悪い。わたしはカリーニンさんに何を買ったのかとお尋ねしているの。で、カリーニンさん、今日は何をお買いになっ・・・・・」

「いや、アンナたちもお腹が空いてるんじゃないか?すぐに晩飯にしよう」今度は、颯太君がカットに入る。何しろ今日はボクたち3人で、丸1日この一家をオールコートマンツーマンでディフェンスしてきたのだ(最もあの一家の圧倒的な攻撃力の前には、何の意味もなかったけど)、連携はバッチリだ。裕ちゃん言うところの日本観光が、実はオタクロード巡礼の旅で、買ったのが「やおい本」を筆頭とするオタクグッズだとバレた日には、裕ちゃんにどんな目に会わされるかわからない(主に颯太君が)。

「本当に躾のなってない子ばかりで申し訳ありません、カリーニンさん」

「いえいえ、お構いなく」

「とは、言うものの予想より早く帰ってきたから、まだ準備もしてないのよね。どうしましょう」

「それなら、ワタシがボルシチ作りマス」アンナちゃんが言った。

「「「「「「「「「「えっ」」」」」」」」」」一同が驚いた。って、何でアンナパパや宗介君まで怯えているんだろう?

「いや、アンナ君。2日続けてボルシチというのは、いかがなものかな」颯太君が言った。

「ワタシのことなら心配しなくても大丈夫デス」

「俺たちのことを心配しているんだ、バカもの。あれを2日も続けられてたまるか。人間の免疫力にも限界があるわ」颯太君がよくわからないことを言ったけど、さすがに2日続けて同じ料理というのもどうかと思う。

「そうだよ、アンナちゃん。さすがに同じ料理を2日はキツいよ。じゃ、今日はボクが手料理をパパたちにご馳走してあげるよ」ボクが言った。

「「「「「「「「「「えっ」」」」」」」」」」一同が更に驚いた。心なしかさっきより声が大きかったのは、気のせいだろうか?

「・・・・・愛子、お前が作るのか」康太が言った。

「うん、せっかく日本に来てくれたんだから、和食でもご馳走してあげようかと思って」

「愛ちゃんも今日は観光で疲れているだろうから、無理しなくていいよ」陽太君が言った。

「大丈夫だよ。こう見えても水泳鍛えてるから体力はバッチリだよ」

「いや、そっちの体力がバッチリでも、俺の体力が落ちてるんだが」颯太君が何かモゴモゴ言っていたが、よく聞こえなかった。

「(何とかしろ、陽向。こんな疲れているところに愛ちゃん料理じゃ、抵抗力どころか確実にとどめを刺されるぞ)」

「(あたしに何とかしろって言われても。張り切っている時の愛ちゃんは、アンナちゃんレベルに人の話聞かないし・・・・・)」

「それならワタシも手伝いマス」アンナちゃんが嬉しそうに言った。

「(おい、なし崩し的に最悪の展開になってるぞ。どんな料理になるのか検討もつかん)」

「(・・・・・肉じゃが作ろうとしてビーフシチュー作り上げたコンビだからな。鶏の唐揚げ作ろうとして豚の丸焼きくらいは出てくるかも知れん)」

 

その騒ぎを黙って見ていた母親が言った。

「そうね。じゃ、今日はすき焼きにしましょう」と宣言した。

「(さすがお袋だな。愛ちゃんたちが手を出しても間違えようがない料理を選んだぞ)」

「(甘いよ、颯兄。愛ちゃんだったら醤油の代わりにウスターソースくらい使いかねないよ)」

「(・・・・・塩の代わりに砂糖という手もある)」

「(ネギの代わりに玉ネギ、春菊の代わりにパクチーとか買って来る可能性もあるな)」陽太が言った。

「(よし、陽向。お前は愛ちゃんたちの買い物に付いて行って、とんでもないもの買わないように監視しろ。その間に俺たちはすき焼きに不必要な調味料は全て隠す。他に懸案事項はあるか?)」

「あの~?何話しているんですか?」ボクが尋ねた。

「いっ、いや何でもないよ、愛ちゃん。じゃ、悪いけど買い物に行ってくれるかな。その間に家の準備をしておくから」颯太君が言った。

「はあ、いいですけど・・・・・」何となく不愉快な気配を感じる。

 

「じゃ、愛ちゃんとアンナちゃんと陽向はすき焼きの買い物お願いね」裕ちゃんがニッコリ笑って宣言した。

 


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