少年と少女はその後コインゲームをしたり太鼓を叩いたりして遊んだ。
「・・・・・おい、愛子。ストリートファイターをしなくていいのか」
「うーん、まだ陽向ちゃんがいるかもしれないから・・・・・」
「・・・・・別にいいだろう。ちょっと代わってもらえば」
「代わってくれるだけならいいんだけどね。勝負申し込まれたりしたら・・・・・」
「・・・・・別に勝負してやればいいではないか」
「何てことを言うのさ、康太は。大事な彼女がボコボコにされてもいいって言うの?」
「・・・・・俺をボコボコにすると、わざわざ未来日記に書いた奴が言うセリフか」
ストリートファイターの方へ行ってみると、陽向たちはいなかった。
「よぉし、じゃあ一丁揉んでやるよ康太」
「・・・・・いや、別に俺がやりたいわけじゃない」
「ダメだよ。もう未来日記に書いちゃったんだから」
「・・・・・やれやれ」
5秒でボコボコにされた。
「・・・・・ちょっ、ちょっと待て愛子。いくら何でも初心者相手に本気出しすぎだろう。俺はほとんど何もしてないぞ」
「ふふふ、全力で向かってくる相手に本気を出さないのは失礼だよ」
「・・・・・だから全力も何も、俺はただ立ってただけなんだが」
「ほら、ゴチャゴチャ言ってないで次のラウンドだよ」
そこからは愛子の繰り出す華麗なコンボ技のオンパレードだった。
「いやぁ、楽しかったね」少女は上機嫌で言った。
「・・・・・それは何よりだ。俺は取り出せない貯金箱に金を入れてる気分だったが」
「お腹すいちゃったから、ランチ食べに行こうよ」
「それはいいが店知っているのか」
「ふふふ、クリスマスデートの情報はちゃんと調べてあるって言ったじゃない。黙ってボクについて来て、惚れ直すといいよ」
5分ほど歩いて店についた。
「ここは女の子に人気のイタリアンのお店で、その名も「イル テアトリーノ デル ダ アクア パッツア」だよ。魚介類が人気で鮪のアルフォントがお勧めだね。」
「・・・・・鮪の何だって?」
「鮪をアルフォントしてあるんだよ」
「・・・・・要するに知らないんだな」
「うるさいよ、康太。じゃ行くよ」少女は意気揚々とドアを開けて入って行った。
「いらっしゃいませ、ご予約でございましょうか?」ウェイターが近寄ってきて言った。
「えっ?いえ予約はしてないんですけど」少女が怯んだように言った。
「申し訳ございません、お客様。本日はクリスマスディナーということでご予約のお客様だけになっております」
「えーっと、合い席でもいいんですけど・・・・・」
「大変申し訳ございません」
「ランチ程度で大げさな店だね」少女は憤慨して言った。
「・・・・・どうするんだ、おい」少年が言った。
「ふふふ、こんなこともあろうかと次の店も調べてあるんだよ」少女が誇らしげに胸を張って言った。
「・・・・・そこまで威張るなら、「こんなこと」がないようにして欲しいのだが」
「康太は男のクセに細かいなあ。もうイタリアンは止めた。やっぱり料理と言えばフレンチだね」2人は再び歩き出した。
「ここが有名フレンチのお店、「ガストロノミー ル・ジュー・ドゥ・ラシュリールだよ。マダムビュルゴーのシャラン鴨胸肉のロースト パンデビス風味レモンとーコーヒーの香りソースが大人気」
「・・・・・どうでもいいが知ったかぶりするならば、メモをチラチラ見ないでちゃんと記憶してくれないか?」
「うるさいなあ。ちゃんと雑誌の切り抜きを持ってきたんだからいいんだよ。さあ、行こう」少女は再び意気揚々とドアを開けた。再びウェイターが近寄ってきた。
「いらっしゃいませ。ご予約でしょうか」
「えーと、もしかして今日は予約だけなんでしょうか?」少女が恐る恐る尋ねた。
「はい、さようでございます」
「念のためにお尋ねしますけど、合い席というのは・・・・・」
「申し訳ございません。そのようなシステムはございません」
「だからボクは洋食は嫌いなんだよ」
「・・・・・クリスマスはイタリアンでランチとか言ってなかったか?」
「やっぱり、アジア人はアジア料理だね。中華料理屋に行こう」
「・・・・・ちょっと待て愛子。いくらなんでもクリスマス中華というのはないだろう。だいたい、未来日記にイタリアンでランチと書いてあるんじゃないのか」
「つつつ、ボクを舐めてもらっちゃあ困るなあ。こんなこともあろうかと、未来日記にはランチとしか書いてないよ」
「・・・・・だからそもそも「こんなこと」がないようにしろと言っているのだ。もう、手近なところであそこでいいんじゃないのか、一応イタリアンだ」と言って少年が指差した。
「・・・・・シャイゼリア。いくら何でもクリスマスランチでファミレスって、康太センスなさすぎ」
「・・・・・中華料理屋に行こうとしていた奴が言うセリフか。あそこなら予約もいらん。行くぞ」少年が歩き出した。
二人で店内に入るとウェイトレスがやってきた。二人であることを告げたとき
「愛ちゃん、こっちこっち」という声がした。
そちらの方に目をやると、颯太以下全員が揃っていた。