「あれ、どうしてみんな揃っているの?」と言いいながら少女は颯太たちのいる席に近づいた。
そこには、颯太とアンナ、陽太と由美子、陽向と同級生の男生徒と女生徒が座っていた。
「どうしてもこうしても、愛ちゃんが教えてくれた店は、全部今日は予約だけと言われたんだ」颯太が忌々しそうに言った。
「いや、あれは別に紹介したんじゃなくて、例としてあげただけで別の店に行けば良かったんじゃないかな・・・・・」少女が小声でつぶやいた。
「・・・・・結局、お前のせいではないか」
「なんでボクのせいなのさ、康太?」少女がムッとしたように言った。
「・・・・・お前のクリスマスデート講座でちゃんと教えなかったからだ。クリスマスのレストランは予約しないと入れないというのは、俺でも知ってる常識だぞ」
「ムム、ボクの完璧なリサーチに思わぬ穴があったとは・・・・・」
「・・・・・穴どころか底が抜けてるわ。危うく昼食難民になるところだった」
「そんなもんになるわけないじゃん。いざとなれば立ち食いそばでも食べればいいんだよ」少女がムキになって言い返した。
「・・・・・何が悲しくてデートで立ち食いそばを食わにゃならんのだ。そもそもロマンチックなクリスマスデートを言い出したのは・・・」
「まあまあ、無事に食事にありつけたからいいじゃないか」見かねた陽太が割って入った。
「そうよ、愛ちゃん。それにこのお店のサービスはスゴいのよ」由美子が感動した面持ちで言った。
「えーっと、この店ってそんなにサービス良かったですかね?」少女の記憶ではごく普通のファミレスだったはずなのだが・・・・・
「ええ、飲み物を何種類、何杯飲んでも同じ料金なの。わたし感激してカプチーノを3杯も飲んじゃたわ」由美子の顔は喜びに輝いていた。
「・・・・・それって単なるドリンクバーなんじゃ」恐らく由美子はファミレスというところに来たのは初めてなのだろう。
「そんなことよりそろそろ食事を注文しよう。アンナは何が食べたいんだ?」颯太が言った。
「ハイ、ワタシはカツ丼がいいデス」銀髪のロシアン少女はキッパリと言い切った。
「ほう、イタリアに正面からケンカを売りやがったな。俺も長いこと日本人をやってるが、カツ丼がイタリア料理だったとは知らなかった。ここにメニューがあるから、隅々まで読んでカツ丼が載ってたら注文しろ」
「アンナちゃん、トンカツはカッツレットが起源だから、イタリアじゃなくてフランス料理だよ」少女が注意した。
「・・・・・丼という時点で日本料理だ、バカ者」少年がたまりかねて叫んだ。
それぞれの料理を注文し終えた時、颯太が言った。
「ところで陽向。その少年少女は誰だ?」
「ああ、同級生のマコちんとユカりんだよ」陽向がストローをくわえたまま答えた。
「そうか、俺は陽向の兄の颯太で、隣が次男の陽太、向かいにいるのが彼女の由美ちゃん。陽太の隣が三男の康太で、その向かいにいるのが彼女の愛ちゃん。俺の向かいの外人が交換留学生でうちにいるアンナだ。よろしくな、ユカりんにマコちん」
「あんたまでマコちん言うな。俺は竜崎誠です」
「城ヶ崎由香子です」
「ソータ。なんでワタシのことをチャンと妻と紹介しまセンか?」アンナが不平をとなえた。
「「妻?」」
「これ以上、妙な誤解を拡散させてたまるか。すまんな、二人共。アンナはまだ日本語が不自由な上に頭が少々残念な子なんだ。時々妄言を吐くが無視してやってくれ」
「「はぁ」」二人は狐につままれたような顔で答えた。
「で、陽向。マコちんはお前の彼氏なのか?」陽太が尋ねた。
「やだなあ、颯兄。あたしの口からそんなこと恥ずかしくて言えないよ」陽向がワザとらしく体をクネらせながら言った。
「ハッキリキッパリ否定しろ、アホ。別に恥ずかしがるところなんざ少しもないだろう。「ちがう」の3文字で済む話じゃねえか」誠が叫んだ。
「ははは、マコちん。そう恥ずかしがらなくていいぞ。俺たちは別に反対はしないからな。君なら安心して陽向を任せられる」
「だから、違うって言ってるだろうが」
「じゃあ何でクリスマスデートなんかしてるんだ?」
「あんたの妹にハメられて、脅迫されたからだよ」
「なに?じゃあユカりんが君の彼女か?安心しろマコちん。俺たち兄弟は懐が広い、たとえ他に彼女がいたって、君に陽向を任せることに何のためらいもない」
「俺に厄介払いする気マンマンだな、あんた」
「人の話を全く聞かないのはどうやら家系のようね」由香子がつぶやいた。
「厄介払いとは失敬なことを言うマコちんだ。これでも兄として陽向のことを考えているんだ。まかすのは誰でもいいという訳じゃないぞ」颯太が神妙な様子で言った。
「とてもそうは思えなかったんだが、そうなのか?あと、マコちん言うな」
「そうだ。任された後、俺たちには絶対に迷惑をかけないという重要な条件が・・・・・」
「上下左右裏表どこから見ても厄介払いじゃねぇか」
「マコちん、君はちょっとカルシウムが足りないんじゃないか?そんなに怒っていたら疲れるだろうに」颯太が涼しい顔で言った。
「颯兄、マコちんはいつもこんな感じだから、気にしなくていいよ」
「誰のせいだと思ってるんだ」誠が怒鳴った。
「まあ、というわけで陽向のことをよろしく頼む」
「やだなあ、颯兄。あたしテレちゃうよ」陽向が頭を掻きながら言った。
「俺の話を聞け~」誠が再び怒鳴った。
ちょうど誠が絶叫した時に料理が運ばれてきて、結局話はウヤムヤのままで終わった。