これが土屋家の日常   作:らじさ

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第22話

「みんなごめん」教壇の上で陽向は全員に向かって土下座していた。

「こんな時でも教壇の上から降りないのね、あなたは」義務のように由香がツッコんだ。

「全部、あたしの不徳の致すところだわ」

「それでどうするつもり?」由香が静かに尋ねた。

教室は静まりかえっている。みんなかなり怒っているのだろう。むりもない、あんなに頑張ったのを自分がブチ壊してしまったのだからと陽向は思った。

「うん、今回の責任を取って、あたし・・・総代と代表を辞めるよ。後任は元の総代だった由香リンにお願いする」

「ふざけるんじゃないわよ」由香が大声で怒鳴った。

「だって・・・」

「だってじゃないわ。わたしはあなたに前に言ったわよね。総代の座は実力で奪い返すって、覚えてないとは言わさないわよ。そんなことで責任取ったことになると思ってるの?」

「城ヶ崎、言いすぎだ」竜崎がなだめるように言った。

「言い過ぎじゃないわよ。このアホの子には、これぐらい言わないとわからないのよ」

 

「・・・・・分かったよ、由香リン」陽向は俯いて唇を噛みしめると声を押し出すようにして言った。

「今回の責任を取って、あたし・・・あたし学校を辞める」陽向は両手の拳を握りしめて言った。

「全然、分ってないじゃないのよ」由香は陽向のそばに歩み寄ると肩を思い切り揺さぶった。

「だって、それしか責任の取りようが・・・」

「そんなの逃げてるだけじゃない。責任取ったって言わないのよ。いい、あたし達はもう2年生と3年生にケンカを売っちゃったのよ。それなのに一人だけ逃げようなんて許さないわ。わたしはそんな人を友達だなんて呼びたくない」

「えっ、友達?」

「うっうるさいわね、そこに反応するんじゃないわよ。とにかくあなたは責任とって、どうやったら2年生に勝てるのか、考えなさい」由香は赤くなった頬を隠すように横を向いたまま言った。

 

「それより城ヶ崎、俺たちは噂でしか聞いてないんだが、お館様が負けたのはどういう状況だったんだ」Bクラス代表が尋ねた。由香が詳しい状況を説明すると教室中がシンっとなった。

「(やっぱり、怒っているよね。しょうがないけど)」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ップ」

「?」

「クッ・・・・・・・・・・・・・・・・・プップ」

「???」

「「「「「ドゥワハハハハ」」」」」

誰かが堪えきれずに笑いだしたのをキッカケに教室中が爆笑の渦に包まれた。

「なっ何よみんな。なにがおかしいのよ」

「12点なんてありえないだろ、ハハハ」

「でたらめ書いても20点はとれるだろうに」

「もうちょっとカッコいい負け方なかったのかしら」

「これはあれだな。保体の時だけお館様はFクラスに行ってもらうべきだな」

「なによ、みんなして言いたい放題言って。あたしはこれから保体に力を入れるんだからね」

「あら、じゃそんなお館様にプレゼントよ。せめて50点は取ってちょうだいね」由香も笑いながら保体の副読本を陽向に手渡した。

「ふん、あたしが本気を出したらどんなに凄いか、そこで見てるといいわ」陽向はそう宣言して本に目をおとした。

 

 「ぶしゅううぅぅぅ」

 

「あぁ、お館様が虹のような鼻血を出してぶっ倒れた」

「ティッシュだ。ティッシュを詰めろ」

「変ね。そんなに過激なこと書いてあったかしら?」由香は冷静に陽向が読んでいた頁を開いた。

「え~っと「ヒトは、22対の常染色体と1対の性染色体、計46本の染色体を持つ。性染色体の組み合わせは女性では2本のX染色体、男性ではX染色体とY染色体1本ずつとなっている」って何でこれで鼻血が出せるのよ。ちょっと起きなさい、陽向。あなたどれだけ物凄い妄想力してるのよ」由香は陽向を揺り動かした。陽向は幸せそうに気を失っていた。

 

陽向、由香、竜崎の3人は学園長室のドアの前に立っていた。

「一緒に行こうか?陽向」と由香が心配そうに言った。

「俺がついて行こう。やったのはおれだからな」竜崎も言った。

「大丈夫。あたしの責任だからあたし一人で行くよ。お願いだからこれくらいの責任は取らせて」陽向はそういうとドアをノックした。

「お入り」ドアの向こうから横柄そうな声がした。

「失礼します」陽向は一人でドアの向こうに消えていった。

 

 

「それであの3人をどうなさるおつもりですか学園長」神経質そうな教頭が言った。

「どうって、あれは事故だとあたしゃ聞いてるけどねぇ」

「どこの世界に試召戦争中にハンマーで窓ガラスを叩き割って教室に乱入する事故があるんですか」

「元気があっていいことさね。それだけ勝つことに執着心があるんだったら、そのうち成績もあがるだろうよ」

「未来の話をしているんじゃありません。今、現在起こった事件のことを話しているんです。なんらかの処分を下さないと他の生徒に示しがつきません」

「ハンマーで窓ガラスを叩き割る生徒が、そうそういるとは思えないがねぇ。じゃ、悪いけど西村先生、あんたのとこで10日ほど補習で預かってくれないかい」

「わかりました」西村と呼ばれた体格のいい教師が答えた。

「処分が軽すぎます」

「あんたはうるさいねぇ。自分の所で指導できなかったからって、退学にしてよそ様に押し付けるつもりかい。停学にしてもFクラスじゃ、休みが増えたと喜ぶような連中だよ」

「・・・しっ、しかしですな」

「西村先生はどう思うね?」

「私は学園長のお言葉に賛成です、ですが」

「ですが、なんだい?」

「連中は退学の方がよかったと思うかもしれませんな」そういうと西村はニヤっと笑った。

「じゃ、それで決まりだ。窓ガラスを割った1年生3人は10日間の補習。じゃ、もういいよ」学園長がそういうと教頭と西村は一礼して出て行った。

 

 


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