これが土屋家の日常   作:らじさ

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第6話

「ねぇ、この子どうすればいいの?」アンナの抱擁攻撃で失神して床に寝転がっている宗介を指でつつきながら陽向が言った。

「アンナちゃんは向うで感動の父娘の対面をやっているようだし、ボクたちが介抱するしかないんじゃないかな」

「じゃ、伊賀忍流の活を入れて・・・・・」陽向はそういうと宗介の上半身を引き起こし、背中に膝を当てると「うりゃ」と気合を入れて活を入れた。

「・・・・・陽向ちゃん、何かさっきより口から出てる泡の量が多くなったみたいだよ」

「あれ?ツボを間違えたかな?とおりゃ」

「・・・・・痙攣が激しくなってるね、大丈夫なのその術」

「いやぁ、おじいちゃんが一回やってるのを見たことがあるだけなんだよね、実は」

「・・・・・つまり、見よう見まね」

「何とかなると思ったんだけどね」陽向は悪びれずに頭を掻きながら言った。

「どけ、お前ら。ちょっと水を飲ませよう」陽太君がペットボトルから水を飲ませた。

 

「うっ・・・ううう・・・・・・」やがて少年は息を吹き返すと、身体を起こして周囲を見渡し、身構えると懐から拳銃を抜き出して突きつけた。

「貴様ら、俺に何をした」

「いや、ボクたちは何もしてないよ。したのはどっちかというと君のお姉さんで・・・・・」

「嘘をつくな。アンナ姉ちゃんが俺に危害を加えるわけがない」

「なかなか信仰心の篤いシスコンだね」陽向が呆れたように言った。

「とっ、とにかくその銃を下ろしてくれ」陽太が震えながらいった。

「動くな」少年は銃で威嚇しながら立ち上がった。

「マテバなんて使い道のない銃を・・・・・」陽向が言った。

「うるさい、俺はマテバが好きなんだ」少年が反論した。

「バックアップを受ける側としては、別の銃にして欲しいものね」陽向が言った。

「誰がバックアップだ。というか、ほとんどの人間が元ネタ知らんぞこれ」

「囁くのよ、私の中のゴーストが・・・・・」陽向がつぶやいた。

 

「ええぃ、黙って手を後ろに組め・・・・・グァ」少年の後ろから、長い髪をリボンで縛った少女が近寄って脳天にハリセンの一閃を見舞った。

「あのねぇ。うるさいのよ、あんたは。あたしがパパのニューヨーク赴任の見送りに来て、感動の涙のお別れをしようとしていたのに、そんな気持ちどっかにふっとんじゃったわよ。どうすんの。どう責任取ってくれるのよ。大体、空港の中で拳銃なんか振り回して危ないと思わないの、あんたは」

「大丈夫だ、女。これはエアガン・・・・・グワっ」再びハリセンが炸裂した。

「誰が、女よ。あたしには千鳥かなめっていう立派な名前があるのよ。それにエアガンだったら振り回していいってもんじゃないでしょう。どんだけ戦争ボケなのよ」

「いや、ちょっと落ち着け、千鳥・・・・・グワっ」三度目のハリセンが炸裂した。

「気安く千鳥なんて呼ばないでちょうだい。大体人が名乗ったら自己紹介するのが常識ってもんでしょうが。何なの?あんた名前がないの、それとも人には言えない名前なの」

「何かスゴい子だね。口を挟む暇がないよ」愛子が感心したように言った。

「あのハリセンどこから出したんだろう?とりあえず弟君は何言っても殴られてるね」陽向も言った。

「わかった。俺の名前はソースケ・サガラ・カリーニンだ、千鳥。頼むから落ち着いてくれ」

「あたしは落ち着いているわよ。騒がしいのはあんたの方でしょう。口から泡吹いたかと思ったら、痙攣するわ、失神するわ。気がつけば銃を振り回すわ」

「最初から見ていたのか?」

「あんなにウルサクしていたら、いやでも目が向くわよ。おかげであたしの乙女の感傷はどっか行っちゃったわよ」少女がハリセンを手にジリジリと少年に近づいていった。少女が近づいた距離だけ少年がジリジリと後退して行った。

 

「ハブとマングースの闘いみたいだね」愛子が人ごとのように行った。

「アンナちゃんといい、あの千鳥かなめちゃんといい、宗介は人の話を聞かない女の子に弱いんだね」陽向が言った。

「なるほど、一理あるね」愛子が言った。

「(おい、あの二人まるで人ごとのように話してるんだが)」陽太が言った。

「(二人とも自分たちが「人の話を聞かない女の子」の部類に入っているとは、欠片も思ってないようだな)」康太が呆れたように言った。

 

「まあ、とにかくこれからは静かにするから勘弁してくれ、千鳥・・・ジリジリ」

「あんたみたいな戦争バカが、黙っていられるとは思ってないわよ・・・ジリジリ」

「それでは、どうしろと言うのだ・・・・・・ジリジリ」

「このハリセンにかけてあんたを黙らせてみせるわ・・・・・・ジリジリ」

「つまり俺を気絶させると言っているのか・・・・・・・・・ジリジリ」

「ふっ、戦争バカにしては察しがいいじゃない。さあ、大人しくあたしのハリセンの錆になりなさい・・・・・・・・・ジリジリ」

「断固として断る・・・・・・・・・・・・ジリジリ」

「じゃあ、実力行使しかないわね。日本の平和と治安のためにあんたを眠らせてみせるわ・・・・・・・・・・・・ジリジリ」

「話は変わるが君とどこかであったことはないだろうか・・・・・・・・・・・・・・・ジリジリ」

「あんたみたいな戦争バカに知り合いはいないわよ。とは言うものの、あたしもどこかで会ったことがあるような気がするのよね・・・・・・・・・・・・・・・ジリジリ」

「それにしても君は男にいつもこうやってハリセンを振り回しているのか・・・・・・・・・・・・・・・・・・ジリジリ」

「失礼ね。これでもあたしは、ご近所じゃお淑やかなお嬢様で通ってるのよ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ジリジリ」

「お淑やかではなくて脅しやかでは・・・・・ドワ」

「なんですってぇ~~~」

千鳥かなめと名乗った少女はハリセンを振り回しながら宗介を空港中追い回しだした。

 

「なかなかいい友達ができたようだね」愛子が微笑ましそうに言った。

「スペツナズの軍曹をハリセンで追い詰める少女がいるなんて、日本もなかなか捨てたもんじゃないね」陽向が感心したように言った。

 


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