これが土屋家の日常   作:らじさ

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第21話

「だから玉野さん、ズボンから手を放してってば。今はそんなことをやっている場合じゃないんだ」

ドアが外から突き破られようとしている。あれが破られれば間違いなく僕は明日の朝日を空の上からみるはめになるだろう。

「ダメです。アキちゃ-吉井君。ズボンを脱がないとメイド服が着れません」

「メイド服?今、メイド服って言ったよね。戦闘服って言っていなかったかい」

「メイド服は少女の戦闘服です。アキちゃ-吉井君が着れば、攻撃力はうなぎの滝登りです」

「ええぃ、わけのわからないことを・・・あぶない」包丁が頬をかすった。

「ちぃっ、運のいいブタ野郎です。安心するがいいです、次は外しません。そして美春とお姉さまは愛の逃避行へ・・・」うん、目が逝っている。こんなことなら美波を連れてくるべきだった。

「いや、僕は全然邪魔してないからね。逃避行でも脱獄でも好きなのやってくれればいいから」

 

「おい、丸太もってこい。ドアを突き破るぞ」

「どこにあんだそんなの。丸田ならいるぞ」

「デブだからいいか。よし丸田突撃しろ」

 

まずい、普通の状態でもまずいのに上着脱がされて、半脱ぎのズボンに玉野さんがしがみ付いている状況をみて連中が正気でいられるわけがない。普段でさえ話が通じない連中だ。この状況では日本語が通じなくなっている恐れがある。

 

「アキたちは大丈夫かしら」

「1年の最前線と激しい戦いをしているかも知れんのお。まあ援軍も行ったじゃし大丈夫じゃろう」

 

「よ~し、5人でいっぺんにつっこんでドアを突き破るぞ」

「そうは行くか。内側から踏ん張って・・・だからズボンから手を放すんだ玉野さん」

 

試召戦争とは全く関係なく、援軍と激戦を繰り広げていた。

 

 

「じゃ、時間もないので手早く片付けましょう」陽向が廊下側の中央の窓の前に立っていた翔子の前に進みでた。

「・・・・・土屋さん、忠告したはず。あなたは私に勝てない」

「先輩もあたしに勝てないんですよね。難しいなぞなぞだったけど分かりましたよ。答えは「人間」です」

「ムッツリーニから聞いてた以上の「アホの子」だな」

「え~、違ってるんですか?」

「違ってるというか、お前のはスフインクスの謎だ。次に翔子が言ったのは別になぞなぞじゃない」

「え~ズルい」

「一言もなぞなぞだとは言ってないんだが」

「何でもいいや。さっさと決めるよ」陽向は教室の両端に目を走らせた。入り口と出口に物理と数学の教師が座っている。どちらも陽向の得意科目だ万が一にも負けることは考えられない。

「まあ、やってみろ」

「言われなくてもやるわよ。1年Aクラス 土屋陽向 召喚≪サモン≫」

だが、何も現れなかった。

「あれっ?召喚、召喚、召喚」

「無駄だよ。召喚獣は現れない」雄二が余裕たっぷりにいった。

 

「召喚戦争のルールを覚えているか?陽向」

「当たり前じゃない、さもないと作戦が立てられないし」

「召喚フィールドの大きさは?」

「教師を中心として半径10m、それがどうしたの。距離的には十分あるのになんで召喚獣が出てこないの?」

「この教室は長さが18m。この意味がわかるか?」

「???」

「それがお前の欠点だ。試召戦争の経験不足。俺たちゃいやになるほど試召戦争をやってきたからな、経験で知っているんだ」

「どういう意味よ」

「つまり、この18mの教室の両端に教師をそれぞれ配置した。すると中央でフィールドの重なりが2mできる。それが今お前が立っているところだ。そこはシステムがどっちの召喚獣を出していいのかわからずにフリーズする。つまりどっちの召喚獣も出てこない領域だ。俺たちは干渉領域と呼んでいる。だからお前も翔子も勝てないのさ」

「じゃ、勝負がつかないじゃない」

「そう、だから俺は2の手、3の手を準備した」陽向の背後に人が飛び降りた音がした。

 

「康兄」音に驚いて体ごと振り向いた陽向が言った。

「・・・・・よくここまで来た陽向。せめてこの兄の手でとどめを刺してやる」

「これが二の手だ。すまんな」いつの間にか陽向の背後に立っていた雄二が陽向の方をトンと突いた。陽向は前によろよろとよろけ康太の前に立っていた。

 

「そこは干渉領域外だ。そしてこれが三の手。工藤頼む」と廊下に向かって声をかけると愛子が教師を一人連れてきた。

 

「それでは試召戦争始めます」

「無駄だよ、康兄。あたし手加減しないよ」

「・・・・・ふ、お前ごときに負ける俺ではない、遠慮なく来い、陽向」

「教科は保体」

「え~~~!!」陽向が叫んだ。

「2年Fクラス 土屋康太 召喚≪サモン≫」上忍風の衣装をまとった忍者の召喚獣が現れた。

「えとえとえと」なぜか陽向が躊躇している。

「何やってるのよ、陽向。早く召喚しないと負けちゃうわ」由香が叫んだ。

「えぇいい、ヤケだ。1年Aクラス 土屋陽向 召喚≪サモン≫」

 

「でるぞガンガムが」

「今度は何を持っているのかしら」

 

ずずずずず・・・・・・

 

「おい、何かブリキのロボットみたいのがでてきたぞ。ガンガムどうしたんだ」

 

「2年 土屋康太 795点 vs  1年 土屋陽向 12点」

 

「「「「「なっなにぃ~????」」」」」一同が叫ぶ間もなく勝負は一瞬で決まった。

「勝負あり。2年の勝ち」

 

うなだれて手をついている陽向に康太が声をかけた。

「力を落とすな陽向。そこはかつてこの兄も歩いた道。発電機を動かせるほど鼻血を吹き出して今や保体では教師にも負けないほどになったのだ。精進しろ」

「なんかいい話っぽくまとめているけど、要するに並はずれたエロになったってことだよね」

「お前も同じだということを忘れていないか、工藤」

「いやぁテレちゃうよ」

 

学園中を巻き込んだ学年対抗試召戦争は終わった。

 

 


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