これが土屋家の日常   作:らじさ

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風邪をひいて3日も休んでいるムッツリーニのお見舞いに行くことになったFクラスメンバー。
家についてみるとなぜか工藤さんがエプロン姿で出てきてびっくり。
おまけにお兄さんからは「愛ちゃん」と愛称で呼ばれてすっかりなじんでいる様子。
だが、晩御飯を工藤さんが作ると聞いてお兄さんの様子がおかしくなり、やがて後を頼むと
逃げ出してしまった。



3.風邪とカレーとファーストキス
第1話


「土屋は今日も休みか」鉄人が出席を取るとムッツリーニの席を見ながら言った。

「仮病を使う奴じゃないし3日も休むなんてだいぶ悪いんだな。まあ、お前らは心配いらんと思うが、体だけは気をつけろよ。お前らから丈夫さを取ったら生きている意義がなくなるからな」実に失礼なことを言う。

だが、ムッツリーニが3日も休んでいるというのは、ある意味非常事態である。何しろその間に学校で行われた女子の体育の授業は両手では足りないのだ。ムッツリーニが決して学校を休まない理由はそこにある。

 

「確かに風邪にしては長引いておるのお」

「だいたい何で今頃、風邪なんかひいてるんだあいつは」

「なんか時間割間違えて女子更衣室の窓に雨の中2時間張り付いていたらしいよ」

「その根性をもう少し別なことに活かせないのかしらね」

 

恐ろしいことに誰も女子更衣室を盗撮しようとしたという行為について話題にすらしない。

それくらいムッツリーニと盗撮とは切っても切れない関係なのだ。

 

「でも、愛子ちゃんが心配して教室を覗きに来てもいいと思うんですけど」

 

そうか、ムッツリーニが学校を休んでいるというのにあの工藤さんが大騒ぎしないわけがない。もう別れたんだろうか?

 

「そりゃないな。今でもしょっちゅう翔子に料理のこととか聞いてくるらしいし」

 

僕の脳裏に嫌な記憶が蘇ってくる。二人がまだ付き合う前(といっても公式的にはまだ付き合っていることにはなってないらしいが)に、工藤さんがムッツリーニのために作ってきたお弁当をちょっとだけツマんだことがあったが、ある意味日本語の語彙では表現できない味だった。あれから色々と努力しているようだが、果たして上達しているのだろうか?

世の中には努力すればするほど料理の威力が増す人がいることだし、と姫路さんの方をチラっとみた。

 

「まあ、乙女心という奴じゃろう。彼氏の教室に来るのが気恥ずかしいんじゃろう」と秀吉が言う。うん、秀吉がそういうなら間違いないだろう。この学校で秀吉くらい乙女心を持った生徒はいないんだから。

 

「とりあえず、今日みんなで土屋君の家にお見舞いに行きませんか?先生からいろいろとパンフレットも預かっているんです」と姫路さんが言った。

「そうね。あんなバカでも3日も休むと気になるしね」と美波が言う。

 

そして僕たちはムッツリーニの家に向かうことになった。

途中、見舞いの品は何がいいかについて激論を戦わせた。僕と雄二は「大人の階段を昇るための参考書がいい」と主張し美波に関節決められて提案を取り下げ、秀吉は水分が足りてないだろうからとスポーツドリンクを、姫路さんは「私が食べれないぶんもぜひ土屋君に」とケーキを強硬に主張し、美波は退屈だろうからと「ヴォルク・ハン関節技Best」を提案した。「これはウチのバイブルなのよ」とない胸を張りながらDVDを差し出す美波の迫力に、誰も反対することができず結局お見舞いの品は「ヴォルク・ハン」のDVDに決まった。ところで誰なんだろうこの人は?

 

「確かこっちだったな」と雄二が言った。

「・・・・・そう、その角を右」いつの間にか雄二の横に寄り添うように歩いていた霧島さんが答える。

「うわ、翔子。いつの間に現れやがった」

「・・・・・一緒に帰ってくれなかった雄二にお仕置きをしようと追っかけてきた。とりあえずお仕置きは後回しにしてあげる。今は土屋のお見舞いが優先」

 

追っかけてきたって気配も音も姿さえ感じなかったんだけど。これが「恋する女の子に不可能はない」って奴だろうか。

 

やがて僕たちはムッツリーニの家に立っていた。

「来たのはいいけどムッツリーニが寝ていたら誰もでないんじゃないか?」

「先に連絡を入れておくべきだったのお」

「とりあえず呼んでみましょう。お母さんがいるかも知れないし」と美波がチャイムを押した。

 

家の中でチャイムの音がしている。しばらく間があって誰かが駆けてくる音がした。

そして「はーい、今出ま〜す」という女の子の声がした。

 

「今、女の子の声がしなかったか?」

「妹さんでしょうか」

「いや、ムッツリーニは男兄弟ばかりなはずじゃ」

「お母さんにしては声が若かったわね」

「それよりどこかで聞き覚えのある声だったんだけど・・・・」

 

そして「お待たせしました〜」とドアが元気良く開かれた先には、制服の上にピンクのエプロンをつけた工藤さんが立っていた。

 

空気が凍った‥‥‥‥


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