ありったけのH本を探しだした少女たちは、その山の前で呆れていた。
「よくもまあ、こんなに買い集めたもんだよね」
「まあ、颯兄は仮にも社会人だから小金は持ってるしね」
三人は見るともなしに押収したH本の頁をめくっていた。
「これを見る限り颯太君は巨乳スキーなんだね」
「なに食べればこんなに大きくなるんだろうね」
「そういえば陽向ちゃん、大丈夫なの?」愛子が尋ねた。
「えっ、何が?」陽向が答えた。
「だって染色体の話読んだだけで鼻血吹き出して気絶したって聞いたよ。H本なんか読んで大丈夫かってこと」
「そりゃそうだけど、ここにあるのって女の子の裸じゃん。大きさに違いはあるけど、自分ので見慣れてるよ」
「それもそうだね・・・・・アンナちゃん、元気ないけどどうしたの?」愛子は暗い顔をしているアンナに気がついて声をかけた。
「アイコ・・・・・どうしまショウ」
「どっ、どうしたのかな?」
「この本をみる限り、ソータは胸の小さな女の子が好きみたいデス。ワタシどうすればいいデスカ・・・・・」アンナは沈んだ声で言った。
「なんだろう、ボク一瞬ムカってきちゃったんだけど」愛子が怒りを押し殺した声で言った。
「あたしは殺意が湧いた・・・・・」陽向も同調した。
「格差社会の歪みがこんなところにも現れるとは・・・・・」
「マリー・アントワネットに「パンがなければケーキを食べればいい」と言われたフランス民衆の気持ちが理解できた気がするよ」
それはともかくアンナが本気で落ち込んでいる様子だったので慰めることにした。
「そりゃアンナちゃんのGカップに比べれば、小さいかもしれないけれど日本人としては十分大きい方だから。だから颯太君は大きいバストの女の子が好きなんだよ」
「ソウですか。じゃソータはワタシのバストも好きでショウカ?」
「大丈夫。颯太君はアンナちゃんのバストが絶対に好き」愛子はアンナのGカップバストをビシッと指さして迷うことなく断言した。
「ソレを聞いて安心しまシタ」アンナが目に見えて上機嫌になった。
「ちょっと、ちょっと愛ちゃん」陽向が慌てて言った。
「んっ、どうしたの陽向ちゃん」
「その言い方じゃ颯兄は、アンナちゃんの胸だけが目当てみたいだよ」
「それもそうかな?でもアンナちゃんがあんなに喜んでるみたいだし、いいんじゃないかな?」無責任な愛子であった。
「颯兄に好かれるなら、何でもいいんだね」
「颯太君も男冥利に尽きるよね。女子高生にあんなに一途に思われて・・・・・」
「方向はだいぶ迷走してるみたいだけどね」
「ハックション」練習中に颯太は大きなクシャミをした。
「ん、どうした颯太。風邪か?」Atsushiが尋ねた。
「いや、冒涜的かつ病的な混沌とした禍々しい悪寒に襲われた」
「何か知らんが随分ややこしい悪寒だな。今日は早く帰って寝ろ」
「いや、何だか家に帰らない方がいい気がする。お前ん家に泊めてくれ」
「バカ野郎、ライブも近いのにボーカルに風邪ひかれてたまるか。とっとと家に帰って暖かくして寝てろ」
数時間後、颯太は家の玄関に立っていた。
「どうも、この家から邪悪な気配がするんだが・・・・・」
「あ、颯兄。お帰り」陽向が声をかけてきた。
「ああ、陽向か。アンナはどうした?」
「なに、颯兄。アンナちゃんが気になるの?」陽向がニヤニヤしながら言った。
「バカ、そんなんじゃねえ。いつも帰ってくるなり飛びついてくる奴が出てこないから、風邪でもひいたかと思ってな」
「いや、別にそんなわけじゃないんだけど、乙女の悩みというか乙女の怒りというか・・・・・」
「なにを言ってるんだ、お前は」へんな奴だと思いながら自分の部屋に向かった。「ガチャ」ドアが抵抗なく開いた。
「あれ、鍵かけるの忘れてたかな」ノブを回して部屋にはいるとアンナが無言で背を伸ばしたまま暗闇に正座して待っていた。
「なっ、なんだ俺の部屋で何してる。」颯太は部屋の電気のスイッチをいれた。
「で、お前は何をしているんだ?」
「掃除です」
「部屋が全く綺麗になってないのはともかくとして、どうやって鍵のかかった部屋に入ったんだ?」
「陽向からピッキングを習いました」
「一体何をしやがる。ほとんど犯罪行為だと理解してるのか」
「アイコが乙女の純情は法律より重いと言ってましたカラ大丈夫デス」
「いや、そもそもピッキングしてまで掃除する必要性をだな・・・・・」
「ソンナことは些細な問題デス。ここに正座してくだサイ」アンナは自分の前を指さした。
「いや、俺にとっては重大な問題なんだが・・・・・」
「些細な問題と言ってマス。早く座ってくだサイ」アンナの声が低くなった。颯太が渋々とアンナの前に正座した。
「ソータに折り入って聞きたいことがありマス」
「なっ、なにかな、アンナ君?」
「これは何デスカ?」アンナは身体の後ろからH本の山を2人の間に押し出した。
「こっこれは、マイトレジャー。どこからこれを・・・・・」
「部屋を掃除してたら偶然見つけまシタ」
「天井裏まで掃除したと言い出すつもりか、お前は」
「些細な問題デス。もう一度聞きマス、これは何デスカ?」
「これはそのなんだ・・・・・大人の階段を登るための参考書と言うか」
「それ以上大人になったら中年デス。ワタシとの歳の差をもっと広げるつもりデスカ」
「いや、それはその比喩というか、レトリックというか・・・・・」
「ソータも男だからこんな雑誌も読みたいデショウ。それくらいは許すのも妻の度量デス」
「何でお前に怒られているのか、さっぱりわからんのだが」
「ダケドこれだけの雑誌の中に、ワタシに似ている子が一人もいないのはどういう訳デスカ?」アンナは怒りを押し殺した声で言った。
「怒ってるのはそこなのか・・・・・」颯太が呆れたように言った。
「理由を教えてくだサイ・・・・・」アンナが身を乗り出してきた。瞳の中に怒りの炎がメラメラと立ち昇るのが見えるような気がする。
「そっそりゃあ、女の子はみんな日本人だからアンナ君ほどの美貌とスタイルを備えた子なんていないよ・・・・・」
「・・・・・そっ、そうデショウカ」アンナの顔がみるみる赤く染まった。目前の恐怖から逃げたいあまり地雷を踏み抜いたのではないかと颯太は思った。
「そうだよ、ははは」
「フフフ」
「じゃあ、この雑誌は片付けようか」と颯太が問題となっているH雑誌を一刻も早く目前から消そうと手を伸ばした。
「イエ、この雑誌は没収しマス」アンナがいち早く雑誌を取り上げた。
「なっ、なにぃ?」颯太が叫んだ。
「ワタシに似てない女の子なんて見る必要ありませんネ」アンナが微笑みながら言ったが目は笑ってなかった。
「もっ、もちろんじゃないかね。アンナ・マリア・カリーニン君」その迫力に颯太が半泣きで言った。
「ワタシも鬼ではないので、これは返してあげマス」といって「ロシア美女紀行」のDVDを差し出した。
「こっ、これはマイフェイバレットDVD。あの完璧な偽装を見破ったというのか」
「アイコが3秒で見つけまシタ。これは見ることを許してあげマス」
「・・・・・これ・・・・・見たのか」
「ハイ、ですからこの子は顔がワタシにチョット似ているから顔だけ見て下サイ。そしてこの子は、スタイルがワタシに似ているからボディだけ見て下サイ。後の子は見てはダメデス」
「そんな器用な見方ができるかぁ」
8歳年下の女子高生に説教される25歳成人の颯太であった。