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第1話
冬晴れの寒い日の午後、少年と少女は連れ添うようにして下校の道を歩いていた。
「12月になったし、もうすぐだね」少女が嬉しそうに言った。
「・・・・・ああ、やっと冬休みだ」少年が答えた。
「・・・・・違うよ。冬休みの前にもっと大事なことがあるでしょう」少女が不機嫌そうに言った。
「・・・・・期末テストか。俺には憂鬱以外の何ものでもないが、楽しみとはさすがにAクラスだな」
「一体誰がそんなもん楽しみにするのさ。カップルとしてやらなくちゃいけない大切なことが12月にはあるでしょ」
「・・・・・大掃除は別にカップルでやる必要はないのではないか?」
「うすうす感じていたけど、もしかしてワザと言ってるね?」
「・・・・・いや、別にケンカを売ってるつもりはないが、お前が何を言いたいのかさっぱり分からん」
「ウウゥ、12月で思いつくのが、「冬休み」と「期末テスト」と「大掃除」しかないなんて、康太ってば不憫な人生を歩んできたんだね」少女は目にそっとハンカチを当てた。
「・・・・・そこはかとなくバカにされた気がするが、お前だってカップルという言葉とは無関係に生きて来ただろうが」
「ちゃんと情報は仕入れてたもん」
「・・・・・仕入れるだけで使わなければ、何の意味もない」
「ボクは水泳が忙しかったから彼氏を作らなかっただけで、モテなかったわけじゃないもん」
「・・・・・なぜそこを強調する。というか誰もそんなことは聞いてない」
いつの間にか口ゲンカに発展していた。
「・・・・・ゼエゼエ。OK、ちょっと落ち着こう。せっかくのロマンチックな話なのに、ケンカしてちゃ意味がないよ」
「・・・・・今までの会話のどこにロマンチックな要素があったのだ。欠片も見当たらなかったが」
「12月と言えばクリスマス以外の選択肢はないでしょうが」思わず少女の声が大きくなった。
「・・・・・ああ、クリスマスもあったな。で、それがどうかしたか?」
「なんですと?」
「・・・・・いや、クリスマスとカップルがどう結びつくのだ?クリスマスというのは、家族でクリスマスケーキ食べて、KFC食べる日だろう。」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・まあ、小さい頃はサンタからのプレゼントが楽しみだったがな。今更そんな歳でもないし」
「・・・・・ねぇ、康太。ボク怒らないから正直に答えて」
「・・・・・なっ、何をだ」
「もしかして本気で言ってる?」
「・・・・・本気とは?」
「クリスマスケーキとかKFCとか」
「・・・・・家では毎年そうだったが」
「違ぁ~う!!」
少女がちゃぶ台をひっくり返さんばかりの勢いで言った。
「・・・・・おっ、お前いきなり何を」
「いい、クリスマスっていうのはバレンタインデーに並んで恋愛シュミレーションには欠かせないイベントなんだよ」
「・・・・・なぜいきなりゲームが出てくるのだ」
「攻略でも欠かせないイベントだというのに、ましてやボクと康太は親兄弟も認める公認カップル」
「・・・・・それはお前がうちに入り浸っているからではないのか?」
「理想のカップルになるためには、このイベントをちゃんとクリアしなければいけないの」少女は宙を見つめながら右手を握りしめて言った。
「・・・・・まだ諦めてなかったのか、それ」
「だから代表たちのように、ちゃんとクリスマスデートしなくちゃいけないの」
「・・・・・ん?雄二は連休に旅行に行くと言っていたが」
「大丈夫。代表は一週間前に身柄を確保して坂本君部屋に監禁するって言っていたから」
「・・・・・それが犯罪行為だという意識は微塵もないんだな、お前らは」
「康太・・・・・」
「・・・・・何だ」
「乙女の純情は法律よりも重いんだよ・・・・・」
「・・・・・いや、全然言い訳になってない」
「瑞希も美波も吉井君の家でパーティするって言ってたし」
「・・・・・念のために聞くが料理は明久が作るんだろうな」
「ううん、瑞希と吉井君のお姉さんで作ってサプライズパーティをするんだって」
「・・・・・サプライズにもほどがあると思うが。とりあえず明久の番号を着信拒否にしておこう」