これが土屋家の日常   作:らじさ

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第21話

みんながビーフシチュー(愛子いわく洋風肉じゃが)を食べ始めた。

 

「おいしいわ、愛ちゃん」由美子が言った。

「野菜にしっかり味が染みてるよ」陽太が言った。

「ちゃんと喰えるぞ」Atsushiが言った。

「体に悪影響も無さそうだ」Guuが言った。

「今日という今日は覚悟をしていたんだが」Gonが言った。

「食べられるということただそれだけのことがこんなに幸せだとは」Youが言った。

「ミンナ喜んでますね、アイコ」アンナが嬉しそうに言った。

「それはそうなんだけど、どういう訳だか余り嬉しくないんだよね」愛子が首をかしげながら言った。

 

「まあ、神仏のご加護により奇跡的に喰える料理ができたわけだ。これからもこの調子で頑張ってくれ、アンナ君」颯太が言った。

「おかず一つ作るのに、神仏の力に加えて奇跡まで必要って凄い話だよね」陽向が感心したように言った。

「・・・・・毎日の食事を作る度に動員かけられては、キリストや釈迦だって終いにゃ金属バットを振り回すと思うんだが」康太がツブやいた。

「アイコ、日本語難しくてよくわからナイのデスガ、ワタシたち誉められてるんデスカ?」アンナが首を傾げて尋ねた。

「う~ん、どちらかというと6:4で馬鹿にされているような気がしないでもない」愛子が答えた。

「ん、アンナその手は何だ?」颯太がアンナの手に貼られた絆創膏に目を留めた。

「コッ、コレはその・・・・・手荒れデス」

「この短時間でそんだけ手荒れするなんて、どんだけ敏感肌なんだ、お前は」

「違うよ、颯兄。アンナちゃんは肉じゃが作ろうとして包丁で手を切っちゃったんだよ。頑張ったんだよ、アンナちゃんは」陽向が口を挟んだ。

「・・・・・そうか。まあ、あんまり無理するな」颯太が言った。

「・・・・・ハイ」アンナが小さい声で答えた。

 

皆の称賛を聞きながら、アンナは無邪気に喜び、愛子の表情はだんだんと硬くなって行った。

 

【アンナちゃんの花嫁修業 エピローグ】

・・・・・二日後の夕方

「アンナ、ちょっと散歩に行くから付き合ってくれ」颯太がアンナに向かって言った。

「これから散歩デスカ?もうすぐ晩御飯デス」

「飯は後でいい。早くコートを取ってこい」

「ハイ」

二人で家を出て駅の方に歩き出した。

「ソータ、ドコ行きマスカ」

「ついてくればわかる」

「ハイ・・・・・」こういう時にアンナは無駄な質問をしない。日本人以上に大和撫子だった。

 

二人は電車に十数分乗り、見覚えのある駅でおりた。

「こっちだ」颯太が階段を先になって歩く。アンナは後ろから「もしかして」と少しドキドキしながら従って歩いた。やがて視界が開けて綺麗な夜景が見えた。想像した通り、ここはクリスマスにみんなで来た場所。愛子が「ここで愛を告白されるとずっと幸せになれるんだよ」と教えてくれた場所だ。二人は手すりに近寄ってしばらく夜景を眺めていた。風が冷たかった。

「まあ、動機が間違ってたとはいえ、花嫁修業ごくろうだったな。大変だったろう」

「ソータのためにやったことですカラ、苦労なんかありまセン」アンナは微笑んで言った。

「そのことなんだが・・・・・」颯太が何時になく真面目な顔で言った。

「お前が好きなのはタコ&ライスのShuだろう?確かにShuをやってるのは俺だが、俺とShuとは違うんだ。ShuはCDとライブの中にしかいないんだ」少し感情的になって一気にまくしたてた。少し言い過ぎたかと思ってチラっとアンナの方をみた。

「ソータ・・・・・」アンナが優しく言った。

「なっ、なんだ?」

「ワタシはタコ&ライスもShuも大好きデスネ」

「そうだろ。だから・・・・・」颯太が言いかけるのを手で制してアンナが続けた。

「でも、ワタシはちゃんとソータが好きデスヨ」照れも恥ずかしがりもせずキッパリ言い切る17歳女子高生。

「えーっと、それはそのつまり・・・・・」正面からハッキリと言われて狼狽する25歳成人男性。

「そういうことデス」

「そういうことだったのだな」再び二人の間に沈黙が流れる。

 

「まっ、まあ。そうだからという訳じゃないんだが、これ」颯太は恥ずかしいのか前を向いたままアンナに小さな箱をつきだした。

「なんデスカ、コレ?」アンナの鼓動が早くなった気がした。

「開けてみれば分かる」

「ハイ・・・・・・シルバーリングですネ。信じられまセン」嘘だ、箱を見た時に、自分は期待していた。そして確信もしていた。颯太なら。そうしてくれるはずだと。

「お前も一生懸命やったからな。ご褒美だ。サイズは陽向から聞いたから合ってるはずだ」

「ありがとうござイマス・・・・・あの~もう一つお願いがありマス」アンナがオズオズと言った。

「むっ、なんだ」

「ソータの手ではめてくれまセンカ?」

「いや、構わんが・・・・・」颯太がアンナの右手をとるとアンナが慌てて言った。

「違います。左手の・・・・・中指じゃなくて薬指です」

「たかが指輪にそんな決まりがあるのか」颯太が指輪をアンナの左手薬指にはめようとした時にアンナが尋ねた。

「ソータ?」

「ん、なんだ?」

「もう一度聞きマスガ、本当にいいんデスカ?」

「いいも何も指輪を指にはめんでどうするんだ?」そしてアンナの指に指輪をはめた。

「ソータ、ワタシ嬉しいデス」アンナが思い切り颯太に抱きついた。

「わっわ、馬鹿者やめんか・・・・・胸が・・・・・胸が」

アンナが抱擁に満足した時、颯太は気絶寸前だった。

 

 


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