「すいません、お待たせしました。せっかくだから食べて行ってください」愛子とアンナがそれぞれの料理を運んできた。一同に緊張が走った。
「おい、金持ちのボンボンにあれ喰わせるつもりだぞ」
「恐れをしらないというか何というか」
「一口でショック死するんじゃねぇか」
「止めた方がいいんじゃないか、颯太」
「そうだな。愛ちゃん、お二人はお腹が一杯なんじゃないかな」
「いやぁ、昼から何も食べてなくてお腹が空いていたところなんですよ」龍一郎が身も蓋もないことを言う。
「・・・・・いや、我々庶民の食事は口に合わないんじゃないかな。台所にカップ麺があったからそれでもお出ししたら」
「ボクのカレーはカップ麺以下なんですか?」愛子が冷たい目で見る。
「ははは、何を言うんだ愛ちゃん。愛ちゃんのカレーはマニア向けというか罰ゲーム向けと言うか・・・・・」
「大丈夫ですよ。僕はカレーが好きですから」龍一郎が更に追い討ちをかける。
「一体誰のためにこんな苦労していると思ってんだ、この男は」颯太が小さな声で毒づいた。
「それではいただきます」龍一郎がカレーを口に運ぶのを一同はじーっと見つめていた。
「どうですか」愛子が尋ねた。
「うん、美味い」
「「「「「「「なにぃ~!!」」」」」」」
「何でそんな反応なのさ」
「これはラオスの山の中の少数民族の村でご馳走になった料理ですね。まさか日本で食べられるとは」龍一郎が感動の面持ちで言った。
「おい、ラオスってどこだ」
「それよりもあれを常食にしている人類がこの世にいたのか」
「あの~、なんでそんなところ料理知ってるんですか?」陽太が尋ねた。
「ああ、僕は大学を1年休学してバックパックで世界中を放浪していたんですよ。ラオスの山の中で道に迷って3日3晩飲まず食わずで歩いてやっとその少数民族の村にたどり着いて。その時にご馳走になったのがこの料理で、いやあ懐かしいなあ」
「腹ペコだったからウマかっただけじゃねえのか?」Atsushiが言った。
「愛ちゃん、これシーフードカレーじゃなかったの?」Guuが尋ねた。
「そうなはずなんですけど。そんな複雑なバックグラウンドを持つ料理だったとは」
「いや、作った本人がカレーの確信ないのか」Gonが言った。
「じゃワタシの料理もどうゾ」アンナがボルシチを進めた。
再び一同の目が龍一郎の口元に注がれる。
「うん、これもウマい。パラグアイの山中のインディオの村でご馳走になったスープですね」
「どうでもいいが山の中ばっかりだな」颯太が言った。
「とりあえず世界は広いということがわかった。愛ちゃんレベルが世界にはゴロゴロしているということだな」
「というか、こいつ普通に食ってるな」
「材料はアレだが、愛ちゃんの腕前が上がっているんじゃねえか」
「そういえばそうだな。愛ちゃんだってそういつまでもアレじゃねえだろう」
「心配して損したぜ。じゃ俺たちも喰おうか」
「「「「「「「いただきま~す」」」」」」」一同は機嫌よくカレーを口に運び、
「「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・グオッフ」」」」」」」一斉にむせた。
「なっ何だこれはバルサンの味がするぞ」Atsushiが言った。
「舌がシビれてきたぞ・・・・・」Gonが言った。
「台所に置いておいたらゴキブリも全滅するな」とGuu。
「愛子、恐ろしい子・・・・・」Youが震えながら言った。
「しかし、お兄さんは平気で食べてますね」陽太が言った。
「あ、すいません。図々しいようですが、おかわりもらえますか」龍一郎が上機嫌で言った。
「・・・・・恐ろしいことにおかわりまでしている」康太が言った。
「おい、Yuki。あいつは本当に財閥のボンボンなのか?下手したら俺らより貧しい食生活しているとしか思えんのだが」颯太がYukiに尋ねた。
「なによ愛ちゃんたちはどこ行ったの。もうすぐ本番よ」
「たった一口でどこまで記憶が巻き戻ってんだ、お前は」
「とりあえずカレーは危険だ。ボルシチで時間を稼ごう」全員が一斉にボルシチを口に運び
「「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・ゴホゴホゴホ」」」」」」」一斉に咳き込んだ。
「なんだこれは、納豆汁にホットチョコレートを入れたらこんな感じになるぞ」
「俺の喉に自我が生まれてる。飲み込もうとすると全力で拒否するんだ」
「味噌汁に砂糖いれたらこんな感じか」
「気が遠くなってきた・・・・・」
「あ、すいません。できればスープもおかわりもらえますか」龍一郎が上機嫌で言った。
「誰かあいつを殴り倒してこい。あれを標準にされたら俺たちの命が危ない」颯太が叫んだ。
龍一郎の健啖ぶりに愛子もアンナも上機嫌である。
「そういえば由美ちゃんはどうした」
「あれ、由美ちゃん食べないの」愛子が言った。
「ごめんなさいね、愛ちゃん。とても食べたいんだけど、今ダイエット中なの」由美子が申し訳なさそうに言った。
「由美ちゃんが逃げたぞ。陽向、陽向はどうした」リビングを見渡すと、陽向がスプーンを握ったままうつ伏せに倒れていた。
「・・・・・あいつは戦死だ。免疫がなかったからな」康太がしみじみと言った。
「Yuki。おい、Yukiは大丈夫か」颯太が叫んだ。
Yukiは静かに黙々とカレーを口に運んでいた。
「え~っと、Yukiさん。お体は大丈夫でしょうか」颯太が恐る恐る尋ねた。
「なに言ってるのよ、あんたは。当たり前じゃない、それより相手の不良共を倒せるだけ倒して逃げてくるのよ」記憶が更に遡っている様子だった。