「くっそ~何だ。あの男」Atsushiが言った。
「金持ちのボンボンで、T大だけじゃなくハーバードまで出ているってか」Guuが言う。
「おまけに愛ちゃんの料理までうまそうに食いやがる」とGon。
「敵だな」Youがつぶやいた。
「お前ら、アホか。そんな奴いちいち敵認定してたらキリがねえぞ」颯太が諭すように言った。
「そうはいうが颯太。あのスペックじゃあいつはきっと女にモテるぞ」Atsushiが断言した。
「確実に敵だな、俺たちの」即座に颯太が答えた。
「女性にモテる人を自動的に敵認定するのは止めておいた方がいいと思うよ。そのうち仲間が兄達だけになっちゃうから」陽向が言った。
「ふむ、なるほど・・・・・ちょっと待て、陽向。それは世界中でモテないのは俺たちだけと言ってるのと同じじゃないのか?」とGonが叫んだ。
「いきなり復活するな、バカ者」颯太が言った。
「大丈夫か、陽向」Atsushiが言った。
「いや、カレー口にしたところまでは覚えているんだけど、気がついたら床に寝てた。睡眠不足なのかな?」
「まあ、いろいろと知らない方が幸せな大人の事情というのがあるのだ」颯太が言った。
「とりあえず食事の途中だからカレー食べないと」と言うと止める間もなく再びカレーを口に運び、スプーンを握りしめたままスローモーションで仰向けに倒れていった。
「伊賀に行ってもアホが全然直ってないじゃないか、こいつは」Youが言った。
「というか前よりアホさ加減が磨きあげられている上にワックスまでかかっているぞ」Atsushiも同調する。
「・・・・・兄として否定してやりたいのだが根拠が見つからない」と康太がツブやいた。
「そういえば皆さんのご職業は何ですか」たらふく食べて一息ついた龍一郎がいきなり質問してきた。
「え、僕たちですか。いやぁしがない自営業と言うか自由業みたいなもんです」颯太が頭を掻きながら答えた。
「なんで、そんなに卑屈なのさ」愛子が言った。
「(そうは言うが愛ちゃん。財閥の跡取りにいい歳してバンドやってますなんて言えるか?鼻で笑われるだけだぞ。俺たちにもプライドがある)」颯太がささやいた。
「(自由業よりもまだバンドの方がマシだと思うんだけど)」
「こいつらはバンドをやってるんですよ」Yukiが横から言った。
「Yuki、いつの間に正気に戻ったんだ」Atsushiが言った。
「なによ。睨んでもこのカレーは分けてあげないわよ」と言ってYukiがカレー皿を隠した。
「まだ混乱から立ち直っていないらしい」Guuが可哀そうなものを見る目でYukiを見つめた。
「バンドですか。いいなあ音楽で喰っていけるなんて。僕はタコ&ライスというインディーズのバンドが好きなんですよ」龍一郎が思いがけないことを言いだした。
「こいつ結構いい奴なんじゃねぇか?」Atsushiが言った。
「なかなか見る目があるな」とGuuも同調する。
「やっぱり一流の人間は違うな」とGon。
「もしかして会社の経費でCDを1万枚くらい買ってくれんじゃねぇか」Youが虫のいいことを言う。
「ふむ、敵認定を取り消してもいいかも知れん。コンディション・グリーンだ」
「だから兄達はそのおだてに弱い性格何とかしないと、そのうち秋葉で高い絵を買わされて痛い目を見るよ」陽向が言った。
「だからお前は、いきなり復活するなと言っているんだ」颯太が言った。
「あれ、あたしどうしたんだろう。カレー口に入れたところまで覚えているんだけど。とりあえず食事しなきゃ・・・・・」と陽向が言ったところを颯太がスプーンを取り上げた。
「それは無限ループだ、バカ者。お前は愛ちゃんのカレーで記憶が飛ばされているんだ」
「ええ~、だってあたし修行のおかげでほとんどの毒物に耐性があるんだよ」
「愛ちゃんの才能は伊賀600年の歴史を遥かに凌駕しているということだな」
「戦国時代だったらひっぱりだこだね」
「なんかそこはかとなくボク馬鹿にされてませんか?」愛子が不機嫌そうな顔でいった。
「そんなことないよ、愛ちゃん。これから美味しくいただくところだよ」陽太がフォローするように言った。
「そうだよ、愛ちゃん。でも最後にお袋の声を聞いてもいいかな?」Atsusiが言った。
「なんで食事の度にお母さんの声を聞く必要があるんですか」愛子が冷たく答えた。
「これが聞き納めになるかと思うとついね。まあ、最後の親孝行って奴だ」
「なにいい話風にまとめてるんですか。お母さんの声でもお婆さんの声でも好きな声聞いて下さい」
「いや、婆さんはとっくに死んでるから、もうすぐ直接話できると思うんだ」
「いや、言ってることがよくわかりません」
「俺は弟にちょっとメールを・・・・・」Gonが言った。
「何で弟にメールなんだ?」Youが尋ねた。
「いや、Code F2525を実行せよと」
「なんだ、そのCode F2525ってのは?」Guuが聞いた。
「俺の部屋に隠してあるエロ本を全て処分せよという命令コードだ」Gonが答えた。
「お前のとこはCIAから常時監視でも受けてるのか?」颯太が呆れたように言った。
「じゃ、みんな覚悟はいいな。では食前の祈・・・・・」
「何回、お祈りするつもりですか。さっさと食べて下さい。片付きませんから」
一同は黙々と食べ始めた。時々「ウッ」とか「ゴフゴフ」とか咳き込むのはなぜだったのだろうか。