やがてアンナが全ての野菜の皮むきを終えた。
「デキました。次は何をすればいいデスカ?」
「ありがとう。じゃ、お野菜と肉を一口大に切ってから、ざっと洗ってもらえるかな」
「アイコはシマセンカ?」
「ごめんね。クリスマスに「テキサス・チェンソー」って映画を見てから、トラウマで生肉は見ることもできなくなっちゃったんだよ」
「ということは、康兄は今後野菜と魚しか食べれないわけか」陽向がつぶやいた。
「まあ、半分ベジタリアンになったと思えば」愛子が言った。
「できマシタ。陽向、ママンレモンはどこにありマスカ」
「ママンレモンは流しの上の棚に・・・・・・ちょっと待った、アンナちゃん。ママンレモンで何するつもりなの?」陽向が慌てて言った。
「切った野菜を洗えとアイコが・・・」
「そこは水洗いでいいんだよ。野菜を食器用洗剤で洗ってどうしようってのさ」
「キレイになって、除菌までされマスネ」
「どうせ炒めて煮込むんだから、菌なんては死んじゃうよ。細胞培養しようってんじゃないんだから、どんだけ無菌操作が必要な肉じゃがなのさ」
「そうデスカ?」アンナは納得できない様子で、洗いだした。
「できマシタ」
「よし、じゃあアンナちゃん。ここからが本番だから気を引き締めてね。一瞬の気の緩みがとりかえしのつかない事故を生み出すんだからね」
「わかっています。一兵が油断してやられれば、一小隊が全滅します。一小隊が全滅すれば、一中隊が全滅します。一中隊が全滅すれば、一大隊が。一大隊が全滅すれば一連隊が、そして最終的には一師団が全滅しますね」
「いっ、いや。そこまで大仰に考えなくてもいいんだけどさ。それ誰から教わったの?」
「ワタシが教練を受けた時のドリル・マスター(Drillmaster)デス」
「それは何者?」
「ブッチャけて言うと、パパですネ」
「薄々そうじゃないかとは思っていたけれど、やっぱりそうだったね。もうちょっとリラックスしていいよ、アンナちゃん」
「分かりました、マム」
「いや、全然リラックスできてないから、それ。とりあえず鍋に油を入れて肉と野菜を炒めます。油はバターかサラダ油で・・・・・・両方とも見当たらないね」
「ここに油がありマス、アイコ」アンナが油の缶を見つけた。
「天ぷら油か・・・・・同じ油だからいいか」
「ちょっと待った、愛ちゃん。列車が1mmも動かないうちに脱線しかけているよ。てんぷら油なんかで炒めたら匂いが付いちゃうよ」陽向が慌てて止めた。
「えー、でも同じ油だし、他に油見当たらないし」
「サラダ油は確かこのタンクの下に・・・・・ほら、あった。これ使って」陽向が流しの下からサラダ油を取り出して渡した。
「では、油を入れて・・・・・まず肉を炒めます。そうそうウマいよアンナちゃん。次に野菜を入れて軽く炒めます・・・・・」
「次はどうしマスカ」アンナが箸で鍋の中の野菜を転がしながら尋ねた。
「次は日本酒を少々・・・・・どこにもないね。陽向ちゃん知らない?」愛子が尋ねた。
「日本酒は確かここに・・・あれ、ないや?切れているみたい」
「愛子、どうしマスカ」
「しょうがないここに赤ワインがあるからこれで代用しよう」
「ちょっと、ちょっと愛ちゃん、肉じゃがに赤ワインなんて入れていいの」
「アンナちゃんが作るんだから洋風肉じゃがということにすればOKだよ」
「もうネーミングだけで勝負するつもりなんだね」
「それに日本酒だってワインだってアルコールなんだから、同じだよ。示性式にすればCH3OHだよ」
「そりゃまあ、そうかもしれないけど・・・・・って、愛ちゃん、それメタノール。そんなんで料理したら、えらいこっちゃだよ」
「え?あたしの友達の瑞希がメタノールの方が殺菌作用は強いから料理には向いてるって・・・・・」
「いや、料理にアルコールを入れるのは別に殺菌のためじゃないから。普通のアルコールはエタノール、示性式はC2H5OHだからね」
「まあ、同じアルコールということで、赤ワインを使おう。それ!入れるよ」愛子が景気よく赤ワインを半分ほど入れてしまった。
「愛ちゃん、具がワイン漬けになっちゃったけど。ここからどうやって肉じゃがにリカバリーするの?」
「とっ、とりあえずワインが少なくなるまで煮詰めよう」
・・・・・・30分経過
「さて、いよいよ味付けだ。ここが一番肝心だよ、アンナちゃん」愛子が力強く断言した。
「わかりマシタ」アンナが答えた。
「(赤ワイン入れた段階でもう味付けもヘッタクレもないんじゃないかなぁ・・・・・)」陽向がつぶやいた。
「醤油と味醂で味を整えるの・・・・・・なんでこの家は何もないの」愛子が棚をかき回しながら言った。
「というか、買い物行く前に調味料の残量くらい調べておこうよ、愛ちゃん」陽向がツッコんだ。
「ここに塩があります、アイコ」アンナが言った。
「お塩かあ・・・・・野菜に味が染みたかどうかがわからないんだよねえ」
「デミグラスソースの缶がありマシタ」
「デミグラスソース・・・・・まあ、味がないよりいいか」と言って缶を開けて鍋の中に入れた。
「ナンか、量が少なくありまセンカ?」アンナが言った。
「水足してみようか」更に水を加えた。
「えーっと、カレーみたいになっちゃったけど、どうするの愛ちゃん?」
「せっかくだからカレールー入れてみようか」
「お願いだから、それだけは止めて」陽向が必死に止めた。
「まあ、これでじゃがいもに火が通れば出来上がりだよ」
「できあがりって何が?」陽向が尋ねた。
「もちろんアンナちゃん謹製洋風肉じゃがだよ」愛子が胸を張って言った。
「あくまで肉じゃがと言い張るつもりなんだね」陽向が疲れたように言った。
なぜか19話が同じものが連投になっていました。
(現在は削除してあります)
お読みになった方は申し訳ありませんでした。