これが土屋家の日常   作:らじさ

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皆様のお陰で200話を超えることができました。
どうもありがとうございます。

それを記念してというわけではないのですが、
よろしければご感想をお聞かせいただければと思います。
というのは最近自分自身で「マンネリではないか」とか
「本編のキャラをもっと出したほうがいいのではないか」とか
いろいろと悩んでいるのです。

いい点悪い点何でも結構です。感想をいただけましたら
今後の参考にさせて頂きます。

よろしくお願い申し上げます。



第14話

「縛道、見事なり!!」道場の入り口で大きな声が響いた。

全員がそちらの方に目をやると、白髪で小柄な道着を着た老人が入り口からこちらの方ゆっくりと歩いてきた。

「由美ちゃん、あの人誰?」

「私のお祖父様の三宮隆一郎。この道場の師範よ」

「縛道など50年ぶりにお目にかかったわ」老人は構わず続けた。

「(もしかしてボクたちが知らないだけで、割りとポピュラーに存在する技なんじゃないのかな?)」愛子が由美子にささやいた。

「(それはないと思うのだけど・・・・・)」由美子が複雑な顔をして言った。

「由美子、このお嬢さん方はどちら様かな?」老人が由美子に言った。

「あ、紹介が遅れて申し訳ありません、お祖父様。皆さんわたしの友人で、こちらにいるのが工藤愛子ちゃん。あちらが土屋陽向ちゃんにアンナ・カリーニンちゃんです」

「土屋・・・・・?」老人の目がスっと細められた。

「ええ、伊賀忍者の子孫で、今日はアンナちゃんに忍術を教えてくれることになってるんです」

「ほほう、伊賀忍術とな。お嬢さん、ひょっとして土屋正蔵という名に聞き覚えはないかの?」

「土屋正蔵は、あたしのおじいちゃんだけど、じいちゃん知り合いなの?」

「ほほほ、ちょっとした顔見知りでの・・・・・ドォリャ」老人は陽向に近づくといきなり飛び蹴りを見舞った。

「わっ」陽向はとっさに連続バク転で蹴りを躱しつつ老人からの距離を取った。

「いっ、いきなり何するのさ、じいちゃん。危ないなあ」

「黙らっしゃい。土屋正蔵の孫とあっては土屋正蔵自身も同然。ここで会うたが百年目。盲亀の浮木、優曇華の花。待ち得たる今日ただいま五十余年前の仇、いざ尋常に勝負、勝負」

「あたし百年どころか、まだ二十年も生きてないんだけど。五十年前のおじいちゃんの仇なんて言われても困るよ」陽向が当惑したように言った。

「「モウキノウボク ウドンゲノハナ」サンスクリット語かな?」愛子が首を傾げて言った。

「「盲亀の浮木、優曇華の花」と書きマス。出会ったり物事が実現することが困難なことの例えデス」アンナが得意げに解説した。

「へえ、アンナちゃん良く知ってるわね」由美子が感心して言った。

「古今亭志ん朝の「高田馬場」という噺に出てきマスネ」

「あのさ、アンナちゃん。マジで日本語の教材変えた方がいいと思うよ。そこら辺から現代日本語まで到達するのに、あと数百年かかると思うから」愛子が言った。

 

「大体、うちのおじいちゃんまだ生きていて、伊賀に住んでるんだけど。住所を教えるから仇討ちしたいなら、そっちの方に行ってよ」陽向が老人に向かって言った。

「(一瞬のためらいもなく、自分のおじいちゃんを売ったね、陽向ちゃん)」愛子が由美子にささやいた。

「(陽向ちゃんにしてみたら、巻き込まれたのは自分の方だから)」由美子が答えた。

「伊賀は遠いから面倒くさいのじゃ」老人が答えた。

「その程度で諦められる恨みだったら、二世代超えた孫のあたしで敵討ちなんてしようと思わないでよ」陽向が抗議の声をあげた。

「手近だから恨み晴らしとこうかなぁと思っての。では覚悟はいいかな・・・グワッ」

由美子が老人の脳天に手刀を叩きこんでいた。

「お祖父様、いいかげんにして下さい。「・・・かなぁ」なんてフレンドリーに仰っても100%八つ当たりですから」由美子が静かに言った。

「脳天にチョップって・・・・・由美ちゃんって使っている言葉の割に師範のおじいちゃんを敬っていなくない?」愛子が不思議そうに尋ねた。

 

「とにかく、一から説明して下さい。そうじゃないと陽向ちゃんもわたし達も対処に困ります」

「わかった。説明してやろう。そうすればワシがなぜ土屋正蔵を仇と思うか納得するじゃろう。とりあえず座りなさい」ボクたちは道場の床に円になって座った。

「あれは今から53年前、ワシがまだ三宮グループを継ぐ前じゃった。ワシは父と交渉して、グループに入る前に2年間の武者修行を認めてもらったのじゃ」

「はあ、武者修行ですか?」愛子が感心したように言った。

「日本全国を回っていろんな敵と戦ったよ。北海道ではヒグマ。秋田ではツキノワグマ、奥多摩ではオオサンショウウオ、八丈島ではキョン、奈良では鹿、大阪ではオバハン、六甲で猪、沖縄ではハブとマングース。皆強敵だった」

「あの、戦うどころか保護しなきゃいけない、動物が幾つかあったんですけど?」愛子がいった。

「もう時効じゃろ」老人は自信満々に言った。

「動物にシカ戦ってもらえなかったんデスカ?」

「道場もたくさん回ったよ。そして2年の期間が終わりかけたころに尋ねたのが、伊賀の土屋正蔵のところだったわけだ」

「ああ、わかった。うちのおじいちゃんにボコボコにヤラれたのを恨んでいるんだ?」

「バカを言うな。最初に縛道で動きを封じ込められた以外は互角だったわ」

「「「縛道!!」」」陽向、愛子、由美子の三人が声を上げた。

「(アンナちゃん以外にあんな技にかかる人はいないと思っていたけど、意外と身近にもう一人いたね。つまり由美ちゃんのおじいさんってアンナちゃんレベルってこと?)」

「(否定したいんだけど根拠が見つからないわ。ねぇ陽向ちゃん、縛道って本当にないの?)」由美子はこめかみを押さえながら陽向に尋ねた。

「(そんな便利な技があったら、忍者は全員失業してハローワーク通いだよ)」陽向は言った。

 


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