これが土屋家の日常   作:らじさ

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第3話

【アンナちゃんの花嫁修業 お掃除編】

 

土屋家のリビングに愛子、陽向、アンナが勢揃いしていた。

「今日からアンナちゃんを正しい日本の新妻にするべく花嫁修業をする訳だけど・・・・・」愛子が宣言するように言った。

「ハイ、よろしくお願いしマス、マム」アンナが敬礼して言った。

「いや、軍隊の訓練じゃないんだから敬礼もマムも止めてくれるかな」

「わかりまシタ」

「まあ、言いたいことは色々とあるんだけど、とりあえずその格好は何かな?」

愛子たちの視線の先には、白い割烹着に手ぬぐいを姉さん被りにして、ご丁寧に片手にホウキを持つアンナの姿があった。

「コレが正しい日本の妻の家事姿だと聞きまシタ」恥じることなど何一つないとばかりに、アンナがGカップの胸を誇らしげに張った。

「いや、うちのおばあちゃんだってそんな格好しないから」愛子が呆れたように言った。どこからどうみても外人の、見た目だけはクールビューティな少女が割烹着に姉さん被りをしているのは、なかなかシュールな光景であった。

「今時、コントでもこんな格好しないよね。アンナちゃん、その情報どこから持ってきたの?」陽向が不思議そうに尋ねた。

「ハイ、サザエさんのお母サンはいつもこの格好デス」アンナが自信満々に答えた。

「昭和初期だったら、正しいかも知れないけど・・・・・白樺派も大絶賛だね。」

「アニメもいっぱいあるだろうに、よりにもよってそこに行くかなあ?」

「一度、アンナちゃんの頭の中の日本像がどうなってるか覗いてみたいね」

「宇宙船の中で割烹着着てハタキかけてそうだよね」

 

「まあ、本当はエプロンでいいんだけど、せっかく準備したんだからその格好でいいや」愛子が言った。

「なんかお茶の間コントやるみたいだけど・・・・・」陽向はまだ納得できない様子であった。

「ではリビングから掃除すればいいデスカ?」アンナがホウキを握りしめて力強く言った。

「うん、それもいいけどね。掃除で大事なのは夫の秘密を把握することなんだよ、アンナちゃん」

「「はいっ?」」アンナと陽向が同時に言った。

「とにかくこっちに来て」愛子はそういうと階段を昇っていった。2人も仕方なく後に続いた。

愛子は颯太の部屋の前に立ち止まると、振り返っていった。

「男の子って必ずH本を持っているからね。それを把握するのは妻として大事なことなの」

「要するにガサ入れだね」陽向が脱力したように言った。

「そう、掃除をしつつH本の探索をする。家内安全のために必要なことだよ」

「家庭に余計な波風が立ちそうなんだけど・・・・・」

「わかりまシタ。ではさっそく」アンナがそう言うとドアノブを回した。「ガチャ」ドアには鍵がかかっていた。

「鍵がかかっていマス」アンナが情けなさそうに言った。

「ふむ、これで部屋に何かを隠している可能性が高まった、すなわちクロだね。陽向ちゃんお願い」

「いいのかな?あのねアンナちゃん。部屋の鍵くらいだったらピン2本で何とでもなるから。それ以上だとあたしのプロ用ピッキング道具貸してあげる。あれだと銀行の金庫以外は大抵開けられると思うから」

「ハイ」

「そこまで大仰でなくてもいいと思うんだけど・・・・・」愛子がつぶやいた。

「まず、一つ目のピンで下の方を押しながら出っ張りをゆっくり押し下げるの。で最後までいったら、反対側の壁にピンをつけて錠を回すの。やってみて」

「ハイ、一つ目で押し下げながら・・・・あっ外れました。もう一度・・・押し下げながら最後まで。そして二つ目を入れて錠を回すと・・・・・ガチャ。開きました」

「うん、これで大抵のドアの鍵は開けることができるよ」

「さすが陽向ちゃんは忍者だね」愛子が感心したように言った。

 

「さて、部屋に入ったわけなんだけど。意外とシンプルでキレイにしてるね」颯太の部屋はベッドと本棚とテレビ以外には何もなかった。

「掃除しまスカ?」アンナがホウキを握りしめて言った。

「それは後回し。まず部屋全体を見渡してエロっちいオーラを感じて」

「エロっちいオーラですカ?」

「愛ちゃん、エロっちいオーラってどんなの」陽向が尋ねた。

「黒にピンクが混ざった感じかな。ふふふ、盗聴器を道具なしで見つけ切れるボクにはH本の隠し場所を見つけることくらい赤子の手を捻るようなもんだよ。まず、ベッドの下からエロっちいオーラを感じる」愛子はそういうとマットレスの下に手を突っ込んだ。

「ほら、こんな本が隠されていた」マットレスの下から数冊の雑誌を取り出した。いずれも肌も露わな若い女性が表紙の本であった。

「どうかな?二人には感じることができるかな?」愛子を腕を組んで得意げに言った。

「感ジルも何も、何が何ヤラ」

「どんな修行をすればそんなことができるようになるの、愛ちゃん」

「まあ、慣れだね。康太の部屋の掃除をしていたら大体どこに隠すのかわかるようになっちゃった。じゃ、二人も無心になってオーラを感じてみて」

愛子の言葉に2人は周囲を見渡していたが、何も感じれなかったようだ。

「ダメだよ、愛ちゃん。何も感じない」

「修行が足りないなあ。例えばあのクローゼットの中」愛子はビシっとクローゼットを指差した。

「別に何もありまセン」アンナがクローゼットを開けて中を覗いていたが何も発見できなかった。

「甘いよ。アンナちゃん。天井を見てみて」愛子がそういって天井を指差すと天板がわずかに歪んでいた。

「あそこの中からエロっちいオーラが出ている。アンナちゃん調べてみて」

「あ、ありまシタ」そこには結構な数の雑誌が隠されていた。

「凄いね、愛ちゃん」陽向が心底感心したように言った。

 

「ふふふ、本番はこれからだよ」愛子は不敵に笑いながら言った。

「いや、今まででも颯兄の秘密は大概暴いていると思うんだけど」

「一番の大物が本棚に隠されているね」

「本棚ですカ。そんなわかりやすい場所に隠しますでショウカ?」アンナが不思議そうに言った。

「本棚のあの不自然なラインナップを見てみて、ほとんどの本がラノベか漫画なのに左端だけに異常があるの」

「左端?」陽向が本棚に近づいて本のタイトルを確認した。

「「E・カント 純粋理性批判」、「F・ニーチェ ツァラトゥストラはかく語りき」、「D・ホッフスタッター ゲーデル、エッシャー、 バッハ」、「B・ラッセル プリンキピア・マテマティカ」、「U・エーコー 薔薇の名前」。とても颯兄の読める本だとは思えないね。自分の家の本棚で見栄張ってどうするんだろう」

「見栄じゃないんだよ、陽向ちゃん。欲しかったのは本そのものじゃなくて本の高さ。つまりお宝を隠すだけの本の高さが必要だったの。だからあの裏には絶対にお宝が隠されているんだよ」愛子がコナンばりのポーズで本棚を指差した。

アンナが本を本棚から取り出して奥に隠されていたものを見つけ出した。

「DVDだね」

「えーっと、タイトルは「ロシア美女紀行」・・・・・」

「・・・・・ということはつまり」2人はそっとアンナの方を伺った。

 

アンナは嬉しそうな恥ずかしそうな困った顔をしてモジモジとしていた。

 


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