これが土屋家の日常   作:らじさ

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第8話

「宗介もすぐにいい友達ができたようじゃないか」父が言った。

「男女交際には20年、イヤ30年早いデス」アンナが不機嫌そうに言った。

「17歳で結婚すると宣言したお前が言っていいセリフとも思えんのだが。しかしお前がいるうちは、宗介は彼女も作れんな」父が苦笑いして言った。

「ソースケにはワタシがいるから彼女なんていりまセン」ブラコンフルスロットルの姉であった。

「それはともかく、お前の彼氏に挨拶するのを忘れていたな」指をポキポキと鳴らしながら父が真剣な顔になって言った。

「そういえば紹介を忘れていまシタ。えーっと、あそこにいる人デス」とアンナが指差した先に颯太が・・・・・Atsushiの影に隠れていた。

 

「そうかそうか」父が5馬鹿に近寄っていった。

「おい、なんかあの親父、危ない目をしてこっちにくるぞ」

「気にするな。いけダミー颯太君一号」そういうと颯太はAtsushiを父のところに押し出した。

「なんだ、ダミーって。ハハハ、ハーイ」Atsushiが差し出した手を握ると満身の力で握り潰した。

「ぎゃあ~、てっ手が・・・・・やめろ親父手が潰れ・・・・・」Atsushiが泡を吹いて倒れた。

「今の何?」愛子が言った。

「篤兄の手をアンナちゃんにバレないように恨みを込めて握り潰したんだね。何かやるとは思っていたけど」

 

「パパ、その人じゃないデス。その左側の人」と指差した先にはGuuの後ろに回り込んだ颯太がいた。

「おい、こっちくるぞ」

「行け、ダミー颯太君二号」颯太が前に押し出した。

「ははは、ギブアップ。ギブアップ」Guuが降参の意を示すように両手をあげた。そこに両手を入れて持ち上げながら思い切り締め上げた。

「ぐわぁ~~、せっ背骨がぁ。背骨から音がする」泡を吹いて気絶したGuuを床に投げ捨てる父。

「陽向ちゃん、今のは?」

「ベアハッグだね、鯖折りともいうけど。怪力レスラーがよく使う技で、古くはブルーノ・サンマルチノとかが有名だよ。というかアンナちゃん全然気がついてないのがスゴいよね」

 

「パパ、違いますっテバ、その左側の人デス」

「こっちくるぞ、おい」Gonがビビりながら言った。

「攻撃は最大の防御だ、ダミー颯太君三号」

「よし、ウォ~っ」と叫びながらGonが父へと突進していった。そこをスレ違いざまにGonの首に腕をかけて後頭部から落とした。

「えーっと、もうどう弁解しても挨拶の範疇を超えてるよね」

「あれはランニングネックブリーカードロップと言って、今はなきジャイアント馬場が開発した技だよ。相手が走ってくるところに走り込んでカウンターで腕を首に引っかけるようにして倒し、後頭部をマットに叩きつけるという技だね。それにしても技が全部昭和のプロレス技だね」

 

「パパ、ソータは・・・・・」アンナが必死に誘導しているが、アドレナリン全開になった父の耳には届いておらず、目の前で動くものは全て敵と認識したようだ。

走り込んできたYou(ダミー颯太君四号)に飛びつくと首を足で挟んでバック転し、反動でYouの身体を一回転させ後頭部を床に打ち付けた。

「もう、何て言ったらいいのやら」

「フランケンシュタイナーだよ、愛ちゃん。フランケンシュタイナー」陽向が興奮して言った。

「別の世界線の記憶を保持する能力だったっけ?」愛子が尋ねた。

「それはリーディング・シュタイナー。今の技はフランケンシュタイナーと言って、正対した相手に向かって跳び上がり、相手頭部を自らの両足で挟み込んでそのままバック宙の要領で回転しつつ相手の頭部をマットに叩きつけるという技だよ。ウラカン・ラナ・インベルティダと似ているけど、ウラカン・ラナ・インベルティダは相手の正面からジャンプして両肩に乗り、両足で頭を挟みこむ。そのまま自分の頭を振り子の錘のように使って後方に倒れこみ、相手の股の間を潜りこむ。その勢いを使って相手を前方に回転させつつ、両足を取り回転エビ固めの要領でフォールを狙う技なの」

「解説ありがたいんだけど、たぶんボクは一生使うことのないトリビアだと思うんだよね」

 

「ダミー君は全員やられたか。ありがとう君たちのおかげでとんでも親父を止めることができたよ。君たちの健闘は忘れないよ」と颯太がダミーズの屍に黙祷を捧げている正面に父が立った。

「何だ、この親父まだやり足りないのか、ウグッ」父が颯太のボディにアッパを打ち込んだ。たまらず片膝付いたところに身体を乗り上げ、腿で颯太の顎を強打した。颯太は床に倒れた。

「えーっと、陽向ちゃん。今のにも何か名前がついているの」

「何言っているのさ、愛ちゃん。今のは閃光魔術とも閃光妖術とも呼ばれるシャイニング・ウイザードだよ。相手の片足に乗り上げ、すぐさま膝で相手の頭部や顔面を蹴り上げる技だよ。初期は膝で攻撃していたんだけど、あまりにも危険だというので、今みたいに腿で攻撃することが多いね。アンナちゃんのパパ、よく研究しているよ」

「何のための研究なんだか」愛子が呆れたように言った。

「最初に颯兄が言っていたダミーズってこういう意味だったのか。でも後半に行くに従って大技になってダメージが大きくなってきたから、普通にやられた方が良かったんじゃないのかな?」

 

「パパ、挨拶はもっと大人しくやってくだサイ」アンナが叫んだ。

「いや、アンナちゃん。そのセリフは最初で言わないと・・・・・あらかた全員やられちゃったあとで言われても」

「それにしても、あれを挨拶だと信じ込んでいるってのは、さすがアンナちゃんだね」

 

周囲を見渡すと床には五馬鹿の屍累々であった。

 

 


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