これが土屋家の日常   作:らじさ

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第6話

【土屋康太の場合】

 

少年と少女は部屋で話し合っていた。少年がベッドに腰掛け少女がその前に立ちふさがるようにして少年を見下ろしていた。

 

「さて・・・・・」

「・・・・・さてとは?」

「決まっているじゃない。クリスマスデートの作戦を立てるんだよ」

「・・・・・作戦ってお前。頼むからその全方位360度に戦をしかける癖はやめてくれないか。いったい何と戦っているんだお前は」

「わかってないなぁ、康太は。僕たちは土屋家で一番古いカップルいわば最古参兵《ベテランズ》だよ。新兵の陽太君・由美ちゃん、颯太君・アンナちゃん、陽向ちゃんは・・・誰でもいいや、このカップルたちに手本を示す必要があるんだよ」

「・・・・・また、変なスイッチを入れたな。大体、俺たちと兄貴たちがカップルになったのって三ヶ月も変わらんぞ。DQの装備で言えば「ぬののふく」から「かわのよろい」に変わった程度の違いしかない」

「DQ三ヶ月もあったらラスボスまで倒せるようになっているんだよ。だからこの戦いを完全な勝利にするためにも、完璧な計画が必要なの」

「・・・・・たかがクリスマスデートをどれだけ大げさにするつもりだお前は」

 

「お祖父ちゃんがいつも言っていた海軍五省っていうのがあってね」

「・・・・・海軍五省?」

「一、至誠(しせい)に悖(もと)る勿(な)かりしか

 一、言行に恥づる勿かりしか

 一、気力に缺(か)くる勿かりしか

 一、努力に憾(うら)み勿かりしか

 一、不精に亘(わた)る勿かりしか」

「・・・・・それとクリスマスと何の関係が?」

「つまり、真心をもってデートに取り組んだか。クリスマスデートがカップルにとって大事なイベントだと宣言して、それを実行したか。デートに全力を尽くしたか。デートのために努力を傾けたか。デートに手を抜くことがなかった。ということを海軍五省が言っているの」

「・・・・・その解釈は間違いなくお前の勘違いだと思うぞ。これ作った人もそこまで拡大解釈されるとは思っていまい」

「とにかく、クリスマスデートはカップルにとってそれくらい重要なイベントってことなの」少女が力強く右のコブシを握り締めて天を仰いだ。こうなった少女を止めるすべはない。

 

「ということで、ジャーン」と少女はノートを取り出した。

「・・・・・なんだそれは」

「これは未来日記。またの名をLife Note」少女が胸を張っていった。

「・・・・・全然訳があってないんだが、何なのだ」

「ふふふ、これに書いた予定は実現するという恐ろしいノートなんだよ」

「・・・・・また、変なことを。Death Noteのパクリじゃないか」少年が手を伸ばしてノートを取ろうとすると、少女が隠した。

「ダメだよ。これに触れちゃうとノートをくれた天使が見えちゃうから」

「・・・・・そういう設定なわけだな。だが冷静に考えてみれば単なる予定帳ではないのか?」

「設定言うな。未来日記なの」少女が少し頬を膨らませていった。

 

「ああ、わかったわかった。そういうことでいいから」少年はあきらめていった。

「とりあえず康太は何をしたい?」

「・・・・・取り立ててないが」この少女はどうせ少年の意見を聞く耳を持ってはいないのだ。勝手に計画を立てさせてもいいのだが「T國ホテルでディナー」とかいう無謀な計画を止めさせるためにも参加せざるを得ない。

「ノリが悪いなあ。えーと、まずゲーセンで康太をシゴきあげてあげるよ。陽向ちゃんにボコボコにされた恨みを晴らさなきゃ」と言ってノートに記入した。

「・・・・・俺に晴らしてもしかたないだろうに」

「そしたらお昼ご飯だね。ちょっと有名なイタリア料理屋がクリスマスランチやっているから、13:00からお昼ご飯っと・・・・・」再びノートに記入した。

「それからやっぱり映画は外せないよね。クリスマスにカップルでロマンチックな映画を見なきゃイエス様だって金属バットを振り回すよ」

「・・・・・映画って、お前。このところずっと映画でヒドい目にあってるのにまだ懲りないのか」

「大丈夫だって。クリスマスだよ、クリスマス。ここでラブロマンス映画を上映しなくていつやるっていうのさ」

「・・・・・まあ、お前がいいならいいんだが。何を見たいんだ」

「「プリティ・ウィマン」が見たいの。女の子の夢だっていうから」

「・・・・・じゃ、上映時間は調べておけよ」

「わかった。じゃ時間はあけておいて「映画「プリティ・ウィマン」を見る・・・・・」っと」

「・・・・・ネタが尽きたな」

「ボクあとひとつやりたいことがあるんだけど、それまで時間があるから街をブラブラしようよ」

「・・・・・なんだやりたいことって」

「それは秘密。でも書いておくね」と言ってノートに書き出した。

 

「・・・・・こんなもんか?」

「こんなもんだね」

「・・・・・海軍五省まで持ち出してきた割には、いつものデートを変わらない気がするんだが」

「気分だよ、気分。行き当たりばったりじゃなくて、二人で計画を立てたっていうのが大事なんだよ」

「・・・・・100%お前の意見だったがな」

 

こうして康太たちもクリスマスを迎える準備は整った。

 

 

 


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