「だいたい何歳の時のプレゼントだから、その無駄にでかい胸のサイズにピッタリなんだ?」
「10歳からクリスマスプレゼントは迷彩服と決まってまシタ。GRUフローラー、VSR93迷彩服、KZK迷彩スーツ、ショフィールド迷彩ジャケット、BEREZKA迷彩服・・・大切な宝物デス」
「どんだけ迷彩服フェチなんだ、お前は。女の子なんだから大人しく人形でもねだっていろ」
「勘違いしないでくだサイ。おねだりしたのは迷彩服だけじゃありまセン。ちゃんと別のものもおねだりしまシタ」
「ほほう、少しは女の子らしいプレゼントももらったわけだな?」
「AK47突撃銃をもらった時は嬉しくて3日は眠れませんでシタ」
「聞いた俺がバカだった。念のために聞くが、それはエアガンかモデルガンなんだろうな?」
「ロシアではエアガンの方が高いノデ実銃を・・・・・」
「わかったもういい。あの親父に何を言っても無駄だ」
「パパをバカにしないでくだサイ。ちゃんと「弾は危ないからダメ」と言ってくれませんでシタ」
「実銃をプレゼントした段階で「危ないから」なんて次元は飛び越えてるんだ、バカもの」
あいかわらず全然かみ合わない二人の会話であった。
「頭が痛くなってきた。とりあえず全員車に乗れ」
運転席に颯太君、助手席にアンナちゃんと陽向ちゃん、後部座席にボクと康太と陽太君が乗り込んだ。
「颯兄、狭いんだけど・・・」
「アホ、四人乗りのカローラに六人乗ってんだガマンしろ」
「こっ康太、ヘンなところ触らないでよ」
「・・・・・人聞きの悪いこと言うな。押されるから仕方ないのだ」
「ええぃ、とりあえず出発するぞ」車はやかましく出発した。
「そっか、アンナちゃんにこうやって寄っかかればいいんだね」陽向が身体をアンナに預けながら言った。
「でもこの後頭部に当たる感触がなんとも言えず・・・グフフフフ」
「どこのエロ親父だ、お前は」颯太が少しイラついた様子で言った。
「いや、でも颯兄。アンナちゃんの胸って本当に気持ちいいんだよ。こうやってパインパインってすると低反発枕みたいで・・・」
「あっ、あのヒナタ。恥ずかしいので止めてくだサイ」
「ふふふ、よいではないか、よいではないか・・・」
「お前はどこの悪代官だ」
「・・・・・ねえ、康太」愛子がドスの効いた声で言った。
「・・・・・どっどうした。愛子さん」なぜか康太が脅えたように答える。
「なんでかな?ボク正体不明のやり場のない怒りが湧いてきてるんだけど」
「・・・・・そっ、そうか、それは困ったな。思春期のやるせない感情が暴走しているのだろう。それより陽太兄貴が静かだな」
「話をごまかそうとしてもダメだよ」
「・・・・・なんで俺のせいになっているのだ」
「じゃ、この怒りはどうすればいいのさ」
「・・・・・それは知らん。俺に分っているのは、今のお前ならマイク・タイソンでも倒せるということだけだ」
車の中は相変わらず大騒ぎだった。
やがて車は由美子がバイトしているケーキ屋「メイクイーン」の100m手前で止まった。
「ここなら、由美ちゃんにもバレないだろう。愛ちゃん、相手は赤い外車だったよな」
「そうです。ボク車詳しくないから外車ってことしか分らなかったけど」
「もうすぐ由美ちゃんのバイトが終わる時間だ。ここで待っていて、車に乗ったら追いかけよう」
10分経過した。どこからか爆音のような音が近づいてきた。
「なっなんだ?ジェット機でも不時着するのか?」颯太が窓を開けて空を見上げた時、赤い車が轟音を立てて颯太たちの横を通りぬけてメイクイーンの前に止まった。
「あ、あれです。あの車」
「あれって愛ちゃん、いくらなんでもあれは・・・・・」
「どうしたんですか?」
「あれはフェラーリF40じゃないか。外車にもほどがある」
「凄いんですか?」
「愛ちゃんにも分りやすく説明すると、あれ1台で東京に家が買える」
「あんな小さいのに台所やトイレやお風呂がついているようには見えないけど?」
「いや、キャンピングカーじゃないんだから。金額の話だ」
やがて由美子が店から出てきて慣れた様子でフェラーリに乗り込んだ。
「おい、随分遠慮なしだな。かなりの仲だとみた」颯太はそういうと後部座席の陽太をチラっとみた。陽太は由美子がフェラーリに乗り込んだ時点ですべての生命エネルギーを使い果たしたかのように崩れ落ちていた。
「どうするこれ、後をつけるか?」颯太が言った。
「何いっているんですか、颯太君。ここまできたら二人の関係を判明するまで徹底的に尾行ですよ尾行」なぜか愛子が張り切りって言った。
「・・・・・お前が張り切ってロクな結果になったことがないんだが」
「まあ、フェラーリを六人乗りのカローラでどこまで尾行できるかわからないが、やるだけやってみよう」
由美子を乗せて走りだしたフェラーリの後を颯太のカローラが追いかけた。