このままでは20話を超えてしまいそうですw
【アンナちゃんの花嫁修業 茶道編】
颯太は寝苦しさの中で目が覚めた。
「うん、何で俺は床で寝てるんだ?そうか、あのバカ犬のせいだ。にしても随分体が重くて寝苦しかったな」颯太は胸の上を見た。黒い塊が身体の上に乗っかっていた。
「陽向。お~い、陽向君」大声で陽向を呼んだ。
「颯兄は、朝っぱらからうるさい。一体どうしたのさ」
「どうしたのさじゃねぇ。なんだこれは」
「なんだこれはって言われても、ケンと一緒に寝るなんて随分仲良くなったんだねぇ」
「仲良くなったわけじゃねぇ。こいつが勝手に俺の身体の上で寝てるんだ」
「でも四肢を伸び伸びと伸ばして随分リラックスしているよ。颯兄の身体の上ってよっぽど寝心地がいいんだね」
「俺の身体は低反発マットレスか。どうでもいいから、このアホ犬をどけろ」
「ケン、そろそろ起きな」陽向がケルベロスに声をかけた。
「ファアア~」ケルベロスが大きなあくびをしながら体を起こした。
「しかしこのバカ犬。耳元であんなにでかい声を出したけどピクリともしなかったぞ。番犬としては全く使えんな」颯太が呆れたように言った。
「ガウ」ケルベルスが颯太に向かって吠えた。
「悪口だけには敏感に反応しやがる」
由美子の先導で三人と一匹は再び長い廊下を着物を着て歩いていた。
「(なんだかもう驚くのに疲れちゃったよ、ボク)」愛子が言った。
「(税務署に通報するだけじゃ気がすまないね)」陽向も言った。
「(やっぱり胸がキツいです)」アンナも言った。
「(もう聞かなかったことにしておこう。現実を見なければツラくないはずだから)」アンナから目を背けながら愛子が言った。
「(いや、あたしはまだ可能性があるから・・・・・)」陽向が言った。
「(何をいうのさ、陽向ちゃん。ボクと1つしか違わないじゃないか)」
「(ほら、1年分の可能性がね・・・・・)」2人が醜い言い争いを続けていると由美子が言った。
「じゃ、ここで草履に履き替えて庭に降りて頂だい」
「由美ちゃん、外でするの?」
「いえ、茶室に行くのに庭を通らないといけないから」
「(今度は茶室だって、愛ちゃん)」
「(これくらい想像はしてたよ、ボク)」
「ユミコのママは、お茶も教えているのデスカ?」
「いえ、これは父と母の趣味で・・・・・」由美子が言いにくそうに言った。
「「「趣味の部屋!!」」」三人が同時に叫んだ。
「茶道は茶釜とかしつらえなければいけないので、専用の部屋が必要なのよ」
「にしても趣味のためだけに茶室建てるなんて、やっぱりお金持ちはスゴいなあ」
「この調子じゃケンの部屋もあるんじゃないのかな?」
「そっ、そんなことはないのよ。(兄さんは等身大ガンガムをたてる場所を確保しているけど・・・・・・ボソッ)」由美子が小さな声で言った。
「ここよ」由美子が言った。
「思ったより小さいね」愛子が言った。
「2畳しかないもの」
「ふむ、「侘び寂び」だね」陽向が言った。
「ワタシ、ワサビは苦手デス」アンナが言った。
「いや、アンナちゃん。ワサビじゃなくて「侘び寂び」ってのは、何というか・・・・・みすぼらしいものだよ」愛子が説明した。
「あの、愛ちゃん。その説明はちょっと・・・・・」由美子が慌てて言った。
「え、違うの?由美子ちゃん」
「えーっと、基本的には「侘び」と言うのは、「粗末であるだけじゃなくて美的に優れたもの」を、「寂び」と言うのは「古いものの内側からにじみ出てくるような、外装などに関係しない美しさのこと」を言うの」
「ふむ、なるほど」愛子が力強くうなづいた。
「わかったの、愛ちゃん」陽向が尋ねた。
「いや、全然。ようするに古くて美しいものだということはわかった。どんなものかは想像もつかないけど」
「とりあえず入りましょう」話が変な方向に迷走しないうちに由美子が言った。
「ねえ、由美ちゃん。この入口って設計ミスじゃないのかな。こんなに小さくちゃ入れないよ」愛子が言った。
「ふふ、これでいいのよ、愛ちゃん。これは「にじり口」と言って、茶室の入口なの。こんな小さな入口にすることによって、日常を持ち込むことを拒んで、それを無理をしてくぐりぬけることで新しい世界が開ける入り口であるとされているの」
「なるほど・・・・・」愛子が力強くうなずいた。
「愛ちゃん、意味が・・・・・いや、なんでもない。それにしてもこんな小さな入口じゃ、アンナちゃんのダイナマイトヒップが通れないんじゃないかな?」陽向が失礼なことを言った。
「バカにしないでくだサイ。チャンと通れマス・・・・・多分」
「結局、ちゃんと通る自信がないんだね」
「大丈夫よ。そこまで小さな入口じゃないから」
四人はにじり口から茶室へと入って言った。